※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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恋姫陣の人選について。
Aクラスは総合力、Bクラスは善意や協調性、Cクラスは冷徹さを軸にして選びました。
Aクラスの蓮華、思春、亞莎の呉勢力は割とあっさり決まりました。統率の蓮華、身体能力の思春、知謀の亞莎でバランスも取れています。
Bクラスに桃香もすぐ決まりました。何かってーと叩かれがちですが、恋姫中屈指の善人でもありますから。
月も候補には挙がりましたが、彼女は苛烈な行動を取るのも辞さないことから、却下となりました。
問題なのは残りの二人です。軍師役を入れたかったんですが、恋姫における蜀の軍師→朱里、雛里のみ。ちんまい。却下。
次の候補として詠ちゃんと音々音が浮かびましたが、彼女たちを突っ込むなら月と恋が必須になります。月は既に却下したので詠ちゃんも却下。一方の恋はすぐに退学になりかねないし、音々音自体がちんまいのでやはり却下。そもそも軸と合致しませんし。
そんなわけで軍師の投入を諦め、恋姫中屈指の苦労人、もといバランスメイカーとして白蓮の投入になりました。白蓮なら桃香との連携も取れます。
そして、二人目が白蓮に決まったことから、三人目は必然的に星となりました。
Cクラスはすんなりとこの三人に決まりました。むしろ、この三人以外だと軸がブレます。
朱里とかをちんまいからと却下しておいて風は良いのか、というお言葉がありそうですが、他に人がいないんだから仕方ありません。
他の面子だと冷徹になることはできますが、あくまでも華琳ありきのイメージです。その点、軍師陣ならその心配はありません。

二、三年にも何人か恋姫キャラを突っ込む予定ではあります。候補としては愛紗、美花、秋蘭、霞、穏辺りです。人選理由としては『退学しなさそう』の一言に尽きます。
誰を正規採用するかはまだ未定ですが、彼女たちが入学したのは『名門校を卒業した』という実績と箔付けのため、という設定です。
それに比べて一年生の恋姫陣が多いのは、一刀の中学時に家庭教師を務めた冥琳と梨晏から、『一刀が高度育成高等学校へ行きそう』という話が伝わったため、という理由です。
そのため、受験したけど敢え無く落ちてしまった恋姫も、もしかしたらいるかもしれません。何となく包とかそんなイメージです。


北郷伝:15

 その日の帰り道、俺たちの人数はいつも以上に増えていた。いつものグループを軸にして、大幅に女子がプラスされている。まあ、その理由は言うまでもないが、今朝方のHRで告げられた学校側からのお達しが原因だ。

 それにより――

 

「ねえ、私も一緒に帰ってもいい? 正直、不必要な馴れ合いは好きじゃないんだけど、あんな手紙を見せられて、その上で学校側からも通達されちゃったら、流石に一人で帰るのもね……。私、人の目を惹き付ける自覚があるから。

 その点、北郷くんたちのグループは他よりマシに感じたし。まとまっているようでいて、いつも一緒にいるわけじゃないのが良いわ。何て言うか、人間関係の理想形なの」

 

 長谷部さんが加わり。

 

「私も御一緒させてもらって構わないかしら? ストーカー程度どうとでもあしらえる自信はあるけど、学校側からの正式な通達でもあることだし、わざわざ反発するほどのことでもないから。それに、一応は綾小路くんに声をかけられたわけだし、その心配を無下にするのも忍びないわ」

 

 堀北さんが加わり。

 

「私も加わっていい? やっぱり、今朝の一件に関してはちゃんと謝っておかなきゃかな……と。それに、北郷くんを取り巻く関係性に興味が無いわけじゃないし……」

 

 佐藤さんが加わり。

 

「私たちもいいですか? まとまって帰るにしろ、私たちだけじゃやっぱり不安で……」

 

