※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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北郷伝:61

 やりすぎた……。

 いつもの感覚に戻した俺は、現状に深々と溜息を吐いた。

 

「深々と溜息を吐いて、どうかしましたか? 北郷一刀」

 

 それを見た藍が問いかけてくる。言葉だけなら何の問題もないが、やっていることを鑑みると問題がありすぎる。何せ、現在進行形で俺の足指を舐めしゃぶっているのだから。

 事が終わった後、自分のことを『北郷一刀の性奴隷兼肉便器兼マゾ豚兼ハーレムメンバー』と定義づけた藍が、佐枝と知恵に相談した結果である。

 藍の立場にしてみれば当然のことではあるだろうが、その性知識は非常に限定的というか、ふんわりとしたものだったのだ。高校生の身には過ぎた極度の快感から、『北郷一刀の性奴隷兼肉便器兼マゾ豚兼ハーレムメンバー』という立場を受け入れたはいいが、じゃあ何をすればいいのか? 何をするべきなのか? と首を傾げるのは仕方のないことである。字面から何となくの想像はできても、所詮はその程度だ。

 そして、分からないことがあるなら教師に訊いてみるのは、生徒としてはやはり当然のことではある。

 気を失っていたが故に詳しい事情を知らず最初は驚いた二人だったが、事情を聞けば納得するのは早かった。そして大人だけあって、学生の身である藍に比べれば二人の知識は豊富だった。主には創作物による知識ではあったが。

 結果、手始めに、ということで提示されたのが俺への足舐めであり、藍は何一つ不満を言うこともなくそれに従っているわけだ。

 

「あ~いや、こっちのことだから気にしなくていい」

 

 俺はそう答えるより他にできなかった。他ならぬ本人に対して、君への仕打ちについて後悔しています、なんて言えるわけがない。

 

「……そうですか?」

 

 小首を傾げた藍は、再び奉仕作業に戻る。

 まあ、受け入れるしかないのが事実ではある。気持ちいいのも、Aクラス内に新たな『駒』ができたのも確かなのだから。主観的に見ても、客観的に見ても、メリットの方が大きい。

 

「純粋な疑問だけど、足舐めの感想はどんなもん?」

「普通に屈辱を感じてますよ、はい。ただ、その一方で快感を覚えているのも事実です。

 元から私がそのような人間だったのか、北郷一刀の手でそのように変えられてしまったのか、屈辱と快感が直結するのは北郷一刀だけなのか……諸々の興味は尽きませんが、少なくとも、私があなたから離れられなくなったのは事実です。私も人間ですからね、あれほどの快感を与えてくれる相手を逃すのは惜しいというものです」

 

 足舐めを続けながら、藍はそのような返事を寄越した。そして、更に言葉を続ける。

 

「とはいえ、勘違いしてほしくはありませんが、私は北郷一刀の完全な味方になったわけではありません。そもそも所属するクラスが違いますしね。である以上、当然の如く敵対行動も取ります。こうなってはAクラスでの卒業に執着する理由も薄いですが、それはそれ。高評価を受けて困ることもありません。

 まあ、その一方で場合によっては北郷一刀の味方もしますが。

 坂柳有栖がクラスからいなくなったとはいえ、代わりに孫蓮華が立つのであればAクラスに揺らぎはないとは思います。しかし私の見たところ、ある意味で孫蓮華は坂柳有栖よりも優しく、甘い。それが蟻の一穴にならないとも限りませんし、その意味でも保険は必要でしょう」

「それならそれで構わないさ」

 

 行為を別にすれば、藍の受け答えは明瞭だ。少なくとも、端から見て俺たちの関係がバレる可能性は低いだろう。

 

「しかし、その言葉からすると、藍は蓮華の派閥なのか?」

「どちらかと言えば、ですね。私自身は中立のつもりです。都度都度、個人的にAクラスにとって利と感じる方を選ぶ。言ってみればそれだけです。

 そうですね。北郷一刀、いい機会ですから意見交換でもしませんか?」

 

 足舐めを終えた藍は、川の水で口をゆすぎ終えると、そんな提案をしてきた。

 

「意見交換は構わないが、お題は?」

「各クラスについて、というのはどうです? 一学期が経過したことは事実ですからね。多少なりと、見えてきたもの、感じているものはある筈です」

「面白いな。じゃあ、Aクラスから順に行こうか。言い出しっぺのそちらからで構わないかな?」

「構いませんよ。……前提として、各クラスの初期配属生徒は学校側が生徒の過去を調査した上で配属先を決めています。まあ、一之瀬帆波の例を見て分かる通り失敗もあるようですし、坂柳有栖のように状況次第で評価を覆すこともあるようですが……。

 評価項目として考えられるのは、学力、頭の良さ、決断力、身体能力、コミュニケーション能力、過去といったところでしょう。ここまでは共通認識として構いませんね?」

「ああ、そうだな」

 

