※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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北郷伝:59

 交渉が終わった段階で、蓮華は美紀と真澄を俺の――有栖の許に置いていった。

 蓮華の勢力下ではあるが、その実は有栖の手駒であり、それを蓮華と葛城も承知しているが故の『公認スパイ』。それが美紀と真澄の立ち位置だ。

 今回の試験でAクラスを統率しているのは葛城らしく、当初は蓮華もそれに異を唱えてはいなかった。……が、俺たちの行動により、早くも双方の間で判断が分かれる形となってしまった。

 蓮華は俺と星の身体能力を知るが故に、俺たち二人が早々に揃って動きだした時点で、俺たちの狙いを看破した。もちろん、そこには亞莎の提言もあったのだとは思われるが……。

 無論、こちらの狙いを悟って何もしない蓮華ではなく、当然ながら葛城には方針の転換を訴えた。

 しかし、ここで双方の認識の違いが浮き彫りとなる。

 葛城は、言わんとすることは分かるがあまりにも現実味がない、と蓮華の提言を受け入れなかったのだ。……まあ、普通に考えれば葛城の方が正論だ。

 それ故に蓮華も葛城の判断に理解を示しはしたが、その一方で見切りを付けざるを得なくなったのだ。実際、俺と星の身体能力を知る者にとってすれば、葛城の判断は見通しが甘すぎる。

 さりとて、こればかりは言葉だけで分かることでもない。己が身で体験して、初めて分かるタイプのものだ。

 それ故の独自行動。Aクラスの一員として最低限の協力はするが、それだけ。……蓮華にしてみれば、そうせざるを得なくなってしまったのだ。

 だが、蓮華派と葛城派に亀裂が入ってしまった状況下では、さしもの蓮華も有栖の公認スパイである美紀と真澄を手元に置いておく余裕はない。

 思惑が外れ、当初の想定通りには運ばなくなった現状、葛城本人は分からないが、その派閥員――特に戸塚辺りが二人に八つ当たりする展開は目に見えている。そしてそうなると、実態がどうあれ名目は蓮華の派閥である以上、蓮華は二人を守らざるを得ない。そして、それが更なる亀裂を生みかねない。……何ともまあ悪循環極まりないが、現実的に起こり得る光景だ。

 それよりは、実態を優先させて二人をこちらに避難させておいた方がまだマシという判断だろう。……まあ、いないならいないで、結局戸塚あたりは不満を露わにしそうではあるが。

 いずれにせよ、葛城が蓮華の提言を退けた時点で、一悶着起こるのは確定ということだ。

 それ故の蓮華の判断だろうと理解はできるが、それで困ったのはこちらである。真澄はともかく、美紀は秘密兵器だ。大々的に知られるのは避けたいのが実情である。さりとて、こうなっては知られるのも避けられない。

 そのため、クラスメイトに対しては、二人のことを簡単に『有栖の手駒』と説明した。有栖が元Aクラスなのも、その頭の良さも周知の事実なので、一応の筋は通る。

 その後は簡単だ。いい機会だから、美紀には龍園を監視してもらっていたわけである。元より影の薄い子だから、抜け出すのも無理はない。衆人環視と言ったところで、四六時中視線が注がれているわけでもないのだから。

 周りが疑問を抱いたところで、その場にいないグループメンバーの手伝いに回ってもらっている、とでも説明すればクラスメイトも必要以上に疑問には思わない。

 今回の試験、どのクラスがどんな行動を取るか、なんてのは自分たちで調べるより他にない。本来ならターゲット探しも一苦労なのだ。

 だが、ターゲットの方からやって来て、本来であれば自由に動かすのも難しい斥候の使用許可が出たのであれば、使わない理由もまた無い。

 詰まるところ、蓮華が並べ立てた理由はフェイクに過ぎない。今回の試験においては美紀を貸してやるから、それで得た情報を自分たちにも共有しろ……と、こう言っているわけだ。

 表立ててそんなことを言える筈もなければ、貸し出し方も限られる。……が、逆にだからこそ尤もらしい理由を並べ立てることで堂々と貸し出したわけだ。流石は呉王。中々に食えない。