 井の頭さんを始めとするおとなしめなメンバー――通称『美雨グループ』が加わり。

 そうして教室を出てゾロゾロと歩いていると――

 

「ああ、一刀。丁度良かったわ。今日からの登下校、暫くは私たちの護衛をしなさい」

 

 Cクラスから桂花たちが加わり。

 

「あ、ご主人様! ねえ、暫くの間、私たちと一緒に帰ろうよ!」

 

 Bクラスから桃香たちが加わり。

 

「あら、一刀。……ふむ、私たちも御一緒させてもらうわね。異議は認めないから」

 

 Aクラスから蓮華たちが加わった結果、今の人数になっている。

 桃香の『ご主人様』発言や、星の俺に対する『主』呼び、亞莎からの『一刀様』、風からの『お兄さん』など、各自の俺に対する呼称で一悶着起こったりもしたが、そこまで大きな問題には至っていない。

 また、桃香を始めグイグイとくる面子に危機感を刺激されたのか、恵、桔梗、美雨の三人が俺の背中と両腕に抱きついたりしているが、これもまた大きな問題ではない――筈だ。……正直に言うと、女の子の異なるかほりと感触が気持ちいいです。

 その一方、俺たちにつられてか愛里が清隆の腕に抱きついているし、幸村がやさぐれた表情で『くそ、リア充爆発しろ!』などと悪態を吐いているが、やはり大きな問題には至って――なければいいなぁ。ハッキリ言って自信はない。

 大多数から興味津々な眼差しを向けられている一方で、堀北さんからはまるで汚物を見るかの如き眼差しを向けられている。……悲しい。俺がいったい何をしたというのか!? 

 

「ああ、俺も彼女がほしい! 北郷と綾小路(この二人)の近くにいると、尚更にそう思う! 誰か、この中に俺と友人関係から初めてくれる人はいないか!? 俺は学力にしか自信がないが、逆に言うと勉強を見てやれる自信はあるぞ!」

 

 そして、女性陣に対して行われる、幸村の自己アピール。出会った当初の面影は皆無である。――ああ、幸村! いったい何がお前をそんなに変えてしまったのか!? ……まあ、間違いなく俺たちなんだけど。

 

「はは、『両手に花』どころではありませんなぁ、主。……まあ、貴方は私たちの王たるお方だ。むしろ、そうでなくては!」

 

 俺に向かってそんなことを宣いつつ、星は莞爾と笑う。そこにはまるで嫌味がない。

 

「そうそう! ご主人様は万人に向けて愛を抱き、尚それを貫ける人だもん! その愛を自分だけに向けてもらえないのは悲しくて悔しくもあるけど、そんなご主人様だからこそ好きなのは事実だし!」

 

 続いて、桃香から放たれる追い打ちというか惚気というか。満面の笑顔でそう言われてしまったら、俺も返す言葉はない。ただ、その言葉を裏切らないように努力するだけだ。

 

「フン! ただの好色男の間違いでしょ! こんな全身精液男、種馬で十分よ、種馬で!」

 

 そして、そっぽを向きつつ憎まれ口を放つ桂花。……うん、実にツンデレだ。

 

「王様とか主とか、さっきからいったい何を言っているのかしら。馬鹿らしい」

 

 その一方、場の空気を読まずにそんなことを口走る堀北さん。

 

「馬鹿らしい……か。うん、まあ、事情を知らぬ者にとってはそうだろうな。それを否定はしないよ。――ただ、事情を知る者にとっては酷く重い『現実』なのも確かだ。知ろうとすらせず、まして否定するのに何の根拠も持たない者に軽々と否定してほしくはないな」

 

 それを笑って受け止める傍ら、冷たい空気を纏って堀北さんを窘める白蓮。何だかんだ俺たちの間では『不憫』だの『苦労性』だのというイメージを持たれがちな白蓮だが、髄一のバランスメイカーでもある。そのお人好しさと卓越したバランス感覚故に進んで苦労を背負い込む気質があり、それについつい俺たちも甘えてしまうため、そんなイメージが定着してしまったという一面がある。

