※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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特別試験の開始ですが、ルールの詳細は原作の方で確認をお願いします。


北郷伝:56

 色々と衝撃な事実があったりはしたが、それはそれ。

 貂蝉の話が終わった後は華佗による鍼灸を受けたことにより、現在の気分は非常にスッキリとしている。昼には件の無人島に到着している予定なので、快調は素直にありがたい。

 再び女性陣と合流したところで、船内アナウンスが流れた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。――』

 

 そんな出だしで始まったアナウンスによると、デッキから『非常に意義ある景色』を眺められるようだ。

 

「行くか。……有栖」

「お願いしますね」

 

 おそらくは、待ち受けているだろう試験に関する何か。それを見ない理由はない。……が、有栖の速度に合わせては出遅れる可能性も否めない。

 当然、有栖もそれは承知の上であるので、何を躊躇うこともなく俺に抱きあげられた。

 船内の行動もCP査定に引っ掛かる可能性は否めないので、走ることはせず、早歩きでデッキに向かう。

 

「ちょっと一刀くん、速いよ!」

「コンパスの差が!」

 

 どうにかこうにか女性陣も付いてくるが、流石に歩幅の差までは如何ともしがたい。ブーブーと不満を垂れ流す。

 それを受け流して進み、ベストポジションを確保する。続々と生徒が集まってきているので、まさしく『タッチの差』であったと言えるだろう。

 

「おい、邪魔だ。どけよ不良品ども」

 

 一息吐く俺に対し、そんなことを宣いながらぶつかってくる男子が一人。

 とはいえ、素直に退かされてやる道理もないので、逆に跳ね飛ばす。日頃から鍛錬を疎かにしていない俺と、ぶつかってきた生徒とでは、肉体強度で大きな差があったらしい。人が車にぶつかっても、車を跳ね飛ばせないのが道理だ。要はそれと同じである。

 意気揚々とぶつかってきて、逆に尻餅をつく破目になった無様さに、件の生徒へと周囲から失笑が零れる。

 

「ん? 誰かと思えば戸塚か。……お前なぁ。人を『不良品』呼ばわりするんなら、自分が良品に相応しいスペックを身に付けてから言えよ」

「全くですね。その無様さ、どちらかと言えばあなたの方がAクラスに相応しくない『不良品』なのではありませんか?」

 

 ぶつかってきたのは戸塚だった。おそらく、俺が有栖を抱き上げていたことから狙いを付けたのだとは思うが、正直に言ってせせこましい。

 有栖もまた、俺に抱えられたままに戸塚を見下ろして嘲笑する。

 

「ブハッ! 流石は姫様だ。Dクラスに行っても姫様振りは健在のようで……」

 

 それを見て、噴き出す男子生徒が一人。金髪で飄々とした態度を取っているが、その眼の奥には昏いものが見え隠れする。

 

「あら? 橋本くんではありませんか。お久しぶりですね。元気に蝙蝠をやってますか?」

「おいおい、久しぶりに顔を会わせたってのに容赦ねえなぁ~。まあ、元気でやってますよ。蓮華ちゃんの下にいるのも、それはそれで居心地がいい」

「紹介しますね、一刀くん。彼はAクラスの生徒で橋本正義くんといいまして、私の元手駒です」

「『元』かよ。ツレないねぇ~」

「いや、だってそれ以外にどう言えと? あなたも鬼頭くんも、元より私との間に信頼関係なんて皆無じゃないですか。あくまでも『Aクラスで卒業するため』に私に従っていただけでしょう? 私も、駒の中では優秀だったから傍に置いていただけです。Aクラスから私が失脚した今となっては、繋がりを維持する以上の価値が私にありますか?」

「やれやれ、相変わらず合理的なことで……。ま、確かに仰る通りだ。姫さん自身が侮れないことは認めているが、それでも今の姫さんはDクラスの一員に過ぎない。それが事実で現実だ。必要以上に遜る価値なんざありはしない」

「でしょう? あなたの本性を知らぬ相手であればまだしも、知る相手に仮面越しの態度は無駄なだけです。どうぞ、次からは素の態度で接してくださいな。私自身、既に橋本くんのことを手駒とは思っていませんが、それでも有数の『伝手』だとは思っていますので……」

 

 ハッハッハッ……。

 フッフッフッ……。

 金髪のイケメンと銀髪の美少女が笑い合う。……周辺の空気が歪んでいるように感じられるが、きっと気のせいだろう。

 

「橋本! 何を裏切り者の坂柳なんかと仲良くしている!?」

「おいおい、戸塚よ。これを見て『仲良く』なんて言うのかよ? お前の姫さん憎しは分からなくはないが、一度眼科に行って診てもらった方が良いんじゃねえか? それとも頭の方か?」

 

 立ち上がった戸塚に吠えられた橋本は、嗤ってそれを受け流した。

 まあ、これについては橋本の方に分があるだろう。有栖と橋本はどう見たって冷戦状態である。交流がないわけではないが、間違っても『仲が良い』などと評することはできない筈だ。これを見てそう評する以上、戸塚の頭か眼を疑うのは理に適っている。

