重力の底で雛鳥は哭く 作:星乃海(十両)
「ハァ……」
この館でもひと際豪華に飾られた扉、それを前に私はため息をついた。
正直、この扉をノックして良い話が出てくるとは思えない。しかし、ノックしない訳にはいかない。
「……カンチャナです」
『ああ、入っていいぞ』
扉を三回叩き、声をかける。中からの野太い男の声に私はノブを回し、中に入る。
「旦那様、失礼致します」
「おう。悪いな、カンチャナ。まあ座ってくれ」
大きな執務机に、その前に置かれた応接用のテーブルと二つソファ。その片方に座る小太りの中年男性が私に言っ た。
半袖の麻のシャツに安物のスラックス。顎の肉はややダブついており、口髭が微妙に似合っていない。如何にも冴えない中年男にしか見えないこの人物が、一夜で億を稼ぐこの館の主であると初見で見抜ける人は居ないだろう。
彼、カバスは私がソファに座るとテーブルに置かれていた扇子を広げ、襟元に風を送りつつ言った。
「お前と膝向かいで話をするのも久しぶりだな。どうだ、最近は?」
「お陰様で、特に何事もなく過ごさせていただいています」
無難な返事。下手な事を言って機嫌を悪くさせる必要もない。少なくとも眼前のこの男は私にとって恩人であり、
「新しく入ったヴァーニの指導係になったそうだな? お前から見て、彼女はどんな感じだ?」
「仕事はちゃんと出来る子です。基本的な雑用は私が教えるまでもない手際でした」
「なるほど……ただ、昔の癖があれば直してやってくれよ。あいつは同業の
ヴァーニについての評価を尋ねられ、素直に答える。だが、この為だけに私を呼んだ訳でないのは分かっていた。
「……さて」
それをカバスも悟ったのだろう。仰ぐ手を止めて扇子をぱちりと閉じると、改めて私に向き直った。
「最近はお前にも『世話』になってるな、カンチャナ」
「……!」
やはり、
「いいえ……そんな事は」
「お前がどう思ってるのかは知らないが……正直、俺としてもお前らを『商品』として出すのは嫌なんだ。お前らは磨く前の原石だ。原石の出来でこの館の評価をされちゃ堪らねえし、壊されたら更に大損だ」
おそらく今の言葉に嘘は無いだろう。私の身請けに際しても孤児院に少なくない金が払われた筈だ。
「だがカンチャナ、お前は俺の見立てより筋がいいようだ。あの中将さんだが随分とお前を気に入ってた。支払いにも色を付けてくれたよ。ララァもお前の事を褒めてた」
「……ありがとうございます」
前半はともかく、後半は少し嬉しい。私は頭を下げた。
「そこで、だ。ちっと早いがカンチャナ、お前を
再び扇子を広げ、仰ぐ。
──大丈夫だ。私は幸運で、恵まれたこの場所にいる。
心の中で唱えつつ、私は彼に尋ねた。
「仕込む……と言うのは?」
「お前も分かってると思うが、娼婦ってのはただ男のモノを突っ込まれてアンアン喘いでいりゃ良いってモンじゃねえ。男の要望を察して、場合によっては自分から奉仕する必要もある。腕が上がれば相手を早くイかせる事も出来るようになるし、そうすりゃお前も仕事が楽になる」
言葉を選ばずにカバスは私への説明を続ける。逆にそれはこの話を彼が流すつもりでない、本気の内容なのだと言外に私に伝えてくる。
「もちろん、これはお前にとっても良い話だ。娼婦として正式にこの館で働けるようになれば今の小間使い用の相部屋からもっといい部屋に住ませてやれるし、他の待遇だって良くしてやれる。どうだ?」
