「さて、始めようか」
月が千切れ雲に隠れた夜半。アルファの号令一下、魔獣軍団が聖樹城に雪崩れ込んだ。
「行け!」
アウラの鞭が閃くと同時に、腐敗竜が城壁を喰いちぎった。鉄製の門扉が飴細工のように溶け落ちる。
「馬鹿な……」
白檀の香りで眠りを誘う結界。それが瓦礫に埋もれるのを俺は見下ろしていた。
「…果たして、これが正しかったんでしょうか」
不安そうに、ラーニャが隣にいる。
彼女も、今回の出来事で少し不安があった。
そして、ラーニャは今回の作戦に関しては、俺の護衛に徹底している。
さらには、被害を最小限にする為にアウラが操る魔物だけで戦う事に決定していた。
本来であればアルファが参戦する必要もあるのだが。
「問題ないわ。全て計画通り」
アルファは薄く笑い、漆黒のローブを翻した。
「では行ってくるわ」
彼女の姿は城下町へ向かう石畳に消えていく。アウラが口笛を吹きながらその後を追う。
俺は深呼吸をして城門へ向かった。
そうして、周囲を見つめていく。
魔物達が戦っているが、エルフ達に被害をある程度抑えながら。
「アルファはもう中に入ったのか?」
ラーニャに問うが答えはない。彼女は唇を引き結び視線を彷徨わせているだけだ。
「大丈夫ですよ」
彼女は俺の袖を引っ張り歩き出した。
大理石廊下の奥から悲鳴が聞こえる。
「女王はどこだ?」
「玉座の間です」
「アルファは?」
「もう到着しています」
急勾配を登り詰めると黄金の扉が待ち受けていた。両脇には水晶髑髏が鎮座し妖しく輝いている。
「開けます」
ラーニャが触れると同時に蝶番が軋み音を立てて左右に割れた。
玉座の間は血海であった。天井から滴る紅い雫が絨毯模様を朱殷に染め変えている。
中央には一人の女性が跪き震えていた。純白のドレスは赤黒く汚され長い金髪が背後に垂れ落ちている。
「セレスティン・ルクルス」
ラーニャの呼び掛けに女王は虚ろな瞳で見上げてきた。
「来ましたか」
その声には威厳など微塵もなく枯れ木の如く脆弱であった。
「今すぐ降伏しなさい」
「……無駄です」
セレスティンは首を振った。頬を伝う涙の痕跡が痛々しい。
「我が国は終わりました。貴方たちに蹂躙され尽くしました」
「まだ終わっていません」
アルファが颯爽と現れた。剣先は女王の喉元に向けられている。
「我々は支配を望んでいる訳ではありません」
「嘘です。滅ぼす以外考えていません」
「違います」
アルファは冷静に諭すように語りかけた。
「新秩序の創設です。私たちと共存可能な世界を作る為に女王陛下のお力が必要なのです」
「…その先に、その男が王として君臨するのでしょう」
セレスティンは手を強く握りしめる。
その眼差しに耐え兼ね俺は俯くしかなかった。
「確かにそうです」
ラーニャが毅然と答えた。
「その先に、本当に輝かしい未来があると、本気で考えているんですか。その男によって、多くのエルフは、それに、この惨状を生んでおいて」
それを否定できなかった。
「それで、あなたが見た予知、果たして正しいと思えるのかしらね」
「っ」
それと共に、セレスティンはアルファによって、気絶される。
「さぁ、とりあえず帰りましょう」