「あ、帰ってきたね。んじゃ、そこ座って」
寮へと帰宅した俺を出迎えたのは、満面の笑顔を浮かべる千秋であった。
とはいえ、表情と行動が噛み合っていない。千秋に指し示された場所の横では、現在進行形で清隆が正座を強いられていたからだ。何が原因かは分からないが、間違いなく千秋は怒っている。
「お察しの通り、私は今非常に怒っています。心当たりはありますか?
ちなみに、『無い』と答えたのがキヨポンの現状です。まあ、断片的ながらもキヨポンの過去を知れば、納得はできなくとも理解はできます。そのため、正座で理解と反省を促すに留めています。
私としては、カズピーにはそうであってほしくはありません。さあ、答えをどうぞ」
こちらの疑問は何のその。一方的に捲し立てるその様からして、これはかなり怒っている。ここで無回答や誤魔化しに入るのは悪手以外の何ものでもない。つまりは、何かしらの答えを述べなくてはならないわけだが……。
チラリと周囲を確認する。リビングルームだけあって、この場には俺たち以外の姿もある。そして、その何れもに清隆を庇う動きが見られない。輝彦は我関せずの態度を貫いているが、それ以外はむしろ千秋の方に同調している。桔梗や恵は言うまでもなく、愛里すらもだ。あの愛里が、むすっとした表情で清隆を睨みつけているのだ。
そして、その原因は俺と清隆にあり、清隆の答えによって千秋の怒りは上昇したと見ていい。或いは、女性陣が千秋に味方しているのもそれが理由か?
だとして、俺と清隆は千秋に何をした? 正直、ほとんど何もしていないぞ。精々がキスをしたくらいで、他のメンバーと違って『大人の関係』にもなっていない。――いや、待て! それか? それが理由か!? だとするならば、理解も納得もできる。
俺と清隆が千秋の唇を奪ったのが五月の冒頭。それ以降は、彼女に対してアクションらしいアクションを起こしていない!
いやまあ、退学のかかった中間テストがあったし、俺たちも自然とそちらを重視していた。……だから、千秋も特に不満を言うことはなかったのだろう。
だがその一方で、隙を見つけては俺がいろんな女の子と致したのは事実であり、清隆も愛里を相手に大人の階段を上っている。そしてそれは、千秋も知っている。堂々と千秋の前でしたわけではないが、共同生活を送っているのだから察するのは容易いだろう。
そうして中間を乗り越え、六月を迎え――それでもまだアクションを起こしていないのだ。
一方的に唇を奪われて快感を叩き付けられ、それから一ヶ月以上、自分に対して何のアクションも起こしてこないのだ。そのくせして、他の女の子には手を出している。相手によってはキスどころかセックスまでしている。そりゃあ、自分にはそんなに魅力がないのか! と怒りもするだろう。
念のために清隆に確認してみれば、自分の怒りの原因に心当たりがないと言う。千秋としては堪ったものではないだろうし、他の女性陣が同じ女性として千秋に寄り添っても仕方がないし、清隆に絶対零度の視線が向けられるのも致し方なしというものだ。
また、そっち方面の話であれば、輝彦が殊更に無関心を装うことにも納得がいく。
「どうやらオアズケが過ぎたようだな、すまない。無意識に千秋の優しさに甘えてしまった俺たちの落ち度だ」
神妙な表情を浮かべ、正座から土下座へと移行する。思い至った以上は、紛れもなく本心からの行動だ。
千秋が何も言ってこないのをいいことに、その優しさに甘えてしまっていた。彼女を蔑ろにしてしまっていた。その不義理を鑑みれば、土下座程度何ほどのこともない。
「
キヨポンも、こういう部分はカズピーを見習うように! ぶっちゃけ、ユキムーと違ってキヨポンは一人への愛を貫くことなんてできそうにないし、女の子の側も一人で縛りつけることなんてできそうにないしね。愛里には気の毒だけど、これが私の正直な感想です!」
ハイテンションで千秋が宣う。普段からは想像もできない様相だ。
「私はね、貞淑を気取るつもりはないけど、身持ちは堅いつもりでいたわけ。――まあ、所詮は『つもり』でしかなかったことが明らかになったわけなんだけど。
予期せぬ形でファーストキスを奪われて、しかも連続で違う男に唇を奪われて、普通なら怒るか悲しむところなんだろうけど、それがキヨポンとカズピーだったから、『まあ、いっか』なんて思っちゃったわけよ。
それが何!? 唇奪って快感叩き込んどいて、一ヶ月以上も何の手出しもしてこないって!? まあ、先月は退学のかかった中間テストがあったから、まだ我慢はできたわよ。けどね! その間にも他の女の子には手を出してるじゃない! オマケに、月が替わってテストの結果が出ても相変わらずって!