 そうこうしている内に、周囲が騒然としだした。島との距離が近付き、ハッキリと肉眼で確認できるまでになったからだ。

 おそらくは『非常に意義ある景色』とやらを見せるためなのだろう。船は島に着岸せず、桟橋をスルーして島の周囲を回り始めた。反則行為と分かっているが、気功を目に集中して視力を強化する。

 滝やら洞窟やら、島にありがちな景色の他に、無人島には似つかわしくない機械装置までが強化された視界に飛び込んでくる。しかも、その機械装置が至る所に散在しているとあっては、それが試験に関係しているのは否定しようがない。

 グルリと島を一周した船は、今度こそ着岸する。

 そして、再び流れるアナウンス。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。――』

 

 どうやら、生徒たちは全員がジャージに着替えた上で、所定の鞄と荷物、携帯を忘れずに持って、三十分後にデッキに集合しなくてはならないらしい。

 こう聞くと、余裕があるようでない。事前にトイレを済ませておけと言われては尚更だ。集団用のトイレがないわけではないし、部屋にも備え付けのトイレはあるが、混み合うことは間違いないだろう。

 そのまま女性陣と行動を共にし、取り敢えずは有栖を部屋に送り届けた上で俺も部屋に戻る。

 部屋に着くと、既に清隆と輝彦も戻ってきており、そればかりかジャージに着替え終わっている。

 

「早いな」

「心と二人で回ってたんだが、どこもかしこも混んでいたからな。早めに部屋に戻ってきたんだ」

「オレも似たようなものだ。そんなわけだから、すまんが『意義ある景色』とやらは見に行ってない。億劫だったからな」

「悪びれもせずに言いやがって」

 

 呆れはするが、強く咎め立てる気もしない。どうせ俺たちの誰かが確認すると判断したのだろう。人数が多い以上、グループの誰かが確認に行くのを促すのは明らかであり、人数が多いからこそ、初回から満場一致での否定もあり得ない。そして、意見が分かれたからとて、無理に一致させる必要もない。じゃあこれで、と一旦別れればいいだけなのだから。

 俺もまた着替えてトイレも済ませると、忘れずに荷物を持って再び女性陣の部屋へ。

 その後は女性陣と合流してデッキへ。……味気の無いジャージ姿だというのに、何故にこうも華やかに感じるのか。

 デッキに来たはいいものの、島にはAクラスから順に上陸するらしく、炎天下の中で暫く待たされることになった。一人一人の携帯を回収していくのみならず、島への持ち込み品についても一人一人チェックしているらしいので、尚更に時間がかかっている。

 基本、俺たちの使っている携帯端末は学校からの支給品だ。一纏めに袋に入れてそれでお終いとするわけにはいかないので、回収に時間がかかるのには理解も納得もできるが、それならそれでもう少し上手いやり方は選べなかったものか。持ち込み品のチェックもあるなら尚更だろう。

 まあ、試験という事実を隠しているのだから仕方のないことかもしれないが、俺みたいに気付く奴は気付いているのだ。そういう身にしてみれば、本当に時間の無駄にしか感じられない。

 

「まったく……。本当に何をグズグズしているのか……」

 

 ほら。有栖だってキレ始めている。

 どうせこうも待たされるのだったら、せめて一クラスずつ順番に呼ぶとかすればいいものを。

 炎天下もあって余計にイライラしながら待っていると、漸くDクラスの番がやって来た。一人一人、入念なチェックを受けてからタラップを降りる。

 

「今からDクラスの点呼を行う。名前を呼ばれた者はシッカリと返事をするように」

 

 砂浜へ降り立った俺たちへ、茶柱先生からの指示が飛ぶ。まあ、点呼を行うのは当然だろう。

 茶柱先生もまた、俺たちと同じようにジャージ姿だった。……ふむ。普段見るのがスーツ姿だけに、これはこれでいいものだ。

 やがて全クラスの点呼が終わると、一人の先生が前へと進み出た。Aクラスの担任にして学年主任、真嶋先生だ。

 

「今日、無事この場所に着けたことをまずは嬉しく思う。しかしながら、既に退学となってしまった生徒がいることは残念でならない」

 

 現時点において、一年生の中で退学となったのは山内しかいない。故に、それが山内を指していることは明らかだった。

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 真嶋先生のその言葉で、生徒たちの間には困惑と動揺が広まった。それに伴い、騒めきも広がっていく。

 全員が全員驚いているわけではないが、比率としては驚いている生徒の方が多いようだ。それは、全クラス例外なく。

 

「期限は今から一週間。8月7日の正午に試験は終了を迎えるが、君たちにはそれまでの間、この無人島で集団生活を送ってもらう」

 

 生徒の困惑など知ったことではないと言わんばかりに、真嶋先生は言葉を紡いでいく。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 どうやら、ルール説明は真嶋先生の語った内容だけではないらしく、マニュアルの最終ページにもマイナス査定の項目が載っている。

 まあ、『行った場合』と書かれているが、正確には『発覚した場合』だろうな。こう書くことで、心理的ブレーキを踏ませる算段だろう。

 

