※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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北郷伝:39

 流石に時間も遅かったため、清隆主催の『真鍋さんのオナニー動画観賞』は第一話の観賞を以て終わりを迎え、それから程なくして全員が就寝した。二話目の観賞が実に楽しみである。

 いや、個人的な要望だけでなく、あれを通して清隆の変化を実感できることもそうなら、真鍋さんの零す『独り言』という名の情報も捨てがたいのだ。

 真鍋さんのことは動画を見た限りのことしか知らないが、実際、入学当初の清隆であれば、たとえ同じことをしてもあそこまで心を開かせることはできなかっただろう。能力的に可能なことと、実際にできるかには大きな開きがあるのだ。

 また、真鍋さん自身が情報の取り扱いに関する関心が低いのが大きい。言うな、と釘を刺されたことを言わないだけの分別はあるが、特にそうでなければポロポロと情報を零してくれる。真鍋さんにとっては愚痴で零せる程度の些細な情報ではあるのだろうが、情報の重要性を決めるのは扱う者次第でもあるのだ。

 事実、昨日の動画だけで、真鍋さんが前園さんに不満を持っていることは露わとなった。その一方で、前園さんの行動についても問題性が浮かび上がった。一方からの情報なので完全に鵜呑みにはできないが、それが事実なら、それによってCPにダメージを食らった可能性は否定できないのだ。

 人にぶつかったら謝る。高校生ともなれば、これはやって当然のことなのだ。それをやっていないというのであれば、俺の危惧を考えすぎとは言えないだろう。早急に事実を確認し、対処をする必要がある。

 

「問題があるとすれば、俺が動くには正当な理由がないってことか……。こればかりは清隆に任せるしかないか」

 

 実際、情報源は『真鍋さんのオナニー動画』なのだ。こんなもの、情報源として明かせる筈がない。第一、この学校相手ならやり方次第で通じるだろうが、前園さん相手には通じないのだから明かす意味もない。

 だが、実際にその場に介入した清隆であれば、『真鍋さんから聞いた』という態で介入できる。時間の開きについては、幾らでも言い訳のしようがあるしな。

 そこに真偽は関係ない。Dクラスの生徒であるからには、当然ながら前園さんの保有PPは少ない筈であり、清隆とのPP差を鑑みれば、元より真偽の確認など不可能だからだ。

 その上、PPに余裕がある以上は安全弁を用意するのは当然である。すなわち、予め学校側にPPを支払うことで、他者への個人的な情報の提供を阻止するのだ。仮に完全な阻止ができなくても、一報をもらうことは不可能ではない。

 俺がやっているのだから、当然清隆もやっているだろう。むしろ、実力者であればこそ、程度の差はあれやっている筈だ。何でもかんでも、情報が渡るのを防げば良いってものでもないしな。中には、当然ながら他者に渡っても構わない情報があるのだ。そこら辺でフェイクをかけるのが、駆け引きの醍醐味でもある。そのため、場合によっては敢えて重要な情報をすんなりと渡すのもありだ。そうすることで、情報を得た相手が重要性に気付かない可能性もあるのだから。

 

「駆け引きと言えば、龍園にも伝えておかないとな」

 

 龍園は自クラスの中に性処理要員を作る気が満々である。普通に考えれば問題アリアリだが、配下のやる気を引き出す上で効果的なのは間違いない。俺と龍園の違いがあるとすれば、心にケアを入れるかどうか程度でしかないのも事実なので、それを知ったところで殊更に止めるのも難しいのだ。

 だが、それもやり方次第である。

 

「『俺も昨日知ったばかりだが、清隆がお前のクラスに、一人手駒を作っていたみたいだぞ。大分お気に入りみたいだ』……と。さて、これでどうなるかな?」

 

 誰とは言わず、手駒を作っていたことを龍園に示唆する。このことについては、既に清隆から許可をもらっている。

 こうすることで、龍園の行動に牽制を入れることができる。無視する可能性もあるが、それは同時に俺と清隆から同時に攻撃を受けることを意味する。龍園個人ならそれとて愉しみそうではあるが、リーダーとしては旨くない。

 少なくとも、誰が清隆の手駒なのか、それを探るのに時間を費やされる筈だ。仮に清隆の『お気に入り』を性処理要員に堕としてしまえば、それもまた清隆の怒りを買うことになるのだから。

