※この作品はR-18です。

君と紡ぐ永遠のメロディ   作:彼処舐ノ助嗅過

8 / 10
梨子の母、Aqoursはふたりを見守り、応援することに決めた。
梨子はもう迷わない、そう決めた。

※シリーズ全体
・本作品はアニメ版『ラブライブ!サンシャイン!!』を原作とした二次創作です。
・アニメ本編との時間軸のズレや、独自の設定・キャラクター解釈を含んでおります。
・原作を尊重しつつも、キャラクターの性格・関係性に独自解釈が加わる場面がございます。
・アニメ最終話に登場する犬「プレリュード」は本作には登場せず、オリジナルキャラクターの犬が登場・物語の中心となっております。
・人と動物(犬)との恋愛要素を含む内容となっております。苦手な方、抵抗のある方は閲覧をお控えください。
・ストーリー後半には、**18歳以上推奨の描写(R-18相当)**が含まれます。年齢制限・閲覧にご注意ください。
・本作はフィクションです。実在の人物・団体・作品とは一切関係ありません。


#8 わたしたちなりの家族

その頃、曜とダイヤは、カフェの静かな隅で向かい合っていた。

アイスティーのグラスに、氷が静かに音を立てていた。

 

「……ダイヤさん。やっぱり、あれって普通じゃないよね」

曜が、眉をひそめながら切り出す。

ダイヤは、静かに頷いた。

「ええ。梨子さんと、まつたけさんの間には──普通の飼い主とペットの関係を超えた何かが、確かに存在していました」

「うん……わたしも、そう思う」

曜は、ストローを指で弄びながら、視線を落とした。

「でも……これ、本人たちに直接聞くのは違う気がするし」

「ええ、無理に聞き出すのは、かえって傷つけてしまうかもしれません」

ダイヤは、考え込むように指を組んだ。

「ただ、放っておくこともできない。梨子さんが傷つくことになるかもしれませんから」

「……梨子ちゃんのお母さんに、相談してみる?」

曜が、そっと提案した。

 

ダイヤは少しだけ考え、やがて頷いた。

「ええ。ですが、その前に、もうひとり話しておきたい相手がいます」

曜は、すぐに気づいた。

「──千歌ちゃん、だね」

ダイヤは頷いた。

「彼女は、梨子さんにとって特別な友達です。きっと、彼女の意見がわたしたちの背中を押してくれるはずです」

 

そして数日後。

曜とダイヤは、千歌を呼び出して話を切り出した。

千歌は、最初こそぽかんとしていたが、曜とダイヤの真剣な顔を見て、すぐに表情を引き締めた。

 

「──そっか。梨子ちゃん……」

千歌は、しばらく沈黙した後、静かに言った。

「でも、わたし、梨子ちゃんがどんな気持ちでいたって──ちゃんと支えたいって思うよ」

曜とダイヤは、顔を見合わせた。

「だから、梨子ちゃんのお母さんに相談するの、賛成。だって、梨子ちゃんのためだもん」

千歌は、小さな決意をこめて、頷いた。

 

 

静かな昼下がり。

梨子の母は、曜とダイヤ、そして千歌の真剣な顔を前に、ゆっくりと話を聞いていた。

「──それで、あなたたちは、梨子と……まつたけくんに、何か特別なものを感じたと?」

梨子の母の声は穏やかだったけれど、その奥には深い戸惑いがにじんでいた。

 

曜が、言葉を選びながら答える。

「……はい。梨子ちゃんの目がまつたけを見てる時、すごく……優しいっていうか、普通の家族とかペットを超えた何かを、感じたんです」

ダイヤも、真剣な面持ちで続けた。

「それは、梨子さん自身も、きっと気づいている。だからこそ、わたしたちは──見守るだけでいいのか、迷いました」

 

梨子の母は、ゆっくりと目を閉じた。

心の中で、梨子がまつたけと過ごす日々を思い出していた。

──穏やかな笑顔。

──まつたけを撫でる時の、優しい手つき。

──そして何より、梨子があれほど自然に笑っていられること。

「……あの子が、笑っていられるなら」

彼女は、そっと呟いた。

「わたしは、あの子の選んだ幸せを、信じたい」

曜とダイヤ、千歌は、その言葉に驚き、そして──ほっとしたように微笑んだ。

 

梨子の母は、目を開けて彼女たちを見た。

「でも。もし、あの子が苦しむようなことがあったら──その時は、力を貸してあげて。お願い」

「もちろんです!」

曜が、力強く頷いた。

千歌も、ダイヤも、真剣に頷いた。

 