 そんな苦労性な白蓮だからこそ、堀北さんの言葉を聞き逃すわけにはいかなかったのだろう。実際、あれでは将来的に堀北さんがいらぬ苦労をするのは目に見えている。所詮は出会ったばかりの一期一会。無視することも可能だろうに、それができないのが白蓮の優しさか。

 もっとも、言葉の後半が本音なのも本当だろうが。実際に、彼女たちはその一念で以て『世界を渡る』などという偉業を成さしめたのだから。

 そして、そんな白蓮の様子を目ざとく見つけた者が一人。――蓮華である。そこからは彼女が窘め役を買って出た。

 これで蓮華は呉国の王を務めた人物だ。厳密には違うのかもしれないが、その知識、記憶、経験に体験は継承している。であるならば、同一人物とは言えずとも、同位体と呼んで不足はあるまい。……いや、その人物を定める根幹を何処に置くか次第では、十分に同一人物と言える。

 一度スイッチを切り替えてしまえば、身に纏う空気もまた入れ替わる。呉王の覇気だ。いくら堀北さんが優秀な部類であろうと、そんじょそこらの高校生に打ち破れるものではない。

 

「世の中、言葉では言い表せず、理屈では説明付けられぬ事物など数多くある。人もまた例外はない。そして、それを本気で目指す者も。

 常識を否定する気はないが、くだらんおためごかしに過ぎないのも事実だ。極論を言えば、善悪も、真偽も、成否も、世のほとんどは後付けされた理論武装に過ぎん。である以上、何よりも重要なのは、自分が納得できるかどうかだ。自分が納得できるのなら、批評も風潮も些末事だ。

 だがその一方で、それらの『余分』に足を引っ張られるのが世の中でもあるからな。そんな中を上手く生きていくためには、相応に慮る必要があるのも間違いない。それを指して『処世術』という。

 堀北といったか? お前が何を信じようと、何を指針に置いて行動しようと、それはお前の自由だ。しかし、それが絶対でないことは覚えておけ。世に蔓延る常識とて、それは同じだ。必要とあれば無視する輩など、世には吐いて捨てるほどいるし、私もその一人だ。

 自分のことを知ろうともせず、近付きもせず、借り物の理由にぶら下がって一方的に吠え猛る相手のことなど好きにはなれん。往々にしてそれが人間という生き物だということを、努々覚えておくことだ」

 

 それは会話ですらない。一方的な通達にして教えだ。何度か食いかかろうとした堀北さんだが、結局それは叶わず、口を開くことができたのは蓮華の言葉が終わった後。

 

「ッ……! どういうことよ」

 

 それでも、精々が言葉にできたのはその程度。あまりにも端的な一言だ。未だ蓮華の空気に呑まれているのだろう。

 

「お前の覚悟は弱い、ということだ。見る者が見れば容易に分かる。それが何なのかまでは分からんが、否応なく相手に認めさせるという覇気も、どうあっても認めてもらうという根性も、お前からは感じられん。

 或いは憧れか? 別段、おかしくはあるまいな。しかし、憧れに目を眩ませるあまり、形ばかりを真似るばかりで理解から遠のいている。そして、そのことを自覚すらしていない。まさに滑稽そのものだ。

 まあ、高校一年生という年齢と立場を鑑みれば、それが普通なのかもしれないがな」

 

 そうして、蓮華はバッサリと堀北さんを切って捨てた。彼女にしてみれば、出会ったばかりの堀北さんが相手でも、その在り方に見当付けるのは容易ということなのだろう。

 むしろ、蓮華だからこそ、出会ったばかりだというのに諭すが如く伝えたのかもしれない。これが華琳だったら、もっとバッサリだった筈だ。

 桃香? 桃香は堀北さんが自力で気付くまで放置だろう。『究極的なまでの自主性の容認』が桃香のスタイルだ。一見優しいようでいて、その実は最も厳しいのが桃香なのである。まあ、それ故にハマればこれ以上ないほどに強い一方で、色々な意味で障害が最も大きいのも桃香なのだが。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 さて。

