次の日も、その次の日も深夜に亜希が部屋を出る気配を感じた。
真斗は夜、亜希の部屋のドアをノックした。
返事はないが、気配はある。
真斗は勝手にドアを開けた。
「何?」
ベッドに座った亜希が敵意のある眼で真斗を見る。
「毎晩、部屋にいないようだけど……」
真斗が言うと、亜希は眼を伏せた。
「で、何しに来たの?」
真斗の問いには答えず、亜希は棘のある言葉を返した。
一歩間合いを詰めると、亜希の瞳が怯えたような色に変わる。
眼の前に立って、真斗は亜希に手を伸ばす。
「触らないで!」
思ったより大きな亜希の声で真斗は肩に触れようとした手を止めた。
亜希が真斗を睨んでいる。
しばらく間を置いて、真斗は亜希の肩に手を置いた。
「触らないでって、言ってんでしょ!」
亜希が真斗の手を払う。
「亜希さんと、シたいんだ……」
「私は、シたくない……」
亜希の瞳は強い意志を示していた。
「そんなに、智也がいいのか?」
亜希の頬にほんのり色がついた。だが、すぐに険しい表情に変わる。
「真斗だって、穂香と盛ってるくせに」
「それでも亜希さんは、俺を受け入れてくれたじゃないか」
真斗は亜希を詰る。
「真斗は、性欲駄々洩れで、押してくるだけ……」
亜希の言葉に真斗は、固まってしまう。
「智也さんは、ちゃんと私を愛してくれる……」
どうやら亜希は智也に恋愛感情を持ってしまったようだ。
真斗に処女を捧げたのは、身近にいた男と興味本位でセックスしてみただけ、ということなのだろう。
智也が送ってきた沙希とのハメ撮り動画を、真斗は脳内で再生する。
単にセックスによる絶頂以上の乱れ方を沙希はしていた。「イケメンのデカチンポ」という言葉が脳内で反響した。
優れたルックスと巨根で、女を蕩けさせている智也。
真斗は、桐谷家の女三人とセックスしたことで智也に対して優越感を感じていたが、亜希の言うように性欲にまかせて一本調子のセックスをしていたのだと悟る。
真斗は亜希の部屋を出た。
どうやら亜希は智也に毎晩抱かれて完全に落ちてしまったらしい。
亜希のことは諦めるしかないようだ。
このところ穂香の帰りが遅い。
真斗が尋ねると、友達と遊んでいるらしい。
ある日、智也と穂香が一緒に帰ってきた。
仁美と真斗が玄関で出迎える。
穂香は真斗をちらりと見て眼を伏せた。
「駅前で穂香ちゃんと会ったんだ」
智也が笑顔で言う。
夕食の席で、いつも元気な穂香の口数が少ない。
帰り道で智也と会って、何かあったのだろうか? 真斗の胸が騒めいた。
夜、穂香の部屋に入る。
「お兄ちゃん……」
ベッドに潜り込むと穂香の方から真斗に抱きついてきた。
「今日、どうした? 元気ないみたいだけど……」
真斗の胸板に顔を埋める穂香に声をかけた。
「お兄ちゃん……シて……」
積極的な穂香に真斗は胸がときめいた。
穂香の唇を吸いながら、いつものように胸を開く。
横に張り出しながらも円みを保った巨乳が艶めかしい。
「あっ……はあっ……」
巨乳を揉みしだかれて、穂香の息が濃く熱くなる。
「あんっ……いいっ……」
真斗は穂香の股間にも手を伸ばした。
クリトリスを弄ると穂香が腰をよじる。
「ああんっ! お兄ちゃんっ……来てっ!」
いつもより敏感な穂香に、真斗の肉棒は猛る。
既に愛液でひたひたになった膣に陰茎を挿しこんだ。
「あっ、あっ、あああんっ♡」
まだ繋がったばかりなのに、穂香はびくん、と痙攣した。
挿入だけで軽くイってしまったようだ。
穂香の柔らかい肉に乗り、滑った膣襞に肉棒を包まれた真斗は、猛然と腰を振った。
「あんっ、あんっ、お兄ちゃんっ!」
今夜の穂香の乱れ方は尋常ではない。真斗の下腹部も興奮で滾っている。
「あはんっ……イっ、イクうううっ!」
絶叫する穂香の膣から真斗は剛直を抜く。直後に鈴口から精液が噴射した。
びゅるっ、びゅるるっ、びゅくっ、と長々と射精が続いた。
白濁液が穂香の乳房や首、顎まで降り注いだ。
真斗の胸板に頬を寄せる穂香の髪を撫でる。
亜希が智也に靡いてしまったことで、神経質になってしまっている、と真斗は思う。
