森の奥へと進むにつれ、木々の巨大さは想像を超え始めた。ビルのように聳える幹が視界を遮り、昼なお暗い影を作っている。
「こっちです」
ラーニャの声が木々の間から聞こえる。彼女の金髪が闇の中でぼんやりと輝いていた。
「アウラは魔獣たちと一緒に暮らしています」
ラーニャが振り返る。彼女の表情はいつもより硬い。
「彼女は人と関わることを避けているので……」
「大丈夫?」
俺の問いにラーニャはわずかに目を見開いた。
「私が案内しているんです。心配しないで」
アルファは黙って前方を見据えている。彼女の黒いドレスが周囲の闇と一体化し、まるで幻のようだ。
「来るわ」
アルファの警告と同時に、草むらから灰色の狼型魔獣が飛び出してきた。鋭い牙が月光を反射して凶暴な輝きを放つ。
「下がって!」
アルファが俺を庇うように前に出る。彼女の指先が宙を切り、紫紺の炎が渦巻く。
狼の唸り声と共に跳躍してきた魔獣に向かって炎が放たれた。爆発的な衝撃と共に灰塵が舞い上がる。
「一体だけじゃないわよ」
アルファの言葉通り、森の闇から次々と魔獣が姿を現した。大きな鳥型魔獣が翼を広げて急降下してくる。蛇のような鱗を持つ魔獣が地面を這い寄ってくる。
「右翼をお願いできますか?」
ラーニャがアルファに指示を出す。
「承知したわ」
即席のコンビながらも息の合った動きで、二人は魔獣たちを迎え撃つ。
アルファの黒い刃が旋風となり、魔獣の群れを切り裂いていく。
「すごい……」
俺は呆然と彼女たちの戦いを見つめていた。二人の連携は完璧だった。アルファの攻撃的なスタイルとラーニャのアモンが絶妙に噛み合い、魔獣たちを次々と倒していく。
しかし……
「後ろ!」
気づいたときには遅かった。巨大なカメレオン型の魔獣が木の枝から俺に飛び掛かってきていた。透明な皮膚で姿を隠していたのだ。
「あっ!」
避けきれないと思った瞬間、俺の視界が緑色に染まった。カメレオンの巨大な舌が俺の身体を絡め取る。
「痛っ!」
俺の身体が緑色の粘液に包まれながら木々の間を引き摺られていく。カメレオンの巨体が枝を蹴り上げるたび、胃が宙吊りになる感覚に襲われる。
アルファとラーニャの姿は遥か後方。無数の魔獣が彼女たちの行く手を阻んでいる。
森の奥深くまで連れ去られた時だった。突如として緑色の光が視界を覆い、カメレオンの舌が緩んだ。
「良くやったねぇ」
幼い声。まるで鈴の音のような清らかさの中に潜む冷たさ。
地面に落とされた俺の目の前に佇んでいたのは——
肩口で切り揃えた金髪のショートヘア。青と緑のオッドアイが好奇心に輝いている。透けるような薄黒い肌に、上向きに長く尖った耳。服装は簡素なシャツとズボンだが、胸元は平らで骨ばった肩が少年のような輪郭を形作っている。
まさに10歳ほどの男の子だ——もし彼女が腕組みしながら微笑んでいなければ。
「はじめましてぇ。わたしはアウラ♪」
アウラの唇が歪んだ。その笑顔は天使のごとく可憐なのに、瞳の奥底には鉱石のように研ぎ澄まされた残忍さが宿っていた。
「さてさてぇ。君は噂の『王』さまなのかなぁ?」
カメレオンが大きな口をパカッと開け、赤い粘膜に滴る涎が糸を引く。その牙の奥に見えるのは—無数の人骨。磨り潰された衣服の断片。
「やばい……これはマジでヤバイかも……」
汗が背筋を伝う感触が恐ろしくリアルだ。