「長く苦しい戦いだった……」
最後に精を解き放った相手である桔梗を見ながら、俺は口を開いた。
思えば、この学校に入学して初めての相手が桔梗だった。それを鑑みると、桔梗で閉めたのは感慨深いものがある。
「マジで二十人抜きしやがった……」
「それだけでも驚きの精力ではあるが、射精量を考えれば尚更恐ろしくなるな。
その上で、なおも余力を残しているように見える。……正直、男としては畏敬の念を抱かずにはいられん」
俺が感慨に耽っていると、ユキが口を開いた。そこに込められているのは、果たして驚愕か呆れか。聞いた限りだと、どちらとも取れる響きだった。或いは、両方という可能性もある。
その後には続いて神崎が。その視線に込められているのは、言葉通りに尊敬と畏怖。
時間を確認すると、当然ながら深夜零時はとっくに過ぎていた。現在時刻は午前二時半頃。高校生の就寝時間としては許容範囲内ではあるだろうが、それはあくまで一般的な環境においてのこと。現在の状況を鑑みると少々ツラいものがある。
「体力と精力にはまだ余力があるが、やはり時間制限が厳しかったな。ヤってる最中は時間を確認することなんてなかったし、結果的には気が逸ってしまった形になるか……」
スポットの更新を踏まえると、休憩として一休みするのはありだろう。というより、したい。余力があるのは確かだが、疲労しているのも確かなのだ。
だが、目覚まし時計もなければ携帯もないのが現実だ。必然として、起きるには腕時計のアラームに頼らねばならない。正直、音量として心許ないのが事実であり、眠ってしまったら起きられるかも分からない。
そういう、何とも微妙な状況が現状だった。
「取り敢えず、蔓を外すか……」
如何に疲れていようと、それはやらねばならない。
そんなわけで、次々と拘束を解いていく。縛られた当人が抜け出すのは難しく、縛った当人が外すのは容易に。それが緊縛の『妙』というものだ。
桃香を始めとする最初の方にお相手した面々や、体力自慢の星は既に目覚めていた。なので、蔦を外した後は、彼女たちや見学組の手も借りて、全員を『海の家』へと収容する。
「いやはや、実際に縛られてみれば中々に興味深いものでありましたな」
運んでいる最中、星が口を開いた。その腕の中には千尋が眠っている。
「クラスメイトではありますし、主のハーレムの一員でもありますが、私と千尋の関係はその括りを出るものではなかったのも事実です。必要がなければ、能動的に接触する相手ではなかった。
ですが、そんな千尋とセットにして縛られてしまいましたからな。身動きが取れぬ以上、やれることは限られます。千尋と言葉を交わすか、舌で舐るかです。
態勢的にそれ以外は行えず、そこから逃げることも不可能でした。私一人なら無理矢理拘束から逃れることも可能でしょうが、千尋とセットにされている以上、それもできません。下手にそんなことをしようとすれば、千尋に怪我を負わせかねませんからな。
その上で、周りでも縛られた連中が大なり小なり盛ってますから、こちらもつられて高揚していきますし、私が何をせずとも千尋の方から舐めてきましたからな。そうなると、私の方もやり返さざるを得ません。
結果、強制的にレズプレイに興じなくてはならず、その中で千尋のことも分かっていきましたし、見方も変わっていきました。
新たな関係性の構築、或いは関係性の発展、そういう視点で見れば、やり方はともかく、確かな成果は出たのではありませんかな」
そう。単独で縛った場合、星であれば無理矢理に抜け出す可能性もあった。結局のところ、所詮は蔦だからな。
だからこそ、それを防ごうと思えば誰かとセットにするしかなく、その相手も限られた。
たとえ『ハーレムメンバー』という点では仲間であっても、『クラスの違い』という敵対要素がある以上、星がどこまで相手を慮るかは分かったものじゃないからだ。『武人の誇り』に懸けて無下な振る舞いはしないだろうが、同じく『武人』だからこそ、割り切った場合の判断が付かなかった。
同時、これで鈴音辺りとセットにしていた場合、鈴音もまた縛られるを是としていたわけではないので、星の蔦破りに同調する可能性もあった。相手が巻き込まれによる負傷を是とする以上、星もまた行動を躊躇うまい。
そういったあれやこれやを加味すれば、クラスメイトで、女の子と一緒であるなら縛られることも許容して、身体能力は並以下である千尋しか選択肢がなかったのだ。ここまでの条件が揃えば、星も無理な行動は取れない。
