※この作品はR-18です。

東京都高度育成高等学校・北郷伝   作:山上真

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北郷伝:66

 スポットの更新をして、未探査範囲の探索をして、点呼に戻る。

 もはや、これが朝方における一つのルーチンと化していた。正直、バランスがいいのである。

 島に上陸したのが正午の辺り。そこからルール説明やらがあって、行動開始が13時頃。初回のスポット占有に費やしたのが、一時間~一時間半ほど。つまり、二回目の更新は21時~22時30分辺り。当然、20時の点呼は終わっている。そして三回目の更新が、午前の5時~6時30分辺り。

 探索範囲の増加に伴い新たに占有したスポットも中にはあるので、あくまでもザっとした時間分けだが、大幅には間違っていない。

 点呼の時間と探索時間が被っていないのは、正直に言って嬉しい限りだ。こちらでそのように調整した面がないではないが、おそらく試験そのものが、スタートダッシュで優位に立てるように設計されている一面があるのだろう。点呼というルールの存在を鑑みた場合、そのようにしか思えない。

 そんなわけで、朝の時間帯は点呼さえ済ませてしまえば割かし暇である。……まあ、探せばやることは沢山あるのも事実だが、正直に言えば仕事を探してまでやりたくない。今の俺はそういうメンタルだ。

 だがまあ、何事も捉え方次第ではあるので、探す必要のない仕事であればやってしまうのだが。

 現在は、その代表格である塩づくりの真っ最中だ。現在の状況で一番手に入れやすい調味料が塩であり、調味料がなければどうしても料理が味気なくなってしまうので、味の付いた料理を食べたければやるしかない。

 そりゃまあポイントで買うこともできるが、人数が馬鹿にならないため、ポイント任せだと塵が積もって山になりかねないのだ。一クラスが約四十人なので、一人暮らしに比べれば四十倍だし、五人暮らしの家族なら八倍の消費量だ。塩に限ったことではないが、その時点で計算が狂いやすいのは事実である。

 たかが数日。されど数日。『まだ保つだろう』が、いつの間にか『もうないんだけど!?』になりかねないのだ。しかも、調味料次第でその頻度は跳ね上がる。そんなところにポイントを無駄使いしてはいられない。

 その解決策が塩の自作である。とはいえ、現在は夏で、ここは日差しの強い無人島だ。最初の準備さえ済ませてしまえば、出来栄えに拘らない限りは割かし簡単だろう。

 砂浜にある程度の穴を掘り、その上にシートを広げ、『海の家』に最初から置かれてあった鍋を使用してそこに海水を流し込む。……平たく言えば塩田方式だ。

 どうせ後でろ過するのだし、熱の吸収をさせやすくするためにも砂を混ぜる。そうして塩田の水が減ってきたら、再度海水を足す。暫くはこれの繰り返しだ。

 塩田の方は誰か一人が様子を見ていれば十分なので、その間に簡易かまどを用意する。これまた探せば適度な大きさの石や焚き木用の枝なんかも見つかるので、これもそんなに難しくはない。

 かまどを用意したら火付けだ。ライターなどに頼らなければ火付けは割かし面倒だが、頼らなくても火付けはできるし、慣れればそれほど難しくもない。

 塩田の濃縮海水を鍋に移してかまどに乗せ、鍋の水が白く濁るのを待つ。そしてグルグルとかき混ぜ、他に用意した空鍋に予備のTシャツを掛け、その上から白く濁った海水を流し込む。簡単に言えばTシャツを利用したろ過作業である。

 そうして、ろ過した液体を再度火にかける。先ほど以上に煮詰まったそれを、別のTシャツを利用して再度ろ過。男女ともに予備のTシャツは持っているので、それらを利用すれば一回ごとに洗いに行く必要はない。

 結果、Tシャツの上には塩が残り、鍋の中にはにがりができる。まあ、現状でにがりには利用用途がないので捨てるしかないのだが。

 

「……とまあ、塩づくりはこれで完成。流石に、店で買うような物には及ばないだろうけどな」

「……いや、十分でしょ、コレ。普通に塩だよ」

 

 塩づくりに参加していたメンバーが、出来上がったそれをペロリと舐めて感想を言う。全員から概ね高評価を頂いた。

 

「特に、一度下準備を済ませちゃえば、次からはそれほど労力を必要としないところがいいね。火付けに関しては要練習だけど、女子だけでもできそうな仕事内容ではあるし、天候次第ではあるけど、これなら結構量産できるんじゃないかな?」