当然の話だが、この館の全てを自由にする権利をカバスは持つ。「どうだ?」と一応は同意を求めている形を取っているが、私にそれを拒否する権利は無い。
しかし、私は頷くと同時にひとつだけ彼に要望した。
「分かりました、努めさせていただきます。ただ旦那様、お願いがあります」
「お願い?」
「その……行う時間なのですけど、夜でなく昼にお願いできないでしょうか? 夜に部屋に帰らないと相部屋のヴァーニが不審に思いますから」
「……まあ、いいだろう。館に来たばかりで『自分もすぐに仕込まれる』と思われたら、逃げようとするかもしれねえ」
「ありがとうございます」
脳裏にヴァーニの無邪気な笑顔が浮かぶ。彼女を不要に動揺させ、あの笑顔を消したくはなかった。
「早速明日からだ。今日は早く寝ておけ、ハードになるぞ」
「はい。何か準備は必要でしょうか?」
「そうだな……出来るだけ、口を大きく開ける練習をしとけ」
本気なのか冗談なのか。
カバスは河馬のように大きく口を広げ、だらりと舌を出した。
翌日、私は館の地下に居た。
「旦那様が直接されるのではないのですか?」
「俺が相手してどうするんだよ」
基本、この館で行為を行う客は地上階の景観の良い部屋で迎えられ、そこで「恋人」と出会う。この地下はそんな風通しの良い場所とは真逆──万一でも他人から見られては困る、アブノーマルなプレイを中心に行う場所だ。私たち小間使いも普段は地下は倉庫以外の部屋に入らないよう指示されている。その一室に入った私の問いにカバスは答え、逆にこちらに問いかけてきた。
「カンチャナ、お前は男のペニスを何本くらい見たことがある?」
「なっ……!?」
「大事なことだ。素直に答えてくれ」
「……その、父親と孤児院の子供の以外は、ここのお客様くらいだと思います」
「まあ、その程度だろうな。ここで数十本知ってるとか言われたら、今日の研修はそこで終わっちまう」
ハハ、とカバスは薄く笑う。
何とも笑えない冗談だ。真顔に戻り彼は話を続ける。
「当然だがアレにも個人差がある。デカい奴、小さい奴……まあ、それとは別で
「……!」
カバスの視線が動き、そこで私は初めて部屋の奥で待機していた人物たちに気付いた。
「ウチの客で、お前の『練習相手』に丁度いい相手を見繕っておいた。見覚えのある顔も居るんじゃないか?」
ひとりは中肉中背の中年男性。ひとりはでっぷりと太った壮年。ひとりは他二人よりは大柄で、筋肉質な青年。
言われてみればどことなく覚えのある顔だが、名前までは思い出せない。軍服などを着ていればより思い出せたかもしれないが、既に三人とも下着だけの恰好になっている。中年と青年はトランクス。壮年はブリーフ。
「それで……私はどうすれば」
「座学や張り型でどーだこーだ教えるより、こういうのは結局実践だ。研修内容はシンプル。こいつらを口と手だけでイかせろ。三人とも射精させられたら今日は終わりだ」
なるほど、確かに至ってシンプルだ──簡単ではないが。
私は深く息を吸い、呼吸を整えると給仕服のまま三人の前に腰を落とした。彼らの肉棒は既に充血し始めており、下着の中から
「いっぺんに咥えさせようとするなよ? 多少は買われた経験はあるが、奉仕を教えるのは初めてだ」
「分かってますよ、カバスさん。まあそういう事なら私からが無難ですかね」
「ヒヒッ、それで良かろう。ワシらは眺めさせて貰うとするか」
「そうだな、いきなり俺のじゃ
