〇〇との、あまりにも濃密で、そしてどこまでも官能的な愛の交歓の余韻に浸りながら、千冬の思考は、現実的な未来へと静かにシフトし始めていた。もし、本当に、何のしがらみもなく、彼との生活を自由に設計できるとしたら、一体どのような形が、二人にとって最も幸福なのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていた時、ふと、千冬の頭の中に、極めて現実的な、しかし重要な問題が浮上してきた。それは、自分自身の「経済状況」である。
織斑千冬は、ISの世界においては、まさに伝説的な存在だ。現役時代には、数々の大会で優勝し、莫大な賞金を獲得してきた。そして、引退後も、IS学園の教官として、また、時にはIS関連のコンサルタントやアドバイザーとして、決して少なくない収入を得ているはずだ。長年、ストイックな生活を送ってきた彼女は、おそらく、無駄遣いなどほとんどしてこなかっただろう。
(……そういえば……私の、現在の預金残高は……一体、どれくらいあっただろうか……?)
千冬は、おもむろに自分のスマホを取り出し、オンラインバンキングのアプリを起動した。いくつかのセキュリティ認証を経て表示された画面には、彼女自身も、改めて見ると少し驚くほどの、かなりの桁数の数字が並んでいた。それは、少なくとも、一般の同年代の女性が持つ預金額とは、比較にならないほどの額であることは間違いなかった。
(……これだけの蓄えがあれば……そして、私の現在の収入も考慮すれば……もし、〇〇が、IS学園を卒業した後、無理に共働きという形を取らなくても……十分に、生活していくことは可能なのではないだろうか……?)
千冬の頭の中に、新たな、そして極めて大胆な可能性が、閃光のようにひらめいた。
〇〇は、確かにISパイロットとしての才能を開花させつつある。しかし、彼が本当にISの世界で生きていくことを望んでいるのかどうか、それはまだ分からない。そして何よりも、彼とのプライベートな時間を、少しでも多く確保したい、という千冬自身の強い願望があった。もし、二人が共に外で働くとなれば、日中はそれぞれの仕事に忙殺され、夜は疲れてすぐに眠ってしまう。そんな、すれ違いの生活になってしまう可能性も否定できない。それでは、せっかく手に入れた、このかけがえのない関係が、十分に育まれないまま、味気ないものになってしまうのではないか。
(……それならば……いっそのこと……〇〇には……『主夫』に、なってもらうというのは、どうだろうか……?)
そのアイデアは、あまりにも突飛で、そして従来の男女の役割分担という概念からは、かけ離れたものだったかもしれない。しかし、千冬にとって、それは驚くほど魅力的な選択肢に思えた。
〇〇が、家で、自分の帰りを待っていてくれる。温かい食事を用意し、そして掃除や洗濯といった家事をこなし、自分が仕事から疲れて帰ってきた時には、優しい笑顔で出迎えてくれる。そして、夜は、思う存分、二人きりの時間を過ごすことができる。
それは、まさに、千冬が心のどこかでずっと憧れていた、安らぎと愛情に満ちた家庭の姿そのものではないか。
(……〇〇の、あの飄々とした性格と、そして意外なほどの器用さを考えれば……彼ならば、きっと、優秀な『主夫』になれるに違いない。料理も、掃除も、洗濯も、彼なら楽しみながら、そして完璧にこなしてしまうだろう。そして何よりも、私が仕事から帰ってきた時に、彼が淹れてくれる、美味しいコーヒーを飲みながら、その日の出来事を語り合う……そんな、穏やかで、そして幸せな時間が、毎日続くのだ……)
想像しただけで、千冬の心は、温かい幸福感で満たされていく。勿論、世間からは、様々なことを言われるかもしれない。「世界の織斑千冬が、ヒモを養っている」だの辺りを言われるに違いない。しかし、そんな外野の声など、今の千冬にとっては、どうでもいいことだった。大切なのは、自分と〇〇、二人が心から幸せであること。そして、そのためには、従来の常識や価値観に囚われる必要など、全くないのだ。
