※この作品はR-18です。

君と紡ぐ永遠のメロディ   作:彼処舐ノ助嗅過

7 / 10
梨子はこれまで抱いたことのない感情をまつたけに抱ていることを自覚し始めていた。
そしてまつたけもまた、梨子に対する本能が強まっていることに戸惑い始めていた。

※シリーズ全体
・本作品はアニメ版『ラブライブ!サンシャイン!!』を原作とした二次創作です。
・アニメ本編との時間軸のズレや、独自の設定・キャラクター解釈を含んでおります。
・原作を尊重しつつも、キャラクターの性格・関係性に独自解釈が加わる場面がございます。
・アニメ最終話に登場する犬「プレリュード」は本作には登場せず、オリジナルキャラクターの犬が登場・物語の中心となっております。
・人と動物(犬)との恋愛要素を含む内容となっております。苦手な方、抵抗のある方は閲覧をお控えください。
・ストーリー後半には、**18歳以上推奨の描写(R-18相当)**が含まれます。年齢制限・閲覧にご注意ください。
・本作はフィクションです。実在の人物・団体・作品とは一切関係ありません。


#7 自覚する想い、本能

春から夏へと季節が移ろうとしていた。

柔らかい風が吹く午後。

梨子は、まつたけと並んで、静かな公園のベンチに座っていた。

まつたけは、梨子の隣で静かに伏せて、ただぼんやりと、流れる雲を眺めていた。

 

梨子は──

その隣で、そっと膝の上に置いた自分の手を見つめていた。

(わたし……まつたけのこと──)

心のどこかで認めてしまった"想い"。

けれど、それを口に出すのは怖かった。

 

人と犬。

種族の違い。

世間の目。

 

それを思うと、

足がすくんで、前に進めない。

 

でも。

でも──

まつたけの存在が、それでも、愛おしかった。

 

梨子は、隣のまつたけに目を向けた。

優しい目。

あたたかい毛並み。

どんなときも、変わらずそばにいてくれる存在。

 

「ねえ、まつたけ」

梨子は、そっと話しかけた。

「わたし……おかしいのかな」

まつたけは、ゆっくりと顔を上げ、梨子を見た。

 

梨子は、目を細めて微笑んだ。

「まつたけに触れるたびに、胸がぎゅってなるの。すごく、すごく、大事で──だけど、それだけじゃなくて……」

言葉が続かなかった。

でも、まつたけは、何も言わずに梨子の手の上に鼻先を乗せた。

(大丈夫。君が思うままに)

 

梨子は、そっとまつたけの頭を撫でた。

心の奥が、静かに揺れながらも、

どこかで少しずつ、何かが確かになっていくのを感じていた。

 

 

その夜。

梨子がベッドに入ったあと。

まつたけは、リビングの窓辺に座っていた。

夜風が、カーテンを揺らす。

静かに、静かに、部屋の空気を撫でていった。

 

まつたけは、窓の外を見つめながら、そっと目を閉じた。

(──梨子)

まつたけには、言葉はない。でも、心は確かに知っていた。

 

梨子が、自分に向ける視線の意味。

梨子が、心のどこかで戸惑いながら、それでも自分を大切に思ってくれていること。

まつたけにとって、梨子は、この世界で一番大切な存在だった。

 

守りたい。

傷つけたくない。

笑っていてほしい。

 

それだけだった。

──たとえ、この想いが報われなくても。

──たとえ、この想いが伝わらなくても。

まつたけは、梨子のそばにいることを、守り続けることを、静かに、心に誓っていた。

 

梨子の寝室から、かすかに、寝息が聞こえてきた。

まつたけは、そっと立ち上がり、音もなくベッドのそばに歩み寄った。

 

梨子は、安らかな顔で眠っていた。

まつたけは、静かに床に伏せ、梨子のベッドに体を寄せた。

(──ずっと、そばにいるよ)

 

夜の静寂に溶けるように。

まつたけの誓いは、言葉にはならないけれど、確かに、ふたりの間に息づいていた。

窓の外では、夏の初めの星が、静かにまたたいていた。

 