女の子にも性欲はあるんだっての! こんな状況でいつまでも我慢ができるか! 私にはそんなに魅力がないのか!?」
一気にまくし立てたかと思いきや、次の瞬間にはフーフー、フーフー、と息荒く千秋は唸る。
推測は見事にドンピシャリだったわけだが、欠片も嬉しくない。むしろ、それほどまでに千秋を追い込んでしまったことに不甲斐なさが増すばかりだ。
「そんなわけだから、キヨポンとカズピーは私を抱け。別々にじゃないよ? 同時にだからね? 二人のイイ男が同時に私を求めることで、私に女としての自尊心を取り戻させろ。二人のイイ男から同時に求められるって、イイ女の証明だから。故に、これはお願いじゃなくて命令。ちなみに拒否権はないから。
そっちにだって悪い話じゃないでしょ? 男が複数ならではのプレイだってあるんだし。互いにWinーWinの関係ってわけね。……まあ、こっちは未経験だから最初は手加減してくれると嬉しいけども」
だからこそ、その命令を拒否することなどできよう筈もなかった。
同時、その提案に非常に興味があるのも事実である。今までにも沢山の女性と致してきたが、男側が複数でのプレイはやったことがないのだ。
「ちょおおぉぉぉっと待ったああああ! うん、待とう。それは待とう、千秋ちゃん。言いたいことは分かるけど、それは流石に茨の道だよ。いや、私が知ってるのは一刀くんだけだけど、それだけでも一人じゃ耐えきれないんだよ。そこに清隆くんも加えるなんて、自殺行為以外の何でもないよ!」
「そうだよ! 清隆くんの清隆くんも、一刀くんの一刀くんも、凄く立派なんだよ! そりゃあ他の男の人のなんて私は知らないけど、あれを二本同時に一人で受け止めるなんて無茶だよ! ね、考え直そう!?」
そこへ、桔梗と愛里からストップの声が上がった。……主に千秋へと向かって。その理由も、偏に千秋の身体を案じてである。ついでに言えば、言葉に出していないだけで皆が似たり寄ったりな反応である。
「いやまあ、だからこそ興味があるって言うか……。それに、皆の反応を見ていると自分だけじゃ耐えきれないのは織り込み済みだし」
「って言うと?」
「流石に最初は一人で相手をするつもりだけど、二回目以降は他の女の子たちも混ぜていこうかな……と。乱交とか興味ない?」
「うぐっ、そう訊かれると……。興味が無いわけじゃないと言うか、相手次第ではありと言うか……」
「でしょ? 男二人を同時に相手にする時点で、セックスの元々の目的――子作りからはズレてるんだもん。なら、興味を優先しても良いと思わない?
私、安定志向のくせして退屈が嫌いな面倒な性格なのよね。その点、キヨポンとカズピーならアブないプレイをする相手としてはこれ以上ないほどに安牌だし。
あ、ユキムーも混ざる? 毒を食らわば皿までとも言うし、ここまできたら、私、ユキムーなら参戦しても構わないけど……」
「混ざらん! と言うか、これ以上俺をアブノーマルな道に引き摺り込もうとするな! ……ったく! 行こう、心。これ以上ここにいると、なし崩しに巻き込まれかねん」
「あの、正直、私は興味があると言うか……。いえ、するんなら輝彦君と一対一以外には考えられないんですけど、それはそれとして純粋に興味があると言うか……」
「心……。くっ、既に外堀は埋められてしまっていたか!」
もはやしっちゃかめっちゃかである。
輝彦は項垂れているが、そりゃあ心だって年頃の女の子である。男女関係なく人間は性欲と無縁ではいられないのだし、自分が直接に関わらない前提でなら興味を抱いてもおかしくはない。
「はいはい、取り敢えずストップ」
状況を見兼ねたのだろう。恵が手を打ち鳴らして割って入った。……何だかんだ、こういう部分で恵にもリーダーシップが備わっている。
「まず女子の共通認識として、一刀と清隆のどっちが相手でも自分一人じゃ耐えられない、ってことでオーケー? ……あ、心ちゃんは別ね。輝彦とピュアピュア路線を貫いて」
『オーケーでーす』
「分かりましたー」
「え? 私ってピュアじゃない……?」
「そりゃアンタ、初体験を他の人と一緒に迎えるどころか、自分の男の相手を他の女の子にさせる人物のどこがピュアだって話よ? いや、理由があってのことだってのは分かるし、普段の性格はピュアっピュアだと思うけどね。それでも、事こっち方面に限っては全然ピュアじゃないでしょ」
「うくっ! そう言われると否定はできないかも……」
恵の断定に愛里が項垂れたりしつつ。
