※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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投稿する度にお気に入りが減ったり増えたり……。
増える分には嬉しいですが、減るとやっぱり痛いですね。
どうにか赤評価に戻したいものです。


北郷伝:31

 六月も半ばを過ぎれば、教室もクラスメイトが一人減った事実を現実として受け入れつつあった。

 まあ、大半のクラスメイトは割かし早期に受け入れてはいたのだが、最後まで山内の退学に反対していた平田、須藤、池の三人はそうもいかない。

 それでも、半月という日数は、平田と須藤に受け入れさせるには十分な期間でもあったようだ。

 あの一件を機に、平田は調整者としての役割を自任したらしく、今まで以上に積極的にクラスメイトと交流を図っている。

 須藤はスポーツマンであるからだろう。この状況を代表選抜とかに置き換えることで、自分なりに納得したようだった。まあ、俺たちに勉強を教えられた手前、俺たちを恨み切ることも難しいからではあったろうが。

 だが、そうして折り合いを付けられたのは、あくまでも平田と須藤のみ。池だけは、未だ現実を受け止めきれていないようだった。

 

「寛治の奴、いったいどうする気だよ? 来月には期末テストがあるし、今度は裏技も通じねえって話なのによ……」

「確かにね。遅刻欠席はしなくなったし、授業も真面目に受けてはいる。……でも、周囲に対して頑なに壁を作っている。その気持ちも分からなくはないけど……」

 

 放課後。俺の机の周りに須藤と平田がやってきてそう言った。視線の向かう先は池の机だ。なお、当の本人はホームルームが終わるや否や颯爽と帰宅した。

 

「難しい話ではあるな。……だが、俺が何を言ったところで、今の池には逆効果にしかならないだろう」

「それは分かってるんだがよ。……今のアイツは、俺の言葉も素直には聞きやがらねえ。クラスメイトは敵で、俺は裏切り者扱いだ。ま、アイツがそう思うのも無理はねえ。俺自身、そう思ってる部分がないわけじゃねえからな」

「だけど、やっぱりそれは違うんだ。この学校に入った以上、その生徒の大半の目的は卒業特典にあると思う。そして、それが数量限定だと分かった以上は、それを求めて努力をするのが、ここの生徒として正しい在り方なんだろう。その点で言えば、山内くんは前提条件から外れてしまった。

 また、そのアプローチは人それぞれなんだろうけど、余程に飛び抜けた実力者でもない限り、一番確実性が高いのはクラス対抗を勝ち抜くことだと思う。個人で二千万ポイントを稼ぐなんて、とてもじゃないけど僕には想像もつかないしね。そして残念だけど、それは池くんも同じだろう。どう贔屓目に見ても、池くんは飛び抜けた実力者ではない。今のままだと、山内くん同様にクラスから排斥されてしまう可能性の方が高い。

 僕はそれを防ぎたい。……北郷くん、何かいい方法はないだろうか?」

「そう言われてもな……。こればかりは、池がこの学校に適応するしか方法はないと思うぞ? お前たちはどうにか山内の退学を受け入れたみたいだが、言ってしまえば、お前たちなりにこの学校に適応した証左だからな。適応しなきゃ、折り合いを付けることだってできやしない。

 そして今のままだと、期末テストを迎えずして池が排斥される可能性は高いだろう。ここの学校生活において、前提にあるのがクラス対抗だぞ? 普通に考えて、他のクラスがこの状況を見過ごす道理があると思うか?」

 

 俺の言葉に、平田と須藤は驚愕の表情を浮かべ、程なくして納得したように頷いた。

 それを見て、俺は可能な限りの情報を補足する。大分主観が混じってしまうが、こればかりは仕方がない。

 