 

初夏の昼下がり。

梨子は、窓を開け放ったリビングで、

ソファに腰を下ろし、ゆったりと本を読んでいた。

 

まつたけは、その足元に寝そべっていた。

──いや、寝そべっている、ふりをしていた。

(……近づきたい)

まつたけは、そっと梨子を見上げた。

 

梨子はページをめくる手を止め、何気なく微笑んだ。

それだけで、まつたけの胸の奥が、じんわりと熱くなる。

(この匂い……)

そよぐ風に乗って、梨子の髪から、体から漂う、ふわりとした香り。

人間の匂い。

でも、まつたけにとってそれは──

世界で一番、特別な香りだった。

やわらかくて、あたたかくて、甘い気持ちにさせる匂い。

ずっと、ずっとこの匂いに包まれていたい。

 

(でも──)

まつたけは、自分の体を小さく丸めた。

本能が言っている。

──甘えたい。

──もっと、近づきたい。

 

けれど、

どこかで、

(迷惑をかけたくない)

(困らせたくない)

そんな理性が働く。

 

犬としての本能とは違う、もっと深い場所で。

(でも……でも、)

まつたけは、じりじりと距離を詰めた。

 

梨子の手元に顔を乗せる。

その手に、そっと鼻先を押し当てる。

梨子は驚いたように顔を上げた。

でも、すぐに、優しく微笑んで、まつたけの頭を撫でた。

「どうしたの、まつたけ? 甘えんぼさんだね」

その声に、まつたけの尾は、自然と小さく揺れた。

 

(……好きだ)

その想いは、本能でも、習性でもなかった。

ただ、梨子という存在そのものが、まつたけにとって特別だった。

(もっと、そばにいたい。もっと、君のことを感じていたい)

 

梨子は、まつたけの首元を撫でながら、ふわりと笑った。

まつたけは、梨子の膝に顔を寄せ、そっと、目を閉じた。

(……このまま、ずっと)

梨子が本に目を落とすと、まつたけは、そっと彼女の手の甲を舐めた。

梨子は、くすぐったそうに笑ったけれど、それを拒まなかった。

 

まつたけは、自分の中に芽生えた感情に、戸惑いながらも──もう逆らえないことを、静かに受け入れ始めていた。

 

 

その夜。

東京の空は、珍しく星がよく見えていた。

梨子は、ベランダに椅子を出して、まつたけと並んで夜空を眺めていた。

まつたけは、梨子の足元に伏せていて、ときどき梨子の方を見上げる。

月明かりが、まつたけの毛並みをふわりと照らしていた。

 

梨子は、まつたけの背中に手を伸ばした。

やわらかく、あたたかい毛並み。

夜空に瞬く星の光よりも、この存在が眩しかった。

 

「まつたけ」

小さく名前を呼ぶと、まつたけは、顔を上げて梨子を見つめた。

そのまなざしは、何も言わなくても、全てを受け入れてくれるような、深い、深い優しさに満ちていた。

 

梨子は、ふと指を伸ばして、まつたけの耳の後ろをなでた。

すると、まつたけは静かに目を細め、梨子に顔をすり寄せた。

頬に触れる、あたたかな鼻先。

くすぐったくて、でも、心の奥がじんわりと温かくなる。

 

(──好き)

その言葉が、心にぽとりと落ちた。

(わたし、まつたけのこと──)

 

家族とか、

友達とか、

相棒とか。

そんな言葉では、もう追いつかない気持ち。

隣にいてくれるだけで、胸がこんなにも熱くなる。

まつたけの体温を感じるだけで、心が安らぐ。

 

(好き……)

梨子は、そっとまつたけに顔を寄せた。

「……ずるいよ、まつたけ」

まつたけは、静かに梨子の言葉を受け止める。

何も言わず、ただじっとそばにいる。

(こんなに優しくされたら、こんなに大事にされたら──好きになっちゃうよ)

 