(……それに……もし、本当に子供ができたとしたら……〇〇が主夫として家庭にいてくれることは、子供にとっても、そして私にとっても、これ以上ないほど心強いサポートとなるはずだ。彼は、きっと、愛情深く、そして素晴らしい父親になるだろう……)
千冬の頭の中では、〇〇がエプロン姿でキッチンに立ち、子供たちと楽しそうに遊んでいる、そんな微笑ましい光景が、鮮明に描き出されていた。
それは、あまりにも魅力的で、そして抗いがたいほどの誘惑だった。
(……よし……決めたぞ……この話を、それとなく切り出してみるか……勿論、彼の意思を尊重することが大前提だが……もし、彼もまた、この提案を前向きに考えてくれるのであれば……私たちは、本当に、新しい形の『家族』を、築くことができるのかもしれない……)
千冬の心は、新たな目標と、そして未来への期待で、大きく高鳴っていた。
〇〇が主夫になる。それは、一見すると奇抜なアイデアかもしれないが、二人の関係性や、それぞれの性格、そして千冬の経済状況を考えれば、決して非現実的な話ではない。むしろ、二人にとって、最も合理的で、そして最も幸福な選択となる可能性すら秘めている。
織斑千冬という女性は、やはり、どこまでも合理的で、そして決断力のある人間だった。そして、一度決めたことは、必ず実行に移す。その彼女が、今、〇〇との未来について、これほどまでに具体的で、そして大胆なビジョンを描き始めている。
その事実は、二人の関係が、もはや単なる恋愛という枠を超え、もっと深く、そしてもっと確かな「人生のパートナーシップ」へと、進化しつつあることを、何よりも雄弁に物語っていた。そして、その先に待っている未来は、きっと、これまでのどんな成功よりも、そしてどんな名声よりも、彼女にとって、かけがえのない、そして真実の「幸せ」をもたらしてくれるのだろう。そんな予感を、千冬は、胸の奥で、強く、そして確かに感じていた。
そして千冬は考えた「〇〇主夫計画」を彼に打ち明ける。窓の外は、穏やかな午後の日差しが降り注ぎ、部屋の中は、心地よい静寂に包まれていた。
千冬は、いつになく緊張した面持ちで、しかし言葉を選びながら、ゆっくりと、自身の考えを〇〇に伝え始めた。自分の経済状況、そして何よりも、彼と過ごす時間を、もっと大切にしたいという切実な想い。そして、もし彼が望むなら、無理に外で働くのではなく、家で「主夫」として、自分を支えてくれないか、という、大胆な提案。
その間、〇〇は、黙って、そして真剣な表情で、千冬の言葉に耳を傾けていた。彼の、あの飄々とした態度は鳴りを潜め、その瞳の奥には、千冬の言葉の一言一句を、深く理解しようとする、真摯な光が宿っていた。
そして、千冬が全てを話し終え、不安と期待が入り混じった表情で、〇〇の返事を待った、その時。
〇〇の顔に、いつものような悪戯っぽい笑顔ではなく、心からの安堵と、そして深い感動が入り混じったような、何とも言えない温かい表情が浮かんだ。
「……おお……!千冬……まさか、お前から、そんな提案が出てくるとは……正直、めちゃくちゃ驚いたけど……でも……なんていうか……最高のアイデアじゃないか、それ……!」
〇〇の声は、ほんの少しだけ震えていた。それは、千冬の、あまりにも意外で、そして自分に対する深い愛情と信頼に満ちた提案に、心の底から感動している証だった。
「いや、本当にさ。あの、世界の織斑千冬が、俺なんかの為に、そこまで考えてくれてたなんて……なんだか、夢みたいだよ。それに、『主夫』か……確かに、俺の、あの冴えない経歴と、そして今のIS学園での中途半端な立場を考えれば、どういう生活がベストがぼんやり考えていたんだ」
彼は、少し照れたように頭を掻きながら、そう打ち明けた。その言葉は、決して嘘やごまかしではなく、彼自身の偽らざる本音のようだった。
「千冬は、もしかして、一夏くんが昔から家事を結構やってたのを見てて、男が家を守るっていうのも、アリなんじゃないか、なんて思ったのかな?だとしたら、あいつにも、ちょっと感謝しなくちゃいけないな。俺にとっては、まさに棚から牡丹餅、みたいな話だからさ」