「Aクラスは攻撃の最先鋒たる有栖が現在入院中だ。その点で言えば、Aクラスが仕掛けてくる可能性は低いだろう。Aクラスで他にリーダー足り得る人物としては蓮華と葛城がいるが、傾向としてはどちらも保守的だ。実際、Aクラスであるからこそ、無暗に攻める必要がない。序盤も序盤の現状では、守りを固めるだけでも十分と判断する可能性は高い筈だ。

 Bクラスも安心だ。あのクラスは、良くも悪くも正攻法しかできない。個人では搦め手を使える人材もいるだろうが、クラスの特性として真っ向勝負に偏っている。敢えて盤外戦を仕掛ける旨味がない。下手にそんな真似をすれば、クラスの和が乱れかねないからな。

 だが、Cクラスは違う。トップに立つのが『暴君』の龍園で、その影響かアクドイ手も平気で使うし攻撃的だ。また、配下ってわけじゃないにしろ、三人の軍師が脇を固めている。目的が情報収集であれ、下を蹴落とすであれ、うちのクラスを狙って動くには絶好の機会だ」

「ッ……!? なるほど、盤外戦術か……。僕のサッカーでも須藤君のバスケでも、対戦相手の偵察をしたり、対戦前に挑発をしたりなんてのは普通に行われていることだ。そりゃあ、度が過ぎれば問題行為として取り上げられるけど、戦術の一環としてある程度までは暗黙の了解で認められているのが実情だ」

「アレかよ……。ほんっとムカつくんだよな、あーゆーのってよ。まともにバスケで勝負しろってんだ」

 

 俺の言葉に、平田が納得したように頷いた。その平田の説明を聞いて、須藤が苛立ったように舌を打つ。

 

「俺も剣道家の端くれだ。須藤の苛立ちも理解はする。……が、真っ向勝負ばかりが勝負じゃない。平田の言うように、戦術の一環として考えれば認めざるを得ない。それもまた、勝つための努力であることに違いはないからだ。試合に勝って勝負に負けた、或いはその逆もだが、割とよく言われることだろう?

 須藤、お前が真にプロのバスケ選手を目指すなら、清濁併せ呑む度量を身につけろ。その上で、そういうプレイが気に食わないのなら、真っ向から捻じ伏せる実力を身につければいい。それができないうちは、負け犬の遠吠えでしかない」

「……たく、堂々と言ってくれやがる。ああ、くそっ! 気に食わねえが正論だ。……負ければそれまで。今まで何度となく耳にしてきたが、この学校にきて否応なく理解させられたよ。なんだよ、テストで一つでも赤点取ったら退学ってのはよ!」

 

 この学校のシステムと中間テストという試練は、須藤にとって良い契機となったようだ。苛立ちは尽きないようだが、それでも事実として受け入れている。

 これもまた、実際に山内という退学者が出たことが大きいだろう。どちらかと言えばクラスでも嫌われ者の山内だったが、同時にクラスメイトという身近な存在でもあったのだ。そういうルールと聞かされていたとはいえ、実際に教室内で姿が見えなくなれば思うところは大きい筈だ。

 

「池も、システムについての折り合いは付けられているんだと思う。平田の言うように、遅刻欠席はしなくなったし、授業も真面目に受けているからな。

 だが、イケメン嫌いを公言して憚らないところに桔梗絡みや何やかやと重なって、俺に対する反発は凄かったからな。

 そこに山内の退学だ。クラスメイトそれぞれに自覚を促す意味でも、全員に責任を負わせるような流れにしたが、元々の提案をしたのは俺だからな。俺への反感はまさしく鰻登りだろう。

 もっとも、俺にしてみれば、山内があんな馬鹿を言い出さなきゃ、或いは忠告や窘めを受け入れて謝罪をしていれば、敢えて退学にまでする気はなかったんだけどな。……愛里に対して、ビッチアイドルだと? ふざけんな! って話だ」

 

 俺が改めて山内に対する悪態を吐いたからだろう。平田と須藤は驚いていた。

 

