※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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北郷伝:60

 深夜。

 生徒の誰もが寝静まった時間帯。

 そんな時間に俺はムクリと起き上がり、そのまま地面に降り立った。

 そう、俺はテントではなくハンモックで寝ていた。スポットの大量占有やCクラスとの交渉で物資に余裕ができたからであるし、せっかくのアウトドアということでハンモックでの就寝を希望する生徒が一定数いたからでもある。まあ、そんな理由でもなければ、わざわざハンモックを買う必要はない。

 俺がそれを利用させてもらっているのは、やはりリーダーとしてスポット占有に動かなければならないからだ。多人数が寝るテントで動き出されると周りも目を覚ましかねないし、それよりは……ということだ。

 そのため、必然的に有栖と星もハンモックで寝ている。……まあ、ハンモックで寝ているのは他にもいるが。

 そうして起き出した俺は、とあるテントへと向かう。言うまでもなく教師用のテントである。

 現在、DクラスとBクラスは同盟を結び、それに伴い一緒に行動をしている。必然、ベースキャンプを構えているのも同じ場所だ。

 そして、それぞれのクラスの担任は、自分の担当クラスと共に試験終了まで行動を共にするルールとなっている。である以上、ここには知恵と茶柱先生が使う教師用の拠点もあるということになる。

 教師用の拠点と言ったところで、使う物自体は生徒と大差があるわけではない。それでも、教師用テントが生徒へ支給されるテントより多少小さくても、独占できるかどうかというのはストレス面を始め大きな違いがあるのは間違いないだろう。

 俺は、そんな教師用テントの一つへと足を踏み入れた。最初に向かったのは担任の茶柱先生ではなく知恵の方だ。

 それも当然というもので、いくら約束を取り付けたとはいえ、時間の経過と共に茶柱先生が冷静になっている可能性は否めず、この期に及んで撤回しようとする可能性がないではない。それを防ごうとすれば、やはり独りよりも二人の方が安心で安全だ。

 Tシャツにスパッツというラフな格好で寝入っている知恵に対し、俺はキスを仕掛けることにした。ただ起こすのも芸が無いし、寝ぼけて叫ばれても面倒というものだ。無論のこと、胸を揉むのも忘れない。

 

「ッ……!? んんっ!? んんっ❤」

 

 まあ、流石にそんなことをすれば目を覚ますのも道理である。目を覚ました瞬間こそ驚きを露わにした知恵だが、相手が俺だと分かった途端に積極的に舌を絡めてくるのだから可愛いものだ。

 

「やっ、知恵。約束通りに来たよ。これから茶柱先生のところに行くんだけど、協力を頼む」

「もう、普通に起こしてくれればいいのに……。でもま、分かったよ。流石に時間が経って、佐枝ちゃんも幾らか冷静になってるだろうしね。うん、私の方を先に訪ねたのは好判断だよ」

 

 ウンと伸びをしながらもそんなことを言い、最後に知恵は俺の鼻先にチョンと人差し指を触れた。何ともまあ可愛らしい態度である。生徒からの人気があるのも分かるというものだ。

 起き出した知恵と共に、今度は茶柱先生のテントへと向かう。

 さて、どうやって起こすか? 思案する俺を余所に、知恵は一人でテントの中へと入っていく。俺の方を向き、その唇の前に人差し指を立てたあとで。

 つまりは、黙って見ていろ、ということだ。俺は頷き、静観の構えを取る。

 そして茶柱先生のテントへと入っていった知恵は、俺が知恵を起こしたのと同様に、自身の唇で茶柱先生の唇を塞ぎに掛かった。美人教師同士のキスシーンに、俺も俄かに興奮する。

 しかし、茶柱先生は寝る時もジャージなんだな。本当に知恵とは対照的だ。見た目カッチリとしていながら雑なのが茶柱先生なら、その逆に見た目雑ながらカッチリとしているのが知恵と言えるだろう。

 少なくとも、教師としての能力を評価されているのは間違いなく知恵の方であり、それは担当クラスにも表れている。

 

「ッ……!? んんっ!? んんっ! ぷはっ。知恵、お前なぁ……」

 

 驚愕に目を覚ました茶柱先生は、しかし知恵とは違って積極的になるのではなく、むしろ知恵を押し退けた。そのまま荒く呼吸を行い、呆れた視線を知恵へと向ける。

 