 どの道、美紀と真澄は点呼のタイミングでクラスに戻らなければならないために、そこで情報を共有することは十分に可能だ。

 この試験においてCPのマイナスはない。だからこそ、蓮華はAクラスの敗北も視野に入れている筈だ。いや、むしろそれこそを臨んでいるフシがある。

 まあ、元々は蓮華の主導で美紀を動かして、その情報を以てこちらに協力を呼びかける算段だったのだろう。それが俺たちの動きでご破算になり、葛城の頭の固さで勝ちの目も無くなった。ならば、目指すべきは『どのように上手い負け方をするか』に限られる。

 そして、おそらく蓮華が望んでいるのは、葛城の圧倒的な敗北だ。やることなすこと裏目に出て敗北すれば、葛城も自己の判断を反省せざるを得ず、引いてはそれが柔軟性の獲得に繋がるという寸法だろう。

 

「一刀くん❤ 一刀くん❤」

 

 ともあれ。役目を果たして戻ってきた美紀は必死になって俺の唇を啄ばんでいる。

 俺に対して王子様意識があるらしい美紀は、基本的には自分に自信がないことが相俟ってか、行為の際には普段の物静かな態度とは裏腹に結構情熱的になる。

 キスであれ本番であれ、俺との行為は美紀にとって文字通り『ご褒美』ということもあるのだろう。

 また、俺という王子様に褒めてもらうだけでなく、溜まりに溜まったものを解消しようという動きが表面化したものでもある筈だ。

 褒めて! 褒めて! と全身でアピールしているわけだ。

 真実、俺の推測が正しいかは分からないが、そう考えれば本当に可愛い。

 

「それで、龍園の動きはどうだった?」

「葛城くんと接触していましたよ。流石の葛城くんも結構ヘコんでいましたね。まあ、行く先々のスポットが軒並み既に占有済みでは無理もないのでしょうが……。

 どうにかこうにか占有されていないスポットを発見して、そこにベースキャンプを構えたみたいですが、占有特典も微々たるものの様でしたし、散々歩かされてのその結果に、所属歴の浅い派閥員や中立派からの反発が凄かったですね。

 そんな葛城くんの弱みに付け込むように、龍園くんはPPとの引き換えに物資提供を持ちかけていました。ついでに、蓮華さんたちとの不和も煽っていましたね。蓮華さんたちは独自に一刀くんと交渉し、PPを対価に洞窟の使用許可を得たこと、一刀くんの好意でトイレや食料品が提供されることも明かしていました。

 葛城くんも責任感は強いタイプですからね。独断で試験ポイントに手を付けることは躊躇われたようで、結局は龍園くんとの交渉に同意したようです。流石に具体的なPPや物資の内容までは調べられませんでしたけど……」

 

 俺の質問に、美紀は変わらずに唇を啄ばみながら説明してくる。

 なるほど、龍園は葛城に目を付けたか。まあ、順当に考えればAクラスを狙うのは道理ではあるのだが。

 CP差を開かせないことを第一に、資本力を削ることを第二に考えたか。その点で言えば物資の提供は裏目に出そうなものだが、その程度はリーダー当てでどうとでもなる。何せ外した場合と当てられた場合のペナルティが大きいからな。

 堅実な葛城であればギャンブル性の高いリーダー当てには踏み込まないかもしれないが、それも平時の精神状態であればだろう。裏目裏目に回っている状況、反発が凄い状況、こんな悪状況ではギャンブルに踏み込んでも無理はない。

 試験ポイントだけに目を向ければ悪手に他ならないわけだが、追い詰められた状況でそこまで冷静さを保てる人材が果たしてどこまでいることか。

 或いは、戸塚辺りが提案するかもしれない。『ここは一発他クラスのリーダーを当てて、この悪い空気を吹き飛ばしましょう、葛城さん!』……などと言う様が目に浮かぶ。

 

「お疲れ様。情報提供に感謝するよ、美紀。……さ、ご褒美だ」

 

 俺は美紀に礼を言い、自分からも熱烈なキスと愛撫を仕掛けた。同時、片手をジッパーを下げたジャージの隙間から潜らせて胸を揉み、もう片手は腰元から突っ込んで秘所を弄る。

 正直に言えば一発ヤりたいのが本音ではあるのだが、流石にこの場所は拠点から近すぎる。これではキスと愛撫が精々だ。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 キスと愛撫だけでイき、それにより一応の満足感を得た美紀と共にベースキャンプに戻れば、既に夕飯近い時間だった。

 まあ、昼頃に上陸して、試験の説明を受け、スポット占有に動き、有栖と星の二人とヤって、戻ってきてからは他クラスとの交渉を行い……などとやっていれば、結構な時間が経過するのは道理だ。