三人の内の中年が気さくに答えた。残り二人も不穏な含みを持たせつつもそれに同意し、備え付けのベッドにそれぞれ腰かける。
「……という訳だ。よろしく頼むよ、お嬢さん」
「は、はい。こちらこそ」
とりあえず、この中年男性が──この館の利用者であることは確かだが──もっともまともな人物のようだ。
「えっと、君、名前は?」
「……カンチャナ、です」
「いい名前だね。じゃあカンチャナ、まずは私の下着を脱がせてペニスを出してくれ」
「分かり、ました……」
彼の言葉に従い、私は膝立ちのまま男の股間に顔を近づけた。むわっとした熱気と湿気が顔に伝わってくる。トランクスの左右の淵を摘まみ、肉棒が引っかからないように注意しつつずり下げる。
「ンッ……!」
「悪いね。こっちも期待してしまって、もうこうなってる」
跳ねるように眼前に現れた勃起した肉棒に私は息を呑んだ。今まで何度か身体に受け入れた事こそあれ、こんな至近距離で見たのは初めてだ。長さは20㎝弱くらいか。黒々とした陰毛に彩られ、血管を浮かべて隆起している。先端の亀頭は赤黒く膨れ上がっており、雄の臭いを放っていた。
「いきなり全部を咥えようと思うな。まずは舌で……そうだな、アイスを舐めるみたいに舌を使ってみろ」
背後からのカバスの指示。こみ上げる拒否感を抑え込みつつ私はおずおずと舌を伸ばした。
大丈夫。この館に努めている
「うっ……!」
私の舌が肉棒に触れると中年は微かに呻き、腰を震わせた。視線を上げてみたが、痛い訳ではないようだ。私はそのまま舌を亀頭の上に這わせ始める。言われたようにアイスを舐めるように、丁寧に。
「んはっ、ちゅ、はぁっ……こんな感じ、でしょうか?」
「ああ、悪くない……もう少し強めに舐めてくれても、大丈夫だ……」
「こ、こうでしょうか……ちゅ、じゅるっ……」
舌を亀頭から竿に移動させる。横笛を吹くように横から肉棒に顔を寄せ、屹立するそれを根元から舐め上げる。その度に肉棒は身体とは別の小動物のようにビクンと反応を見せる。
肉棒全体が私の唾液でテラテラと濡れ光るくらいになった所でカバスが言った。
「よし、そろそろ咥えてみろ。大きく口を開けて、歯を唇の奥にしまい込むようにイメージするんだ。絶対に当てんじゃねえぞ」
「はい……ん、あぁ……」
経験こそ無いが
「いいか? 今、お前に相手は男の全部を預けてる。それはお前を娼婦として
「ふぁ、ふぁい……ンッ、んむぅっ……」
くぐもった声でカバスに答え、更に私は肉棒を口腔内に受け入れてゆく。亀頭から竿、そしてその根元へ。
「……ぐぷっ」
無意識に呻きが漏れる。息苦しさを覚え、鼻で呼吸しつつ私は肉棒を根元まで吞み込んだ。
ふと、頭にポンと手が置かれた。視線だけ動かしてみると、中年が私の頭を撫でている。
「あぁ……よく、出来たね。次は舌を使いながら、頭を前後させるんだ……唇だけ
「ん、んぼっ、んぶっ……!」
──奇妙な嬉しさが自分の中に生まれつつあるのを私は感じていた。眼前の男性を自分が悦ばせているという充足感、相手が自分に身を任せているという優越感。そして、それらの行為が褒められるという満足感。
それらは本来、受け入れるべきでない感情なのだろう。しかしこの館で生きてゆく以上、私はそれらも受け入れなければならない。
引き続き歯を当てないことに注意しつつ私は緩やかに頭を動かし始めた。口の中で肉棒が反り返り、滑らかに行うのは難しい。しかしそれが逆に刺激となっているようだ。