「あ、起きた起きた。んじゃ、行こっか佐枝ちゃん」

 

 だが、知恵はそんな茶柱先生の態度を意にも返さない。

 

「行く? 行くってどこへ……ッ!? 北、郷?」

 

 知恵の言葉に首を傾げた茶柱先生は、そこで漸く俺の存在に気付いたらしい。

 

「はい、俺です。約束通り、先生を慰めに――イイ男ってのを教えに来ましたよ」

「ああ、そうか……。そうだったな……。北郷、すまんがあの話しは無かったことに……」

「もう~、佐枝ちゃん往生際悪~い。私がいる限りは逃がしませ~ん。いい加減、佐枝ちゃんも『本当にイイ男』ってのを知るべきだよ。

 それに、何だかんだ私たちもいい齢なんだからさ。機会を逃すと、子供だって産めなくなっちゃうよ? 女として生まれて、それは流石に寂しいじゃない? だからさ? 佐枝ちゃんも私と一緒に一刀くんに孕ませてもらお? 一刀くんも約束してくれたよ。卒業する時には妊娠させてくれるってさ」

「は? 知恵、お前何を言って……」

 

 知恵の直截的な言葉に、茶柱先生は理解が追いついていない模様である。

 

「別に、知恵は難しいことを言っているわけじゃありませんよ。知恵は『教師』であると同時に『女』ですから。『女』として、妊娠・出産を望むのは何もおかしなことではないでしょう?

 まあ、茶柱先生としては俺が相手なことに思うところがあるのかもしれませんが、だからこそ、一度実際に俺とヤってみれば分かりますよ。本当にイイ男ってのには、年齢なんて関係の無いことが。

 まさか、『実力者の育成』を掲げる学校の教師が、年齢を言い訳に否定なんてしませんよね? 言い換えれば、『イイ男』もまた『実力者』なんですから。倫理上、バレれば確かに問題かもしれませんが、逆に言えば、バレなければ――いえ、たとえバレても表沙汰にならなければ問題は無いってことです」

「それ、は……」

 

 俺の暴論にも等しい言い分に、茶柱先生は言い返せない。

 当然だ。暴論であろうと論は論。現実性や実現性の高さを度外視すれば、そこには確かに一定の筋が通っている。 

 そして、その低い可能性を現実にしてしまうからこそ、『実力者』と言えるのだ。

 同時、その論法が罷り通っているのが『高度育成高等学校』であり、茶柱先生はそこに勤める教師なのだ。ならば、尚更否定できるわけがない。

 

「分かったら、早く移動しましょうか。それとも、ここでしますか? 俺は別に構いませんよ。もしかしたら他の生徒にバレて、それを切っ掛けに大乱交大会に発展してしまうかもしれませんが、誰が発端という証拠があるわけでもありませんしね。

 仮に誰かから証言が上がろうと、その程度では……。学校側にも散々と実力をアピールしている俺に比べると、その誰かに対する重要度も、言葉の重みも違うでしょう。良くて黙殺、悪ければ誰かに責を与えて終わりでしょう。それが組織というものです。

 また、規模が規模故に、学校側は問題にしたくとも逆に問題にできないでしょう。多少の罰則は適用されるかもしれませんが、学校側にできるのはそれが精々です。まさか表沙汰にして、『高度育成高等学校の新入生、試験中に大乱交!』なんて一面記事を作るわけにはいきませんしね。

 とはいえ、何から何まで隠し通せるわけもありませんので、基本的には全く別の問題をでっちあげて、真実については当事者たちに口外禁止を強いるのが妥当なところじゃないですかね?」

 

 そして、ここぞとばかりに俺は脅しを掛けた。

 ここでヤった場合、現実として起こり得る可能性の一つを口にする。可能性ではあるが、実際にそうなる確率は高い。

 その理由は三つある。

 一つは、この場所では、普段以上に男女の距離が物理的に近いことが挙げられる。男女を隔てているのは、施錠可能なドアではなく、壁より薄く施錠もできないテントなのだ。それどころか、ハンモックであれば隔てるものなど何もない。

 高校生なんてのは、元より性行為に興味津々な年頃だ。ふとした切っ掛けでタガが外れてしまう可能性は否定できない。それを抑制するためのペナルティなのだろうが、結局のところ、それでできるのは抑制が精々だ。完全な防止には至らない。絶対に問題など起こらない! とどうして断言できようか。