 交渉が一段落した段階で、DクラスとBクラスの生徒が協力して食材の確保に向かったため、手元には既に結構な量の食材がある。近場には滝と直下の水たまりという天然の冷蔵庫もあるので、保存にも難はない。

 シートを始め、物資の中には無制限に支給を受けることが可能な物もあるため、上手く工夫をすれば簡易的な収容具を作ることは十分に可能だ。

 何なら、周囲は海に囲まれているので、そこから貝殻と海藻さえ確保すれば簡易的な石鹸を作成することも可能である。

 良くも悪くも、事前知識と創意工夫次第で過ごしやすさが如何様にも変わるのも、この試験の特色と言えるだろう。

 

「あ~、これから川に魚を獲りに行くから、二人ほど荷物持ちについてきてくんない?」

 

 俺は手持無沙汰にしている面々へと声を掛けた。

 

「構わないが、今から行くのか?」

「ちょっと目立つやり方だし、音が響く可能性があるから、白昼堂々とはやりづらいんだよ」

「まて、北郷。お前の言い分を聞くに、どうにも発破漁や石打漁を想像させてならないのだが?」

 

 真っ先に俺の言葉に応えたのは神崎で、続いて声を掛けてきたのは茶柱先生だった。

 

「あ~、似たようなやり方であるのは認めますけど、使うのはコブシですよ? コブシを水面に打ち付けて、その衝撃で魚を浮かせようって寸法です。……もしかして、これもペナルティに引っ掛かります?」

「は? コブシ? 確認するが、鉄拳制裁のコブシか?」

「それ以外のコブシって何かあります? いやまあ、歌唱ではコブシを効かせるとか言いますけど……」

「面白そう! ねえねえ一刀くん、私も見に行っていい?」

「おい、知恵。私たちが試験を手伝うのは……」

「ブーブー、佐枝ちゃん頭かた~い! 本当にコブシで行うのか、それが実際にできるのか、監督しに行くだけです~! 不安なら佐枝ちゃんもくればいいじゃない。……ねえ?」

「俺は構いませんよ。ただし、結果がどうあれ、初回だけはペナルティを適用してほしくないのが正直なところですが……」

「いやまあ、本当にコブシで行うのなら、ペナルティが適用されることは無いとは思うが……。手づかみ漁だって、立派な漁法の一つではあるしな。

 だがまあ、やはり実際には現場を確認してからだな。現時点では何とも言えん」

 

 そんなやり取りが行われた後、美人教師二名+清隆と神崎という荷物持ちを引き連れて、俺は川へと向かった。

 なお、魚の持ち運びには簡易トイレとして支給される段ボールを使用する。ビニールを重ねてセットすれば、水によるダンボールへのダメージを最小限に抑えることは十分に可能だ。最悪、ベースキャンプまで保てばいいのだし。

 

「んじゃ、ちょっと下がってて。結構跳ねると思うから」

 

 川に着いたら、一行には離れたところで待っててもらい、俺一人だけが川の中に侵入する――

 

「いーよいーよ。近くで見ないと分かんないからさ。濡れたところで、拠点に戻れば替えの服はあるんだし」

 

 筈だったのだが、知恵もまたそう言って川辺に近付いた。

 

「はあ……。まあ、知恵先生が構わないのなら良いんですけど……」

「まったく、お前という奴は……」

 

 そして、俺が知恵の行動を受け入れる傍ら、今度は茶柱先生も川辺に近付いてきた。

 

「茶柱先生もですか?」

「正直、濡れネズミになるのは御免だがな。知恵の言うことも一理ある」

 

 そう言って、茶柱先生は知恵の横に立った。

 なお、荷物持ちとしてついてきた野郎どもは避難したままだ。

 

「忠告はしましたからね?」

 

 言って、俺は周辺に漂う気をも取り込み、その上で気功を右手に集中させる。専ら治療方面ばかりが目立っている俺の気功だが、何もそれだけが能ではない。気功で強化したコブシを水面に叩き付ければ、その振動と衝撃が如何ほどのものかはよく分かる。

 実のところ、気功による強化は二通りあるとされている。+補正と倍化補正だ。+補正の方は『+○○』という数値に気功を変換して加え、倍化補正の方は元の能力に掛け算していく形だ。