 俺や龍園と違い、清隆はただの兵士だ。――ただし、並外れた実力を持っている、という注釈がつくが。

 ただの兵士だからこそ、統制を無視して動く可能性も否めない。それでいて無駄に実力があるのだから堪ったものではない。ゲリラ戦ほど対処が面倒なことはないのだ。

 だがその一方で、誰が手駒なのかを伝えないことにより、龍園の手駒へと奪い返す余地も生まれている。

 或いは、両者公認のダブルスパイにするという選択肢もありだろう。

 知らずのうちに重要な立場に置かれた真鍋さんのことは気の毒に思うが、ある日突然、訳も分からぬままにクラスの性処理要員に堕とされるよりはマシだろう。

 そこで、携帯が鳴った。タイミング的に龍園からの返信だろうか?

 

「『チッ、面倒なことしやがって。だが、それはそれとして情報提供には感謝しておく』……か。まあ、そう思うしかないだろうな」

 

 何せ、学校生活はまだまだ長いのだ。卒業まで残り短ければ強行手段も取れようが、そうでなければある程度の慎重さを求められるのは道理だ。

 再度、携帯が軽快な音を立てた。短時間で鳴り止んだことから、メールかチャットの着信通知だろう。

 龍園が何か言い忘れたことでもあったんだろうか? そう思いながら通知を開く。

 

「どれどれ……。ん? 知恵からか。なになに、『今日のお昼、保健室に特性バナナミルクを持ってきてちょうだい❤ もちろん、報酬としてポイントは払うわよ❤』……か。

 やれやれ、昨日の今日だってのに堪え性がない先生だな。まあ、だからこそ好ましくもあるんだけど……」

 

 チャットで送るには直接的な文面ではあるが、この程度なら誤魔化しが利く範囲でもある。

 当然ながら、文面通りにバナナミルクが飲みたいわけではないだろう。要するに、『特性バナナミルク』というのは俺の精液を指している。バナナはジュニアの隠語だな。『特性』で、『バナナ』で、『ミルク』となったら、むしろそれしか考えられない。

 早い話、知恵からのお誘いである。正直な話、周囲にバレる可能性が高くなるため、真昼間の校舎でやるのは勘弁願いたいところもあるんだが……。

 

「それでも、せっかくのお誘いだ。断る理由はないな」

 

 俺は了承の返事を送った。

 その瞬間、コンコンと音を立てて部屋のドアがノックされた。

 誰だろうか? パーティールームの各個室は内鍵を掛けることも可能ではあるが、俺は掛けたことがない。掛けてしまえば、逆夜這いや朝勃ち処理をしてもらえなくなる可能性が高まるからだ。

 昨日加入した面々を除けば、そのことはグループメンバーの全員が知っている。それでも、余所様の部屋に入室する際の礼儀として、ノックをする面々がいないわけではない。逆夜這いの際はまだしも、普段であれば桔梗だってノックする。美雨もまた然り。最大限まで俺を寝かせておくためもあってか、朝勃ち処理の際こそノックをしないが、それ以外はキチンとノックをしている。

 だからこそ、逆に訪問者の見当が付かなかった。疑問に思いつつも、俺は言葉を返して入室を促す。

 

「あの、おはよう、お兄ちゃん」

 

 そっと部屋に入ってきたのは、既に制服に着替えている真澄だった。その頭には、猫耳が燦然と輝いている。

 

「おはよう、真澄。こんな朝からどうしたんだ?」

 

 挨拶を返し、俺は訪問の理由を訊ねた。実際、まるで見当が付かなかったからだ。

 

「えっと、麻耶たちから話を聞いたんだけど、『チョーカー』ってまだ余ってる? やっぱり、私は有栖と違ってお兄ちゃんとクラスが違うからさ。常にお兄ちゃんの『愛』を感じていたいと言うか、そんな感じ」

 

 恥ずかしいのだろう。或いは、『チョーカー』を着けた自分を想像して気分が高まっているのか。真澄は若干そっぽを向きつつ、それでも頬を赤く染めて、そんなことを言ってきた。……何とも愛い奴である。

 

「『チョーカー』か……。ちょっと待っててくれ」

 