梨子の母は、静かに微笑んだ。

(梨子。あなたが、どんな道を選んでも──わたしは、あなたの母親だから)

 

 

夜。

リビングのソファに並んで座る梨子とまつたけ。

テレビをつけっぱなしにしながら、梨子は、何気なくまつたけのお腹に手を伸ばした。

ふわふわの毛並み。

あたたかい体温。

 

梨子は、まつたけのお腹を、そっと指先でくすぐった。

「こちょこちょー」

まつたけはびくっと体を震わせた後、ぱたんと床に転がり、梨子にお腹を見せた。

 

(──可愛い)

梨子の胸が、きゅんと鳴った。

そのまま、梨子はまつたけの柔らかいお腹に、くすぐるような手遊びを続けた。

まつたけは、くすぐったそうに身をよじりながらも、されるがままだった。

 

──けれど。

梨子の指が、ふと胸元の柔らかい毛を撫でた瞬間。

まつたけの心臓が、どくん、と跳ねた。

 

(あれ……なんだろう、この感覚)

ただ触れられているだけなのに、体の奥がざわつく。

呼吸が浅くなる。

 

一方、梨子もまた──

まつたけのふわふわの体温を指先に感じるたび、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

(まつたけ……)

梨子は、まつたけの大きな前足をそっと持ち上げ、指をからめるようにして手遊びをした。

まつたけの肉球は、やわらかくて、ほんのりあたたかかった。

 

すると、まつたけがそっと顔を持ち上げて、梨子の足に顔を近づけた。

「きゃ──っ」

梨子が声を上げるより早く、まつたけの舌が梨子の足裏をぺろりと舐めた。

「ちょ、まつたけ、やだ、くすぐったいって!」

梨子は慌てて足を引っ込めたが、顔は真っ赤だった。

まつたけも、どこか気まずそうに耳を伏せた。

 

──けれど、

ふたりの間に流れる空気は、以前とは明らかに違っていた。

 

ただの遊びのはずだった。

ただのスキンシップのはずだった。

 

でも今は、

どちらの心にも、

かすかなドキドキが芽生えていた。

 

梨子は、胸に手を当てたまま、まつたけを見た。

(こんな気持ち、今まで感じたことなかったのに──)

 

まつたけもまた、梨子の視線を感じながら、ゆっくりと尻尾を振った。

 

夜は、静かに更けていく。

 

ふたりだけの、

誰にも知られない、

秘密の時間だった。

 

 

夏の夜。

虫の声が微かに聞こえるリビングで、

梨子はまつたけの毛並みに指を滑らせながら、

静かに呟いた。

「ねえ、まつたけ──」

 

まつたけは、ソファに寝そべりながら、

梨子の声に耳を傾けていた。

 

梨子は、そっとまつたけの背中を撫でながら、言葉を選んでいた。

「わたしね、君と一緒にいると、すごく落ち着くの」

 

まつたけは、静かに梨子を見つめた。

その視線は、ただ優しく、

すべてを受け止めるようだった。

 

「たぶん……わたしにとって、君は、家族とか、友達とか、そんな言葉じゃ、足りないんだと思う」

梨子は、少し照れたように笑った。

言葉にすると、自分の想いが輪郭を持って迫ってきて、少し怖かった。

けれど、まつたけは何も言わず、ただそばにいてくれた。

だから、梨子は、そっと続けた。

「君に触れるとね、心臓がドキドキするの。前はそんなことなかったのに──」

 

まつたけは、梨子の手にそっと鼻先を押し付けた。

その仕草に、梨子の胸はまたきゅんと鳴った。

(大丈夫だよ。続けて)

 

まつたけがそう言ってくれている気がして、梨子は、勇気を出して言葉を紡いだ。

「君といると、毎日が特別になるの。ただ並んで歩くだけでも、何でもないことでも、全部──」

まつたけは、静かに耳を傾けていた。

その姿に、梨子の心が支えられた。

 

「君がいるから、わたしは毎日、頑張れるの。笑えるの。だから──」

梨子は、そっと息を吐いた。

「だからね。これからも、ずっとそばにいてほしい」

まつたけは、まるでその言葉を理解したかのように、梨子の手に顔を寄せた。

梨子は、まつたけの耳の後ろをそっと撫でながら、微笑んだ。

「少しずつでもいいよね。ゆっくりでいいよね」

 

まつたけは、静かに尻尾を振った。

言葉はなくても、まつたけの瞳が、すべてを伝えていた。

 