〇〇は、そこで楽しそうに笑った。彼の脳裏には、もしかしたら、エプロン姿でキッチンに立つ自分の姿が、少しだけ具体的に思い浮かんでいたのかもしれない。
「勿論それで行こうよ、千冬。その提案、俺としては、大歓迎だ。いや、むしろ、喜んで、その役目を引き受けさせてもらうよ。千冬が、外で、IS学園の教官として、そして思う存分に活躍できるように、俺は、家で、全力でお前をサポートする。美味しいご飯を作って、部屋をピカピカにして、そしてお前が疲れて帰ってきた時には、最高の笑顔と、そして温かいお風呂で迎えてやる。そんな生活、考えただけで、ワクワクしてくるじゃないか」
彼の瞳は、新たな生活への期待で、キラキラと輝いていた。それは、これまでの彼の人生にはなかった、明確な目標と、そして愛する人を支えるという、確かな喜びを見出した男の顔だった。
しかし、そこで〇〇は、ふと、真剣な表情に戻り、言葉を続けた。
「……ただな、千冬。欲を言えば……ほんの少しだけ、欲を言わせてもらえるなら……主夫として、お前を支えるという生き方も、もちろん最高に魅力的だ。でも、やっぱり、ISパイロットとしての、〇〇という男の存在も、完全に消し去ってしまうのは、少しだけ、寂しい気がするんだ」
千冬は、その〇〇の言葉を、黙って聞いていた。彼の瞳の奥に、ISパイロットとしての、ほんの僅かな、しかし消えることのない矜持のようなものが見て取れたからだ。
〇〇「もちろん、毎日のように訓練したり、公式戦に出まくったりするつもりはない。でも、せめて、年に数回くらいはさ。IS学園の代表として、あるいは、もし可能なら、日本代表の一員として、公式の場に出て、その……なんだ、機体の性能頼りだとしても、世間の奴らに、俺の実力っていうのを、ちゃんと見せつけておきたいっていう気持ちも、やっぱり、どこかにあるんだよな。それは、単に自分のためだけじゃなくて……」
彼は、そこで一旦言葉を切り、そして、千冬の顔を、真っ直ぐに見つめながら、言った。
「……千冬、お前の隣に立つ男として……ただ家で守られているだけの、か弱い存在じゃなくて、いざという時には、お前と共に戦えるだけの、そしてお前を守れるだけの力を、ちゃんと持っているんだっていうことを……世間に、そして何よりも、お前自身に、示しておきたいんだ。それは、俺の、ささやかな、しかし譲れないプライド、みたいなものなのかもしれないな」
その言葉には、〇〇の、千冬への深い愛情と、そして一人の男としての、確かな覚悟が込められていた。彼は、ただ千冬に養われるだけの存在になるつもりはない。彼女を支え、そして彼女と共に歩む、対等なパートナーでありたいのだ。
千冬は、そんな〇〇の言葉を、静かに、そして深く、受け止めた。彼の、その不器用なまでの誠実さと、そして自分への想い。それが、千冬の心を、再び温かく満たしていく。
(……そうか……この男は……そういう男だったな……ただ甘やかされるだけでは、満足しない。自分自身の力で、私の隣に立つ資格を、証明しようとしているのだな……)
千冬の口元に、ふと、誇らしげな、そしてどこまでも優しい笑みが浮かんだ。
「……フン。何を今更、分かりきったことを言っているのだ、〇〇。貴様が、私の隣に立つ男として、相応しい力を持っていることなど、私が一番よく知っている。だが……貴様のその心意気、気に入った。よかろう。貴様が望むなら、年に数回の公式戦への出場、そしてISパイロットとしての活動も、許可しよう。ただし……あまり無茶はするなよ?貴様の体は、もはや、貴様一人のものではないのだからな……?」
最後の言葉は、ほんの少しだけ、意味深な響きを帯びていた。
〇〇は、その千冬の言葉を聞いて、子供のように、満面の笑みを浮かべた。
「……本当か、千冬!?ありがとう!約束するよ、絶対に無茶はしない。そして、必ず、お前に恥をかかせないような、最高の戦いを見せてやるからな!」
