※この作品はR-18です。

君と紡ぐ永遠のメロディ   作:彼処舐ノ助嗅過

6 / 10
風邪の時も、事故に遭いそうになった時も、まつたけは優しく寄り添い、助けてくれた。
梨子とまつたけの絆は深まっていく。

※シリーズ全体
・本作品はアニメ版『ラブライブ!サンシャイン!!』を原作とした二次創作です。
・アニメ本編との時間軸のズレや、独自の設定・キャラクター解釈を含んでおります。
・原作を尊重しつつも、キャラクターの性格・関係性に独自解釈が加わる場面がございます。
・アニメ最終話に登場する犬「プレリュード」は本作には登場せず、オリジナルキャラクターの犬が登場・物語の中心となっております。
・人と動物(犬)との恋愛要素を含む内容となっております。苦手な方、抵抗のある方は閲覧をお控えください。
・ストーリー後半には、**18歳以上推奨の描写(R-18相当)**が含まれます。年齢制限・閲覧にご注意ください。
・本作はフィクションです。実在の人物・団体・作品とは一切関係ありません。


#6 深まる絆

春の気配が漂い始めた頃。

梨子は、珍しく風邪を引いてしまっていた。

熱はそんなに高くないけれど、体はだるくて、起き上がるのもしんどい。

部屋はカーテンを閉めて、暗くしていた。

暖かい毛布にくるまりながら、梨子は静かにベッドに横たわっていた。

 

その横で──

まつたけが静かに、梨子のベッドの足元に座っていた。

いつものように膝に顔を乗せるでもなく、ただ、静かに、少し距離を置いて。

 

梨子は目を開けて、ぼんやりとまつたけを見た。

「……まつたけ」

弱々しく呼びかける声。

 

まつたけは、静かに立ち上がり、梨子の顔の近くまで歩み寄った。

そして、ベッドに前足をかけ、そっと梨子の手元に顔を寄せた。

 

梨子は、力なく微笑み、まつたけのふわふわの頭をそっと撫でた。

「ごめんね、心配かけちゃって」

まつたけは、何も言わない。

ただ、梨子の手に顔を預ける。

(いいんだよ。君が元気になるまで、僕は、ここにいるから)

 

梨子は、ゆっくりと目を閉じた。

体の節々が痛む。

でも、まつたけの温もりを感じると、心だけは不思議と落ち着いた。

 

(大丈夫。君は、ひとりじゃない)

まつたけは、梨子の手をぺろりと舐めた。

それは、がんばれとも、早く治ってとも言わない、ただただ、寄り添うための動作だった。

 

梨子は、まつたけに微かに囁いた。

「……ありがと。まつたけ、いてくれて、よかった」

まつたけは、静かに梨子の脇に丸くなった。

梨子の呼吸が、次第に穏やかになっていくのを感じながら。

(君が眠っている間、僕が守るよ)

 

外では、春の風が静かに吹いていた。

けれど、梨子とまつたけの間には、

その風さえ届かないくらい、

あたたかな静けさが満ちていた。

 

夜が更けていく。

まつたけは、梨子の手のぬくもりを感じながら、静かに目を閉じた。

 

 

数日後。

風邪はすっかり良くなった。

体調を崩していた間、静かに寄り添ってくれたまつたけへのお礼を、梨子は考えていた。

(何か、まつたけに喜んでもらえること──)

そして、思いついた。

 

その日は少し早起きして、街の小さなペットショップへ向かった。

春らしい日差しのなか、梨子は、手提げ袋を大事そうに抱えて帰ってきた。

家に帰ると、まつたけが玄関で出迎えた。

尻尾をふりふりと、嬉しそうに。

 

「ただいま、まつたけ。──今日は、君にプレゼントがあるんだ」

 

まつたけは、首を傾げた。

梨子は、にこりと微笑みながら、袋の中からそれを取り出した。

ふわふわの、春色のバンダナ。

淡い桜色に、小さな花の刺繍が施されている。

 

「これ、まつたけに似合うかなって、選んだの」

まつたけは、そっと近づいて、梨子の手元のバンダナをクンクンと嗅いだ。

(新しいにおい。君が選んでくれたんだね)