──わかってるよ。

──ずっと、そばにいるよ。

 

夜は、深く、静かに更けていった。

梨子の言葉は、

まだ不器用で、拙かったかもしれない。

けれどそれでも、

確かにふたりの心に、小さな灯を灯していた。

 

 

同じ夜。

梨子は、眠れずにベッドでぼんやりしていた。

カーテン越しに、月のない闇が広がっている。

 

(──まつたけ)

彼の顔を思い出すと、自然と胸が温かくなる。

あの柔らかい毛並み。

あの静かで優しい目。

寄り添ってくれるあたたかさ。

梨子は、自分がどれだけまつたけに支えられているか、よくわかっていた。

 

(でも……)

ふと、未来のことを考えてしまった。

(このまま、ずっと一緒にいられるのかな)

 

人間と犬。

寿命だって違う。

社会の目だってある。

たとえ自分たちの間に愛があっても、それが認められることはない。

 

(それでも、わたしは──)

梨子は、胸に手を当てた。

 

まつたけの隣にいたい。

それは、誰に何を言われても変わらない気持ちだった。

 

(わたしは、君を選びたい)

社会の常識とか未来の不安とか、全部、今は置いておきたい。

 

ただ、

今だけは──

この気持ちだけは、信じたい。

梨子は、そっと目を閉じた。

 

「まつたけ……」

名前を呼ぶと、心の奥に優しいあたたかさが広がった。

その夜、梨子はようやく静かな眠りに落ちた。

彼女の夢には、まつたけと歩く未来の景色が、ぼんやりと浮かんでいた。

──ふたりで歩く道は、どこまでも続いていた。

 

 

ある日のこと。

梨子の母が泊まりに来た。

「しばらく顔を見てないから、心配になっちゃって」

梨子は、少し照れながら迎え入れた。

梨子の母は2人で作った夕食を一緒に食べた後、リビングで過ごす娘とまつたけの様子を静かに見つめていた。

 

梨子は、

まつたけの頭を撫でたり、

微笑んだり、

ときおりそっと手を握ったり。

 

──その目が、違っていた。

ペットを可愛がる目じゃない。

家族を慈しむ目でもない。

 

もっと深くて、

もっと切ない。

 

まるで──

恋人を見つめるような、特別な眼差し。

 

梨子の母は、心の奥で小さく息を呑んだ。

(千歌さんたちが言ってたこと……本当だったんだ)

 

梨子は、まつたけの耳の後ろを撫でながら、優しく微笑んでいた。

まつたけもまた、何かをすべてわかっているかのように、静かに梨子を見上げていた。

 

──幸せそうだった。

それが、

彼女の胸を打った。

戸惑いは、確かにあった。

迷いは、あった。

 

けれど、

梨子の母は、ゆっくりと心の中で頷いた。

(梨子が、幸せなら──)

リビングの隅、彼女はそっと目を細めた。

 

娘が、自分で選んだ大切なもの。

それを、母親として信じてあげたい。

(梨子。あなたが選んだその手をどうか、離さないで)

 

彼女は、静かに微笑みながら、ふたりのそっと寄り添う姿を見守っていた。

まるで、未来を祝福するように。

 

 

夏の終わり。

梨子は、久しぶりに内浦へ向かう電車に揺られていた。

隣には、まつたけ。

車窓の外を興味深そうに眺めている。

(懐かしいな……)

車窓を流れる風景に、懐かしさと少しの緊張が混ざって胸を締めつけた。

 

──今日は、Aqoursのメンバーとの再会。

千歌、曜、果南、ダイヤ、鞠莉、花丸、善子、ルビィ。

みんな、時間を合わせて集まってくれる。

(みんなに……まつたけとのことを……)

梨子は、そっとまつたけの頭に手を置いた。

 

まつたけは、梨子の方を見上げ、何かを察するように静かに瞬きした。

「大丈夫だよね、まつたけ」

梨子は、小さく呟いた。

 

──内浦駅に到着。

待ち合わせ場所には、見慣れた顔ぶれが集まっていた。

 

「梨子ちゃーん!」

真っ先に駆け寄ってきたのは千歌。続いて、曜が笑顔で手を振り、他のメンバーたちも懐かしそうに集まってきた。

梨子は、胸がいっぱいになりながら、

まつたけのリードを持って一歩踏み出した。

 

「──それで、今日はみんなに伝えたいことがあって……」

まつたけは、静かにみんなの前に座った。

賢そうな瞳。

静かな佇まい。

メンバーたちは、久しぶりのまつたけを見て、微笑んだり、目を細めたりしていた。

 