「うん、そうだね。何なら、ベースキャンプの方から手すきの人たちを引っ張ってきて手伝ってもらってもいいんじゃないかな? 結局のところ、私たち以上に使うのってあっちだろうし」

 

 今後の塩づくりに関して話していると、清隆たちがやってきた。向こうも向こうで、サバイバルでの必須品を作っていたのである。――正確には、作るように頼んだわけだが。

 

「取り敢えずはできたぞ。市販品とは雲泥の差だが、用途としては問題なく使える筈だ」

 

 そう言って清隆が差し出してきたのは石鹸だ。貝殻と海藻をメイン素材として作った代物である。

 そもそも、アウトドアというかサバイバル生活を強制しておいて、最初の支給品に石鹸が含まれていないのがどうかしているのだ。また、歯ブラシは支給されたが歯磨き粉は支給されていない。

 衛生管理を鑑みれば、そこら辺にポイントを費やすのは必須となる。……が、それで支給された物は、クラス全体が使って一週間を乗り切るには心許ないと言わざるを得なかった。

 やはりチリツモ要素が満載なので、自作できるものは自作しようという考えに向くのは道理だろう。知識がなければどうにもならないが、幸いにして知識を有している人物がいたのだし。

 

「そりゃまあ、確かに使い慣れてるのと比べると形とか硬さとかは雲泥の差だけど、要は役目を果たせればいいんだしね。この状況で無理は言えないでしょ。

 実際の使い心地は……うん、いいんじゃないかな」

 

 最初に手触りや形状を確認し、次いで実際に使用しての感想が告げられる。

 俺も試しに使ってみたが、この状況で作ったにしては上々だ。

 

「綾小路に教わりながらやってみたが、こちらも簡単と言えば簡単だったな。焼いて、砕いて、混ぜて、固める。単純な工程としてはこれだけだ。製法さえ分かっていれば、小学生にだって作れるだろう」

「へえ、そうなんだ。興味あるし、そっちの作り方も教わっておこうかな?」

 

 清隆を手伝って石鹸を作ってきた神崎が言う。知識もなく、経験もなかった神崎がそう言っていることもあり、塩づくりに残ったメンバーも関心を示す。

 それは石鹸づくりに赴いたメンバーにも同じことが言え、こちらの作った塩の出来栄えに驚き、興味を示していた。

 

「スポット更新、食材集め、調理、石鹸づくりに塩づくり。俺たちがするべき仕事はそれだけでいいし、それだけやってれば十分だろう。……ああ、石鹸の素材集めもあったか。

 役割分担については……ま、興味のあることを優先に、やれることをやればいいさ。元から試験期間は一週間しかないんだし、無理に手を広げる必要もない」

「そう言ってくれると、俺としても助かるな。正直、調理もできんし、体力もないからあまり広範を動き回るのも得策じゃない。かと言って何もしないのも気が引けるから、俺は塩づくりと石鹸づくりをメインに担当しようと思う。

 まあ、石鹸の素材に関しては集めてきてもらう形になるが。貝殻だけならともかく、海藻となると途端に難度が跳ね上がる」

 

 俺の言葉に輝彦が返す。今回、輝彦は塩づくりに参加していた。

 

「そこに関しては私も同じですね。むしろ、塩づくりと石鹸づくりこそ、体力無い勢がメインで担当するべきではないでしょうか? 極論、移動範囲が限定されますし。

 水汲みは体力を使いますが、『蒸発待ち』という休憩時間もあります。他の仕事に比べれば、その分だけ確実に楽でしょう。

 それは石鹸づくりも同じなのではないですか? 焼き上がるまでの待ち時間、固まるまでの待ち時間は休憩に当てられそうなものですが、実際はどうなんです? 私も知識としては作り方を知ってますが、実際にやったことはないものでして……」

 

 これまた塩づくりに参加していた有栖が続く。

 

「実際、私でも作れたし、体力無くても大丈夫じゃないかな? さっき神崎くんも言ったけど、それこそ小学生でもできそうだったから」

 

 有栖の質問に答えたのは愛里だ。愛里は当然の如く清隆の指揮する石鹸づくりに参加していた。

 

「それが妥当なところでしょうね。体力がなければ、移動範囲も、食材の回収量も必然的に下がってしまうもの。調理に関してはスキルと食材次第かしらね? 

