アルファに導かれるまま空中を飛翔し、僕たちはやがて森の中に降り立った。木々の葉が風に揺れる音だけが静かに響いている。
「ここなら少し安全よ」
アルファは周囲を見回しながら言った。
「追っ手はまだ来ていないようね」
彼女は耳を澄ませ、遠くの音に注意を払っている。
先程までの街とはまた異なった雰囲気に包まれる。暗い森の奥から時折動物の鳴き声が聞こえる程度で、人の気配は感じられない。
「ここで少し休もうか」
アルファが提案すると、僕も同意して木の根元に腰を下ろした。
「ありがとう」
僕が言うと、アルファは微笑んだ。
「この先はもっと厳しい旅になるわ。今は少しでも休息をとって」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、森の奥から鋭い殺気が漂ってきた。アルファの表情が一変し、彼女の指が素早く動き始める。
「何か来る」
アルファの警告に僕も身構えた。
次の瞬間、木々の間から黒い影が飛び出してきた。
その姿は確かにエルフと似ていたが、肌の色は青白く、髪は漆黒だった。手には短剣を持ち、その目は残忍な光を放っている。
「オルガの刺客のようね」
そうしながら、アルファが僕の前に立つ。その手には黒い刃の武器を持ち、構える。
「こいつらは」
「ダークエルフ、私達と同じエルフで別の種族よ」
ダークエルフを睨みつける。
「そいつが予知で出たエルフを支配しようとする侵略者」
ダークエルフが冷たく言い放つと同時に、彼女は一気に踏み込んできた。
手に握られた短剣が月明かりに鈍く光る。
「違うわ、彼はエルフを救う王よ」
アルファが叫ぶと同時に、彼女の武器が動いた。黒い刃を持つ長剣が振られ、ダークエルフの攻撃を受け止める。
金属音が森に響き渡り、二人の間で火花が散った。
「ふん、洗脳されたようだな」
ダークエルフの口元に冷笑が浮かぶ。彼女の手首が素早く動き、短剣を一閃。アルファの肩を狙った。
アルファは身をひねって避けようとしたが、ダークエルフの動きは予想外に速かった。短剣の切っ先が彼女の左肩を浅く切り裂く。
「っ!」
一瞬顔を歪めたアルファだが、すぐに冷静さを取り戻し、剣を振り下ろした。
ダークエルフは素早く後ろに飛び退き、その攻撃をかわす。
「なっ、これは一体っ!以前よりも力がっ」
ダークエルフの表情が変わった。彼女は再び地面を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。
今度は両手で短剣を構え、二つの攻撃を繰り出してくる。
「遅い!」
アルファは体を横に捻り、一撃目を避けると同時に剣を振り上げた。
その刃がダークエルフの短剣を弾き飛ばす。
「くっ!」
武器を失ったダークエルフだが、彼女は即座に素手で次の攻撃に移った。
彼女の拳がアルファの顔面を狙う。
しかし、アルファはその拳を受け止めるどころか、逆に自ら前に踏み込んでいた。
「甘いわ!」
アルファの肘打ちがダークエルフの胸部に命中し、彼女は後方に吹き飛ばされた。
「があっ!」
木の幹に激突し、ダークエルフは咳き込みながら膝をつく。
「この程度で私を止められると思う?」
アルファの周囲に青い魔力の粒子が集まり始めた。刻印の力が彼女の体内で活性化している証拠だ。
「何っ……この力は……」
ダークエルフが恐怖に目を見開いた。
アルファが剣を高く掲げると、黒い刃が青い光を帯び始めた。
「終わりよ」
一瞬の静寂の後、アルファは風のような速さで駆け出した。ダークエルフが立ち上がろうとした時には既に遅かった。
ダークエルフは、そのまま吹き飛ばされる。
そのまま、ダークエルフは、気絶してしまう。
「このエルフは、一体」
「ダークエルフ、私達のエルフ同士のいざこざよ」
ダークエルフはそのまま気を失っていた。その姿を見つめながらアルファが呟いた。
「ダークエルフ……彼らとは長い因縁があるわ」
彼女の声には疲労と悲しみが混じっている。
「かつては共に戦った仲間も多かったのに……」
アルファは膝をつき、ダークエルフの脈を確認した。まだ生きているが深い傷を負っているようだ。
「彼女もかつては……」
アルファの言葉が途切れた。
「…もしかしたら、最初にこの一件を解決しなければならないわね」
「それって」
「あなたの力で、エルフとダークエルフの争いを終わらせてほしいの」