「んじゃ、次。あたしなら一刀、愛里なら清隆みたいにメインは確定してるけど、それはそれとして、限定条件下なら主に清隆の相手をしてもいい人、もしくはしてもかまわないかな? って思ってる人は挙手」
随分と直截的ではあるが、この問いかけには意外なことに全員が手を挙げた。鈴音と愛里までもが手を挙げている。
「えぇと、心情的には清隆くんとの一対一が望ましいんだけど、純粋問題として体力が保たないの。他の女の子は大半が一刀くんのお手付きだし、千秋ちゃんは両方の相手をするって言うし、そうなると他の子に清隆くんの相手を頼むとしても、交換条件的に私もある程度は一刀くんの相手もしなくちゃダメかな……と」
これが愛里の意見である。まあ、理解も納得もできる。
自分の体力に合わせて清隆にセーブさせるなど、愛里では考えられまい。また、体力なんてそうすぐに付くわけでもないし、ちょっとやそっと付いたところで清隆相手だと雀の涙だ。
である以上、ターゲットの増加は喫緊の課題なのだ。さりとて、誰を増やしてもいいわけではない。信用や信頼の置ける人物の方が望ましいと考えるのは至極当然だろう。
しかし、愛里目線だと現状の候補は千秋のみとなる。フリーなのが千秋しかいないからだ。だが、彼女一人が加わったとしても、流石に心許ないだろう。有栖も将来的には加わるだろうが、やはり体力的には愛里と似たり寄ったりだし、愛里にしてみればそこまで関わりのある人物ではない。
そうなると、他に見繕える相手はグループメンバー以外にあり得ないのだ。そして、心を除けば全員が俺の女である。それを引っ張り出そうというのであれば、やはり何かしらの交換条件は必要となる。……少なくとも、愛里がそう考えても不思議はない。
当然ながら、如何に精力抜群の俺と言えど、全員を同時に相手取れるほどではない。どうしても順番待ちというものは発生する。
だからこその妥協点。敢えて乱交という形に持ち込むことで、女性陣の性欲の解消を図るのは有効だ。道理と言えば道理と言える。
また、愛里が俺の相手をしてくれるというのであれば、たとえ本番抜きにしてもありがたい。波瑠加とのダブルパイズリなど、夢は膨らむばかりである。
「愛里の言うことは分かるし、そもそもが私自身、ハジメテの時にキヨポンにパイズリとかしてるから、今更と言えば今更かなって……」
これが波瑠加の意見。まあ、初体験が愛里とワンセットだったのだから、他の面子に比べて清隆相手のハードルが低いのは納得だ。
「被虐願望が刺激されて昂るから」
これは麻耶の意見。やや特殊ではあるし、多少の差異はあるが恵と美雨もこの部類。あくまでも
「いやまあ、鈴音ちゃんともレズっちゃったし。これで一刀くんが昂れるなら、それはそれでありかなって……。
複数のイイ男から同時に求められるのがイイ女の条件って言う千秋ちゃんの言葉にも頷けるところがあるし……。
自分を安売りするつもりはないけど、まあ清隆くんが相手ならある程度まではいいかな? って思うところが無いわけではないし……。
まあ大前提として、自分一人じゃ一刀くんを相手にして耐えられないってところが大きいんだけどね。道連れが増えるのは大賛成です」
これが桔梗の意見。自分に自信があるからこそ、自分に相応しい相手を求めるという、ある種の上流思想。聞けば鈴音も同意見とのこと。……あとは慣れと言うか、毒皿理論的なやつ。
総員に共通する部分として、自分一人じゃ俺や清隆の相手をするのが耐えられないからだそうだが。……そう言われると、こちらとしては何も言えない。
「はい、結論が出ました! 取り敢えず、今日のところは千秋ちゃんがメインで、あたしと麻耶ちゃんが同席します! 異論は認めません! ……理由の説明がほしいならするけど、聞く?」
『聞くー!』
何かもう、女性陣のテンションが色々とおかしいが、敢えてツッコミは入れるまい。男が真顔で猥談ができないのと同じである。必要なこととはいえ、真顔で話し合う内容でもないため、敢えてテンションを持ち上げているのだろう。ヤケとも言うだろうが。
「まず、前提として一刀は優しいです。……が! 一刀も男であるからして、女性に対する征服欲とか支配欲とかも相応に持ち合わせているのです。ただ、基本的に相手をよく見ているからそれを表に出していないだけなのです。
そんな中に現れたのが、倒錯感情MAXのあたしとか、メス犬根性が根っから染みついた麻耶ちゃんなのです。自分で言うのもなんだけど、あたしたちは非常に面倒です。満足感を得るには相手を選ぶし、プレイも選びます。自然、包容力のある男性でないと受け止めきれず、その点で言えば一刀に巡り合えたあたしたちは幸運だと言えるでしょう。