梨子は、少しだけ息を飲んだ。

 

──彼との関係。

──わたしたちの特別な絆。

 

変だと思われるかもしれない。

距離感がおかしいって、思われるかもしれない。

覚悟していた。

でも──

 

「──うん」

千歌が、ふっと微笑んだ。

「やっぱり、梨子ちゃんらしいね」

「え?」

梨子は、ぽかんとした。

 

曜が、にこにこしながら言った。

「だってさ、梨子ちゃんが見せるあんな顔──まつたけといる時だけだよ?」

ダイヤは、穏やかな口調で続けた。

「梨子さんがどれだけ大切に思っているか、見ていればすぐにわかりますわ」

 

「リリーがそれを選んだなら、ヨハネたちはそれを祝福するわよ」

善子もいつものポーズを決めて、フッと微笑む。

鞠莉は、少し茶目っ気たっぷりにウインクして言った。

「Loveに形なんて関係ないわ。大事なのは、心でしょ?」

 

梨子は──

言葉を失った。

涙が、じわっとにじんだ。

(みんな……)

 

怖かった。

受け入れてもらえないんじゃないかって、

ずっと不安だった。

 

でも──

みんなは、

そんな梨子のすべてを受け入れて、

祝福してくれた。

 

まつたけが、そっと梨子の手に鼻先を押し当てた。

 

梨子は、堪えきれずに涙をこぼした。

「ありがとう……みんな」

 

まつたけが、

そんな梨子を支えるように、

そっと足元に寄り添った。

そして──

Aqoursのみんなが、

まるで何も特別なことじゃないかのように、

梨子とまつたけを囲んで、笑い合った。

 

海の匂いが、夏の終わりの風に乗ってふわりと香った。

 

梨子は、

こんなにも温かい気持ちで、

この場所に立っていられることに、

心から感謝していた。

 

──愛を、形で決める必要なんてない。

──大事なのは、心だ。

 

梨子は、

まつたけの頭をそっと撫でながら、

胸の奥でそっと誓った。

(君とわたしで、未来を作っていこう──)

 

 

内浦での再会を終え、東京の家に戻った夜。

梨子は、ベッドに座りながら、まつたけの柔らかい毛並みに指を滑らせていた。

窓の外には、東京の街の灯りが静かに瞬いている。

いつもと変わらない、でもどこか──

今夜は特別な気がしていた。

 

「ねえ、まつたけ」

梨子は、小さな声で呼びかけた。

まつたけはベッドの下から顔を上げ、梨子を静かに見つめた。

その優しい瞳に、梨子はそっと笑いかけた。

 

「今日、みんなに会って、あらためて思ったの」

まつたけは、ゆっくりと梨子のもとに近づいてきた。

「わたしたちって──家族だよね」

梨子はまつたけの頭に手を置いて、そっと撫でた。

「血が繋がってるとか、そういうことじゃなくて」

まつたけは、静かに耳を動かしながら、梨子の言葉に耳を傾けていた。

 

「君がいて、わたしがいて、

 一緒に笑って、

 一緒に泣いて、

 何でもない日を一緒に過ごして──」

梨子は、ふと視線を落とした。

指先が、まつたけの毛をすくうように撫でる。

「それだけで、もう充分だって思ったの」

 

まつたけは、梨子の膝に頭を乗せた。

その重みが、梨子の心にじんわりと沁みていく。

「わたしたちは、

 わたしたちなりの形で、

 家族になっていこうね」

梨子の声は、震えていたけれど、確かだった。

 

 

まつたけは、梨子の膝に顔を預けたまま、ゆっくりと目を閉じた。

心臓の鼓動が、梨子の太もも越しに、かすかに伝わってくる。

 

(──家族)

その言葉は、まつたけの心に深く染み渡っていった。

 

血も、言葉も超えて。

ただ、

梨子のそばにいるだけで、

まつたけの世界は満たされていた。

 

まつたけは、梨子の膝にそっと前足をかけた。

 

まるで、

(わかってるよ)

(ずっと一緒にいよう)

と伝えるかのように。

 

梨子は、

その小さな重みを受け止めながら、

微笑んだ。

 

「ありがとう、まつたけ」

 

静かな夜。

窓の外の街の灯りが、

ふたりをそっと照らしていた。

 

梨子は、まつたけの頭に額を寄せた。

(わたしたちは、わたしたちでいいんだ)

 

ふたりだけの、誰にも壊せない絆。

言葉なんて、もういらなかった。

ただ、

この温もりさえあれば。

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