「ねぇねぇ。どこからきたのぉ?」「なんでアルファと一緒なのかなぁ?」
アウラの小指が俺の鎖骨をなぞる。冷たい指先が皮膚を押し上げる感触に息が詰まる。気づけば彼女の金髪が俺の鼻先で揺れていた。
疑念が沸いた刹那、柔らかな衝撃。
「捕まえた〜♡」アウラの腕が俺の背中に絡みつき、薄布越しに触れる胸元は確かに平坦――だが、腰に回された脚は蜘蛛の巣のように巻き付く。
「1000年以上生きてても退屈なのぉ……」
囁きは甘露と毒薬の混合。「男どもはみんなわたしを蔑む……“幼い”とか“弱い”って……」
その言葉に森の奥で待つアルファやラーニャの殺気立った姿が甦る。
「でも君は違うよね?」
アウラの青い瞳が月光を吸う。
「怯えてるのに逃げない。弱いのに優しい」
俺の鼓動に耳を押しあてる少女の体温が熱病のように染み入る。
「お父さんみたい……」
突然泣きそうな声。
「だから教えてほしいなぁ」
耳たぶが小さな歯にくわえられピリピリ痛む。
「わたしに“愛される幸せ”を」
拒否権などないことを悟った瞬間、魔獣たちの唸り声が遠くから響いた。
檻の中で飼われる獲物たちの嗚咽を背に、アウラが初めて俺の指を握る。
「ずっと一緒にいてくれるよね?」
青と緑の双眸が蜜のように蕩けた。
「・・・ずっと、というのは無理かもしれないしれない」
その言葉に、アウラは僅かに眉を寄せた。
「・・・なんで」
その答えは。
「俺、人間だから寿命も短い。それに他の女にも狙われる」
アルファやラーニャのことが思い浮かぶ。
「それでもいいのなら付き合ってくれるか?」
アウラの青と緑の瞳が大きく見開かれた。
「ほんと?」
その声は、初めて聞いた時はあの冷酷な魔獣使いのそれとは到底思えないほど純粋だった。
「嘘じゃないよ」
「じゃあ約束して」
アウラが小指を立てて差し出す。
「私のこと捨てないって」
その姿は、本当に10歳の女の子のようだった。
「俺は、俺がやらなきゃいけない事がある。だけど、それでアウラを見捨てはしない。けれど、良いのか?なんというか、俺は出会って、そんなに経っていないのに」
「うぅん、それは気にしていないよ。だって、この国に来てから、ずっと見ていたから」
「えっ」
その言葉に驚愕する。エルフの王都に来てからという事は。
「もしかして・・・ずっと?」
「そうだよ」
アウラは嬉しそうに笑う。
「アンティリーネを追い詰める姿、すごかった。あとアルファとラーニャを助けているところも」
「・・・そんなところも見ていたのか」
「もちろん!」
アウラは得意げに胸を張る。
「だから決めたの。あなたと一緒に居たら楽しいだろうなぁって」
「そっか・・・」
俺は思わず苦笑した。