「ふむ。山内の退学は条件に引っ掛からないみたいですね」

「ああ。退学は生徒の上限そのものが変動するからな。また、クラス移籍もそれは同様だ。そのため、この試験において退学やクラス移籍によるペナルティは発生しない」

 

 ルールの確認を済ませた俺は、早速行動に移る。いつまでも初期位置でグダグダとしてはいられない。

 

「高円寺、お前はこのマップに採集可能品などを記入してくれ。どうせお前はすぐにでもリタイアするんだろう? それを防ごうとは思わないし防げるとも思えないが、マッピングをしてくれるだけでもお釣りがくる。……どうだ?」

「ふむ。まあ、その程度なら構わないだろう。それで後々から口煩く言われずに済むのであれば、こちらとしても許容範囲だ。……では、早速行ってくるとしようじゃないか。マップとペンを貸したまえ」

 

 俺からマップとペンを受け取った高円寺は、颯爽とこの場を去っていった。

 

「俺と有栖はこれからスポットの占有に向かう。留守にしている時の判断は、清隆をメインにしつつ、恵、桔梗、鈴音、帆波が補佐して判断してくれ。予め言っておくが、同盟を結んでいるBクラス以外に対してはむやみに優しくする必要はない」

 

 クラスメイトに言い置いて、俺は有栖を連れて茶柱先生の元へ向かった。スポット占有のためにカードキーを発行してもらわないことには話にならない。

 

「リーダーは俺でお願いします」

 

 有栖に同行してもらったのはフェイクである。有栖はAクラスでリーダー争いをしていただけあって、今回の試験におけるリーダーに設定されてもおかしくはない土壌があるのだ。そしてそれは、Dクラスのリーダーを務めている俺に対しても同じことが言える。

 俺と有栖。どちらもがリーダーに選ばれておかしくないからこそ、他のクラスは二者択一で惑うことになる。

 そして、有栖を同行させるのには他にも理由がある。普通に考えて、有栖を同行させるのは手間だ。俺にとってはそうでもないが、少なくとも、他はそう考える方が大半だろう。そんな有栖を同行させて動き回ることにより、『リーダーは有栖である』と誤認させやすくなるのだ。

 また、以前の有栖が普段から杖を突いていたことは周知の事実だ。だからこそ、有栖がリタイアしたとしても違和感は持たれない。

 有栖のリタイアタイミング次第ではあるが、それ以降でパッタリとスポット占有が途絶えれば、他クラスは更に困惑することだろう。

 だからこそ、初動が重要だ。早いうちに多くのスポットを巡り、ポイントを稼がなくてはならない。

 カードキーを発行してもらったら、次に向かうのはBクラスだ。今回の戦術ではBクラス――特に星の協力が必要不可欠となる。

 

「すまない、Bクラスはもうリーダーを決めたか?」

「一刀? いや、まだだが……」

「不都合がなければ、リーダーは星にしてほしい。その上で協力を頼む」

「こちらはそちらの従属下にある。頼まれれば否とは言えないが、説明はしてくれるか?」

「言ってみれば簡単な話だ。俺たちDクラスとBクラスで大量のスポットを占有する。今回の試験上、ベースキャンプとスポットは切っても切り離せない。だが、ベースキャンプを構えるべきスポットが既に占有されていたらどうだ?」

「なるほどな! 効果的な場所に陣地を構えることができなければ、まともに戦に臨むこともできなくなる寸法か!」

「俺と星の身体能力ならばそれが可能だ。……有栖がいなくなったところでAクラスに二大派閥が存在していることに違いはない。亞莎だったらこちらの意図も読めるだろうし、思春だったら俺たちにも追随できるだろうが、そんな状況ではそこまで柔軟に動けるとも思えない。

 仮に思春が参加してきたのなら、今回の指揮権は蓮華が持っている証拠だ。その時はAクラスも巻き込んでCクラスを狙い撃ちにすればいいだけだ」

「良いだろう。その案に乗ろう。どうせ、このままだと無難に試験に取り組むだけだったしな。……そういうわけだ。星、頼む」

「ハハッ、任されましょう」

 

 結果、俺の提案通りに星がBクラスのリーダーとなり、俺たちは飛び出していったのだった。




Bクラスと同盟を結んだことにより、スポットの大量占有が可能となりました。
忍者ばりに木から木へと飛び移って移動すれば正規の道に縛られる必要はなく、その分だけ移動時間の短縮にもなります。
現状、気功による身体強化を施した一刀と星に追随できるのは思春だけです。やや差が付いて白蓮、そこからまた差が付いて蓮華、更に差が付いて亞莎ですね。
気功に目醒めて間もない現状の龍園と神崎では亞莎とドッコイと言ったところで、良くても蓮華レベルです。
桃香と魏の軍師陣には不可能です。

今回の試験においては、スポットとベースキャンプは切っても切り離せません。
である以上、スポットを占有できず、有効なポイントにベースキャンプを構えられないのであれば、一週間を乗り切るどころの話ではありません。
早い話、一刀は相手を『勝負の土台に乗せない』ことを選択しました。
今回の試験を『試験』ではなく『戦』と捉えれば、すんなりと納得して協力を示す能力が白蓮にも星にもあります。

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