これだけ懐いて、セックスで甘えてくる穂香のことを、一瞬だが、智也と関係しているのではないか、と疑ってしまった自分を真斗は恥じた。
週末になった。
智也と穂香は、それぞれ友達と遊びに行くと言って家を出た。
亜希は家にいた。いつもの週末なら必ずといっていいほど遊びに出ていた亜希。珍しいこともあるものだ。
真斗は仁美を抱きたかった。先に智也と穂香が外出して、当然亜希もいなくなるだろうと思っていたが肩透かしだった。
「亜希さん、今日は出かけないの?」
リビングでスマホを弄っている亜希に、真斗は恐る恐る声をかけた。
先日、亜希を求めたが拒絶された夜から、真斗は亜希とは喋っていなかった。
「ん? 別に出かけたい気分じゃないだけ……」
亜希の言葉は素っ気ないが棘はない。真斗は少し安堵した。
セックスなどしない、普通の義理の姉弟に戻っただけだ。
亜希は智也と遊んだりしないのだろうか? と真斗は思う。
毎晩、智也の部屋で肉体を開いている亜希。
だが、平日学校帰りは一緒に行動している気配がないし、週末も別行動のようだ。
昼食を三人で摂った。
食事を終えると亜希は二階の部屋に籠った。
真斗は仁美と取り留めのない話をする。
「真斗さん、私、食材の買い出しに行ってくるわね」
午後二時を過ぎた頃、仁美がエプロンを外しながら言った。
「俺も、一緒に行きたいです」
一瞬、仁美の表情が固くなったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「じゃ、お願いしますね……」
仁美の車で自宅を出た。
ハンドルを握るのは真斗だ。
運転に慣れるため、と買い物の運転手を買ってでた真斗。
他愛もない会話をしながら、スーパーに向かう。
だが真斗の胸は緊張で昂っている。
話題が途切れたタイミングで思い切って真斗が切り出した。
「仁美さん、ラブホ、行きましょう……」
正面を向いて運転しながら真斗が言うと、仁美が息を呑む気配を感じた。
無言の間が続く。
「仁美さんと、シたい……」
真斗は左手で仁美の腿に触れる。スカートの布を通して感じる仁美の肉量に、真斗の情欲が疼いた。
仁美は無言で俯いている。
追い越しをかける車が続いた。車のスピードが極端に落ちているのだ。
仁美は迷っているのだろう。
智也が来たことで肉体関係を解消したいと真斗に言った言葉と、内に秘めた肉欲の間で揺れ動いているのではないか、と真斗は仁美の逡巡を推し量る。
強引だとは思ったが、真斗はハンドルを切っていつものスーパーに向かう道から外れた。
「真斗さん……」
深い溜め息をついたひとみが正面を見ながら呟いた。
「これで、最後にしたいの……」
ラブホテルの駐車場に車を乗り入れ、エンジンを切る。
仁美は助手席に座ったままだ。
「仁美さん、行きましょう」
真斗が声をかけると、びくっと反応する仁美。
真斗が適当な部屋を選んだ。廊下を歩く時、仁美の肩に手を回し引き寄せた。
部屋に入ってドアを閉めると、真斗は仁美を抱き寄せ、唇を奪う。
「んっ……ふんっ……ぶちゅっ……」
一瞬強張った仁美の肉体が、すぐに解れる。
荒い息を絡めてお互いの舌を求め合う。
真斗は胸板に豊乳の柔らかさを感じながら、両手でスカートに包まれた巨尻を掴んだ。
唇を貪りながら、ブラウスのボタンを外し、仁美の胸を開く。
淡いピンクのブラジャーに包まれた豊乳を下から持ち上げた。
仁美が首を振って唇を外した。
「真斗さん……私、シャワー、浴びたい……」
浴室からシャワーの水音が響いているのを、ベッドに寝そべった真斗は聞いている。
仁美はこれで最後にしたい、と言った。
狡いかもしれないが、真斗は返事をしなかった。
仁美は、亡き父の義之の面影を真斗に求めているだけだということは分かっていた。
だが、昼下がりの浴室で、仁美の自慰を真斗は二度も目撃してしまった。
たまたまなのかもしれないが、家族が誰もいない時の仁美の日常的な行為だろうと真斗は思う。
そんな仁美が真斗との関係をどこまで自制できるだろうか?