 いずれにせよ、ある程度強制的に割り振られるのは仕方ないと思うしかないでしょう」

 

 それが結論となり、各自の役割が決められていく。

 

「ふと思い出したんだけど、初めての水泳の授業のときに先生が言っていたことって正しかったわけだよね。だって、泳げないと海藻を取って来ることもできないし。って言うか、そういう風に整備されているようだし」

「……確かにそうだな。ある程度の前提条件は必要だが、そこさえクリアしているなら、泳げることが役に立つのは間違いない」

 

 ポンと手を叩いて愛里が言い、それに輝彦が続いた。どちらも補習を受けた面子であり、だからこそ先生のセリフが印象に残っているのだろう。

 

「ほんっと、この学校の何がタチ悪いって、まるっきりの嘘は言ってないことなんだよね。

 謳い文句その一である『学費や生活費の無料』。まともな生活をしようとしたら相応のポイントが必要だけど、使用するのが現金じゃない時点で、確かにお金は使わずに済む。

 謳い文句その二である『希望する進路への高確率での推薦』。これもまあ、『卒業時にAクラス』という限定条件ではあるけど、確かに嘘ではない」

「逆に言うと、『外部連絡の禁止』や『行事以外での敷地外への外出禁止』も、やり方次第ではどうにかできるってことだよね? まあ、単純に思いつくのはポイントだし、どれだけかかるかも分からないけど……」

「流石に今は無理だが、学校に戻ったあとなら、『外部連絡』はやってやれないこともないぞ。……まあ、それには桃香や蓮華の協力が必要なわけだけど」

「どういうことかしら?」

 

 俺は『三國』の会員制ブログを利用した情報交換について教えた。

 

「……なるほどな。実を言えば、俺も入学前に父親から企業用のコードを渡されたんだ。限定的な社内ブログの閲覧と書き込みしかできないとのことだったが、つまりはそういうことなんだろう。……正直、その話を聞くまでコードの存在を忘れていた」

 

 それに対し、神崎が。

 父親が大企業の代表ともなれば、やはりそういう措置は取ってあるのだろう。

 

「一般庶民としては、そういう話を聞くと妬みがないわけじゃないけど、確かに納得だわ」

「そう言えば、『雫』のブログへの写真投稿もできたしね。いま思えば、コメント入力さえしなければ大丈夫と思っていたけど、写真を投稿している時点でルールに抵触している可能性もあるんだよね。だって、私は無事です、私は生きてます、ってのを確かに伝えられるんだし」

「あくまでも『雫』のブログだからだろうな。愛里と雫は確かに同一人物だが、その事実を知らぬ者にとっては別人だ。

 また、『ファンの獲得』は『職務の一環』でもあるし、そう思えばブログ活動だって立派な職務だ。学校の都合で大半の仕事を休ませている以上、妨げ切ることはできないということでもあるんだろう。……となると、この学校の生徒だということを明かさぬ限り、コメント入力もOKなんじゃないか?」

「え?」

「学校側に突っ込まれたら、それこそ、ファンを離さないための活動です! と強気に撥ね付ければいい。アイドルなんて水物の職業でもあるからな。三年も表立った活動をしなければ、それこそファンが離れかねない。

 そして、いつぞやに先生も言っていたが、ファンがいなければアイドル足り得ないのも事実だ。外部のファンをファンとして維持し続けるためには、『雫』として何らかの活動は必須だ。

 つまり、生徒である『佐倉愛里』に制限を課すことはできても、芸能事務所所属のアイドル『雫』に対しては課しきれないということでもある。『雫』への損害は、引いては芸能事務所への損害にもなるからだ」

 

 清隆の言い分には一定の理がある。

 この学校への入学を決めたのは愛里自身だが、それは同時に所属事務所へのメリットとデメリットを孕んでいる。この学校の卒業生という肩書は、アイドル活動を続ける上で一定の利があるだろう。だがその一方で、在学中にファンが離れてしまえば、そんな肩書など無用の長物と化してしまうのも事実だ。

 その故の境界線として事務所と学校側で定められたのが、『雫』の公式ブログ活動だとすればどうだろうか? たとえブログ活動だけでも、活動している限りは応援してくれる根強いファンもいる。そう言ったファンを掴まえて離さないための境界線。

 グレーラインであることは否定できないが、可能性を否定できないのも事実だ。

 

「……そうだな。あくまでも『雫』として、現在は寮生活をしている最中であり、卒業するまではアイドル活動ができないことをコメントで伝えるんだ。学校側もブログを監視しているだろうが、『雫』からのファンへの謝意を妨げることなどできはしない。