逆に言えば、そんなあたしたちが相手だからこそ、一刀もその獣性を遺憾なく発揮することができるわけです。端目からはどんなに酷いプレイだったとしても、その根底に愛があるのは確かだからね。でないと、流石のあたしたちでも受け止めきれないし、早々に見限ってるわ。
さて! そんなところに千秋ちゃんが話を持ちかけました。まあ、理由を聞けば普通に理解も納得もできます。……が! これ、非常に危うい行為でもあります。何故かといえば、一刀はスケベ根性丸出しのくせして、自制を働かせることのできる人物でもあるからです。ただ、その分だけブレーキも緩々です。
そんな一刀にアンタ、男複数のプレイもオーケーよ、なんて持ちかけてしまったんだから、これはもう結果は見えてます。清隆もある意味で学習意欲の化身だからね。流石にすぐではないとはいえ、将来的に千秋ちゃんが二穴刺しとかされるのは確定です。しかも、一刀と清隆のご立派様を相手によ?」
恵の説明は非常に説得力があった。実際、話を持ちかけられて時点で、将来的にはやってみたいと思ったのは事実である。
俺と清隆のジュニアを知る女性陣は、皆揃って息を呑んだ。揃いも揃って、恐怖と、高揚と、驚愕と、実に様々な感情がない交ぜになった表情を浮かべている。
「あれを、同時に……!?」
とか呟く声も聞こえる。
「え? え?」
一方、不安そうにキョロキョロと周囲を見渡すのは千秋である。彼女は俺たちのジュニアの実態を知らないのだから無理もない。
「まあ、事前にお尻の準備をする必要はあるだろうね。……ただ、その点では私と恵ちゃんも同じだから。やっぱり、何の下準備も無しに尻尾なんて着けてられないし。
ケモミミはコミュニケーションツールとしてだけではなく、私と恵ちゃんを
ただ、首輪とリードとケモミミだけじゃあ、やっぱりペットとしては片手落ちなんだよ。真に愛されるペットであろうとするならば、尻尾を受け入れて語尾も変える必要があるでしょ。
まあ、そんなもんだから、この機会にお尻の準備を始めようかと。……千秋ちゃんも、一人じゃないなら怖くないよね?」
次に口を開いたのは麻耶だ。流石は愛すべきメス犬である。
同時に、その染みついたメス犬根性は、愛されるメス犬足らんとする努力精神に満ち満ちている。
まあ、間違いなく一般受けはしないだろうけど。普通に考えても問題発言以外の何でもない。
「あの~、それって確定事項?」
「うん。……プレイとしては耳にするけど、結局はお尻だからね。使うなら中まで綺麗にしておくのは必須条件だし」
「まあ、それだけなら浣腸でいいのかもしれないけど、受け入れるってなったら事前準備はしといた方が良いと思うよ? 千秋ちゃんがいきなり刺されても構わないって言うのなら無理にとは言わないけど……」
恐る恐る千秋が確認すれば、恵と麻耶は真顔で頷いた。もはや、この二人の中で千秋の二穴刺しは確定事項となっている証左であった。
「……分かった。やる。流石にいきなり刺されるのは怖いし。でも、プレイ自体に興味はあるし……」
諦めたように頷く千秋だったが、どことなく息が荒いし、頬も赤くなっている。想像して興奮しているのは明らかだった。
「そんなわけで、あたしたちはバスルームに向かうから。覗くのは構わないけど、巻き込まれても責任は取れないんで、そこら辺は自己判断でよろしく」
そうして、俺、清隆、恵、麻耶、千秋の五人はバスルームへと向かうのであった。
一刀の影響で、特に同居生活相手が順調にエロに染まっていることを示すお話でした。同時に、千秋相手の前振り回です。
桔梗、鈴音、千秋に共通して、原作時点で自分を優秀だと自負しています。
その発現性や度合いは異なっていますが、そんな自負が、言い換えれば『女の誇り』があればこそ、こういう展開もありではないかと思いました。
これで一刀や清隆が凡人であれば違ったかもしれませんが、早期から実力者アピールして結果も出していますので。
そんな実力者に蔑ろにされるのは、優秀という自負があればこそ耐えられないと思います。暴走して過激なアピールに走っても仕方がないというものでしょう。
そして、上記の女性陣三人の中で、殊更にスリルを求める傾向が強い千秋だからこそ、敢えてメインを定めない展開となりました。
一刀と清隆で複数プレイをするとして、自分の女の前の穴に、他の男のジュニアの挿入を許すイメージが浮かばなかったからでもあります。
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