 

梨子は、しゃがみ込んで、まつたけの首にそっとバンダナを巻いた。

春の光を受けて、バンダナの色が、まつたけの毛並みにやさしく馴染んだ。

 

「うん、似合う。──すごく、似合うよ」

まつたけは、静かに梨子を見上げた。

梨子の顔は、桜色のバンダナよりもずっとあたたかく、柔らかかった。

 

(ありがとう。君が選んでくれたものなら、どんなものでも、僕にとって宝物だよ)

梨子は、まつたけの背中を優しく撫でた。

「この間は、ありがとうね。まつたけがいてくれたから、わたしはちゃんと休めたよ」

まつたけは、ぺろりと梨子の手を舐めた。

(君が元気になってくれて、それだけで十分)

 

梨子は、まつたけの首元に手を添え、バンダナを直しながら、ふっと笑った。

「春だし、これをつけてお花見に行こうね」

まつたけは、尻尾をふりふりと振った。

(うん。君と一緒なら、どこへでも)

 

桜色のバンダナ。

ふたりだけの秘密の贈り物。

 

それは、言葉よりもずっと深く、

ふたりの心を結んでいた。

 

 

春。

空は澄みわたり、

街路樹の桜は、どこもかしこも花盛りだった。

梨子は、桜色のバンダナを巻いたまつたけと一緒に、近くの大きな公園へ向かっていた。

 

暖かな日差しに包まれて、歩道を並んで歩くふたり。

「満開だね、まつたけ」

まつたけは、いつもより少しだけ足取りを軽くしながら、梨子の歩調にぴったり合わせていた。

公園までは、あと少し。

そのとき──

 

ぶうん、と耳障りなエンジン音が背後から近づいてきた。

ふと振り向くと、一台の車が、スピードを出したまま曲がってきていた。

梨子が歩道の端に差しかかる瞬間。

車は、脇見運転でこちらに気づいていない。

 

危ない──!

梨子が思うより早く。

まつたけが、リードを引いた。

ぐい、と。

驚くほど強い力で。

梨子の体は、引っ張られるように歩道の奥へと戻された。

次の瞬間、車は梨子のすぐ前をすり抜けるように走り去っていった。

 

「っ……!」

梨子は、呆然と立ち尽くしていた。

まつたけは、梨子のすぐそばに立って、何事もなかったかのように尻尾を一度だけ振った。

 

梨子は、まつたけの首に手を置き、震える指先でふわふわの毛並みに触れた。

「まつたけ……ありがとう」

まつたけは、静かに梨子を見上げた。

(守りたかった。君を)

 

梨子は、胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。

ただ感謝とか、安心とか──

それだけじゃない。

もっと、心がきゅんとときめくような気持ちが、

体の奥から湧き上がってきた。

 

「……わたし、いま……」

梨子は、自分でも驚いたように呟いた。

(まつたけ……に、キュンって……)

まつたけは、梨子が震える手でそっと撫でるのを、ただ静かに受け止めていた。

(君が無事なら、それでいい)

 

梨子は、深く息を吐いて、微笑んだ。

「ありがとう、まつたけ。お礼に、いっぱいお花見しようね」

まつたけは、ぱたぱたと小さく尻尾を振った。

 

──

公園に着くと、

桜がまるで雲みたいに空を覆っていた。

 

シートを広げ、梨子は、まつたけの隣に座った。

風が吹くたび、花びらが舞い落ちる。

まつたけのバンダナにも、梨子の髪にも、ひらりと桜の花びらが落ちた。

 

梨子は、ふっと微笑んで、まつたけの耳元の花びらを指でそっと取った。

「ねえ、まつたけ。わたしね、今日、また新しい君を知ったよ」

まつたけは、梨子を見上げた。

梨子は、顔を赤らめながら、まつたけの頭を撫でた。

 

「すっごく、かっこよかった」

まつたけは、照れる様子もなく、ただ梨子の手に顔を寄せた。

花びらが、ふたりの間にふわふわと舞い落ちる。

梨子は、まつたけに寄りかかりながら、そっと目を閉じた。

 