 次に、『友人ができました。可愛い子です。ブログに載せて紹介してもいいですか?』……などといった態で、事務所への確認コメントを記載するんだ。

 事務所の方でも定期的にブログは確認しているだろうし、タイミングが合わなくても十中八九は学校側から事務所へと連絡がいくだろう。返答無しを肯定と取られる可能性だってあるからな」

「あ、分かった。そこで学校側と事務所で協議が行われるわけだね? 学校側としては勘弁願いたいところだけど、事務所にしてみれば紹介される人物が新たな『金の卵』かもしれないんだから、アッサリ引き下がるなんてできる筈もないし」

「あくまでも可能性に過ぎないがな。ただまあ、妥協ラインとして、学校を示す物は移さず、目にラインを入れたりして、分かる者は分かる、といった状態での投稿になるだろう。たとえ『雫』の友人ではあっても、その時点では芸能人でも何でもないわけだしな。流石に素顔そのままを晒すわけにはいかないだろう」

「分かる者には分かる。逆を言えば、分からない者には分からない。学校を示す物さえ写さなければ、あくまでも疑惑止まり。ルール違反には抵触しないということね?」

「そういうことだ。事務所の反応次第ではあるが、家族に対して元気なことを伝える一手にはなるだろう。雫ファンから口コミで伝わるだろうしな。

 例えばそう……ブログに挙がってた『雫』の友人のH一号ちゃんとH二号ちゃん、どっちも巨乳で『雫』と並ぶとインパクトがパねえんだけど!? という感じだな」

 

 清隆は波瑠加と帆波を見ながら、清隆らしからぬ口調でそう言った。キチンと抑揚も付いて感情も乗っている。……うん。清隆は確かに成長しているのだ。

 また、HarukaとHonamiだからその表現は間違っていないし、この三人が並ぶとインパクトも凄いだろう。たとえ目線を入れていたとしても。

 

「そういうことなら、神崎や清隆との写真を載せたり、桃香たちとの写真を載せるのもありだろうな。片や大企業『神崎』の子息であり、片や『綾小路先生』とやらの子息だ。そこに『三國』の中枢である『御三家』の桃香たちとの写真もあれば、『雫』のただならぬ人脈をアピールすることにもなる。

 実力を評価する学校だからこそ、ヘタに実力アピールの場を潰すこともできないだろう」

「……なるほど。敢えてオレの写真を載せることで、施設の連中を牽制する一手にもなるわけだな? ヘタなちょっかいを出せば、それはそのまま『神崎』と『三國』を敵に回すことにもなりかねない。神崎の父親はあの男を尊敬しているようだが、『三國』との友好関係を餌にすれば、高確率で中立には持ち込める」

 

 清隆の事情を知らぬ者はポカンとした表情を浮かべていたが、ある程度でも知っている者は、逆にウンウンと頷いている。

 

「確かにそれは面白いかもな。……桃香。学校に戻ったら、お前の権限で公式サイトの『天の御遣い』欄に一刀の写真を載せたらどうだ? 御三家はもちろん、私の写真だって載せてるんだし、一刀の写真を載せたところで不思議はないだろ?

 その上で、『三國』のトップと白部屋の最高傑作が友人となっていることを知れば、さてどうなるかな?」

 

 そこに告げられる白蓮からの提案。

 中立派閥や向こうの派閥に対して、『三國』と『綾小路先生』、どちらが怖いかを篩に掛けようというのだ。変に捻ったところはないが、普通に効果的な一手ではある。流石は白蓮だ。

 そんなこんなで、話があっちに行ったり来たりしながら、時間は過ぎていくのであった。  




原作では特に語られていませんが、アウトドア・サバイバルを行うなら衛生面は重要でしょう。
初期配布品に、歯ブラシがあって歯磨き粉がないこと、石鹸がないことは本当に首を傾げざるを得ません。
まあ、歯磨き粉は歯ブラシとセットになっているのかもしれませんが、その場合はホテルとか旅館とかで用意されてるような小型の奴だと思うので、一週間は保たないと思います。
また、日常とは異なる環境故に調味料だって重要ですし、その消費速度もバカにできない筈です。
なので、そこら辺について描写してみました。
なお、アウトドアとかサバイバルを題材にしている作品を参照にして書いたので、実際に自分でやったことはありません。
ただ、できるとされている以上はできるんだと思います。

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