夜風が、ふたりの間をそっと撫でていく。

だけど、その距離は少しも変わらなかった。

梨子は、そっと目を閉じた。

胸の奥が、じんわりと熱い。

 

それは、

どこか痛いくらいで、

でも、とても心地よかった。

 

(わたし、まつたけのことが──本当に、好きなんだ)

そう認めた瞬間。

梨子の心は、ふわりと軽くなった。

 

まるで、夜空に浮かぶ星の光に溶けるように。

梨子は、まつたけの頭をそっと撫でた。

まつたけは、ぺろりと梨子の手を舐めた。

その動作に、すべての答えが詰まっているようだった。

 

梨子は、月を見上げながら、心の中で、静かに呟いた。

(ずっと、一緒にいたい──)

それは、もう誰にも止められない、ふたりだけの願いだった。

 

 

梨子は、いつものようにソファに座り、

まつたけを呼び寄せた。

「まつたけ、こっちおいで」

まつたけは、素直に梨子の足元に寄ってきた。

けれど──

梨子の手が、まつたけの首元に伸びた瞬間。

 

(……っ)

梨子の胸が、ふわりと熱くなった。

柔らかい毛並みに触れるだけで、こんなにも鼓動が早くなるなんて。

今まで何度も撫でてきたのに。今日に限って、妙に、手のひらが汗ばんで感じる。

「──あ、ごめんね。なんか、暑いからかな」

梨子は、言い訳みたいに笑いながら手を引っ込めた。

 

まつたけは、静かに梨子を見上げていた。

けれど、彼の心にもまた、これまでにない違和感が生まれていた。

 

まつたけは、庭に出て用を足したあと、梨子に呼ばれて、後始末をしてもらうのが当たり前だった。

けれど。

(……恥ずかしい)

今は、それが妙に気になって仕方がなかった。

こんな姿を見せたくない。

自分で何とかできないか、と考えたが、現実的には無理だった。

 

それでも、せめて梨子が来る前に、土をかけてごまかそうとする。

(……君に、こんなこと、させたくないのに)

梨子はそんなまつたけに気づかず、いつも通り優しく微笑みながら手際よく後始末をしていた。

まつたけは、その背中を見つめながら、小さく胸を痛めていた。

 

夜。

梨子がシャワーを浴びて、ふわりといい香りをまとってリビングに戻ってきたとき。

まつたけは、鼻をひくひくと動かして、思わず顔を背けた。

(……どうして、こんなに)

梨子の匂いは、以前から好きだった。

でも、今は違う。

甘い香りに混じって、もっと本能を刺激する何かが混ざっていた。

 

──惹かれてしまう。

それが、自分の意志ではどうにもならないものだと、まつたけは本能で理解していた。

(ダメだ。落ち着かなきゃ)

 

まつたけは、ソファに飛び乗り、部屋の中をぐるぐると回り始めた。

まるで、気を紛らわせるかのように。

 

梨子はそんなまつたけを見て、「急に元気だね、まつたけ」と笑ったが、まつたけは答えず、ただひたすら体を動かし続けた。

(君を困らせたくない。でも──どうしても、そばにいたい)

走っても走っても、心の奥のざわめきは消えなかった。

 

お互いにぎこちなくなった距離。

それは、

もしかすると──

 

(わたしたち、変わり始めてるのかな)

 

梨子は、

まつたけの背中を見つめながら、

胸の奥でそっと呟いた。

 

まつたけもまた、

梨子の視線を感じながら、

静かに心を揺らしていた。

 

ふたりの間に流れる空気は、

もはや以前のものではなかった。

 

けれど、

それを壊したくなくて、

どちらも何も言えないままだった。

 

ただ、

静かに。

静かに、距離だけが縮まっていた。

 

 

晴れた週末。

梨子は、リビングをさっぱりと掃除して来客を待っていた。

ピンポーン、とチャイムが鳴く。

まつたけが静かに立ち上がり、尻尾を振った。

ドアを開けると──

千歌、曜、そしてダイヤが立っていた。

 