いやまあ、それでも、星が本当に嫌がった場合、そもそも拘束することなど不可能だ。だからこそ、星に限っては、縛らせてもらった、と言う方が正解だろう。
「縛られた当人がそう言ってくれるなら、こっちとしても安心したよ。そういう狙いがあったのは事実だからね」
「へぇ~、ただのスケベ心からの行動ってわけじゃなかったのね」
「スケベ心があったのも否定はしないさ」
横から桂花がツッコミを入れてきたが、俺は素直に受け止めた。スケベ心があったのも事実だからだ。
「しかしまあ、兄ちゃんの鬼畜ぶりには困ったもんだぜ。まだ頭ん中がチカチカしやがる」
「でも、気持ちよかっただろ?」
「いや、そりゃあ否定しねえけどよ。……前の世界で兄ちゃんとご主人様がヨロシクやってんのは何度か目にしてはいたけどよ、実際に自分が受けてみればとても言語化できたもんじゃねえ。そんくれえ、感じたこともない快感だった。
ご主人様も目え覚まして兄ちゃんと話したがってんのに、自分が表に出ると動けねえからって、俺っちに表に出んのを任せてんだぜ? 兄ちゃんには、もうちょいそこら辺を気にしてほしいもんだな」
重そうに身体を引きずる宝譿が、俺にジト目を向けながらそう言った。
「そうなのか……。そりゃ、申し訳ない」
「ま、後でご主人様との時間を作ってくんな」
「そりゃあもちろん」
星が千尋を抱えているように、俺もまた女の子を抱えているのだ。この状態で風まで抱えることは不可能だ。
宝譿もそれは分かっているようで、無理は言ってこなかった。
「しかし、風は動けないのに、宝譿は動けるんだな。同じ身体なのに不思議なもんだ」
「あ~、そりゃあ、俺っちの身体が前は人形だったことと、今の俺っちがご主人様の副人格ってことに由来してるんだろうな。動かそうと思えば、肉体の負担を度外視で動けるんだよ。意識的に、一部の感覚をある程度シャットアウトできるって言えばいいか? さっきも、途中からそれを使って逃げさせてもらったわけだ」
宝譿から語られる驚きの事実。まあ、俺自身が二重人格になったことはないので確たる判断はできないが、実際にそういうことができてもおかしくはないのかもしれない。言ってみれば、『火事場の馬鹿力』などと言われるような、一種のリミッター解除をしているのだろう。
ある種のダメージは織り込み済みの上で、主人格の風では動けないような状態でも動き、風の生存を第一に判断して行動する。そういう風に考えれば理解も納得もできる。多重人格化――副人格というのは主人格の負担を押し付けるために発生する、というのが定説なのだから。
「なるほど。感覚をシャットアウトできる宝譿は動けるが、そんなことができない風は、疲労と快感が残っている身体じゃあ動けないわけだな?」
「ご明察。この身体じゃあ、ご主人様もセックスするのは初めてだったからな。
稟の姉ちゃんから聞いてるかもしんねえけど、俺っちが人格として定義されたからか、ご主人様が表に出ている場合でもその影響は多分に出るんだわ。見るも聞くも初めて、ってわけじゃあねえが、触れるも感じるも初めて、ってことは多いもんでな。
オマケに、ご主人様は兄ちゃんへの独占欲が強えし、兄ちゃんとのセックスも愉しんでいたからな。そりゃあ、傍にいた俺っちも興味津々になろうってもんだ。結果、その分だけ、肉体にダイレクトに反映されちまったんだろうな」
向き合い方の強さで、受ける影響が異なるのは道理だ。そして宝譿の場合、触覚に強い影響を及ぼしているのだろう。
宝譿が興味津々だった分、風の想定以上に強い快感が襲ってきたため、耐えきれずに風はダウンしてしまったわけか。
「同時、それが悪い形で影響してもいるんですよね。まあ、人形の頃から男性扱いされていたことも一因かもしれませんが、宝譿はひどく女好きなんですよ」
そこに、稟が横から口を挿んだ。
「おいおい、稟の姉ちゃんよ。言葉は正しく使ってくれや。俺っちは女好きじゃなく、女性の身体に興味津々なだけだ」
「結果だけ見れば『女好き』と変わんないってのよ。風呂場には乱入してくるわ、過剰なスキンシップは仕掛けてくるわ。……風の身体でもあるし、事情に理解を示すことはできるから許容してるけど、そうじゃなかったら、アンタ生きてはいないわよ?」
反論する宝譿に、桂花もまた横から口を挿んできた。ばかりか、宝譿にジト目を向けている。
「え~、でも華琳の姉ちゃんは面白がって許してくれたぜ?」