 学力と頭の良さは必ずしも一致しない。『頭の良さ』は、言ってしまえば『柔軟性』や『閃き』だろう。

 コミュニケーション能力とは、言ってしまえば社交性だ。当然、そこには礼儀なんかも含まれているだろう。

 有栖は杖を使わずに歩けるようになったことで、それまでは加えられていた身体能力方面の補正がなくなった。それにより、Dクラスに落ちることとなった。

 帆波はAクラス相当の優秀な能力を持っているが、中学三年時における半年間の不登校を理由として、Bクラスに初期配属されていた。少なくとも、帆波はそのように推察していた。

 だが、改めてデータを照会することで、教師の中から判断ミスを指摘する声が上がった。生徒会長としての職務放棄と責任感の欠如を考慮していない、というのがその理由だ。人事考課に口出しをしないにしても、流石に限度があったということだろう。

 その理由は尤もであるし、そう言われてしまえば、帆波自身もその言を否定はできなかった。だから、帆波もまたDクラス落ちを受け入れた。

 

「その上で、Aクラスに配属されている生徒は学力を第一に評価して置かれています。Bクラスはコミュニケーション能力で、Cクラスは身体能力や反骨心。その上で、他の評価項目を順当に割り振っているのが大半でしょう。

 ただし、それだけだと傾向が完全に固まってしまうので、中には敢えて正反対の評価を受けた生徒も配属されていると考えられます。特にBクラスとCクラスはその典型でしょう」

 

 そうして振り分けられたのが、Bクラスでは姫野さんであり、Cクラスでは桂花たちや椎名さんになるのだろう。

 順当に考えると、退学機会が最も多いのは、定期的に行われる学力試験となる。Aクラスの場合、その基準が高い生徒が揃っているのだから、それで十分となるわけだ。

 

「そしてDクラスは、言ってしまえば闇鍋です。全体的に能力は高くても明らかな欠陥を抱えている生徒、過去に問題がある生徒、一能突出型の生徒で固められているわけですね。傾向がバラバラだからまとまりが悪く、だからこそ、何が起こるか分からないのでクラス逆転の可能性も十分にあります。

 端的に言えば、それぞれのクラスには優劣なんて存在しません。単にクラス毎の長所と弱点が異なるだけです。Aクラスが最優なんてのは、学生に対する評価基準は学力が第一だからでしょう。その点で言えば、確かにAクラスが優秀というのも嘘ではないわけですしね。

 にも拘らず、Aクラスという事実を笠に着て驕り高ぶっている戸塚という生徒もいるのですから、同じAクラスとしては困ったものです」

 

 そう言って藍は溜息で閉めたわけだが、俺も同意見である。

 

「いや、驚いたな。今の時点でそこまで考察している生徒がいるとは思わなかったよ。……まあ、俺も軒並み同意見だ」

「えぇ~、つまらないですね。単純に自分の考えが補強されるのは嬉しいですが、何かしら反論もくださいよ」

「そう言われてもな……。こっちだって現時点で得られている情報は限られているんだから、敢えて反論を探すのも難しいんだ。俺が先に今の意見を口にした場合、藍は反論できたか?」

「む……。そう言われると困ってしまいますね」

「まあ、敢えて探すなら、Aクラスは有栖という突出した頭脳面の天才を失った代わり、運動面における突出した足手纏いも消えたことになる。それと同時、攻撃性の強い有栖がいなくなったことで、防御能力が高まったことも間違いではない。どこに重きを置くかでも評価は分かれるだろう。

 同じことはBクラスにも言える。帆波がいなくなったのは確かにダメージが大きいだろうが、帆波に頼りがちな状況からの脱却にも繋がった。

 その上で、クラスを統率するために、クラスを鍛え上げるためにどのような方法を取るかだ。結局はそれ次第だろう。

 そして帆波の代わりにBクラスのリーダーとなった白蓮は、俺たちDクラスと同盟を結ぶことを選択した。それも、敢えて自分たちを『下』に置く形での従属同盟だ。そう易々と取れる方法じゃなければ、認めさせるのも簡単じゃあない。それをクラスメイトに認めさせた辺り、白蓮の能力は確かに侮れないものがある。

 まあ、そんなのは元から分かっていたことではあるんだが……。本人の自己評価が低いだけで、白蓮は紛れもない天才なんだよ。それも突出型じゃなく万能型の天才だ。多方面において、ベスト3には入れなくてもコンスタントにベスト10には入れる、と言えば分かりやすいか?」

 

 本当に、白蓮が同じクラスでないのが痛い。いやまあ、敵対相手として見ればそれだけ好敵手になり得ることでもあるから、結局は痛し痒しなんだが。

 

「なるほど。公孫白蓮とは北郷一刀がそれだけの高評価を下すに値する逸材でしたか。それを知れただけでもありがたい限りです。

 それに、Dクラスも難儀そうなのがよく分かりました。ただでさえ闇鍋感が強いところに、坂柳有栖と一之瀬帆波が加わり、生徒のトレードも起こったわけですからね。闇鍋感は更に増し、統率するのも一苦労なことでしょう。実際、そのストレスが、あの鬼畜プレイに繋がっているのではないですか?」