「真斗さん……お待たせ……」
バスローブに身を包んだ仁美が現れた。匂い立つような生々しい熟女の色香が漂っている。
真斗は硬直してパンパンに漲っているペニスにシャワーを当てた。
仁美の柔らかい肉に、この硬い肉を刻み込んで、「最後」ではなく「もう一度」と仁美に言わせてやろう、と真斗は決意した。
全裸で反り上がった剛直を揺らしながら、真斗はベッドに座る仁美にゆっくりと近づく。
仁美が息を吞んで、視線を真斗の股間に注いでいるのがわかる。
真斗は仁美の前に立つ。顔の前に突き出された肉棒から眼を逸らした仁美が、ちらりと真斗の表情を見上げた。
昏い眼をして真斗は仁美を見下ろす。
仁美は観念したのか眼を閉じて、右手を竿に添えて唇で亀頭を含んだ。
「んんっ……ぶちゅっ……はむっ……」
荒い息と舌を絡めながら、真斗の漲りを頬張る仁美。
真斗は手を伸ばして仁美のバスローブを開いた。艶やかな肩が晒され、生々しい豊乳が現れた。
仁美は一旦唇を抜き、頭を傾けてハーモニカを吹くように舌を這わせて陰茎を根元まで辿ると、陰嚢を唇に含んだ。
いつも家族のために気を遣って奉仕してくれる仁美。真斗を悦ばせようと、フェラチオも工夫してくれる。
肉感的な熟女が自分の肉棒に喰らい付いている光景に、真斗の腰が快感で小刻みに震えた。
「んっ……ぐっ……ふんっ……!」
一所懸命に首を前後させる仁美の頭を真斗は両手で抑えた。
艶めかしい視線で真斗を見上げる仁美の頭を押して、ゆっくりと肉棒から抜く。
にゅぷっ、と亀頭が仁美の唇から現れた。唾液が糸を引いていた。
「仁美さん……ありがとう……」
真斗は腰を落として、ベッドに座る仁美を抱き寄せた。そのまま二人で倒れ込む。
横に流れる掴み切れない豊乳を真斗は激しく揉みしだいた。
既にぷくっ、と勃っている乳首を唇に含んで舌で弾く。
「あんっ、はんっ♡」
濃い吐息で仁美が喘いだ。
真斗は、仁美と唇を軽く合わせると、耳朶から首筋に舌を這わせた。
「あっ……はっ……うんっ♡」
仁美が肉体をよじる。真斗は舌を躍らせるように脇の下から脇腹へと下ろしていく。
両手の平で仁美の肌を隈なく滑らせた。なめらかな肌を擦る、しゅるしゅる、という音が静かな部屋に響いた。
「ああっ……やんっ!」
真斗の舌が鼠径部に達すると仁美は堪らず大きく腰を捩った。
陰唇は既に溢れた愛液で湿っている。真斗は仁美の膝裏を持ち、股を広げ鼻先でクリトリスを押すようにして陰部に顔を埋めた。
ちゃぷ、ちゃぷ、と仁美の秘蜜を舌で吸い上げる。
「あんっ、あああんっ♡」
仁美は小刻みに震えながら腰を浮かせた。
「真斗さん……もう……」
仁美は真斗の頭を両手で掴みながら、軽く痙攣している。
「もう、何ですか?」
真斗はクリトリスから唇を外し、仁美に尋ねた。
「いやっ!」
仁美が顔を両手で抑えて首を横に振る。
真斗は身体を起こして、膝立ちになった。
「俺のチンポ、欲しいんですか?」
仁美が顔を覆っていた手を外し、薄っすらと瞼を開けた。
血管が浮き出して反り返っている真斗のペニスを見て、仁美の眼が大きく見開いた。
真斗は仁美の両脚を持って万歳させるように大きく広げる。
濃いめの陰毛から別の生き物のようにびらびらと揺れている陰唇に、亀頭をハメた。
「あっ、あっ、はああんっ♡」
腰を動かして角度を合わせ、真斗は仁美の膣を一気に貫いた。
「あっ……いっ……いいっ!」
仁美は腰を浮かせて痙攣した。挿入されただけでイってしまったようだ。
上体を仰け反らせ、大きな口を開け、快感に全身を震わせる仁美。
真斗は腰を引き、ずん、と再び仁美の最奥を突いた。
「あんっ♡」
仁美の膣口を真上に向け、真斗は猛然と垂直にピストンを打ち込んだ。