 二つ目の理由として、この場所では証拠能力が著しく低下するからだ。学校の敷地内と違い、監視カメラが点在しているわけではないのだ。必然的に、証拠能力が高いのはポイントで購入する撮影機器が一番となり、次いで証言が二番となる。

 だが、この証言というものが曲者だ。こういう場合、往々にして、正しいのは『物事の道理』ではなく『発言者の実力』になりがちなのだ。

 そして、この学校が『実力者の輩出』を掲げている以上、実力者を優先するのはむしろ当然である。そして一年の中において、俺ほどの実力者はそうはいない。最終的には、『北郷一刀が女好きだからこそ、北郷一刀を原因にしようとした』という結論と誰かへの責任の押し付けで終わりだろう。

 そして三つ目。規模が大きすぎるからこそ、逆に表沙汰にできない。幸いにして、常以上に監視の目が行き届かない『無人島』という環境下だ。元より外部に知られる理由はなく、知られたとしても如何様にでも言い訳は付けられる。そうなれば、『乱交があった』という事実など残らない。

 それは否応なく被害に遭った生徒に対して泣き寝入りを強いる行為だが、そんなのは普段からやっていることだ。入学したての一年生に対する仕打ちなどその典型だろう。だからこそ、その内容だけでどうこう言うことなどできやしない。

 被害者は危機意識が足りなかった。極論すれば、この一言で片づくからだ。何故ならば、リタイアだって可能なのだから。それは試験ポイントと引き換えになるが、『鍵付きの部屋で就寝できる』というこれ以上ないほどの安全確保に繋がるのは間違いない。

 無人島における共同生活という環境に追い込んだのは確かに学校側ではあるが、その一方で確かに退避手段は用意されているのだ。その上で――色々なものを秤に掛けた上で、島での共同生活を選択したのは生徒当人である。

 ならば、そうなる可能性も想定して然るべきであり、後からどうこう言うなど実力者にあるまじき行為である! という結論に持っていくことだってできなくはないのだ。

 茶柱先生もまた高度育成高等学校の教師であるからこそ、言及されればそうなる可能性の高さを理解せずにはいられないのだろう。その表情は見るからに顰められている。

 

「まったく……。お前はトコトンまで追い詰めてくれるな。それでいて、綺麗な手段も汚い手段も分け隔てなく使う。本当、学生にしておくには惜しいくらいだ。

 分かったよ。流石に私だって大乱交大会は御免だからな。移動するとしよう。……だが、どこまで行くつもりだ? 移動には賛成だが、緊急事態が起こる可能性自体は否定できないし、ここから離れすぎることはできんぞ?」

 

 茶柱先生の言は尤もだ。そうそう緊急事態なんてものが起こるとは思えないが、その楽観に付け込むようにして起こるからこそ緊急事態なのである。

 

「どのくらいが許容範囲なんですか? まさか、教師だからってまるっきり散歩が許されていないわけじゃあないでしょう?」

「ま、そりゃあね。こんな試験だからこそ、生徒が寝静まった後で束の間の自由を満喫するのも珍しいわけじゃないし。泳ぐ人もいれば、夜散歩に繰り出す人だっている。……そうだね。夕方に行った川くらいなら許容範囲じゃないかな? もちろん、メッセージは残しておく必要があるけれど……」

「じゃあ、そうしましょうか。川なら、行為の後始末だって簡単にできますし」

「は~い、りょうか~い。んじゃあ、私も自分のテントにメッセージ残してくるから、ちょっと待っててね?」

 

 言って、知恵は独り元いたテントへ戻っていった。

 その間に、茶柱先生もまたメッセージを用意している。内容は非常に端的で、川に散歩に行ってくる、これだけだ。

 知恵が戻ってくるのを待って、三人で仲良く川へと向かう。ビニールを利用した風呂敷に懐中電灯を始めとした道具を詰めて持っていくのも忘れない。

 道中、忘れずにアラームをセットする。俺はスポット更新に向けて動かなければならないため、それを考慮して拠点に戻る必要があるためだ。

 