「驚いたよ。北郷くんもそんな風に誰かに対して悪態を吐いたりするんだね」

「そりゃあ、俺だって人間だからな。不満や文句も人並みには覚えるさ。けど、それを素直に吐き出してちゃあ、和が乱れることの方が多いからな。必要以上に和を乱すまいと思えば抑えもするよ。

 平田、お前だってそうだろう? Dクラスに配属された事実と合わせて考えれば、お前も何かしら大きな失敗をしでかした筈だ。おそらくは、それがお前の心に楔となって残っている。皆の笑顔を重視するのはそれ故だろう? 単純に逆算して考えると、お前は皆の笑顔を奪ってしまったってことになるか?」

 

 俺の指摘に、平田は分かりやすいほどに表情を引き攣らせて固まった。

 

「とはいえ、俺の見る限りだとお前は基本的に善人だ。その一方で、傾向としては事なかれ主義。とすると……もしかして友人がイジメでも受けたか? いや、それだけじゃないな。お前はそれを見過ごしてしまったってところか?」

 

 どうやら、これまたドンピシャリだったらしい。……こういうところで、軍師や指導者としてのスキルが身に付いていることを自覚する。

 盤面や状況から予想するだけでは足りない。そこから相手の心理や特性すらも読み解き利用することができて、初めて一流の階に手を掛けられるのだ。そして、俺にもその端くれという自負はある。

 まして平田は目の前にいるし、何ならクラスメイトでもあるのだ。決して戦場越しの対峙ではない。発汗、瞳孔、呼吸、表情。それらを身近で感じられるだけで、得られる情報は大きいというものだ。

 

「やれやれ。恵の学校といい、最近の中学校はどうなっているんだかな……。

 納得したよ。色々とマイナスに思われがちな事なかれ主義だが、周囲に比べて精神的に大人だから、という見方もできる。

 お前はイジメなんてくだらない問題、早々に解決すると思っていたんだ。まあ、そう考えるのも別段おかしくはない。リスクやら何やらと考えると、イジメなんて割に合わないからな。

 だが、何事にも例外があるのが世の中だ。お前の考えとは裏腹に、イジメは終わることなくエスカレートしていった。そして、件の友人は何か決定的な被害を被った。

 後悔先に立たず。ここにきて、お前は自らの行動を悔い、反省し、行動に移した。二度と友人のような被害者が出ないように、と。分かりやすく暴力で屈服でもさせたか? そして、見事お前の下に新たな秩序が布かれたわけだ。これでイジメは消える! お前は喜んだ筈だ。しかし、そこで初めてお前は気付いた。誰も笑っていない、という現実に。

 良かれと思ってしたことが、逆に皆を苦しめてしまった。……それがお前の傷痕か」

 

 中学時に恵が受けたイジメの悲惨さと残酷さ。これまでに見てきた平田の人柄。笑顔を重視する精神性。それらを組み合わせて考えれば、この程度の推測は容易い。

 平田の表情は青褪め、過呼吸もかくやといった有様だ。ドンピシャすぎて、必要以上に追い詰めてしまったらしい。

 それを見れば申し訳なくも思うが、必要なことでもあった。間違いなく、平田は優秀だ。Dクラスにおいては貴重な戦力だ。それを、いつまでも遊ばせておく道理などない。本人にそのつもりはないだろうが、過去の痛みを乗り越えてもらわないと俺が困るのだ。

 ならば、勝算の目途がある以上、リスクはあれど踏み込まない理由もない。

 何故ならば、今いるのは放課後とはいえ教室だ。俺たち以外にも残っている生徒は何人かいる。主に部活に入っていない生徒がメインだが、その中には恵もいる。

 つまりは、彼らもまた俺の推測とはいえ平田の過去を知ってしまったことになる。そして、平田の状態を見れば的を射ていることは明らかだ。

 だからこそ、己の過去と照らし合わせた上で、恵が何のアクションも起こさない筈がない。

 イジメから救われなかったのが恵なのだ。そんな恵にしてみれば、他校とはいえイジメを潰した平田はある意味で救世主と言える。たとえ、その恩恵を受けたのが自分ではなかろうと、その手段が褒められたものではなかろうと、被害者目線から平田の行動を肯定できる唯一の人物が恵なのだ。