 とはいえ、強化の使用者も多分に感覚的に行っている場合が多く、自分がどちらの方法で強化しているのかは分かっていない場合が多い。

 それは俺も同じであるが、感覚的だからこそ、俺はどちらの方法も使えると認識していた。そして、あくまでも感覚的に強化範囲を見定める。

 

「ハッ!」

 

 十分だと判断したところで、意気込み一発。俺は気を込めたコブシを川へと叩き付けた。分かりやすく言えば『パワーゲイザー』だろうか。

 気功の練習を行うに当たり、格闘系のゲームやアニメは存外馬鹿にできない。何せ、完成形のイメージが既にできているのだから、あとはそれに合わせた形で発動するように努力するだけだ。アニメによっては、その作品独自の方法ではあるが発動までのプロセスを描いてくれる物もあるため、場合によっては尚更に真似しやすい。

 そのため、俺にとって『波動拳』や『かめはめ波』は、その威力の程はさておき、既に夢の技ではなくなっている。……流石に月を吹き飛ばすなど不可能だ。

 俺のコブシが水面を叩いた次の瞬間、バッシャアアアァァン! と盛大な音を手てて水柱が立つ。それに巻き込まれるように、川の中にいた魚も舞い上がった。

 

「わああぁぁっ! すごいすごーい!」

「はああぁぁっ!? え? いや、え?」

 

 起こった光景に対し、純粋に喜ぶ知恵と、目を白黒とさせる茶柱先生。実に対照的である。なお、近場にいただけあって十分な濡れネズミと化している。

 その傍ら、打ち上げられた魚をせっせとダンボールに詰める清隆と神崎。

 

「いや、結構な量が獲れたな」

「稚魚はどうする? 食いでもないし、リリースした方がマシだと思うが……」

「同意見だが、そもそも稚魚がこの状況で生きているのか?」

「それもそうだな。取り敢えずは持って帰ろう。生きていれば滝にリリースすればいいし、死んでいるなら食えばいい」

「じゃあ、そういうことで。……北郷、俺たちは先に戻るからな! ちゃんと先生たちをエスコートして来いよ!」

 

 そして、そんなやり取りをした荷物持ちは、詰めるだけ魚を詰めて颯爽と拠点に戻っていった。

 まあ、先生方が濡れネズミになってしまったのも一因だろう。ジャージの下が濡れスケ状態になっているのは間違いなく、おそらく神崎はそれを想像してしまったのだ。

 冷静さを装ってはいたが、内心は羞恥心でいっぱいだったに違いない。

 だからこそ、魚を持って帰るのを口実にして、一足先に戻ったわけだ。清隆はそれに巻き込まれた形だな。

 

「すみません、濡れちゃいましたね」

「はは、気にしない、気にしない。こっちとしても承知の上の選択だったしね! 珍しいものが見れたんだからノーカンだよ! ――っと」

 

 俺の謝罪を知恵は笑って受け止め、かと思えば、徐にジャージを脱いだ。

 やはりジャージの下はビッショリと濡れており、紛うことなき濡れスケ状態だ。全裸を見たこともあるが、それはそれ。実に眼福な光景であることに違いはない。

 

「おい、知恵!?」

 

 当然、茶柱先生が焦ったように呼び掛ける。

 

「ん、なぁに? 佐枝ちゃんも早く脱いで絞りなよ。いくら暖かい気候とはいえ、そのままだと風邪を引いちゃうよ? 保険教員としては無視できません。……あ、もちろん一刀くんもだからね? むしろ、震源地にいた君の方がよっぽど濡れてるでしょ」

 

 だが、知恵は何でもないかのように受け流した。……確かに、羞恥心を除けば道理は立っている。

 

「それもそうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 そう言って、俺もジャージを脱いで絞り出す。

 男である俺は、必然として女性である二人以上に羞恥心がない。基本的に男性の水着がパンツ一丁の姿である以上、それはある意味で当然のことではある。

 だからこそ、ズボンも、Tシャツも、脱ぐことに躊躇いはない。そして、最後の砦であるパンツでさえも。

 知恵の濡れスケ状態を見たことで、俺のジュニアは雄々しく屹立している。これを恥じる理由などありはしない。

 

「な!? こら、北郷。サッサとそれをしまわんか!」

「うわあぁぁ、立派~! う~ん、状況的に私たちがそうさせちゃったわけだし、やっぱりここは私たちが治めてあげないとだよね、佐枝ちゃん?」

 