春の陽気と、まつたけの温もり。

それだけで、世界がこんなにも優しくなる。

──ふたりだけの、

静かで、特別な春の午後だった。

 

 

深夜。

部屋は静まり返り、カーテンの隙間から差し込む月明かりが、床に薄く影を落としていた。

 

梨子は、ベッドの中でうなされていた。

──まつたけが、弱っていく。

──いつものように元気に走り回れず、

 静かに、静かに、力を失っていく。

 

梨子が呼びかけても、まつたけはただ静かに、じっと梨子を見つめるだけ。

梨子は、必死に名前を呼び続けた。

けれど──

まつたけは、静かに目を閉じた。

 

──その瞬間、梨子ははっと目を覚ました。

「……!」

額には冷たい汗。

そして、頬には熱い涙の跡。

喉の奥が詰まって、呼吸がうまくできない。

梨子は、手を伸ばした。

 

隣には──

静かに寝息を立てるまつたけがいた。

ふわふわの毛並み。

あたたかい体温。

 

梨子は、そっとまつたけに触れた。

指先が震える。

(……夢、だった)

でも、心臓はまだ早鐘のように鳴っていた。

 

「……ごめんね。こんな夜中に、起こしちゃったね」

梨子は、まつたけの体に額を寄せた。

まつたけは、梨子の異変に気づいたのか、目を開け、静かに梨子を見つめた。

 

梨子は、かすれた声で囁いた。

「まつたけ。……わたし、怖いよ」

震える手で、まつたけの背中を撫でる。

「いつか、まつたけがいなくなっちゃうかもしれないって、考えたら……すごく、怖いよ」

 

まつたけは、ゆっくりと体を起こした。

そして、梨子の手に鼻先をそっと押し当てた。

(──大丈夫。君が思うより、ずっとずっと、僕はそばにいるよ)

 

梨子は、涙をこらえながら微笑んだ。

「……まつたけ。約束して。わたしがちゃんと、君を守ってあげるから──」

まつたけは、梨子の手をぺろりと舐めた。

(うん。僕も、君を守るよ)

梨子は、まつたけの頭を抱きしめた。

涙がまたあふれてきたけれど、今度は、さっきとは少し違う、あたたかい涙だった。

「ありがとう、まつたけ。わたし、がんばるから」

まつたけは、梨子の腕の中で静かに身を委ねた。

 

外では、風がやさしく木々を揺らしていた。

その音さえ、ふたりを包み込む子守唄みたいだった。

 

 

翌朝。

冷たい空気を割って、一筋の朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。

梨子は、目を覚ました。

まつたけは、彼女のそばで丸くなって眠っていた。

 

昨夜の涙の跡は、もう乾いていた。

梨子は、まつたけの背中にそっと手を置いた。

「……おはよう、まつたけ」

まつたけは、ゆっくりと顔を上げ、梨子に静かに尻尾を振った。

(おはよう。君が笑ってくれるなら、それでいい)

 

梨子は、ふっと笑った。

夢は夢。

でも、現実には、まつたけはこうして、そばにいてくれる。

 

それだけで、心が少しだけ強くなれる気がした。

梨子は、そっとまつたけの首に腕を回した。

「約束だよ、まつたけ。ずっと、一緒にいようね」

 

まつたけは、梨子の腕の中で、ただ静かに身を預けた。

(うん。君が望む限り──僕は、ずっと君のそばにいるよ)

朝の光が、ふたりを優しく包み込んでいた。

 

それは、言葉を交わさなくても通じる、

ふたりだけの静かな約束。

これから先に、どんな未来が待っていても──

 

梨子とまつたけ。

ふたりの絆は、きっと変わることなく続いていく。

 

 

春の終わり、初夏の匂いが混じる季節。

梨子は、最近ついに運転免許を取得した。

何か新しいことを始めたくて、そして、ずっと心にあった小さな夢を叶えるために。

 

「さあ、まつたけ。今日は、特別なお出かけだよ」

まつたけは、梨子が慣れない手つきで用意したリードを首にかけると、首をかしげながら梨子を見上げた。

梨子は、満面の笑みで応えた。

「今日は、ふたりで初めての旅行だもんね。楽しもうね!」

 