「そりゃあ、いくらアンタが男性の人格とはいえ、言ってみれば興味津々な子供みたいなもんだし、肉体自体は風だからね。一刀に身体を許すとはいえ、華琳様自身は百合の気が強いんだし、風の身体が絡んでくるなら許容するでしょうよ」
宝譿の奴、羨まけしからんことを。それは俺の専売特許だ! ――いや、だが、考えようによってはありかもしれない。
今の俺は以前よりも開き直っており、ノーマル・アブノーマルを問わず色々なプレイを模索していくつもりだが、やはり協力者がいた方が都合はいいのだ。
その点では清隆や神崎がそうなのだが、より深い部分になると、ハーレムメンバーだけで済ませたいのが本音である。
だが、実現が難しいのも事実だ。特にアブノーマルの度合いが強まるほど、難易度は高くなるだろう。俺以外は同じ女性だからこそ尚更に。
その点、レズビアンの千尋と、百合の気が強くてS属性の強い華琳は貴重な同士だ。正確に言うと、華琳の場合は『同士になり得る』と表現するべきだろうが。
考えてみれば、男性人格の宝譿もまた、同士となり得る条件は十分なのだ。ならば、認定しない理由はない。
「宝譿、今からお前は俺の同士だ。共に女性の神秘を探っていこうじゃないか!」
「お、おお? なんだかよく分からねえけど、俺っちに協力できることなら手伝わせてもらうぜ」
こうして、俺は宝譿の協力を取り付けたのであった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
その後も砂浜と往復し、全員を『海の家』に運び入れた。
最初こそ会話を行いながらだったのでゆっくり目ではあったが、それさえなければ速度が上がるのは道理だ。
そもそも、桃香、桂花、稟の三人では、運び入れるのを手伝うにも限度があり、正直に言えばほとんど役には立たない。三人ともそれを自覚しているため、一度『海の家』に着いてしまえば、無理に手伝うことはしなかった。
それでも、回収には見学組が手伝ってくれたこともあり、それほどの時間をかけることなく全員を収容し終えた。水着のままではあるが、適当に全員を横たえる。
「時間がきたら起こしますので、一刀殿と星は休んで頂いてよろしいですよ」
そのタイミングを見計らってか、稟がそう提案してきた。
「正直、疲労は抜けきっていないので助かるが……いいのか?」
「そちらと違い、私たちには点呼がありませんから」
「多少寝るのが遅くなったところで、十分に休むことは可能よ」
星が確認すると、稟のみならず桂花からもそのように返された。
確かにその通りではある。正確に言うと点呼がないわけではないのだが、クラスの大半がリタイアしたことにより試験ポイントがゼロになり、それに伴い、リタイアした生徒たちの監督者として坂上先生もまた船に乗り込んだことで機能していないのだ。
試験ポイントはゼロが最下限であり、マイナスは存在しない。である以上、学校側が点呼を行う意味はあるが、生徒側が参加する意味はない。
また、『海の家』にいる人数は少ない。いや、決して少ないわけではないのだが、全員を合計しても一クラス分の人数にも満たないのは確かだ。
その点、クラス行動をしている面々に比べると自由度が高く融通が利くのも否定はできない。料理や就寝の時間などは、その最たるものだろう。実際、クラス行動をしていたら、こんな感じでセックスなどしていられない。……まあ、だからこそ、何だかんだと理由を付けてクラス行動から離れたのだが。
点呼をする必要のないCクラスの桂花たちは、この中で誰よりも自由度が高い。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「時間がきたら起こしてくれ」
ともあれ、起こしてくれるというのなら、腕時計のアラームよりは遥かに信用が置ける。
まあそうは言っても、俺自身、寝ようと思って寝れるタイプじゃないのは事実である。なので、裏技を使う。
「桃香~、抱き枕になって~」
「いいよ~」
メンバーを並べる際、俺は敢えて意図的に調整した部分がある。『癒し』の面々を一纏めに置き、その上で僅かな空白地帯を設けたのだ。
まあ、俺が横になる部分だが、そこに桃香が加われば、その一角の癒し成分は計り知れないものとなるだろう。すぐに眠れることは間違いなく、短時間での睡眠でも十分にスッキリとできる筈だ。
そんなわけで、俺は癒し成分に包まれながらひと時の眠りにつくのであった。
感想・評価お願いします。