 俺は真澄に一言告げ、収納ボックスに近付く。初回の件で反省して、幾らかは買い置きを用意しているのだ。

 まあ、なんせ俺だからな。いつ何時『チョーカー』を必要とする人物がハーレム入りするか分かったものではない、という実情もある。

 同時に、ハーレム入りをしたからとて、必ずしも『チョーカー』を求める人物ばかりでもないため、うっかり補充を忘れた、なんて事態もあり得るのだが……。

 幸いにしてと言うべきか、当然と言うべきか、以前に波瑠加たちの分を買ってから加入した『チョーカー』を必要とする人物は真澄が初めてである。買い置き分が無い筈がなかった。

 

「さ、選んでくれ」

 

 俺は収納ボックスごと真澄の前に持っていった。そんなに数があるわけではないが、ボックスの中には未開封の『チョーカー』が幾つか納まっている。

 

「うん」

 

 返事をして、真澄は『チョーカー』を見比べていく。やはり、色合いやデザインなど、細かな違いがあるからな。まあだからこそ、逆に都合よく真澄の好みに合致する物があるとも限らないのだが……。その際は暫定的に身につけてもらうことにし、あとで好みに合致する物を買い与えるとしよう。

 

「これにする。……いい?」

「ああ、構わないよ」

「うん。……えへへ、似合う?」

「もちろん。とても良く似合ってるよ」

 

 基本的にはキリッとしている真澄がはにかむと、そのギャップもあってだろう、逆に破壊力がある。

 ポンと頭を一撫でし、収納ボックスを元の場所に戻した俺は、真澄と一緒に部屋を後にした。

 人によって違いはあるだろうし、俺とて毎回そうしているわけでもないが、基本的には洗顔などを済ませてから制服に着替えている。

 なお、流石に昨日はハッスルし過ぎたため、今日の早朝ウォーキングorジョギングはお休みである。入学当初に比べると色々と変化してきていることもあり、最近は全員参加というわけではなく、各自のペースに合わせることが増えていたから可能なことだ。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 さて、朝のホームルームである。

 当然の如く、周囲のクラスメイト――その中でも、主にモテない男子諸君からは嫉妬の視線が飛んできている。

 俺がグループメンバーと一緒に登校するのはもはや珍しい光景ではないが、今日は真澄がベッタリだったからな。新しい女子、それも他クラスの女子がハーレム入りした事実を思えば、全然不思議なことではない。

 

「これより朝のホームルームを始める。まず連絡事項についてだが……。

 北郷、すまんが今日の放課後も職員室に来てくれ。昨日の件で補足が必要となった。あと、1ーB担任の星之宮先生からの伝言で、昼休みの約束を放課後――先の補足後に変更してほしいとのことだ」

「はあ。それは構いませんが……。星之宮先生の方は何でまた延期に?」

「以前にお前から提案のあった創部の件があるだろう? 『高度育成高等学校スクールアイドル部(仮)』だったか? ストーカー問題の発生により半ば立ち消え状態となっているが、やはり先生方の中にも興味深く思っている者は多くてな。その筆頭が理事長だ。

 ついては、提案のあった完全そのままに、というのは無理でも、一部変更しての立ち上げならできるのではないか? といった意見が挙がってな。そこら辺について意見調整がしたいそうだ。

 ただ、やはり理事長自身は多忙であるのでな。星之宮先生が折衝役を任された次第だ。昼休みに何を星之宮先生に頼まれたのかは知らないが、延期になったのは、おそらくその件が関与していると思われる。……納得はいったか?」

「はい」

 

 実際、そう言われれば肯定せざるを得ない。

 しかし、このタイミングということは、向こうの危機感も強まった、ということだろうか? おそらくは、例の書類に麻耶の名前も加わったことが一因だろう。恵の一件を、提案のあった創部の件に託けて一挙に解決を図った。こんな感じじゃないだろうか?