小さなレンタカー。

助手席に専用シートを設置して、まつたけを乗せた。

窓から流れ込む風に、まつたけの耳がふわふわ揺れる。

 

梨子は、少し緊張しながらもハンドルを握り、ゆっくりと車を走らせた。

(まつたけがそばにいるなら、大丈夫)

そんなふうに思えたから、不思議だった。

──

 

目的地は、山のふもとにあるペット同伴可能な宿。

緑が濃く、川が流れ、空気が澄んでいる場所だった。

宿に着くと、まつたけはふわふわの芝生の庭を嬉しそうに走り回った。

梨子はその姿を眺めながら、笑顔を浮かべた。

 

「いい場所だね、まつたけ」

チェックインを済ませ、部屋に入ると──

大きな窓から、森と川が見渡せた。

まつたけは、窓際に座り、外の景色をじっと見つめた。

梨子も隣に座り、しばらく無言で風景を眺めた。

 

(この瞬間を、まつたけと一緒にいられるだけで幸せ)

そんなふうに、静かに思った。

 

夜。

宿には、ペットと一緒に入れる温泉があった。

梨子は、まつたけと一緒にそっと湯に浸かった。

特別に設えられた、ペット用の浅い浴槽。

まつたけは、最初は不思議そうにしていたけれど、すぐに慣れて、目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 

「まつたけ、気持ちいい?」

まつたけは、ぺろりと梨子の手を舐めた。

梨子は、ふっと微笑んだ。

 

夜空には、満天の星。

手を伸ばせば届きそうなほど、澄んでいた。

温泉に浸かりながら、梨子はまつたけの背中を撫でた。

「まつたけと、こんなふうに旅行できる日が来るなんて。……ちょっと、夢みたい」

 

まつたけは、そんな梨子を静かに見上げた。

その瞳は、星空よりも、月明かりよりも、ずっと優しい光を宿していた。

(君と一緒なら、どこにいても、それだけで特別だよ)

 

梨子は、そっと目を閉じた。

温泉のあたたかさと、まつたけのぬくもり。

それだけで、どんな不安も溶けていく気がした。

──

 

夜が更ける頃。

梨子は宿の部屋に戻り、ベッドの上でまつたけを撫でながら、ぽつりと呟いた。

「また、こうやっていろんなところ、行こうね。まつたけと、いろんな景色、見たいな」

まつたけは、梨子の手に顔をすり寄せた。

 

梨子は、まつたけの額にそっとキスを落とした。

それは、言葉にならない感謝と、愛情と、そして──少しずつ育ち始めている、特別な想いの証だった。

 

 

帰り道。

高速を降りて少し遠回りになるけれど、梨子はふと思いついて、海沿いの道を選んだ。

車を走らせるたび、窓の外に広がっていく水平線。

澄んだ空気と、潮の香りが鼻をくすぐった。

まつたけは、助手席から顔を出して、海の匂いをゆっくり嗅いでいた。

 

(──懐かしいね)

梨子はハンドルを握りながら、

心のどこかでそう思った。

 

小さな漁港の脇、人気のない砂浜に車を停めた。

エンジンを切ると、世界は途端に静かになった。

 

「ちょっと、寄っていこうか」

梨子はリードを握り、ドアを開けた。

海風が、髪をそっと撫でた。

 

まつたけは、地面に降り立つと、砂の感触を確かめるように一歩一歩歩き始めた。

梨子もその後に続く。

 

潮の香り。

波の音。

空の青と、海の青。

全てが溶け合って、静かだった。

 

梨子は、靴を脱いで裸足になり、波打ち際へと歩いていった。

まつたけも、砂をかすかに掘り返しながら、梨子の隣に来た。

冷たい海水が、そっと足元を洗っていった。

 

「ねえ、まつたけ」

梨子は、まつたけの首元に手を置いた。

 

「昔、わたしが内浦に来たばかりの頃、よく、こうして海を見てたんだ」

まつたけは、静かに梨子を見上げた。

梨子は、ふっと笑った。

 