 そして、そんな恵の言葉だからこそ、この状態でも平田に届かない理由はない。平田が受け入れない理由はない。……人とは、救いを求めずにはいられない生き物なのだから。

 恵は平田を抱きしめ、その耳元で何事かを囁いた。するとどうだろう。見る間に平田の状態は安定していった。まさしく俺の目論見通りだ。

 

「……軽井沢さん、僕のしたことは間違ってはいなかったのかな?」

「うん。他ならぬあたしが断言してあげる。平田君のしたことは、決して間違ってなんかないよ」

「……そうか。そうだったのか。……ああ、安心したよ」

 

 そんなやり取りの後、平田は意識を失った。横に立つ須藤が、咄嗟にその身体を支えた。そのまま、適当な椅子に座らせる。

 張りつめていたものが途切れたのだろう。平田の表情は安らかだった。

 

「ねえ、一刀。いたんだね。方法の是非がどうあれ、イジメに立ち向かった人が。

 残念だな。どうして平田くんはあたしの中学校じゃなかったんだろ。……実際にイジメを受けてた身だからこそ、そう思っちゃうんだ。

 変だね。彼があたしの中学校にいなかったからこそ、あたしは一刀と出逢えたっていうのにさ。どうしても、そう思わずにはいられないんだ」

 

 そして、恵は泣いた。ボロボロと涙を零した。

 俺は、そんな恵を胸元に抱きしめた。

 イジメを終わらせた者――平田。

 イジメから救われなかった者――恵。

 どちらがどちらともに異なる傷を負い、その果てにこの学校でクラスメイトとして出会った。何とも奇妙な符号であり、偶然にしてはできすぎている。

 だが、ある意味では必然だったのだろう。少なくとも、二人がこの学校への入学を希望した時点で、必然へと変わった筈だ。

 そうして、奇妙な沈黙が教室内を襲った。まあ、無理もない。現在も教室に残っている面々は、予期せぬ形で平田の過去を知ってしまい、かと思えば恵が動揺する平田を落ち着かせ、次の瞬間にはその恵が泣きじゃくるのだから。こんな怒涛の展開、スムーズに対応できる方がどうかしている。

 

「チーッス。Bクラスの柴田っすけど、平田が部活に来ないから様子を見に来たんだけど――ってありゃ? 平田、寝てんの?」

 

 そこにやって来たのが、平田の部活メイト。Bクラスの柴田颯だった。

 

「ああ、悪いな。ちょっとクラスのことで話し合ってたんだけど、どうにも疲れが出ちまったみたいでな。すまないけど、今日は部活を休む旨、伝言をお願いしてもいいか?」

「あ~、そっか。そういや、Dクラスって中間で退学者が出てたもんな。そのペナでCPもゼロになったってことだし、そりゃ話し合いとか色々あれば、気苦労も出るよな……。

 分かった。部活の方には俺の方から伝えておくよ。平田が起きたら、お大事に、って伝えておいてもらっていいか?」

「その程度ならお安い御用だ。じゃあ頼んだよ、柴田」

「おう!」

 

 柴田のおかげで、奇妙な空気は払拭された。何という人間清涼剤だろうか。今のご時世、あんな人間は逆に珍しい。

 平田が目を覚ましたのは、それから三十分ほどが経ってからのことだった。




山内の退学に伴い、平田の傷を切開しました。
文中でも語りましたが、一刀なりに目的と勝算があってのことです。
平田はDクラスの中で数少ない優秀な人物ですからね。本気でAクラスへの逆転を目指すなら、早期に彼の協力を取り付けることは必須でしょう。
平田専用カウンセラー恵の助力があれば、乗り越えられると判断しました。

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