 一部の空気が不穏になろうと、それで全体の空気まで不穏になるわけではない。何せ、俺たちはただ一緒に帰っているだけであり、それぞれの興味の在り処は異なっているのだから。

 

「この子……歩きながら寝てるの?」

 

 驚いたように、それでいて呆れたように呟いたのは長谷部さんだ。その視線の先には、目を瞑ったまま時折カクンと首を揺らしつつ、稟に手を引かれて歩く風。

 なお、風の頭にトレードマークとも言うべき宝譿は乗っていない。学校に持ってこなかっただけなのか、それとも世界を渡る際について来れなかったのか。その点は定かではなく、こちらから訊く勇気もない。

 

「貴方は……長谷部さんでしたか? ええ、この子は居眠りや日向ぼっこが好きでして、暇さえあればよく眠るんですよ。ただ、それはこの子が『安心』・『安全』と判断した場合のみです。言ってしまえば一種の甘えですね。それだけ、一刀殿との再会が大きく、嬉しかったのでしょう」

 

 長谷部さんの言葉に、稟が答えた。そのまま二人は会話を続ける。

 

「つまり、この子がこの状況で寝ているのは、すぐ近くに北郷くんがいるからってこと?」

「そういうことですね。この子にとって一刀殿は『太陽』ですから。非常にマイペースではありますが、同時に警戒心の強い子でもあります。一刀殿が近くにいなければ、初対面が多い中でこんな姿は見せないでしょう」

「なんか良いね、そういうの」

「そう思うのでしたら、貴方も一刀殿にアタックしてみては如何ですか? 彼は生粋の女好きであると同時、根が真面目です。きっと、貴方にも応えてくれますよ」

「根が真面目なのに?」

「ええ。真面目と言っても、それは『社会あっての人』ではなく、『人あっての社会』だと強く認識しているが故のことです。そのため、必要と思えば常識なんかも軽く投げ出してしまいます。でなければ、この現代社会でハーレムを築こうなんてしませんよ」

「ハーレム!? それ、マジで?」

「マジで、です。そも、彼は女性に優劣をつけない。つけられない。仕事上の立場や役職など、そういうもので優劣をつけることはありますが、個人を相手にした場合はそれをしません。徹頭徹尾、あくまでも一人の女性として相手をします。

 そして、彼がそんなだから、彼に惚れる女性も後を絶ちません。普通であれば正妻戦争などが起こるのでしょうが、それでは彼の意思に反してしまう。それは本意ではない。結果、女性の方も妥協する。

 一人に縛れないのなら縛らなければいい。正妻を決めることで優劣に変動が出るのなら、そもそも正妻を決めなければいい。結婚さえしていないのであれば、複数のお相手をしたところで浮気でも何でもありませんからね。……まあ、こんな感じです」

「なんか凄いね。同級生のことを話してるようにはまるで聞こえないや」

「かも、しれませんね。貴方にとっての一刀殿は『同級生』なのかもしれませんが、私たちにとっては違います。風ならば『お兄さん』、桂花ならば『全身精液男』、桃香殿ならば『ご主人様』といった具合に人によって呼称は違いますが、究極的に言うのならば『唯一無二』なのです。代わりなどいない。代わりになれる者もいない。そんな存在。それが私たちにとっての一刀殿です」

「スケールでかっ!? けど、本音なんだ……。普通だったら信じられないと思う。だけど、何でだろ、不思議と信じられる」

「それはまあ、貴方は一刀殿と同じクラスなようですし。たとえ直接言葉を交わさずとも、分かること、感じることがあったのでは? 私はクラスが違うので流石に彼の方針までは分かりませんが、それでも今後を思えば大々的に動いている筈ですので……。むしろ、Dクラスでありながら動いていないなどということがあったら、私は一刀殿の頭の中を疑いますよ」

