風が凍りつくような静寂の中、二つの影が森の奥深くで対峙していた。
「へぇ、まさか、本当にハイエルフの所も支配下を置くなんて、彼、やるようね」
そうしながらも、アンティリーネは、その手に持つ鎌を地面に置きながら、アルファを見つめる。
以前と変わらない漆黒と銀の瞳の彼女は、獲物が近くにいる事を感じながら歩いていた。
対してアルファもまた、その手に持つ剣をゆっくりと構えていた。
「えぇ、そうね。エルフの国。その支配もまたもう少しで終わる。故にこの国にとって彼の邪魔になる存在はただ1人」
それと共に剣を、アンティリーネに向けた。
「あなたをどうにか出来れば、エルフの国は完成するわ」
「ふふっ、別に私を支配下に置かなくても良いんじゃないの?私が王となったとしてもねぇ」
笑みを浮かべながら、アンティリーネは呟くが、その本性を見抜いていたアルファは冷笑する。
「あなたが支配したら、それこそ滅びに向かうわ」
その瞬間。鎌を手にしたアンティリーネはその刃先を地面へと叩きつける。それによって巻き起こる爆風に彼女は身を委ねながら高く跳躍し、宙を舞う。
その軌跡を描くように斬撃が放たれる。
アルファは即座に反応した。横薙ぎの斬撃に対し最小限の動きで回避するも頬に風圧を感じた。
彼女は剣を低く構え、次撃に備える。
「ほう……やるじゃん」
感嘆するかの如くアンティリーネは鎌を振り回す。
その動きは洗練されており一切の無駄が無い。
剣戟の音が森を駆け巡る。
アンティリーネの鎌が弧を描く度に空間が切り裂かれ、大地が裂けていく。
対するアルファはその攻撃を寸前で躱しつつ反撃の隙を窺っていた。
(彼女の動き……確かに速い)
アルファの脳裏にはセレスティンが事前に見せてくれた予知の映像が浮かんでいた。
幾度も繰り返されたその映像は脳裏に焼き付き、今や完璧に彼女の動作パターンを予測可能だった。
鎌が振り下ろされる刹那──
(ここだ)
アルファの剣が閃いた。
ガキンッ!
金属がぶつかり合う鋭い音と共に火花が散る。
アンティリーネの瞳が僅かに見開かれた。
「……へぇ」
一瞬の硬直を逃さず、アルファは後方へ跳躍する。
着地と同時に彼女は地面を蹴り付け距離を詰めると、今度は連撃を放った。突きと払いを複雑に絡めながら繰り出す攻撃にアンティリーネは次第に対応し始めた。
鎌の柄で剣撃を受け流し、時には刃で弾き返す。
二人の周囲には舞い上がる土煙と木屑が漂う。
しかし、アルファの予測能力は予知に由来するものであり、相手の動きの癖や呼吸までも読み切っていた。
そのため彼女の攻撃はより精密に、より効果的にアンティリーネの防御網を突破していく。
(おかしい)
アンティリーネが眉根を寄せた瞬間だった。
アルファが突然剣を鞘に納めると同時に手のひらを地面へと翳した。
魔力の奔流が渦巻く。
次の瞬間、彼女の姿が変貌し始めた。
ラーニャの持つ黄金の守護者の鎧。
それを今、アルファが借り受け、身に纏っている。
「なっ⁉」
驚愕の声を上げる暇も与えず、疾走する。
牙を剥き出したアルファ──いやアメンの突進は圧倒的な質量感を伴っていた。
鎌で受け止める間もなくアンティリーネは横腹を貫かれてしまう。
「ぐはっ……!」
血霧が舞い散り彼女の動きが一瞬鈍った。その隙を突いてアモンは巨体を捻じ込みながら彼女を地面へ叩きつけた。
衝撃で大地が陥没する。
咳き込みながらも立ち上がろうとするアンティリーネだったがそこで足首に違和感を覚えた。
見れば紫色に変色した蔦状の植物が絡みついている。
(アウラの仕業か!)
魔力を込めた爪で切断を試みるが硬化した植物から出る。
その媚薬が塗り込まれた罠だった。皮膚を通して体内へ吸収され始めた毒素が神経を麻痺させ始める。アンティリーネの全身から汗が噴き出し膝が震える。
(くそっ……)
力を振り絞り起き上がろうとするも毒の効果は急速に進行していた。指先から始まり四肢末端へと痺れが広がっていく。鎌を握る手も徐々に力が入らなくなっていくのがわかる。額から冷や汗が流れ落ちる。
「……!」
アンティリーネは歯噛みした。悔しさと怒りで顔面蒼白となりながらも何とか立ち上がろうとする。しかし既に彼女の身体は限界を迎えていた。
視界が揺らめく中で影が近づいてくる気配を感じた──それがアルファである事を認識する。
「終わりよ」
静かに告げられた宣告。アルファの指先がアンティリーネの肩に触れた。
毒によって抵抗力を奪われた身体はもはや動かない。
アルファはゆっくりとアンティリーネの手首を掴み上げる。
抵抗しようとするも毒のせいで思うように身体が動かせず彼女は完全に無力化されていた。
アルファの指先がアンティリーネの手首に触れた。毒によって抵抗力を奪われた身体はもはや動かない。
その手がスッと伸びる。
アルファの指先がアンティリーネの手首を掴み上げる。
抵抗しようとするも毒のせいで思うように身体が動かせず彼女は完全に無力化されていた。
「……っ」
アンティリーネが小さく息を飲む音が聞こえた気がした。