こうして、二人の未来の形は、また一つ、具体的で、そして希望に満ちたものへと、進化を遂げた。〇〇は主夫となり、千冬を家庭で支える。そして、時にはISパイロットとして、その勇姿を世界に示す。それは、まさに、二人にとって、ベストオブベストと言える、新しい生活のスタイルなのかもしれない。
そして、その生活の先には、きっと、たくさんの笑顔と、そして愛に満ち溢れた、温かい未来が待っている。そんな確信が、千冬の胸の中にも、そして〇〇の胸の中にも、確かな温もりとなって、灯っていた。
〇〇が「主夫」となり、千冬を家庭で支えながら、時にはISパイロットとして世界の舞台で活躍するという、二人にとって理想的とも言える未来の設計図。その青写真が、ある程度具体的に描き出されたことで、千冬と〇〇の心の中には、安堵感と、そして新たな生活への期待感が、温かく広がっていた。
しかし、同時に、その輝かしい未来図を実現するためには、避けては通れない、そして極めてデリケートな問題が、まだ一つ、残されていた。
それは、「いつ、そしてどのようにして、自分たちのこの特別な関係を、世間に公表するのか」という、極めて重要な課題だった。
千冬「……そうだな……貴様が主夫となり、私が外で働くという、その新しい生活の形については、ある程度、具体的なイメージが湧いてきた。だが……問題は、それを、いつ、どのような形で、周囲に、そして世間に発表するか、だ……」
千冬の声には、いつものような厳しさとは異なる、どこか慎重で、そして僅かな不安を滲ませた響きがあった。彼女自身、この問題の難しさを、誰よりもよく理解していたからだ。
〇〇「……ああ、それだよな……それが、俺にとっても、一番の懸念事項だ。正直、千冬の立場を考えると、そう簡単にはいかないだろう?」
〇〇もまた、真剣な表情で頷く。彼は、自分自身のことよりも、まず千冬の社会的立場や、彼女がこれまで築き上げてきた名声に、悪影響が及ぶことを、何よりも恐れていた。
千冬「……フン。私のことなど、どうでもいい。私が心配しているのは、貴様の方だ、〇〇。もし、私たちの関係が、不用意な形で露見するようなことがあれば、貴様は、それこそ世界中から、好奇の目と、そして心無い誹謗中傷に晒されることになるかもしれん。それは、絶対に避けなければならない」
千冬の言葉には、〇〇を全力で守り抜こうという、強い意志と、そして深い愛情が込められていた。
〇〇「……ありがとうな、千冬。お前が、そう言ってくれるだけで、俺は、本当に救われるよ……それで、具体的なタイミングなんだが……俺としては、少なくとも、俺がIS学園を無事に卒業して、そして、できれば、そこからさらに何年か、時間はかかるかもしれないけど……それこそ、モンド・グロッソで優勝するとか、何か、そういう、誰が見ても納得せざるを得ないような、明確な『実績』を残してからの方が、世間に対する説得力も増すんじゃないか、なんてことを、ぼんやりと考えたりはしてるんだが……千冬的には……どう思う?」
〇〇は、少しだけ遠慮がちに、しかし自身の考えを、千冬に正直に伝えた。それは、彼なりの、千冬への最大限の配慮であり、そして自分自身が、彼女の隣に立つに相応しい男であると、世間に認めさせるための、覚悟の表れでもあった。モンド・グロッソ――ISの世界大会の最高峰。そこで優勝するということは、ISパイロットとして、世界の頂点に立つことを意味する。それだけの「実績」があれば、例え彼が元フリーターであったとしても、そして彼らの関係が、少々特殊なものであったとしても、世間は、ある程度は、納得せざるを得ないだろう、と。
千冬は、その〇〇の言葉を、腕を組み、目を閉じて、じっと聞いていた。彼の、そのあまりにも真っ直ぐで、そしてどこか不器用なまでの誠実さが、彼女の心を強く打つ。
(……モンド・グロッソで、優勝……か。確かに、それだけの偉業を成し遂げれば、世間の見る目も変わるだろう。そして何よりも、〇〇自身の、ISパイロットとしての自信と誇りにも繋がるに違いない……だが……それは、あまりにも……遠い道のりではないか……?そして、それまでの間、私たちは、この秘密の関係を、隠し通し続けなければならないというのか……?)