「ちゅ、ちゅうぅ……!」
「おうっ!? い、いいよ、そんな感じで、吸い、ながらっ……!」
今の私は随分と無様な姿をしているだろう。給仕服のままカチューシャも外さず、口を尖らせ、父親ほど年の離れた男の怒張を咥え込む童女。
「んぱ、ちゅ、んぐっ……!」
「い、いいよ、カンチャナ……もう少し、だっ……!」
肉棒の反応が断続的になってきた。絶頂が近づいているのだ。
「そろそろお相手がイくぞ! 口を離さず、頭の動きをより速く、その間も舌を忘れんな」
「じゅる、ふぁ、ン、ンンッ……!」
カバスの声が届く。私は言われるままに動きを速めた。同時に口腔内で亀頭を舐めまわす。
「うっ、ぐうぅっ!」
「……ッ!」
中年の腰が跳ねた。同時に熱く、生臭い奔流が私の中に放たれる。息苦しさから私はやむなくそれを嚥下してゆく。
「んぐ、ごくっ、ごくっ……!」
「あ、あぁ……は、ふぅっ……」
「っぱ……ケホッ」
幾度かの放出の後、中年は腰を引いて口腔内から肉棒を引き抜いた。軽くせき込む。まだ口の中はドロドロと生臭いままだ。
「ケホッ、ケホッ……うぅ……」
「おっとと、終わったつもりになってはいかんなあ。次はワシの相手をして貰わんと」
「交代ですね。カンチャナ、
口を拭い、反射的に身を起こそうとした私の前に脂ぎった腹がずんと突き出された。見上げてみれば、いつの間にかベッドから立ち上がっていた壮年が身を寄せてきている。一方の中年は私に言葉を残し、ベッドへと戻ってゆく。
「……はい、失礼しました。ご奉仕させていただきます」
──あと二人。
ただ今の中年の相手で凡そではあるがコツは掴めてきた。何とかこの調子で──
「えっ……?」
だが、壮年のブリーフを脱がせた私は戸惑い、眼前の
しかし先ほどと異なり、その肉棒は亀頭まで皮で覆われ、先端の鈴口がわずかに覗く程度だったのだ。
「いわゆる『皮かむり』ってヤツだ。普通のヤツより敏感だから優しく扱ってやれ。まずは扱きながら、ゆっくり皮を剥くんだ」
「ほほっ、まあ多少の痛みなら慣れとるよ」
腹の肉をくぐるように私は肉棒に顔を近づけ、竿を握った。なるほど、絡めた指を上下させると肉棒の大きさが増し、少しだが亀頭が露出してきた。私は左手で竿を扱きつつ、右手を亀頭周りの余った皮に添えてゆっくりと剥いてゆく。
「ぐっ……?」
「お、おぉう……」
皮が剥けてゆくにつれ、鼻孔にツンとした臭いが流れ込んできた。先ほどの中年の肉棒から感じた汗と雄の匂いとはまた異なる──例えるなら、飼育小屋めいた異臭。
そしてその臭いを嫌悪する私の反応は壮年の劣情を刺激したようだった。ビクンと肉棒が震え、鈴口からは先走りが滲み始めている。
やがて、亀頭が完全に露出したところで私は異臭の原因を理解した。
「うぷっ……!」
亀頭の至るところに白い、カスめいた垢がこびりついている。特にカリの裏側などは真っ白と言ってよい程だ。強い刺激臭に思わず私は口元を手で隠した。
そんな私の反応をむしろ楽しむように、壮年はあくまで穏やかな口調で言った。
「いやはや、こうも皮を被っておってはなかなか洗えんのでねえ……カンチャナ、だったかな? 綺麗にしておくれ」
しかし見上げてみればその顔には下卑た笑いが浮かんでいる。どうやらこの二人目の老人は、
「お相手がみんな身綺麗にして来てくれるワケじゃねえ、その練習だ。鼻で息をするなよ、吐くぞ」
