【カヨコ編(暫定)】「助けてノノえもん!」から 作:春画屋@二次創作R18
F-45:約10000字 ←
F-RK:約8000字
F-47.5:約5000字
F-RK:約2500字
F-53.5:約5000字
F-55(終):約13000字
F-45:エンディングへ向けて第一歩 - 鬼方カヨコ
——エンディングへの第一歩
「え」
少しの沈黙。
カヨコは聞いたばかりの情報を整理する。
——先生は今まで記憶を失っていて、それが戻って、実は「あの子」は「画面の向こう側」の先生のことをずっと前から知っていて、先生は「あの子」に会うためにこの世界に呼ばれて……
それで今は「あの子」……アビドスの
「——悪い、大丈夫か? 一度に言われても困るだろうし、それに……」
カヨコは言う。
「——あ、ごめん」「…………」「……うん、大丈夫。先生、私の気持ちは知ってたでしょ? ……うん、確かにショックはショックだけど、何か思ってたのと違うなって……。いきなりだったからかな、あんまり悲しいとかそういう感じしなくて。それより、もっと他の……何か違う感情で胸がいっぱいで。…………。何だろ、これ……」
少しの沈黙。
カヨコは言う。
「……はぁっ。先生が「彼女」なんて呼び方するなんてね。だからかな、そういう呼び方をするようになる前なら、私にもまだ勝ち目はあるかな、なんて思ってた気がする。でも、そっか。アビドスのあの子、先生が「向こう側」——『現実世界』にいる頃から先生のこと知ってたんだ。運命的っていうか、それじゃやっぱり勝ち目なかったかも」
カヨコは言う。
「——……少し先生を困らせちゃうかも知れないけど、言ってもいい? ……うん。先生がこの世界に来て、初めて会ったのが私だったら良かったのに、ってずっと思ってた。先生を守ったり、先生の望みを叶える力が私にあったら良かったのにって思ってた」「…………。…………?」「……ううん、そこをずるいとは思わない。あの子が「画面の向こう側」の先生を見つけたのは本当に偶然みたいだし、多分私は同じことが起きても、見ているだけでは先生のことを好きにはならなかった。私は先生と会ってから、話したり、一緒に行動したりして、ケンカしたこともあって……それで好きになったから」
「…………………」
カヨコは言う。
「ふふ、そうだよ? あ、ごめん。あれはケンカっていうか……私が先生のことを怒らせて、お説教されだけだよね」「…………。…………?」「え? 別に何も気にしてないけど……? ああ。先生、感情的に怒るの嫌いだもんね。先生の方は気にしてたの? 大丈夫。本当に言わなきゃいけないことを言う時は、少し感情がこもってるぐらいの方が心に響くよ。少なくとも、あの時の私には響いた。自分が個人的な人間関係と他のことをごっちゃにしてたのを、その時初めて気付いたから。もちろん、自分が責められたのを保身のためにキレた、とかだったら先生のこと、最低って思っただろうけど。……え? ああ、うん」
カヨコは言う。
「——そんなのがあり得ないのは、今の話を聞いたって分かるよ。先生にそんな雰囲気は全然なかったのに、感情的になってつっかかったのは私の方でしょ? もともと先生って、感情を別の問題に持ち込むの嫌うタイプだよね。かなりの
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「——うん、先生の記憶が戻ったことに関しては、手放しにいい事だと思ってる。それに、その時に先生が変に自己犠牲みたいな精神を発揮して、世界のためにもう一度記憶を消すとか、無理に元の世界に帰るとか言い出さなくて良かったって思う。「世界観」が壊れた……だっけ? 聞いた限りでは、先生がその場で何かしても、その問題が何か好転したとは思えないし、すぐやらなきゃいけないことじゃない。何より、記憶が戻っても先生が先生らしいままで良かった。先生は、普通の人でいい。普通に家庭があって、それを最優先にする、当たり前の人でいて欲しい。先生が『主人公』だとしたら、待っている『ヒロイン』のところにちゃんと帰ってくる『主人公』でいて欲しい。周りが思うほどそれって簡単じゃないし、確かにどうしようもないことっていっぱいあるだろうけど」
カヨコは言う。