 結果、全く正反対の態度をとる二人の女教師。羞恥に顔を赤く染め、目を隠しながら言う茶柱先生と、目を輝かせて宣う知恵。見事なまでの対比である。

 

「な!? 知恵、お前何を言って……!?」

「別におかしくないんじゃない? 教師ったって、私たちが『女』であることは事実だし、ここには私たち以外に誰もいない。そんな状況でこんな立派なものを見ちゃったら、疼くに決まってるじゃん。

 まあ、さっきの水柱を見て誰かしらが来ちゃうかもだから、この場で相手をするってのは冗談だけど。

 実際のところ佐枝ちゃんもさ、いつまであんな奴に操立ててんの? 正直、佐枝ちゃんの『女』が枯れそうで、親友としては見てられないんだけど?」

 

 驚愕する茶柱先生に対し、知恵は理路整然と返す。非常に明け透けな物言いではあるが、何を優先するかの違いがあるだけで、筋自体は通っている。

 そして、それを冗談だと流したと思いきや、ここぞとばかりに茶柱先生の傷を切開しに掛かった。

 見方を変えれば、現在の知恵は『男』である俺に対して『女』をアピールしている最中だ。だからこそ、同じ女でありながら『女』を無駄にしていると感じる茶柱先生へ対し、そのことで詰め寄るにはタイミングがいい。

 

「それ、は……」

「いいじゃん、もう。あんな男、吹っ切っちゃいなよ。所詮あんな奴、佐枝ちゃんの男には相応しくなかったんだよ。

 当時の私たちは子供だった。だから気付けなかったし、気付かなかった。

 そもそも、未だ卒業試験が残ってるっていうのに、その手前の特別試験で退学を名乗り出るような奴だよ? リーダーとしての自覚も責任感もありゃしない。

 あの場合は、誰か別の人を退学に指名して、自分はリーダーとして最後まで残るのが当然の行動だった。退学に指名した相手からは恨まれるだろうけど、それを背負ってこそのリーダーってもんでしょ。

 だけど結局、彼は自分から退学に名乗り出た。あの状況に耐えられなくなったんだよ。重責に負けたと言ってもいい。

 あんな奴をリーダーとして担いでいた時点で、私たちが転落するのは必然だったんだよ。

 だからこそ、改めて訊くよ? 佐枝ちゃんはさ、いつまであんな最低男を庇い立てするつもりなのさ?」

 

 知恵は茶柱先生を追い詰める。彼女の傷を暴き立てる。冷静に、冷徹に。

 そう。二人の傷となった特別試験。誰にも転落の責任はあるが、誰が一番悪いかとなったら、当時のリーダーだったその人物以外にはあり得ない。

 そもそもにして、他が背負えぬ重責を背負い、他が取れぬ行動を担ってこそのリーダーである。それができないのであれば、元からリーダーなどやるべきではなかったのだ。担ぎ上げられるのは仕方ないが、それならそれで最初に断りは入れておくべきだった。

 俺は過程を分かりはしないが、結果は示されている。件の人物は肝心のところで怖気づいた。

 そして、知恵の言を茶柱先生は否定できない。こんな学校の教師を務めているからでもあれば、同じ状況を過ごした『仲間』の言だからでもある。

 茶柱先生が件の一件をどう思っていようと、件の人物をどう思っていようと、知恵には知恵の『真実』があり『事実』がある。それを正面からぶつけられれば、感情論以外での否定などできるわけがない。

 そして、感情のままに否定するには、既に時間が経ち過ぎた。

 

「庇っている……か。ああ、そうだ。そうだな。言われて初めて気付いたよ。私は彼を庇っていた。だから、ひたすらに自分が悪いと思い込んだ。あの時の判断を後悔し続けた。

 そして、あの日の後悔を消すために、自分の手で担当クラスをAクラスでの卒業に導くことを画策した。……結局は上手くいっていなかったがな。

 だがまあ、それも道理か。自分一人を悪くするのは簡単だが、それで導けるのは一面的な真実だけだ。

 私は彼の判断を台無しにしたことを、それによってクラスを転落させてしまったことを悔やんでいたが、同じ状況を経験したお前にとっての真実はまた別か……。

 リーダーの責務を放棄した彼が悪い。……そんな考え、私は想像することもできなかった。けど、言われてみれば尤もでもある。まさに『恋は盲目』というやつだな。まさか、この齢になって自覚するとは思わなかったよ」

