陽光が血のように紅く染まる夕暮れ。森の奥深くで俺たちは密談していた。
「女王の首……必ず取るわ」
アルファの細い指先が地図上の一点を刺す。その目は獲物を狙う猛禽類のように鋭い。
「へぇ、いきなり来たと思って、作戦会議だと思ったら、女王かぁ、大きく出たねぇ」
そうしながら、アウラは笑みを浮かべる。
「えっと、その、女王様を狙うって、本気ですか」
「勿論よ、ダークエルフは既に彼によって墜ちた。ならば、次はエルフの女王よ」
そうしながら、アルファが語る。
「その為には、皆の協力が必要不可欠なの」
「色々と気になるけど、まず一つだけ」
アウラが挙手する。
「エルフの女王様って……」
「私と同じくらい……いや、年齢はもうちょっと下ね」
アルファが訂正する。
「つまりアウラと俺よりかなり上か」
俺が納得するとアルファは少し嫌そうな顔をした。
「なによそれ」
「あ、いや」
慌てて取り繕う俺を見てアルファはため息をつく。
「まあいいわ。とにかく彼女を倒せば私はこの国のトップになれるわ」
「でも、どうやって?」
アウラが当然の疑問を口にする。
「簡単よ。私にはあなたたちがいるもの」
「へ?」
思わず声を揃える俺とアウラにアルファは不敵に笑う。
「あなたたちの力を借りて女王を討つわ」
「ちょっ……ちょっと待って下さい! そんな簡単に言われても困りますよ!」
慌てる俺を無視してアルファは続ける。
「大丈夫。きっと上手くいくわ」
自信満々な態度に俺とアウラは顔を見合わせるしかなかった。
「それで……具体的には何をするつもりなの?」
アウラが訊ねるとアルファはにっこりと微笑んだ。
「まずは彼女の支持基盤を崩すことから始めるわ」
「支持基盤?」
俺とアウラは同時に首を傾げる。
「ええ。今の女王は古い価値観を守ることに固執してる。だから私たちは新しい風を吹き込んであげるのよ」
アルファの言葉に俺はピンと来ない。
「そんなになのか?」
「……この国には生殖に関する奇妙な慣習がある」
アルファの声が黄昏に溶ける。彼女の指がテーブル上の羊皮紙を撫でた。
「エルフの長命を支えるのは『聖誓』という神聖な儀式よ。婚姻を神殿で交わした者たちのみが子孫を授かる権利を持つ」
アウラが不安げに俺を見る。
「つまり女王も例外じゃない?」
「もちろん」アルファが微笑んだ。
「でも彼女は特殊な地位にいる。『聖誓』なしに子を成すことは王族の資格喪失を意味するの」
沈黙が場を満たす。やがてアウラの唇が微かに歪んだ。
「面白い話ね……」
その声音に宿る危険な予感に、俺の背筋が凍った。