「どちらかを選べって言われた時、何も考えずに他人に褒められる方を選ぶのって、楽だし簡単なんじゃないかって思う。実際、ほとんどの場合それが正しいわけだし。だから、自分にとって一番大切なものは何か、自分は何をすべきなのか、常にちゃんと考えるようにするのは、本当に難しいと思う。私にそれを教えてくれた先生ですら揺らいでいたのも理解できる……え?」
「…………?」
「うん、そうだよ。私は同じ事だと思ってる。どんなに正論を言われても、私は私と便利屋を最優先にして
カヨコは言う。
「例えば便利屋が、ゲヘナ風紀委員会や『トリニティ』……『正義実現委員会』なんかと揉めたとする。私が一番大事なのは便利屋。だから、例えこちらが悪くても、向こうの言い分が正当なものでも、納得できないことには従えない。でも、だからと言って身勝手な理屈で動いたりはしない。相手がアコでも
カヨコは嬉しそうに笑う。
「——やっぱり私に任せてくれてたんだね。うん、もちろん本当に手に負えなくなったら、シャーレに連絡しようと思ってた。呼んだら来てくれるって先生はいつも言ってたし、それが無理でも何か手段を考えて、絶対何とかしてくれるって信じてた。そう思ったから、ギリギリまで自分でやろうと思った。私たち自身の問題は、最後は私たちだけで解決しなきゃいけないし、特に『トリニティ』との問題はね……。それでも、やっぱり先生がそういう私たちを見守ってくれてたのがすごく嬉しい。心配なのに見て見ぬふりをするのってすごく難しいのに、それだけ信頼してくれてたのが嬉しい」
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カヨコは言う。
「……記憶の件なんだけどね。正直なところ、もっと前に先生の記憶の消去のことを知っていたら、私も反対したと思う。今後についても、先生に何かする事で問題解決するようなやり方には賛成出来ないし、場合によっては止めるつもり。私は『シャーレの先生』と繋がってるっていう、
カヨコは言う。
「……ううん、私ももう、そこまで子供じゃない。自分の気持ちだけで他の人の事情を否定していいとは思わないし、その人にとって何が一番大切なのかは人によって違う。例えば、『前の先生』を『シャーレの先生』としてではなく、中に宿る
カヨコは言う。
「それに『前の先生』って今も「画面の向こう側」から私たちを見守ってくれてるんでしょ? どうやったのか知らないけど、別の世界に行ってあなたと入れ替わろうだなんて、無茶なところは相変わらずだったんだなあって思うけど、単純に自分の身を犠牲にしようなんて考えてたわけじゃないのは分かる。実際、生徒全員のことを考えて行動するなんてそう出来る事じゃないし、やっぱり立派だと思うし……って、え⁉︎」「…………! …………! …………!」「……えっと、それって『前の先生』に呼びかけてるんだよね? 「画面の向こう側」っていうの、それで聞こえるの? それって、今までの私たちの会話も聞こえてるってこと? まあ、そういうのは聞かないと思うけど。……趣味が悪いから多分「読んでる」? そうかな……。まあ、多少アレなところはあったけど、あの人、別にそういうことするタイプじゃ……。ね、何でそんなに機嫌悪いの? あ、もしかして先生、まだあの人にコンプレックスあるの? 向こうの方が立派な「先生」だ、とか。……違うの? ふーん。まあ、いいけど……。どうでもいいけど、先生、言ってる事が小学生のケンカみたいだったよ。ふふ、笑いそうになっちゃった——」
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「それより、前から一つ気になってる事があるんだけど。自己犠牲だとかそんな大げさな話じゃないけど、先生って何をやるにしても損な役回りばっかり選びがちだよね。もう、止めてもしょうがないとは思ってるけど。自分の立場だとか、そういうレベルのこともちゃんと大事にしてよ? 自分がどうでもいいと思ってることに関しては、本当に無頓着……。……はぁ、やっぱり他の学校の子にも言われてるんだ。だよね。事務やってる子なんかはいろいろ見てるだろうし」
カヨコは言う。