「梨子ちゃーん、久しぶりー!」

千歌が満面の笑みで手を振り、曜はにこっと笑って手を上げた。

ダイヤは、いつものきちんとした身なりで、けれど穏やかな笑みを浮かべていた。

「お久しぶりです、梨子さん」

「うん、いらっしゃい」

梨子は、3人を迎え入れた。

 

リビングに入ると、すぐにまつたけが顔を出した。

「わぁっ、まつたけ~! 相変わらずカッコいいねぇ~!」

千歌が嬉しそうに近寄る。

まつたけは、いつも通り静かに千歌を見上げて、軽く尻尾を振った。

曜もダイヤも、その様子をにこにこと眺めていた。

──けれど。

 

ふと、曜は梨子とまつたけの間に漂う空気に、小さな違和感を覚えた。

梨子はまつたけを見て、本当に優しい顔をしていた。

それは、ただの飼い主がペットを見つめる顔じゃなかった。

もっと深くて、もっと強い、何か。

 

曜は、そっとダイヤに目を向けた。

ダイヤもまた、梨子とまつたけをじっと見ていた。

その表情には、微かな驚きと戸惑いが滲んでいた。

(やっぱり、わたしだけじゃないんだ……)

 

曜は、胸の奥がざわつくのを感じた。

会話が進むうちに、千歌が、ふと何気ない口調で言った。

「そろそろ、まつたけも素敵な相手が見つかるといいね~。子犬とかできたら、めっちゃ可愛いよね!」

無邪気な声。

 

けれど、その言葉に──

梨子の表情が、かすかに、けれどはっきりと陰った。

一瞬、言葉を失った梨子は、手元のカップをそっと見つめたまま、ぎこちなく笑った。

「……そ、そうだね。うん、素敵な相手が、見つかるといいね」

その声は震えていた。

 

苦しそうな、

悲しそうな、

けれど、無理に笑おうとする声だった。

 

千歌は、無邪気にうんうんと頷いていたが、曜とダイヤは、静かにその様子を見つめていた。

曜は、梨子の指先が、カップを持つ手の中で小さく震えているのを見た。

ダイヤは、梨子が視線を落としたまま、まつたけの方をちらりと見たのを見逃さなかった。

 

まつたけは、何も言わずに、ただ静かに梨子を見上げていた。

その目は、まるで「大丈夫」とでも言うかのように、静かに、優しく、梨子を包んでいた。

 

曜は、心の中で呟いた。

(梨子ちゃん……やっぱり、普通じゃないよね)

ダイヤもまた、目を伏せながら、静かに息をついた。

(梨子さん……あなたは、もう……)

 

けれど、誰も何も言わなかった。

千歌が屈託なく笑うその輪の中で、梨子だけが、ひとり、胸に刺さった棘を隠すように笑っていた。

 

そして──

まつたけもまた、

そんな梨子の隣に、静かに寄り添い続けていた。

それが、ふたりだけの、静かな誓いだった。

 

 

夜。

窓を開け放ったリビングに、

涼しい夜風が吹き込んでいた。

梨子は、まつたけのために新しいおもちゃを買ってきていた。

ふわふわの布でできたロープのおもちゃ。

 

「ほら、まつたけ、新しいのだよ」

にこっと笑いながら差し出すと、まつたけはゆっくりと近づいてきた。

でも、どこか様子がおかしかった。

顔を背ける。

匂いを嗅ぎたそうにして、けれど、ぐっと我慢するように鼻をひくつかせる。

 

梨子は首をかしげた。

「どうしたの? 疲れてる?」

そっと手を伸ばして、

まつたけの頭を撫でようとした瞬間──

 

まつたけは、ふいに身を引いた。

梨子は、はっとした。

こんなことは初めてだった。

「……まつたけ?」

梨子は、まつたけの顔を覗き込んだ。

まつたけは、静かに目を伏せ、まるで何かに耐えるように、体を小さく丸めた。

 

(まつたけ……)

梨子は、気づいてしまった。

いつもだったら、無邪気に甘えてきた。

何のためらいもなく、体を預けてくれた。

でも今は違う。

近づきたいのに、我慢している。

 

(わたしと、距離を取ってる……?)

