※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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【】内は中国語ということでお願いします。
本作の設定上、一刀は中国語を話せますが、作者には無理です。


北郷伝:02

 教室内にいるのは半数ほどだろうか。学校の触れ込みを鑑みれば初見同士の者が多いとは思うのだが、その割に騒がしい。何にせよ、交友を深めるのは結構なほどだ。

 とはいえ、全員が全員そういう行動を取っているわけではない。中には独り自席に座ったままの者もいる。

 それぞれの机にはネームプレートが立てられているようだが、未だ半数は空いている中から探し出すのは手間でしかない。黒板にそれぞれの割り当てが貼り出されているようなので、まずはそちらに向かって確認する。

 

「……残念。隣同士ってわけにはいかなかったか」

「とことんまで寄生する気満々だな……。ま、良いけど。スタンスは人それぞれだ。『正道』だけが道じゃない」

「う~ん。前から思ってたけど、何て言うか、北郷くんって妙なところで達観してるよね」

「ま、『経験』と『環境』が人を形作るからね。信憑性のほどはともかく、俺ほど濃密な経験をしている人もそうはいないと思うよ?」

「あ~、『胡蝶の夢』がどうたらだっけ? 確かに、俄かには信じられない話だよね。ま、あたしにはどうでもいいことだけど……。あたしの知ってる北郷くんは、それを経験した後の北郷くんなんだし。その前がどうこう言われたところで、それこそ信憑性なんて定かじゃないし」

 

 ある意味では無頓着。だけど、そんな軽井沢さんの態度に救われたのも事実だ。

 多かれ少なかれ、人は変わる生き物だ。しかし、二年という歳月を経ているとはいえ、俺の変化は大きすぎた。その間はずっと意識を失っていたので、寝て起きたら『大きく人が変わっていた』ということになる。

 個人的には変わっていない部分もあるとは思うんだが、自己評価と他者からの評価が完全な同一であることなどあり得ない。入院前の俺を知っている者にとっては、目覚めた後の俺を素直に受け入れることなどできなかったろう。それは、両親も教師もそうだった。俺の目覚めを喜んでくれてはいたが、どことなく怪訝そうな態度が見え隠れしていた。

 代表して見舞いに来てくれた友人などは、『何て言うか……変わったな』の一言で済ませてくれたが、そのことが逆に嬉しかったのを今でも覚えている。

 人が他者を見るとき、幾つもの枠、幾つものキーワードに当て嵌める。その差異が少なければすんなりと受け止められるし、大きければそうはいかない。そして、その差異を『少ない』と捉えるか『大きい』と捉えるかは人それぞれ。

 友人は『変わった』という事実を認めつつ、それを『大したことではない』と受け入れてくれたのだ。反面、両親や教師は『変わった』という事実を認めつつも、素直に受け入れられなかったのだろう。無理もないと思う一方で、そのことが悲しかったのは事実だ。

 坂柳さんの提案に頷いたのは、それも一因としてあったのかもしれない。会わない時間を置くことで、変化を受け入れやすくしようと思ったのだ。……今なら、そう思うことができる。

 

「そんじゃま、また後で。今日は一緒に帰ろ」

「あいよ、了解」

 

 黒板前を離れ、自席へと歩を向ける。途中、軽井沢さんから一緒の帰宅を求められたが、特段断る理由はないため、素直に受け入れた。

 隣席の人物は黒髪の女子だった。ツインテールが似合っている。

 

「初めまして、北郷一刀だ。よろしく」

「あ、初めまして。王美雨です。よろしくお願いします」

 

 隣席の少女は王美雨と名乗った。響きからして中国圏の生まれだろうか?

 

【名前からして中国圏の生まれかな? 言葉はこっちの方が良い?】

【日本語でも構いませんが……そうですね、こちらの方が楽と言えば楽です。それにしてもお上手ですね?】

【会話だけじゃなく、読み書きもできる自信はあるよ。ま、完全に通じるかは怪しいけども】

【どういうことです?】

【中学一年のとき、課外授業で美術品の展示会に行ったんだけど、そこの三国志コーナーで意識を失っちゃってね。それから二年間、ずっと眠りっぱなしだったらしい。

 ただ、俺個人の認識としては、いつの間にか『異世界チックな三国志時代』に訪れていた、ってな印象だった。三国志のことはそれほど詳しくなかったけど、有名どころの名前くらいは知っている。曹操、孫堅、劉備に董卓、それ以外にも著名な人物が軒並み女性化していたんだから、そう思うしかないだろう?