「今、先生に戻った記憶の範囲で聞いただけでも、『シャーレの先生』は『ブルーアーカイブ』において、『主人公』らしく表舞台で活躍してるし、それに見合うだけの尊敬を勝ち得てる。確かに『前の先生』なんかは、しょっちゅう
カヨコは言う。
「——
——そんなの、自分の好きな人のことを他の人がちゃんと分かってなかったら、不満に思うに決まってる。分かんないのかな。私が先生のこと好きだっていうのは、ちゃんと分かってたくせに……
心の中で愚痴る。
「…………………」
「……え? いや、違うよ。そういう理由じゃなくて……。確かに裏方や、適材適所って考え方が強い人間の評価が低くなりがちなのは分かってる。でも、自分に関して言えばそういうのは気にしないし、先生だって単に私のことを心配してるだけでしょ? 便利屋は居心地いいし、私は当然やるべき事を自分の意思でやってるだけだよ。ふふ、初めて会った頃と同じ。あの頃は自分をそういうタイプだと思った事はなかったし、勝手に他人のこと決めつけてって、結構反感も持ってた。……うん、そうだよね。多分、先生に対して一番反抗的だったの、私じゃない? 何か懐かしいね」
カヨコは言う。
「でも一緒にいる内に、自分に似てるって先生に言われたことが嬉しくなった。私が便利屋の少し後ろから状況を見定めてる時も、先生は自然に私と同じところにいて、同じものを見てた。ううん、私より広い視野で見てた。生徒に会えば、ちょっとした変化に気付いて話題を振ったり、こっそり心配したりしてくれた。先生のいない時、目の届かないところ、そういうのは遠慮なく私に頼ってくれた。他の子じゃなく、私を信頼してくれてるのが嬉しかっ——……あ、いや、ごめん。いや、その……」「…………?」「あの、さっきの、わざとらしかった? ……うん、正実と揉めた時の話。先生が全然知らなかったら寂しいな、って、少しだけ確認したかった。嬉しいけど、知ってたなら言ってくれれば良かったのに、なんて思ったし……うん、他の人には別にいいけど、先生には
カヨコは言う。
「——そういえば、アコもよく言ってる。
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「——はっきり言うね。あなたは長くこの世界に居るべきじゃない。帰る方法が分かったのなら、出来るだけ早く帰った方がいいと思う。あなたに「先生」としてこの世界にいて欲しい子は多いだろうし、帰るのが最善だと思っている子も、面と向かって追い返すような言い方はしてないと思う。でも、先生の事情をよく知り、心配している人ほど、私と同じ事を考えてると思う。あなたは『シャーレの先生』である前に、その「器」の中に入っているだけのただの「異世界人」であり、この世界に完全に馴染んではいない。そうでしょ?」
カヨコは言う。
「『今の先生』と『前の先生』の見分けがつかない理由がやっと分かった。『主人公』という役割を果たすための「器」は一つしかなかった。この世界に、『前の先生』と『今の先生』は同時に存在できない。この世界に、あなた達を受け入れるための「器」は一つしかないから」「…………。…………」「……確かに先生の五感を信じるなら、その身体が『現実世界』から「転移」してきた、あるいはそう
カヨコは言う。
「あなたの言う『本当のブルーアーカイブ』とは、実在しない、完全に架空の理想世界。架空の物語であり、架空の登場人物たち。こうやって私たちの話に出て来る、言葉上のものでしかない。それゆえに不変であり、
カヨコは言う。
「他の派生したメディアから生成される『ブルーアーカイブ世界』とは違い、ゲームのシステムや特性がそのまま反映されているのが、この世界を含む「ゲームの中」の『ブルーアーカイブ世界』。だから、ゲームの『主人公』である『シャーレの先生』は一人しか許されない。「先生」の「役割」を
「…………?」
「——ごめん。さっきからあなたのことを、世界のパーツや物みたいな、冷たい言い方をしてた。あなたも私たちも『現実世界』の人たちも、少し形が違うだけでみんな同じだって分かってるはずなんだけど……」「…………。…………。…………」「そう、だね。別に私が頭良すぎるなんて思わないけど、あんまり神様の視点でものを考えるべきじゃないみたい。あなたの記憶が一部消去されてたのって、そういう意味では正解なのかも。今は大丈夫なの? いろいろ思い出して、前よりも正確に理解してるなら……ああ、全部戻ったわけじゃないし、慣れも——……」「…………。…………。…………」「確かにそれなら……。いや、待って。それは——……。割り切るとかじゃなくて……——」