「その頃は、不安でいっぱいだった。でもね、まつたけ。今は、君がそばにいてくれるから──何も怖くないよ」

まつたけは、梨子の手に顔をすり寄せた。

(僕も、君といるときが一番安心する)

 

梨子は、しゃがみ込んで、まつたけの顔に額を寄せた。

「ありがとう。本当に、ありがとう、まつたけ」

 

海風が、ふたりの間をやさしく吹き抜けた。

波音だけが、静かに耳に届く。

梨子は、そっと目を閉じた。

まつたけの体温が、胸の奥まであたためてくれた。

──

 

どれくらい、そうしていただろう。

日が少し傾き始め、空がオレンジに染まり始めた。

梨子は立ち上がり、リードを持った。

 

「帰ろうか、まつたけ。また、新しい日常が待ってるから」

まつたけは、軽く尻尾を振って応えた。

 

ふたりは並んで歩き出した。

波打ち際を、静かに、静かに。

ひとつ、またひとつと、並んでついていく足跡。

振り返ると、それはまるでふたりがここにいた証みたいだった。

 

梨子は、もう一度だけまつたけを見下ろした。

(君となら、どこへだって行ける気がする)

まつたけは、そんな梨子の想いを知ってか知らずか、ただ穏やかに歩みを進めた。

 

夕焼けに染まる海。

そして、ふたりだけの静かな帰り道。

それは、これからの未来を映す、やさしい光景だった。

 

 

少し汗ばむくらいの、ぽかぽかした日差しの午後。

ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。

梨子がドアを開けると、そこには、久しぶりに見るふたりの顔。

「梨子ちゃーん! 久しぶりーっ!」

「やっほ、梨子ちゃん!」

千歌と曜が、にこにこ笑顔で立っていた。

「来てくれてありがとう。上がって」

梨子はふたりを迎え入れ、テーブルの上には、用意していたお茶と手作りのスコーンが並んでいた。

 

千歌は、わあっと目を輝かせながら部屋を見回し──ふと、視線を止めた。

「おおっ、まつたけ! 大きくなったねー!」

部屋の隅で、まつたけが静かに座っていた。

梨子の指示があるまで、きちんと待っている。

 

「まつたけ、来て」

梨子が呼びかけると、まつたけはゆっくりと歩み寄り、梨子の隣に座った。

千歌は、まつたけの頭を撫でながら、感心したように言った。

「相変わらず賢いなぁ~。梨子ちゃんとまつたけ、すっごく仲良しだね!」

「うん。……もう、家族みたいなものだしね」

梨子は、まつたけの頭を優しく撫でながら、自然な微笑みを浮かべた。

千歌は、にこにこしながらスコーンをつまみ、曜もそれに続いて笑った。

 

──けれど、曜はふと、梨子のまつたけを見る"目"に違和感を覚えた。

普通のペットに向ける視線とは、少し違う。

もっと深くて、もっと優しくて──

けれど、どこか"特別"なものが滲んでいる気がした。

 

(……なんだろ、あの目)

曜は、スコーンを食べながら、なんとなく梨子とまつたけの間をちらちらと見てしまう。

梨子は、まつたけに向かって、当たり前のように微笑み、まつたけも、梨子をじっと見つめ返している。

言葉を交わしていないのに、何かがしっかりと通じ合っている。

そんな空気を、曜は感じた。

 

(うーん……ま、気のせいかな?)

曜は首をかしげながらも、深くは踏み込まずに、千歌の笑顔に引き戻された。

「梨子ちゃん、次は一緒に海にも行こうよ! まつたけも連れて!」

「……うん、いいね」

梨子は、まつたけを撫でながら、静かに微笑んだ。

 

その横顔を見ながら、曜はほんの少しだけ、言葉にならない何かが胸の奥にひっかかった。

(──梨子ちゃん。まつたけのこと、ただの家族っていうだけじゃない気がする)

でも、それが何なのか、まだ曜には、はっきりとはわからなかった。

 

春の陽気に包まれたリビング。

スコーンの甘い香りと、静かに寄り添う梨子とまつたけ。

ふたりの間に流れる静かな空気は、ただの飼い主とペットという言葉では片づけられない何かを、確かに含んでいた。

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