「は……はい」
拒否権は無い。カバスの言葉で私は改めてそれを理解して口元の手を離し、戻ろうとする皮を押さえつつ唇を亀頭へと近づけた。
「れろっ、んぷ、んはっ……」
「おっ、おぉ……!」
舌先を尖らせ、恥垢を舐めとってゆく。ピリピリとした刺激が舌先に伝わり、獣めいた臭いが口腔内にも広がってゆく。
「うぷっ、ンッ、コクッ……」
「くうぅ……孫ほどの娘が、ワシのカスを舐めてくれるとは……カバスさん、感謝します、ぞっ……おぉ……!」
床に吐き出したいがそれは許されていない。嚥下を拒む身体を何とか説得し、それを飲み込んでゆく。
「あふ、うっ、じゅるっ……」
「う、おぅ……!」
しかし、特に恥垢が目立つカリ裏の辺りは舌先では簡単には取れないくらいにこびり付いていた。何度か舐めとろうとして失敗し、私はやむなく舌を引っ込ませて唇を亀頭に押し当てた。
「ちゅ、うぶっ、ちゅばっ、ちゅぅ……!」
「ぐうぅっ!」
ひと際に昂った壮年の声。
それに構わず、私は早く終わらせたい一心で亀頭にキスをして、恥垢を吸い上げ、それを繰り返した。
「おぉうっ! そんな、熱心にっ……これは、もうっ!」
「っぱ、オエッ、ちゅ、ちゅうぅっ……!」
「い、いかん、出るっ!」
「っ……!?」
しかし、そんな私の焦りは逆に効果的だったようだ。急激に強まった快感に壮年は我慢できなくなり、腰を震わせ絶頂に達した。私の顔に濁った液体が降りかかり、薄褐色の肌を白く汚してゆく。
「オエッ……うぷ、あ、ハァッ……」
ようやく臭いから解放され、私は床に手をついて吐き気を堪えた。今日の内容を予測して昼食を抜いたのは正解だった。もし食べていれば、私はこの床に吐瀉物をまき散らしていただろう。
「おいおい、随分とキツそうだな……ちょっと休むか?」
そんな私の上から残った一人、青年の言葉が投げかけられた。既に壮年と入れ替わって近くまで来ているようだ。
「……いいえ」
口元を拭い、答える。
ちゃんと全員の相手を終えるまでカバスは私を解放しないし、戻りが遅くなればヴァーニが不審がる。だから──
「だいじょ……!」
──大丈夫です。そう言おうと顔を上げた私は、眼前に突き付けられた
最初は、こん棒か何かの武器かと思った。それが肉棒だと理解したのは数秒後だ。そんな大きさと太さを備えた肉棒が、血管を浮かべつつ顔の前にある。
「そう来ないとな。俺も我慢できなくなってたトコだ」
男はそう言うと、亀頭で私の頬をつついた。まるで子供の拳で押されているようだ。
「……もちろん、アレがデカい客も居る。こいつには小難しい事は言わねえ、好きにやってみろ」
「わ……分かり、ました」
ここに来てカバスも無茶なことを言う。こんな規格外を相手に「好きにやってみろ」も無いだろうに。
そう言いたかったが、私はそれを飲み込むと肉の凶器に相対した。
「失礼します……ん、あぁ……んむっ」
「うっ……!」
限界まで口を広げ、何とか亀頭を咥え込む。そのまま舌を這わせ、最初の中年と同じように頭を前後させようとする。
「んっ、うぅっ……んぷっ……」
しかし、駄目だ。大きすぎて全部は収まりきらないし、太くて口を動かすこともままならない。
「あー……やっぱ、少し無理あるみてえだな」
そしてそれは男にも伝わったのだろう。もどかしそうに腰をゆすり、彼はカバスに尋ねた。
「なあ、カバスさん。
「チッ……加減しろよ。カンチャナ!