「ちょっとゴメン、それってどういう意味? 特に『Dクラスでありながら』ってのは聞き捨てならないんだけど?」

「ああ、すみません。勝手に唇が動いてしまいました。まあ、私も貴方を気に入りましたので、ヒントとでも思ってください。流石にこれ以上はダメです」

 

 黙って耳をそばだててはいたが、これが『恋バナ』というやつだろうか? なんか違う気もするけど、否定もしきれない。

 しかしまあ、稟はいったい何を考えているんだか? 言葉をそのまんま捉えるのなら、長谷部さんを俺に嗾けているんだとは思うが……。そりゃあ、長谷部さんに迫られるのなら、俺としても嬉しいことこの上ないが……。

 

「ねえねえ、長谷部さんも堕とす? 堕としちゃう? 私は良いよ?」

 

 二人の会話を聞いていたのだろう。後ろから抱きついている桔梗が、そんなことを耳元で囁いた。

 

『むぅ~』

 

 そして、それを聞いた恵と美雨が、拗ねたような声を洩らしつつ、俺の腕に抱きつく力を強めた。

 

「うわ~、恋バナなんだろうけど、なんか大人な会話に聞こえる~。って言うか、今の櫛田さんの言葉からして、やっぱり二人は大人の階段を昇っちゃったの!? なのにまだ、軽井沢さんと王さんも北郷くんのこと狙ってるの!? 郭さんの言うように、北郷くんがハーレム狙ってるって本当なの!?」

 

 一方、朝の一件で謝る機会を探るべく俺の近くにいた佐藤さんにも、二人の会話と桔梗のセリフ、それに対する恵と美雨の反応を知るのは容易であり、顔を赤くしつつも目を輝かせて次々に訊いてきた。

 

「昇りました。ハーレムは狙っています。佐藤さんも、俺に釣られてみるかい? ……ただ、俺は釣り上げた女の子に対して餌は与えるけど、簡単に餌を与えるつもりもない。定期的に餌がほしいなら、相応に努力をしてもらうことになるね。まあ、一言で言えば地力の向上だけど。少なくとも安全圏には入ってもらわないと、安心してイチャつくこともできやしない」

「は-い、餌を与えられてないその一でーす」

「その二でーす」

 

 佐藤さんに対する俺の言葉を受け、恵と美雨が手を挙げた。意外とノリがいい二人である。

 

「定期的に餌を頂いてまーす」

 

 更には、優越感を笑みに浮かべて、桔梗までが手を挙げた。この子も存外ノリがいい。

 

「うわ、うわわ……!?」

 

 佐藤さんは、更に顔を赤く染めて後ずさる。

 

「どうする? 手付金代わりにキスをするのは吝かじゃないけど? 気持ちよくさせてあげるよ? 女の子とキスをするのは、俺も嫌いじゃないしね」

 

 そんな佐藤さんに対し、笑みを浮かべて割と最悪なことを口走る俺。

 ぶっちゃけ、正攻法では如何ともし難いのがDクラスなのである。全体的に見て粒は揃っているのだが、それに輪をかけて能力の低い生徒が多い。少なくとも、入試の成績を見る限りでは割とお先真っ暗な生徒が大半だ。佐藤さんもその一人である。

 

「やっちゃえやっちゃえ! 正直、本っ当に気持ちいいよ! これ以上ないほどの快感を得られるよ! まあ、一度味わっちゃうと二度目がほしくてたまらなくなるけど、それがモチベーションに繋がるのも間違いないしね! 報酬次第では信じられないほど努力できるのも人間だもん! 今を逃すと、次はいつになるか分からないよ!」

 