 

 ポツリ、ポツリ。茶柱先生は語った。そして、クシュン! とクシャミを一つ。

 

「ほら、言わんこっちゃない。早く佐枝ちゃんも脱いで絞っちゃって!」

 

 言いつつ、知恵自身が茶柱先生のジャージを脱がせに掛かる。なお、知恵自身はとっくに脱いで絞り済みだ。

 

「知恵の言う通り、茶柱先生はもっとイイ男に目を向けるべきですよ。例えば、俺のような、ね。

 先生が良ければ、今夜にでも慰めてあげますけど、どうです? 新しい男に乗り換えて、昔の男なんて忘れてしまいませんか? 俺はハーレム実践派ですけど、だからこそ、ハーレムメンバーに対しては真摯に向き合いますよ」

「そうしなよ、佐枝ちゃん。私も付き合ってあげるからさ。さっきも言ったけど、このままじゃあ佐枝ちゃんの『女』が枯れちゃうよ?」

 

 トラウマを刺激され、弱りに弱っている茶柱先生へと、知恵と二人で畳み掛ける。

 

「…………分かった。流石に私も、まだ『女』としては枯れたくないのでな。面倒と迷惑をかけるが、よろしく頼む」

 

 そして、茶柱先生の口から了承の返事が零れ、俺と知恵は顔を見合わせてニヤリと嗤うのであった。    




本作はあくまでも一刀の一人称作品なので、情報や設定を補完しようとすると、どうしても描写がくどく、それでいて長くなってしまいがちなんですよね。
悩みの種と言えば悩みの種なんですが、ここら辺をシッカリと描写しておかないと、それはそれで『中身が薄い』とかとか叩かれかねませんし……。

『パワーゲイザー』も、言ってみれば『恋姫』とクロスしているが故の、馬鹿げた攻撃力や破壊力を描写するための一つです。常人にはできやしない光景ですし。
その一方で、読者に対し気功の補足をしたわけですね。
気による強化とかで真っ先に疑問に思うのが、足し算方式なのか掛け算方式なのか、だと個人的には思ってます。
それに対する回答ですね。どちらもありますが、どちらを使用しているのかは使用者本人も分かっていない場合が多いです。
何とも玉虫色の回答ですが、ある程度幅を狭めつつ完全には断定しないからこそ、選択肢の幅が広がるのも事実です。
それと同時に、現在の一刀は治療以外に気功でどんなことができるのか? それを簡単に示した形です。
『パワーゲイザー』とかの名称を持ってくる辺り、手抜きと言えば手抜きなのですが、分かりやすさ・伝えやすさという点で名作を使って比喩するのは打ってつけですし、その点はご理解をお願いします。

また、互いの人間関係も作品を織り成す上で重要な部分です。
人間ですので、成功もすれば失敗もしますし、傷を抱えていたりもします。
その一方で、失敗から成功に転じたり、傷が癒えたりするのも事実です。
独りだからこそ分かることやできること、逆に独りでないからこそ分かることやできることだって沢山あります。

本作は二次創作故の独自解釈や独自設定を所々に詰め込んでいますが、その一方で『そういう風に解釈できる余地』はある筈ですし、本文中なり後書きなりで説明しているつもりです。

佐枝と知恵は同じ一件を契機に傷を抱えていますが、あくまでも契機が重なっただけで、傷の種類は全然違います。
それ故に、それぞれの考える『傷の乗り越え方』や『傷の捉え方』も違っていて然りです。
今の知恵は一刀の協力もあって、一足先に傷を乗り越えています。
だからこそ、余計に佐枝をもどかしく思いつつ、佐枝の繊細な部分に触れることもあって迂闊な真似はできずにいました。
知恵の考えだと、佐枝に傷を克服させるのにも一刀の協力は必要不可欠ですから。そもそもが『男』絡みの問題である以上、解決には高確率で『男』が必要になりますし。
自分がいて、佐枝がいて、一刀が同じ場所にいる。その上で余計な邪魔者がいない。そんな機会が、漸く巡ってきたわけです。
知恵としては、このチャンスを逃すわけがありません。結果、嬉々として動き出し、ハーレムメンバーを増やしたい一刀もそれに乗った形です。佐枝も妊娠させるという、知恵との約束もありますしね。

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