「あんっ、うんっ、やあんっ……ああっ!」
自宅を離れ、ラブホテルという異質な空間で、仁美は乱れて半分悲鳴のような嬌声をあげた。
ぱこっ、ぱこっ、と肉の当たる音と、ぐちゅっ、ぐちゅっ、と愛液が捏ねられ、泡立つ音が静かな空間に響く。
「ああっ、イクっ、イクっ、イクうううっ!」
ビクンビクンと絶頂の痙攣をする仁美に、真斗は容赦なくピストンを打ち込み続けた。
「ああっ! おおっ! おんっ、おんっ、おおおんっ!」
仁美の喘ぎが動物的な響きを帯びる。
真斗の奥底からとめどなく湧き出してくる淫欲に従って、もう何度もイっている仁美を執拗に責めた。
何度もイカされた仁美は、ぐったりとして、ひゅるひゅる、と乾いた息を漏らしている。
失神しているのかもしれない。
真斗は膣口から肉棒を抜いて、だらしなく開いた仁美の口内に肉棒を挿しこんで精液を注ぎ込んだ。
ラブホテルの部屋を出て、車に乗り込んだ。
助手席の仁美は俯いている。その憂いのある表情から漂う色香が真斗の胸をざわつかせる。
この肉感的な熟女を自分の身体で組み敷いて乱れさせたと思うと真斗の雄としてのプライドが満ちて来る。
エンジンをかけようとスタートボタンに手をかけた時、ホテルの入り口から一組のカップルが出て来た。
「えっ……?」
真斗は眼を見開いた。
(穂香?)
思わず声をあげそうになったが、真斗は堪えた。
智也に肩を抱かれて俯いた穂香が、そこにいた。
真斗は反射的に顔を下げる。ちらりと仁美の方を見るが俯いたままだ。
智也と穂香は背を向けて、他の車の陰になって見えなくなった。
向こうは気づいていないようだったし、仁美も顔を下げたままだ。
真斗は胸の鼓動が激しくなるのを感じる。
穂香が智也と同じラブホテルから出て来た。
胸の動悸が高まる。
頭の中で高速で思考が回転した。
穂香が智也とセックスしていた?
そんなはずはない、と真斗は自分から積極的に真斗のペニスを求めてきた穂香の裸体を思い浮かべる。
だが、眼の前で智也と連れだって同じラブホテルから出て来たのは、確かに穂香だ。
「真斗さん……?」
いつまでも車のエンジンをかけない真斗に、仁美が訝しそうな声をかけた。
真斗は、曖昧な笑みを浮かべてスタートボタンを押した。
仁美とスーパーに寄って買い物をしている間、真斗の思考はぐるぐると同じところを回転している。
穂香と智也はラブホテルに入ったが、セックスはしていない、という可能性について考えてみる。
穂香がラブホテルってどんなものか興味を持った。智也が、じゃあ行ってみようと誘った……
智也が強引に穂香を誘ってラブホテルに入ったが、穂香は真斗との関係を思い、抵抗して出て来た……
これらの真斗の希望的観測には、さすがに無理があった。
あの時見た二人の佇まいは、完全に事後の男女のものだ。
仁美の熟した肉体を堪能した余韻は消し飛んでしまった。
桐谷家の女の中で、一番親しく、そして一番多く交わってきた穂香が、智也に奪われた。
「真斗さん?」
仁美に声を掛けられて、我に返る真斗。
いつの間にか家に着いていた。
既に午後六時になろうとしていたが、亜希は家にいなかった。
「亜希さん、友達の家に泊まるんですって」
仁美のスマホにメッセージがあったようだ。
しばらくすると、穂香が家に帰ってきた。よく似ている他人の可能性も真斗は考えていたが、着ていたワンピースはラブホテルで見たものと同じだった。
真斗は考える。
ここで穂香を問い詰めるのは、愚策だ。
街外れの郊外にあるラブホテルで、穂香を見た、とは言えない。
なぜ、そこで真斗が見たのか説明できないからだ。
亜希と関係していることは既に穂香は知っているが、母親と真斗が関係しているとは思いもよらないことだろうし、知られてはならないと思う。