梨子は、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じた。

まつたけの瞳には、痛みのような、切なさのような、そんな色が滲んでいた。

 

(まつたけ、わたしに──)

言葉にできない感情が、喉の奥でひっかかった。

でも、心はもう知っていた。

彼が、本能に抗っていることを。

自分を困らせたくなくて、苦しんでいることを。

 

 

その夜。

梨子は、ベッドに横たわっても、なかなか眠れなかった。

胸の奥で、まつたけの顔が何度も思い浮かんだ。

(まつたけ、あんなに苦しそうだった……)

わたしは、そんな彼に何もしてあげられなかった。

──いや。

本当は気づきたくなかっただけ。

 

(わたしだって……)

梨子は、そっと布団をめくり、リビングに向かった。

まつたけは、リビングのソファの上で丸くなっていた。

寝ているのかと思ったが、梨子の足音に、まつたけはすぐに目を開けた。

 

「……まつたけ」

梨子は、そっと彼の隣に腰を下ろした。

しばらく、ふたりは何も言わなかった。

ただ、夜の静けさだけが、ふたりを包んでいた。

 

梨子は、そっと手を伸ばした。

「ごめんね。わたし、何もわかってなかった」

まつたけは、微動だにしなかった。ただ、じっと梨子を見つめていた。

「まつたけ……君がわたしのこと、どれだけ大切に思ってくれてるか、ようやくわかった気がする」

 

言葉にした途端、涙が溢れてきた。

まつたけは、ゆっくりと体を起こし、梨子の膝にそっと顔を乗せた。

その仕草が、すべての答えだった。

 

梨子は、震える手でまつたけの背中を撫でた。

ふわふわの毛並み。

温かい体温。

(わたしも──)

梨子の胸は、切ないくらい熱くなった。

 

(わたしも、まつたけを、大切に思ってる。それだけじゃない。わたし……)

梨子は、まつたけの頭に、そっと額を寄せた。

 

「……わたし、君のことが、好きだよ」

まつたけは、静かに目を閉じた。

その瞬間、梨子の頬に、まつたけの鼻先が優しく触れた。

(……君が、好きだ)

言葉にしなくても、まつたけの想いが、梨子の心に響いた。

 

ふたりの間には、

もう、飼い主とペットという枠は存在しなかった。

それは、

誰にも触れられない、

ふたりだけの、静かで、確かな愛のはじまりだった。

 

 

静かな朝。

梨子は、キッチンでコーヒーを淹れながら、

リビングで静かにこちらを見つめるまつたけをふと見た。

(昨日、あんなふうに言ってしまったけど──)

「好きだよ」

その言葉が、まだ胸の奥で熱を持っていた。

 

まつたけは、何も言わず、ただ静かにそばにいる。

その姿が、たまらなく愛おしいのに、どこか不安もあった。

(わたし、本当にこのまま進んでいいのかな)

ふたりの間に流れる静かな空気が、以前とは明らかに違うことに、梨子は気づいていた。

 

それでも。

「まつたけ、おいで」

声をかけると、まつたけは静かに立ち上がり、梨子の足元まで歩いてきた。

 

梨子は、まつたけの頭にそっと手を置いた。

触れた瞬間、

胸の奥に、

ざわりと温かい何かが広がる。

(これが、わたしの……本当の気持ち)

戸惑いながらも、梨子は少しずつ、まつたけと向き合うことを選び始めていた。

──

 

午後。

梨子はまつたけと一緒に散歩に出た。

まるで、普通の飼い主とペットのような風景。

けれど、梨子の中には、以前とは違う感情が満ちていた。

すれ違う人々の視線に、少しだけ敏感になってしまう自分がいた。

 

(まつたけと、ふたりだけの世界でいられたら──)

そんなことを、ふと、思ってしまう。

 

まつたけは、そんな梨子の迷いも、すべて知っているかのように、ただ静かに寄り添って歩いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。