 帰る術も分からないから必死に適応したよ。向こうでは日本語で会話をしている認識だったけど、使われているのは漢文が主体だったから、首を傾げた覚えがある。そうこうしている内に、気付いたらこっちの世界の病院のベッドの上で目覚めていた。そしたら、漢文の読み書きや中国語での会話もできるようになっていたってわけさ】

【それは何とも不思議ですね。……う~ん、もしかしたら、北郷くんは『王の試練』を受けていたのかもしれませんね。『アーサー王伝説』の『選定の剣』の話は知ってますか?】

【そりゃまあ、触りくらいは。誰も抜くことの叶わなかった剣をアーサーは抜いてしまった。そしたら、その剣は『王権の証』であり、その事実を以てアーサーは王に即位することになる。しかし、誰しもがすんなりと認められるわけもなく、戦乱が巻き起こる。……色々と説はあるようだけど、だいたいはこんな内容じゃなかったかな?】

【そうですね。それに似た話が中国にもあるんですよ。『適格者』と『王の証』が出会ったとき、『適格者』は『王の試練』を受けるっていう話です。

 ただ、肝心の部分が定かでないこともあり、民間伝承やオカルト話の枠を出ていないんですけどね。記録が無いわけではないんですが、『死神の鎌の如き形状だった』とか『剣だった』とか、更には『王冠だった』とかいう説があって、『王の証』の形状が一定ではありません。更には、『王の試練』の内容もまたてんでんばらばらという有様でして……】

【あ~、そりゃあ信憑性なんてあったもんじゃないな。『良くできた作り話』で片付けられて終わりだろうね】

【仰る通りでして……。一部では根強い人気があるんですけどね】

【確かにロマンは感じるね】

 

 王さんとの会話は、思いの外盛り上がった。それこそ、いつの間にか周囲から注目されていることにも気付かぬほどに。

 

「どした?」

「そりゃあ、外国語教室でもあるまいに、日本の学校の教室で場違いにも中国語で会話してたら注目もされるでしょうよ」

 

 俺の質問に、呆れた様子で軽井沢さんが答えるのであった。……言われてみれば尤もである。

 向けられる視線に耐えられなかったのだろう。いつの間にか王さんは小さく縮こまっていたが、その様子は小動物チックで何とも可愛らしい。

 とはいえ、ホッコリとしてもいられない。異物は排斥されるのが世の常だ。俺はともかく、これで王さんが排斥されるような目に遭ったら目も当てられない。

 

「あ~、俺も彼女も普通に日本語話せるから、そんなに気にしなくていいぞ」

 

 されど、我ながら不甲斐ないことに、俺にできるのはそう宣うことくらいだった。果たして、これでどれだけの効果があるだろうか?

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 幸いと言うべきか。あれから程なくしてチャイムが鳴り、ほぼ同時に担任がやって来たことで、場の空気は一新された。

 簡単な挨拶が行われたが、それによるとDクラスの担任は茶柱佐枝。日本史の担当。学年ごとのクラス替えは存在しない。この後、体育館で入学式が行われるが、それまでの時間を使い、改めてルールを説明するとのこと。

 その先駆けとして、学生証を兼ねた携帯端末が配布されたばかりだ。『許可なき外部連絡の禁止』を掲げるだけあって、今や学生にも欠かせない携帯電話の持ち込みは禁止されていた。しかし、入院生活のような特殊な環境下でもなければ、無いと不便なことは否めない。それを思えば、学校生活で使うための携帯を配布するのは理に適っていると言えるだろう。

 学生証はよくある手帳型ではなく、アプリの一つとして入っているらしい。

 

「詳しい説明をする前に、まずは『学生証』というアプリを開き、plの横に10万と記載されているかを確認してほしい。大丈夫だとは思うが、記載されていない乃至は数字が違うという者がいたら直ちに申告するように。名前の漢字違いや誕生日の数字違いも同様に頼む。……人の手で行うことだからな。どれだけ気を付けても、ミスが起こる時は起こる」

 

 指示に従い『学生証』のアプリを開くと、顔写真、名前、学籍番号、クラス、部活動、誕生日が表示されている。どうやら、こちら側で弄ることはできないようだ。現在、部活動欄は無所属となっているが、正式にどこかの部活に入った場合は、入部届を基に学校側で編集・反映されるのだろう。

 目線を下げると、その下には『cl』と『pl』の文字。clの横には横線が引かれているが、plの横には100,000の数字が表示されている。

 取り敢えず、ミスらしいミスは無い。

 