真斗は夜まで様子を見ることにした。
夕食の席は、三人だけだった。
智也も今日は帰らない、と仁美に連絡してきたのだ。
仁美が穂香に昼間のことを訪ねている。真斗は食事をしているふりをして聞き耳を立てた。
穂香は友達とどこに行って何をしたか、淀みなく答えている。だがいつもの明るさがない。どこか愁いを帯びた表情だ。
穂香の昼間の行動が、彼女の言う通りだったら、どんなに良かったか、と真斗は思う。
仁美は穂香の態度に不審感は持っていないようだ。いつもの気分の波が低いのだろうとしか思っていない雰囲気だ。
夜も更けた頃、穂香の部屋に真斗は入った。
「お兄ちゃん……」
ベッドの中の穂香は、起きていた。
いつものように穂香の横に潜り込もうとすると、穂香が声を掛けてきた。
「お兄ちゃん、今日は……ごめんなさい」
真斗の身体が固まる。今まで穂香を求めて拒絶されたことがなかったからだ。
智也に抱かれたからだろうか、と真斗は胸が痛むのを感じる。
「今夜は、ちょっと……具合が悪いの……」
穂香の声音に張りがない。何か思い詰めているようだ。
「わかった……じゃ、一緒に寝るだけでいいかな?」
「本当に、ごめんなさい……今夜は、ひとりで寝たいの……」
昼間のラブホテルのことを問い詰めたいという衝動が真斗に湧いてきた。
(ダメだ……抑えるんだ……)
強引に穂香にハメたいという情欲も胸を焦がしているが、真斗は何とか自分の衝動を抑え込んだ。
「わかった……ゆっくり休んで……」
真斗は穂香のベッドから離れた。
「お兄ちゃん……ありがとう……」
ドアに手をかけた真斗に穂香が力ない声音で呟いた。
沙希に衝動的に叫んだ言葉で関係を崩してしまったことを真斗は思い出し、穂香を問い詰めることを自制した。
今夜の穂香の様子から察するに、明らかに智也に抱かれたのだと真斗は確信する。
沙希が後で真斗に告白したように、智也との関係は強引にレイプされたことが始まりだった。
もし沙希のように穂香が無理やりヤられたのだとしたら、真斗にはまだ挽回するチャンスがある。
あれだけ真斗に肉体を開いていつも甘えてくる穂香だ。智也の巧みな話術と強引さで抱かれたのだとしても、たった一度の過ちだ。
きっと穂香も真斗を裏切ってしまったことで動揺して後悔しているに違いない。
今夜、すぐに白黒つける必要はない。優しく穂香を見守って、何も気づいていないフリでいつもの親密な関係に戻していけばいい。
それにしても、と真斗は智也に静かな怒りを燃やす。
智也の母と真斗の父の間に何があったかは、真斗は知らない。
だが、智也の母が義之を恨んでいたとして、それを吹き込まれた智也が義之を、そしてその息子の真斗に悪意を持って接してくるのは有りうることだと真斗は思う。
わざわざ真斗の高校に転校してきて、大して親しくもない真斗の家にあがりこんだ。
そこで幼馴染の沙希との親しい関係を見られてしまい、強引に沙希をハメて奪った。
そして義之の死後、わざわざ桐谷家で同居したいと希望してきたのも不自然だ。
仁美が義之から智也のことを聞いていなければ、いくら亡き夫の子供だとは言え、仁美が同居することに同意することはなかったのでは、と真斗は思う。
智也を桐谷家に受け入れてしまった今となっては、智也を排除することは難しい。
智也は表面的には仲の良い雰囲気を醸しているが、徹底して真斗の大事なものを奪いに来ている。
亜希と穂香が真斗と寝ていることを智也はどうやって知ったのだろうか?
案外、面食いの亜希が智也に簡単に靡いて、軽い口で喋ったのかもしれない。
いずれにしろ、亜希は諦めるにしても、穂香だけは絶対渡すまい、と真斗は決静かに決意した。