「んはっ……?」
カバスの言葉の意味を測りかね、私は一旦口を離そうとした。直後、
「んぶぅっ!?」
私の頭はがっしりと掴まれ、激しく前後に揺すられ始めた。咥えたままだった亀頭は口腔内で暴れ回り、頬を内側から突き破ろうとする。
「んぐっ! ぐっ! うぐぅっ!」
「う、おぉっ! 小せえ口、堪らねえっ!」
「ぼっ、おぶっ、ぶうぅっ!」
「おぉぅっ! 出る、出るぞっ!」
もはや人間の言葉も発せられなくなった私の頭を掴んだまま男が叫ぶ。
「ぐ、お、おおおぉぉっ!」
「うぶ、ぶっ……!」
精液が口腔内に吐き出されてゆく。
「……ぶびっ」
もともと亀頭に支配されていた口腔内から溢れた精液が逆流して鼻から零れ落ちる。
無限に思える数秒の後、ようやく私は肉棒から解放された。
「がっ……ゴホッ、ゴホッ!」
床に倒れ込み、激しくせき込み、精液を吐き出す。掴まれていたからか激しく揺すられたからか頭が痛い、耳鳴りもする。
「おっ、ふぅ……」
「……おい」
満足そうな男の吐息とカバスの声、私を横切る足音、直後に重い音。
「ぐわっ!?」
「『加減しろ』って言ったろうが馬鹿野郎! こいつが壊れたら手前ぇ、買い取れんのか!?」
カバスの怒声が随分と遠くに聞こえる。
「す、すみませんカバスさん、あんまり気持ち良かったんで、つい……」
「『つい』で商品を壊されちゃ堪んねえよ! 次やったら出禁だからなお前!」
「ゲホッ……ゲホッ!」
薄笑いで謝罪する男と、未だ怒りの収まらないカバス。
二人の男の間で這いつくばったまま、私は咳き込み続けた。
「あ、お帰りカンチャナ! 旦那様からの用事、大変だったみたいだねー。お疲れ!」
「ただいま……別に、大した事じゃないわ」
──あの後、私は顔を洗い、精液の付いたカチューシャを取り換え、喉が痛くなるくらい
「……って、貴女こそどうしたの?」
だが、逆にヴァーニの様子に私は尋ねた。既に今日の仕事を終えたはずの彼女がまだ給仕服のままで、更にカンテラの用意をしていたからだ。
「う~ん……それが、あたしも良く分かってないんだけど、ララァお姉さまが……」
「ララァお姉さま?」
「うん。さっきお姉さまが来て、『今日、屋敷に何か大きなものが落ちてくるかもしれない。落ちてきた場合は、そこに向かって欲しい』ってさ」
「………」
何とも奇妙なお願いだ。確かにララァお姉さまは時折超能力めいた直観や予測をするが、それにしても今回のは具体的すぎる。
「落ちてくる、と言っても……」
私は窓から夕暮れの空を見上げた。一年戦争の頃ならばコロニーが落ちてくる事もあったろうが、今になって何が──
「……?」
「何、あれ?」
何か、光るものが飛んでいる。私の挙動に気付いたヴァーニも横に来て窓を覗く。
「……飛行機?」
それは、最初は小さな光だった。それがヨタヨタと低空飛行をしている飛行機だと気付いたのは少ししてからだ。それが──
「ッ!?」
「ひゃあぁっ!?」
──屋敷の上空をスレスレで飛び、そして、そのまま裏庭に突っ込んだ。屋敷を揺らすほどの轟音が響く。
「ララァお姉さまの言ってた通りだ! 行ってくる、カンチャナ!」
「ちょ……待ちなさいヴァーニ! 独りじゃ危ない……!」
衝撃が治まるのを待たずヴァーニは部屋を飛び出した。私は慌ててそれを追う。
「ちょっと、何、何なの!?」
「何、今の音!?」
「落ち着いて、みんな、大丈夫よ! いま確認に行かせてるから、安心して!」
部屋から出てきて騒ぐ娼婦たち、彼女らを落ち着かせるララァお姉さまの声。それらを背後に私とヴァーニは裏庭に抜け、落下したと思われる場所へ向かう。
「とりあえず、火事の心配はなさそうね……」
墜落の衝撃で木々が倒されているが、焦げや発火が無いことを確認して私は言った。カンテラを掲げつつ、ヴァーニが先行する。
「あった、アレだよ、カンチャナ!」
カンテラの光に照らされたそれは、個人の飛行機か戦闘機か──少なくとも、私の知る「飛行機」とはかけ離れた外見をしていた。白い骨格めいた翼に、赤く彩られた機体。
その時、エアロック解除音と共にコックピットが開いた。素早くヴァーニがそこに駆け寄る。
「……ええっ!?」
動揺の声。彼女に追いつき、その中を見る。
「うぅ……」
「……女の子?」
目を閉じて呻く、パイロットスーツを着た赤い髪の少女。
「タスケテ、タスケテ!」
彼女の傍らに転がっていた白い