 そして、俺に対する援護か、一人でも道連れを増やそうという魂胆か、どこぞのセールストークが如く囃し立てる桔梗。

 この場の熱にアテられたのか、顔は赤いままに目をグルグルとさせた佐藤さんは――

 

「あの、じゃあ、お願い」

 

 と、弱弱しく懇願してきた。

 

「任された」

 

 頼まれたのなら、応えるのも吝かではない。俺は、再び通学路で女子の唇を奪うことになった。しかも、前回とは違う女子の。

 唇を触れ合わせるだけじゃない。舌を絡ませ合い、唾液を送り込む。当然のことだが、唇の感触も、舌の感触も桔梗とは異なり、また別種の気持ちよさを俺に齎す。必然、俺にもそれだけ熱が入る。

 

「んむっ!? んん! ん~~~~~っ!? んんっ!? ん、んん、ん~~! んん~~~~~!?」

 

 唇を離せば、そこには身体をクタリとさせ、未成熟ながらも『女』の色香を放つ人物が一人。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……凄い……気持ち良かった。これが……キス。勉強を頑張れば……これが何度も……ううん、この先だって……」

 

 息を荒くさせた佐藤さんは、快感に染まった顔をしながら己が指で唇をなぞり、かと思えば艶めかしい笑みを浮かべた。

 一種の洗脳。快楽堕ち。外道な振る舞いであることを否定はできない。

 しかし佐藤さんの場合、何もしなければ退学になる可能性の方が高いのだ。少なくとも、学力面での不安は尽きない。ならば、たとえ外道と誹られる方法であろうと、勉強に取り掛かるための意気込みを持たせることを俺は重視する。一般的に見て佐藤さんは可愛い女子であり、そんな女の子が退学するのは、俺にとっての損失である! そんなことは我慢がならない!

 などと思っていると、ぐいっと身体が引っ張られた。振り向くと、そこにいたのは長谷部さん。どうやら、彼女が俺の身体を引っ張ったらしい。

 さて、そんな長谷部さんだが、その瞳はさっきの佐藤さんと同様にグルグルと回っている。そして、ブツブツと何事かを呟いている。

 チラリと視線を稟に向ければ、いい笑顔で親指を立てている。

 稟の奴、長谷部さんを洗脳しやがった。そりゃあ魏の天才軍師郭奉孝ならば、そこらの女子の一人くらい、弁舌だけで操ることも可能だろう。先ほどの会話を振り返るに、長谷部さんはある程度稟に心を開いていたようだし、尚更簡単だった筈だ。

 毒を食らわば皿までか、或いは据え膳食わぬは男の恥か。この場合どちらが正しいのかは分からないが、こうなっては長谷部さんにもキスをするしかないだろう。

 長谷部さんが落ち着きを取り戻すまで放置するのも一つの手だが、それをすると長谷部さんが稟を恨みかねない。流石にそれは好ましくない。

 それを防ごうと思えば、否応なく長谷部さんが納得せざるを得ないほどの快感を叩き込むのが一番だ。

 或いは、そこまで計算しての行動なのかもしれない。俺が稟を良く知るように、稟もまた俺を良く知っている。

 そして軍師という存在は、結果を出すことを最上とする。まあ、実際は主君の度量や関係次第で妥協もするわけだが、基本的には褒められたやり方かどうかなどというものは関与しない。汚かろうと冷たかろうと、考え得る限りの手段を模索するのが軍師というものだ。俺も呉においては軍師として働いたから、その性は否応なく分かっている。

 ならば、俺がハーレムを考えている以上、稟がその相手を増やそうと行動しても何ら不思議はない。

 まあ、それはそれ。理解はできても、納得しきれるかと言えば話は別だ。それでも、喜ばしいことに違いはないが。

 

「まったく。稟の奴、後で覚えておけよ」

 

 言いつつ、俺は長谷部さんにもキスをぶちかまし、佐藤さん同様に快感を叩きつけるのであった。 




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