 

 会話の流れの何気ない一言だったのかもしれないが、その意見には意表を突かれた。貂蝉から話を聞いたことで龍の影響ばかりを考えていたが、言われてみれば、ストレスの影響だってありそうだ。というか、絶対にあるだろう。仮に他のクラスに配属されてたとするなら、ここまでの苦労はしなさそうだし。

 

「ストレスか……。当たり前すぎて逆に見逃していたな……」

「おや? その様な物言いをするということは、ストレス以外の心当たりがおありで?」

「ああ、ある。むしろ、そっちの可能性ばかりを考えていたのが正直なところだ」

「訊いても構いませんかね?」

「俺が異世界帰還者だってのは話したと思うが、正確に言うと肉体はそのままに精神のみが旅立っていたことになる。俺がDクラスに配属されている原因だな。中学一年生の時にそれが起こって原因不明の意識喪失状態に陥った俺は、それから二年間を病院のベッドで過ごしたんだ。

 三年生の時に意識を取り戻したはいいんだが、その際に異世界での記憶と向こうで得た技能や知識がフィードバックされたみたいでな。その中に『祝福』とも『呪縛』とも言えるものがあったんだよ。付け加えれば、この島に来る道中、船の中でその手の知識に詳しい奴から話を聞いたことで、より自覚が高まった。」

「なるほど。まあ、おかしくはありませんね。基本的には『利点』とされる能力も、全ての場合で『利点』となるわけではありません。場合によっては『欠点』や『弱点』にもなるでしょう。

 あとは、RPGで登場するような『呪い装備』なんかも典型ですね。強力である反面、何らかのデメリットが付いて回るのがお約束です。……話を聞く限り、北郷一刀はこちらの方ですかね?」

「……すんなりと受け入れるんだな。むしろその方が驚きだ」

「信じきれているわけではありませんけどね。ただ、世の中には科学や何かでは証明しきれないものが存在するのも事実ですので。

 それでも、8割くらいは信じていますよ。先ほどの行為の最中、北郷一刀が私に対して『快感増幅』とでも言うべき技能を使ったとするなら、納得もしやすいですので」

 

 俺の疑問に対して藍は淡々と返す。……が、それは的を射たに等しい推測だった。

 

「お見事。異世界帰りの恩恵として俺は気功を使えるわけだが、俺の気功にはちょっとした特色があってな。問答無用で女性に快感を与えるんだよ。さっきはジュニアを気功でコーティングしていたわけだな」

「道理で……。いきなりそのご立派なモノで喉奥を突かれて、それでも快感を覚えるなんて我ながらおかしいと思いました。

 しかし、よろしいのですか? そんなに簡単にネタ晴らしをして?」

「藍はもう俺のハーレムメンバーだからな。どうせ遅かれ早かれだ。……それに、知ったからって何か変わるか?」

「絶対にとは言いませんが、おそらくは無理でしょうね。今更知ったところで何が変わるとも思えません」

「だろう? ……俺を恨むか?」 

「分かりません。あのとき、私が北郷一刀に選択を委ねたのも間違いないのです。その結果としてこうなったからといって、それで恨むのは筋違いでしょう。逆恨みというものです。……と、頭では理解してますが、私もまだ少女ですからね。すんなりと感情が納得してくれるかは分かりません」

 

 アンニュイな表情で藍は語った。

 俺はその表情を心に刻み付ける。刻み付けないわけにはいかない。俺が歪めてしまった結果なのだから。

 そこで、セットしておいたアラームが鳴った。

 

「……散歩にしては時間を使いすぎてしまいましたね。そちらも戻るのでしょう? 私も戻ります。

 ああ、北郷一刀。私に行ったことに対して悔やむ必要はありませんよ。悔やむくらいなら、今後も継続的に私に快感を与えてください。それが、私があなたに与える罰であり、『ハーレムの主』としてのあなたの責務ですよ」

「言われるまでもない。学校に戻ったら、君は俺の部活に入れ。部活名に偽りはないが、その一方でこの学校における『裏』が凝縮した部活だ。さっき以上に激しく攻めてやるし、満足させてやる」

「期待しています。とはいえ、二週間はある旅程なのです。その間にも愉しませてくれたらありがたいですね」

 

 片手を振りながら藍は去っていった。

 それを見送り、俺たちもまたベースキャンプへ戻るのであった。




表向き、藍にそこまでの変化はありません。よっぽど注視しない限り、第三者がその変化に気付くことはないでしょう。
日常とのオンオフがシッカリと機能していると考えてもらえればいいかと思います。

意見交換という形のコミュニケーション。本来ならコミュニケーションを重ねてから行為に入る筈ですが、順番が前後してしまいました。

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