カヨコは言う。
「——それは分かる。でも、あなたは本当に割り切れてるの? 私には無理。私にはもう、今見ているあなたの
「…………。…………」
カヨコは言う。
「——ごめん、謝らないで。今のはただの事実確認だよ。あなたはやっぱり、元の世界に帰るべきだと思う。それが正論だと思う。それでも、私はあなたにずっとこの世界にいて欲しい。何か不自由があったら、私が支える。苦しい事があったら、それでも居てよかったと思えるよう、笑ってこの世界に居られるよう努力する。——きっとあの子も、そう思ってるんだよね」「…………」「……うん、『シャーレの先生』の仕事とか、他の子のこととか、いろんな理由があるのも知ってる。でもあなたは、あの子のそのどうしようもなく止められない気持ちに
カヨコは触れる。
「「器」がどうとか、関係ないよね。ここに、私の手の中に、あなたを感じる。一度は、あなたの身体を隅々まで感じたこともある。このあたたかさが、私の「現実」。他の何より確かなもの。ふふ、結局私もあなたと同じ結論かな。女の子の胸に触って、それが基準で現実かどうか判断するとか、ちょっとバカにしてたけど」「…………?」「そう、それ。当たり前でしょ? 傷つきそうだから、一応言わないことにしてたけど。ま、そういうの以前の問題もあるよね。前から言いたかったんだけど、私が好きなの知ってて、他の子の胸の大きさがどうとか、普通そういう話する? デリカシーっていうかさ……。「あっ」て何? もしかして、今言われて気付いたの?」
「言われてみれば、そりゃそうだな、って今思った」
「それ、とぼけて言ってるんじゃないんだよね? ……はぁ、全くこの人って……。私、本当にこの人のこと好きなのかな……」
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——キスぐらいせがんでみれば良かったかな。もしかしたら向こうも、少しぐらいは期待してたかも知れないし。そうでなくても、ちょっとなら許してくれたかも知れない。多少の色仕掛けは出来るようになったし……。
何故そうしなかったのかが、自分でも分からない。そんな事をしても、もう何も変わらないと知っているからかも知れない。「事実」としてのセックス自体には、大した意味はない。それより彼の、「彼女」という言い方が余程こたえたのかも知れない。
カヨコは思い出す。
——あくまで経験上の話とは言っていた。他のことと違って、「恋愛」っていうのは明確な「終わり」があるから怖い、そう言っていた。勝手な解釈をすれば、多分あの人はそれが怖かった。以前、私が聞いた時には、あの子は「彼女」じゃないって言っていた。うまく言えないけど、もっと「特別」な存在だって。特別だと思うことに、終わりはない。何かが変わっても、特別であることには変わりない。あの人がこの世界にいる間も、向こうの世界に帰った後も、「あの子」はずっと特別だったはず。
でも、別れたらもう「彼女」じゃない。
何があったかは知らない。でもあの二人はきっと、今までよりもっと
急に重みが増して、何も言えなくなった。何か言った後の、結末が怖い。自分の気持ちがよく分からないまま、一回きりしか許されない言葉を言うことなんて、怖くて出来ない。不毛だとしても、何も言わなければ今のままの関係がずっと続く。彼女持ちのあの人を、ずっと想っていられる。私の気持ちを知っていても、あの人はわざわざ壊したりはしないはず。でも私が「付き合って欲しい」と言葉に出したら、きっとはっきり断られて——そこで終わる。
望みがないのなら、終わらせなければいけないのかも知れない。現実にエンディングはない。同じ日常がずっと続くだけだ。それでも、私の心の中に確かに
カヨコは、楽しかったはずの「恋愛」というものを、初めて怖いと思った——
作者がリアルでいろいろあったせいで、必要以上に重い話になってるので、いずれ書き直したいです。