千冬の心の中に、ほんの少しだけ、焦りのような、そして寂しさのような感情が湧き上がってくるのを感じた。〇〇との関係を、もっと早く、もっと堂々と、世間に認めさせたい。そんな、素直な欲求。しかし、同時に、彼の、その自分自身で道を切り開こうとする、男としてのプライドを尊重したいという気持ちも、強くあった。
しばらくの間、部屋には、時計の針が刻む音だけが、静かに響いていた。
やがて、千冬は、ゆっくりと目を開け、そして、〇〇の顔を真っ直ぐに見つめながら、静かに、しかし確かな口調で言った。
千冬「……〇〇。貴様の、その心意気は、よく分かった。モンド・グロッソで優勝するという目標も、決して悪いものではないだろう。だが……私は、貴様に、そこまで無理をさせたいとは思っていない。貴様が、ISパイロットとして、どれだけの実績を残そうとも、あるいは、残せなかったとしても……私の、貴様に対する想いは、決して変わることはない。それだけは、信じてほしい」
その言葉は、千冬の、〇〇への絶対的な信頼と、そして見返りを求めない、無償の愛の表れだった。
千冬「……しかし、貴様の言う通り、世間というものは、とかく表面的な『実績』や『肩書き』に、惑わされやすいものだ。だから、貴様が、ある程度の『箔』を付けたいという気持ちも、理解はできる。ならば……こうするのはどうだ?」
千冬は、そこで一旦言葉を切り、そして、〇〇に、ある具体的な提案をした。
千冬「……モンド・グロッソという、あまりにも大きな目標を、いきなり最終ゴールに設定するのではなく……まずは、もっと現実的で、そして達成可能な、いくつかのステップを設ける。例えば、今後一年以内に、主要な国際大会で、確実にトップ3以内に入ること。そして、IS学園を卒業するまでには、少なくとも一つのメジャータイトルを獲得すること。それくらいの『実績』であれば、貴様の今の実力と、そしてこれからの努力次第で、決して不可能なことではないはずだ」
その提案は、〇〇のプライドを尊重しつつも、あまりにも無謀な目標設定を避け、より現実的な道筋を示すものだった。
千冬「そして、それらの目標を達成した暁には……その時には、私たちは、世間に対して、私たちの関係を、堂々と公表する。それが、今、私が考える、最もバランスの取れた、そして現実的なタイミングだと思うが……どうだ?」
千冬の瞳は、真剣な光を宿し、〇〇の返事を待っていた。
〇〇は、その千冬の提案を、しばらくの間、黙って聞いていたが、やがて、その顔に、深い安堵と、そして感謝の念が入り混じったような、温かい笑みが浮かんだ。
「……千冬……ありがとう……俺の、馬鹿げたプライドを、ちゃんと理解してくれて……そして、こんなにも現実的で、そして俺にも達成できそうな目標を、示してくれて……本当に……感謝してもしきれないよ……」
彼の声は、感極まっているのか、少しだけ震えていた。
〇〇「……ああ、分かった。その目標、必ず達成してみせる。そして、その暁には……俺は、世界で一番、お前を幸せにする男になってみせる。だから……それまで、もう少しだけ……待っていてくれるか?」
その言葉には、彼の、千冬への、そして二人の未来への、揺るぎない決意が込められていた。
千冬は、そんな〇〇の言葉を聞いて、満足そうに、そして誇らしげに頷いた。
「……フン。当然だ。貴様が、その程度の目標も達成できないような、腑抜けた男ではないことは、私が一番よく知っている。だが……あまり、気負いすぎるなよ。私は、ただ、貴様の隣で、貴様の戦いを見守り、そして貴様を支えることができれば、それで十分なのだからな」
その言葉は、厳しさの中にも、〇〇への深い愛情と、そして揺るぎない信頼が込められていた。
こうして、二人の間には、新たな、そして極めて重要な「約束」が交わされた。
〇〇が、ISパイロットとして、確かな「実績」を築き上げること。そして、その暁には、二人の関係を、世間に公表すること。
それは、決して容易な道のりではないだろう。しかし、二人一緒ならば、どんな困難も乗り越えていける。そんな確信が、彼らの胸の中には、確かに存在していた。
そして、その「約束の日」が訪れるまで、二人の秘密の愛は、更に深く、そして静かに、育まれていくのだろう。その先に待っている未来が、どんなに輝かしいものになるのか、それはまだ、誰にも分からない。しかし、二人は、その未来を信じて、一歩ずつ、確実に、歩みを進めていくのだった。