「お二人のアラームもセットしてもらっていいですか? 一つだと心許ないですけど、三つもあれば流石に誰か気付くでしょうし」

「ああ、そうか。お前はスポット更新に向けて動く必要があったな……。まあ、構わんぞ。クラスの食生活が安定すれば、こちらもお裾分けをもらえるしな」

「同じく~。や~、生徒と違って教師には無条件で毎食用意されるんだけどね。生徒たちが試験中ということもあって、基本的にその内容は『お察し』レベルなのよ。だからって声高に文句や不満を言うつもりはないけど、流石にね。だから、生徒からのお裾分けが数少ない楽しみなのよね」

 

 俺の頼みに対し、二人は快く了承を返してくれた。……が、その内容にはそこはかとなく物悲しさが漂っていた。

 そりゃまあ、言ってることに理解はできる。

 試験を監督する側として、教師には食事が毎回用意されるのはおかしくない。むしろ、当然だろう。

 その一方で、試験への取り組み方次第だが、基本的には毎食の用意も一苦労なのが生徒たちの立場だろう。

 そんな状況で、教師がムシャムシャと豪勢な食事を摂っていたら、果たして生徒たちはどう思うか? いくら担任とはいえ、反感を覚えて然るべきだろう。

 だからこそ、教師の食事にはそこら辺が考慮されているのが道理だろう。生徒たちの理解と納得。そこら辺を突いた食事が用意されるわけだ。……が、生徒たちの場合、最底辺の食事は本当に最底辺だから、必然的に教師の食事のグレードもそれに連なるレベルとなる。

 この環境では、買わない限り米やパンを食べるのも難儀そうだから、それを踏まえて考えると、おにぎりやサンドイッチが用意されるかも分からない。そうやって考えると、最も可能性が高いのは芋だろうか?

 毎食毎食、学校側で用意した芋料理(簡易)を黙々と食べる先生たち。……くっ、想像すると涙が。

 

「一刀くん。な~んか、失礼なこと考えてない?」

「ハッハッハッ、いやいやまさかそんな……」

 

 俺は、ジト目を向けて追及してくれる知恵に対し、何とか笑って誤魔化すのであった。




『二人を起こして、ヤるために川に向かった』。

言ってしまえば、たったこれだけを描写するのに内容が膨らんでいるわけですが……。
どうして川に向かったのか? 起きたときに他に誰も起きなかったのか? 約束を取り付けたとはいえ、数時間も経てば茶柱先生も冷静さを取り戻してるんじゃない?
こういったあれやこれやに対する説明や、試験中における先生たちの食事情といった疑問点への解釈を書いていれば、自然と膨らんでしまいました。

この状況下で大乱交でも起こった場合、高確率で学校側の想定を超えた事態だと思います。
各クラスに同行するのが、担任教師だけというのも、その可能性を助長します。
普段以上に距離の近い状況での就寝で、男女を隔てるものも普段以上に薄いことを鑑みると、学校側も状況を楽観的に考えていると判断せざるを得ません。
だからこそ、実際に大乱交でも起こってしまえば、逆に表面化はできないと思います。学校側の落ち度であることも事実ですし、そんな理由での退学なんて表沙汰にできません。
じゃあ、大量退学を実行するに当たっては、どんな問題なら大丈夫なのか? そんなものはないでしょう。大量退学を実行した時点で、間違いなく学校には傷が付きますから。
大乱交という事態だからこそ、学校側としては、被害に遭った生徒に泣き寝入りを強いる可能性が高いです。精々がPPを支払っての示談になるでしょう。生徒がそれを受け入れないのならそれまでです。PPすら支払われません。
本文中でも描写してますが、状況的に、生徒たちはそうなることを考慮した上で島に残っている形になるわけですから。少なくとも、そういう見方ができる一面があるのも事実です。

高度育成高等学校の教師として、茶柱先生にはそれが理解できました。
同時、ついて行かなければ、一刀がその選択を取る可能性を否定しきれませんでした。
『1%しかない』と捉えるか、『1%もある』と捉えるかは人それぞれです。
結果、茶柱先生は後者に捉えたわけです。
高校生という年頃が性行為に興味津々なのは間違いのない事実ですので、この場所でヤり始めた場合、その波は瞬く間に伝播するでしょう。
そして一度そうなってしまえば、証拠能力の薄いこの島では原因の特定など不可能です。
そういった理由もあり、諦めて受け入れたわけですね。

自分で書いてて暴論の類であるのは認めますが、それでも『絶対にない』とは断言できない展開だとは思っています。

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