※この作品はR-18です。

甘くて、こわい君だった   作:Marks_Lee

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if 15話

夕暮れの柔らかな光が部屋を染める中、湊は美遥の隣で静かに息をついた。

 

「そろそろ、ちゃんと話をしないといけないと思う」

 

その声は穏やかだが、確かな決意がこもっていた。

 

美遥は目を伏せたまましばらく黙っていたが、やがて静かに顔を上げて頷く。

 

「うん、私もそう思う。行こう」

 

言葉は短くても、瞳の奥に浮かぶ光には覚悟があった。

 

二人はそっと手を取り合い、静かな夜の街を歩く。

冷たい風が頬を撫でるたびに身を縮めたが、不思議と心は落ち着いていた。

 

義母の家の扉の前で立ち止まり、湊は深く息を吸う。

美遥の手を、少し強く握りしめた。

 

「大丈夫。俺たちなら、きっと乗り越えられる」

 

その言葉に美遥も小さく頷いた。

 

玄関のチャイムを押す。

短い沈黙の中、どこか遠くで時計の秒針が静かに音を刻んでいた。

 

やがて、扉がゆっくりと開く。

 

「いらっしゃい」

 

義母の声は穏やかだったが、その奥には微かな緊張が滲んでいた。

 

三人は居間へ通され、それぞれの思いを胸に静かに席につく。

 

義母は湊をまっすぐに見つめ、少し間を置いてから口を開いた。

 

「お二人のことは、少し前から察していたわ」

 

その一言に、張り詰めていた空気がほんの少し緩んだ。

 

湊は息を整えながら、まっすぐ義母に向き直る。

 

「……美遥さんと、これからの人生を一緒に歩いていきたいと考えています。

簡単な道ではないかもしれませんが、どんなときも隣にいて、支え合っていくつもりです」

 

一言一言、心から絞り出すように語る湊の声は震えていた。

だがその震えには、嘘のない誠実さが宿っていた。

 

義母はその言葉を静かに受け止め、わずかに視線を落とす。

テーブルの上に組まれた手が、わずかに指先を動かしていた。

 

沈黙の中、美遥がそっとその手に触れた。

 

義母は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべる。

 

「……わかりました。あなたの言葉は、ちゃんと届いたと思う。

どうか、美遥を、大切にしてあげてくださいね」

 

湊は深く頭を下げた。

美遥も、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。

 

言葉は多くなくても、そこには確かな理解と受け入れがあった。

 

◇◇◇

 

部屋の中は、淡い灯りだけが静かに揺れていた。

 

義母は椅子に腰を下ろし、両手を膝の上に重ねたまま、ぽつりと語り出す。

 

「私にもね、あなたたちとは少し違うかたちだけど、大切な人と向き合うのに悩んだ時期があったのよ」

 

その声は柔らかく、しかしどこか遠い過去を見つめるような響きだった。

 

美遥は静かに頷き、義母の言葉に耳を傾ける。

 

「自分の気持ちだけを押しつけて、相手のことを見失ってしまったの。

あの頃は、ただ好きなだけじゃ、うまくいかないんだって思い知らされたわ」

 

義母の指先が、そっと組み直される。

その仕草に、ほんのわずかな痛みと、年月を超えた強さが滲んでいた。

 

「だからこそ、あなたたちには焦らずに、でも正直に向き合ってほしいの。

ぶつかることもあるかもしれない。でもね、ちゃんと話して、理解しようとし続ければ、きっと乗り越えられる」

 

言葉の一つ一つが、美遥の胸に静かに降り積もっていく。

 

目の前の義母が、ただの「家族」ではなく、一人の女性として生きてきた時間が、ほんの少し垣間見えた気がした。

 

美遥は息を吐き、言葉を選びながら小さく答える。

 

「……私も、これからはちゃんと向き合いたい。湊とも、自分自身のこととも」

 

義母は優しく微笑み、そっと手を差し伸べた。

 

「それでいいのよ。少しずつでも、歩いていければ」

 

美遥はその手をしっかりと握り返す。

その温もりが、胸の奥にぽっと灯をともすのを感じた。

 

外では、夜の静けさが一層深まっていく。

 

三人の心には、それぞれの思いと決意が、確かな根を下ろしていた。

その根は、これから先の季節を支え、静かに伸びていく。

 

 




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