「大丈夫なようだな。……plの横の数字が、ここでの生活における通貨代わりとなる。この学校は実力で生徒を測るが、難関を潜り抜け見事に入学を果たしたお前たちには、その価値と可能性を評価して、等しく10万ポイントが支給されていることになるな。なお、1ポイントは1円として使用可能だ。

 余ったポイントは卒業後に学校側で回収することになっている。在学中に現金化したりなんてこともできないから、貯めすぎても得はないぞ。まあ、中には馬鹿みたいに高い物もあるから、貯める選択もありだがな」

 

 茶柱先生の言葉を受け、教室内に騒めきが起こる。無理もない。一般的な高校生にとって、10万円ともなれば大金だ。

 

「当校の敷地内において、このポイントで買えないものはない。当然、使えば減っていくから無駄使いには気を付けろ。散財するのも自由だがな。なお、ポイントは毎月一日に自動的に振り込まれる。生徒の側で手続きなどをする必要はない。

 他の者にポイントを譲渡することも可能だが、それを悪用してカツアゲなどという真似はするなよ? 高校デビューだか何だか知らんが、バカな真似をするような奴がこの学校にも時折紛れ込む。しかし、教育機関として、我が校もイジメ問題には敏感だからな。そんな愚か者の末路は退学以外にあり得ない。

 さて、ここまでで何か質問はあるか?」

 

 グルリと教室内を見渡して茶柱先生が問う。

 すかさずに挙手をした。

 

「お前は……北郷か。質問は何だ?」

「実力で生徒を測るとのことですが、優秀な成績を収めた生徒乃至はクラスに対し、ボーナスが支給されたりすることはありますか?」

「難しい問いだな。あるとも言えるし、ないとも言える。例えば部活動。試合の選手として選ばれ、その結果として優秀な成績を収めたのであればボーナスポイントは支給される。しかし、ただ部活の一員というだけでは望むべくもない。

 授業に関してはそれぞれの教科担当の裁量次第だ。まあ最初の水泳の授業においては、生徒同士を競わせ、トップタイムを叩き出した男女それぞれにポイントを配るのが恒例行事となってはいるみたいだな。生憎と額までは知らんが……」

 

 なるほど。どうやら今の問いは答えられる範囲だったらしい。まあ、モチベーションを向上させるにも餌は必要だからな。

 

「ありがとうございます。では次の質問ですが、施設内において最も高額なものは幾らになりますか?」

「ふむ……。私の知る限りにおいてではあるが、二千万ポイントが必要なものはあるな。とはいえ、状況によって値段が変動するものもあるから、それが最も高額なものであるとは断言できないが」

「時価が適用されるものもあるということですか……。

 取り敢えず、次が最後の質問です。『現一年生の、入学試験における各科目の成績』は幾らになりますか?」

「……北郷、お前、本当に高校生か? これまた面倒なところを突いてくるな。うちのクラスだけなら私の裁量で勝手に値段を付けることも可能だが、他のクラスも絡むとあってはそれもできん。他クラスの担任と相談しておくから、後で職員室まで確認に来い」

 

 しらばっくれられるかとも思ったが、茶柱先生は頭を押さえつつも答えてくれた。

 

「先生、いいんですかそれって!? 個人情報は!?」

「お前らの憤りも分かるがな。学校生活を送る以上、テストと無縁でいられんことは分かるだろう? 我が校において、テストの成績は毎回H(ホーム)R(ルーム)で貼り出される。

 仮にそれがなくても、仲の良い友人同士であれば点数の見せあいなど普通にするだろう、お前たちは? そこにクラスの違いなど関係ない。

 また、テストに向けて友人同士で、或いは友人でなくともクラスメイトのよしみで、一緒に勉強をする機会だって存在する。一種の勉強会だな。そうなれば、どちらにしろ教科の得意不得意は他の知るところとなる。

 である以上、学校側としては求められて開示しない理由など存在しない。ポイントが足りないのであれば話は別だがな。

 悪いが、思いの外時間が押した。質問は打ち切らせてもらう。

 入学式前には案内のために戻ってくるから、その時には全員が教室内に揃っているように」

 

 そう言い捨てて、茶柱先生は教室を去っていった。

 クラスメイトの反応は様々だ。個人という枠組みで見ればともかく、生徒という枠組みで見れば、茶柱先生の言ったことは必ずしも否定できない。勉強会にしろ点数の見せあいにしろ、該当する生徒が一人でもいれば、それは事実だからだ。

 しかしまあ、色々と悩ましい。質問の答えを踏まえ、俺は思考を巡らせることにした。




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