 まずは場所を与えることを第一にしたわけだ。完全に、というわけではないだろうが、創部の件での意見調整云々は、その言い訳だろう。

 理事長肝いりのプロジェクトともなれば、周りもおいそれとは反論できず、それを部活と紐づければ、場所を提供したところでおかしくはない。何せ、ここは『次世代を担う実力者の輩出』を第一に掲げている学校だからな。その輩出方法が確定していない以上は、色々と試してみるのは当然だ。

 以前に提案した創部の内容を端的に分割すれば、『PP稼ぎ』と『人脈構築』、『目立つことによる影響力の確保』となる。アイドル活動だの何だのは、そのための方便に過ぎない。

 そして、だからこそ『アイドル云々』を抜きにすれば、決して早期の創部が叶わないわけではないのだろう。

 新たな部活動名を考えるのなら、『実力向上研究部』辺りだろうか? これであれば、その活動内容が幅広くとも不思議はないし、部員が多種多様でも同様だ。他の部活動への傭兵的行動も可能だろう。

 その一方で、恵の一件に対する隠れ蓑でもあるため、誰でも彼でも部員に迎え入れるわけにはいかない。そのための、『理事長肝いり』という名分だ。新たな部活が創られれば、興味本位から入部を希望する生徒が現れても不思議はないからな。

 世間一般的に考えれば間違いなく『黒』の、それでいてこの学校に合わせれば『グレー』となる、その境界に理解と納得を示せる者だけを受け入れるための方策だ。『理事長肝いり』という名分があれば、部員の選定方法があっても、そしてそれが周知されずとも不思議はない。

 実際、CPの選出方法なんかも周知はされてないわけだしな。不満を覚えても、結果的には吞み込んでいる生徒の方が大半だ。それは現状が証明している。

 また、これであれば、一度入部を断られた者が後から入部を果たしても、然程疑問には思われない。

 当初は条件を満たしていなかったが、後から条件を満たした。……こんな具合で、勝手に自己解釈してくれる生徒の方が大半だろう。

 すんなりと納得せず、疑問を覚える生徒がいたとしても、それはそれで構わない。その生徒の実力向上に繋がる可能性があるからだ。

 深く調べれば調べるほどに、自然と先に挙げた『黒』と『グレー』の境界線に突き当たる。そして、それに対する判断と対処を測るのも、この学校の目的と合致する。

 必ずしも『汚いこと』に手を染める必要はない。されど、『汚さ』を知らずしては『実力者』足り得ないのも本当なのだ。少なくとも、真に『実力者』であるならば、『汚さ』というモノに一定の理解と納得を示す必要がある。

 常識を掲げているうちは、『常識』に寄りかかっているうちは、結局のところ『二流』に過ぎない。次世代を担う――現代社会に変革を促すに当たっては、明らかに力不足と言わざるを得ないのだ。

 事実、この学校自体がその体現だ。聞こえのいいリップサービスで受験者を釣り、実際に入学すれば騙し討ちのオンパレード。とてもじゃないが、こんなの『常識』では認められない。――だが、現実として成り立っているのが本当なのだ。

 そもそもにして、高校からは義務教育ではない。本人が希望してこそ、という前提がある。そして、この学校の掲げる目的は、『次世代を担うに足る実力者の育成』である。

 また、旨い話には裏がある、なんてのは、入学前の時点で散々と口にされ、耳にしてきた筈なのだ。全部が全部ではないが、詐欺なんてその典型だろう。そして、それが横行しているのが現代社会でもある。『希望とする就職先・進学先への推薦を高確率で約束します』なんて謳い文句は、これ以上ない『旨い話』でもある。

 これらの要素が重なり合った時点で、入学後に文句を言う資格などありはしないのだ。どんな事態が待ち受けようと、前提として受験には本人の希望があるのだから。

 それを実際に体感しておいて、なお受け入れられないような人物は、『実力者』ではあり得ない。それがこの学校のルールであり、次代に通じるルールなのだ。

 言うなれば時代の逆行。今再び、弱肉強食が求められている、ということだ。少なくとも、それが現日本政府首脳陣の見解なのだろう。

 この学校はその箱庭――テストケースだ。だからこそ、『実力者』にはどこまでも甘くなる面があるのは否定できない。

 そして、そう予想する俺もまた、声高に叫ぶことなく、その恩恵を甘受する。一歩違えば腐敗の源泉となること間違いないが、それに自制を利かせるのも『実力者』の務めというものだ。

 俺がつらつらとそんなことを考えているうちに、ホームルームは終わりを迎えるのであった。




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