※この作品はR-18です。

甘くて、こわい君だった   作:Marks_Lee

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その後 3

湊の部屋で、ひとり。

 

ほんの短時間のはずだったのに、時計の針は思っていたよりも静かに進んでいた。

窓は閉まっていて、外の音は遠い。

エアコンの風だけが、ときおり薄く肌をなでていく。

 

部屋の中は少しだけ、湊の匂いがする。

柔軟剤と、紙と、少しの煙草の残り香。

ベッド脇に座った美遥は、無意識に深呼吸して、その空気を胸に吸い込んだ。

 

スマートフォンを手に取っては、すぐに伏せる。

メッセージはまだない。

「ごめん、もう少しかかる」と湊は言っていた。

本当に、もう少しなんだろう。けれど、この静けさが、どうしようもなく長く感じる。

 

──数日前、美遥は母に言った。

 

「ねえ、ちょっとだけ湊くんのところ、泊まっていい?」

 

母は少し驚いた顔をしていたけど、特に反対はしなかった。

「ちゃんと挨拶して、迷惑かけないようにね」とだけ言って、笑っていた。

そういうところが、母のいいところだと思う。

 

実際、泊まりたい理由なんて明確なものじゃなかった。

ただ、少しだけ環境を変えたかった。

一人になりたかったというより、湊と同じ空間で、何も起きない時間を過ごしてみたかった。

たぶん、それはわがままだ。

 

けれど、湊は何も聞かずに「いいよ」とだけ言ってくれた。

 

それが嬉しかったし、少しだけ、こわくもあった。

 

いつの間にか、自分の中に彼が根を張っている。

触れられたあとも、優しくされたあとも、どこかでそれを反芻するように──

もっと、知りたいと、願ってしまっている。

 

湊の家でひとり。

ベッドの上。

息をするたびに、じんわりと熱がたまっていく。

 

何気なく視線を落とすと、ゴミ箱が目に入った。

丸めたティッシュの束。

その奥、やけにしっとりとした白。

 

……あ。

 

思わず、呼吸が止まる。

胸がきゅっと痛むように鳴る。

目を逸らすべきなのに、なぜか離せない。

無意識に手が伸びていた。

 

そっと、縁に指先が触れる。

あと少しで──

 

カチャ、と玄関の鍵が回る音がした。

 

「……ただいま」

 

湊の声が、空気を切り裂いた。

美遥は手を引っ込め、ゴミ箱から慌てて身を離す。

湊はジャケットを脱ぎながら、こちらを一瞥する。

 

「何してた?」

 

その問いかけは、いつもと変わらない調子だった。

穏やかで、抑揚がなくて、けれど──目だけが、すべてを見抜いているようだった。

 

そのことに気づいたとき、美遥の体は妙に熱を帯びていた。

 

◇◇◇

 

湯気の消えたバスルームの扉。

シャワーの音が止んでも、部屋にはまだ静けさが残る。

 

ベッドに腰を下ろしたまま、美遥は胸元を抱いていた。

指先が、じんわりと湿った太ももをなぞる。肌に貼りついた部屋着の布越しに、熱が染み出すように広がっていた。

 

わかってる。こんなこと、おかしい。

けれど、あのティッシュを見てしまったときから──頭の奥がぼんやりしていた。

湊の気配を感じながら、ここで、ひとりきりで、

どうしようもなく疼いていた。

 

そっと、脚を閉じたまま、腿の内側を撫でる。

手の甲がふくらみをかすめると、電流のような震えが背を走る。

 

「……ん……っ」

 

吐息が漏れた。恥ずかしさに顔をしかめながら、それでも手を止めない。

下着の上から、すでに湿りかけた箇所を、指の腹で優しく押す。

ゆっくり円を描くように動かすと、下腹部の奥がきゅっと収縮した。

 

はずかしい。

けど、気持ちいい。

そして──

 

見てほしい。

あの人に。

 

ドアが開いた音がしたのは、ほんの数秒後だった。

 

「……」

 

バスタオルを肩にかけたままの湊が、部屋の中に立っていた。

目が合う。

瞬間、美遥の手が止まる。

 

でも、引っ込められなかった。

 

見られてる。

なのに、止まれない。

 

「……見ないで」

 

そう口にしたときには、すでに熱が脚の付け根を濡らしていた。

唇が震え、目元が潤む。

 

それでも湊は、ただ黙って、目を逸らさない。

 

その視線が、まるで身体の奥を覗きこむようで──ぞくりとした快感が走る。

 

美遥はゆっくり、指を下着の中へ滑り込ませる。

湿り気を帯びた柔らかさが迎え入れてくる。

一度なぞると、ぬるりと熱がまとわりつく。

 

「……ふ、あっ……」

 

指先が浅く沈む。

敏感な部分を、そっと押し広げるように撫でる。

脚が震え、片方の手でシーツを握る。

 

湊の目が、その手元に注がれている。

恥ずかしいのに、逃げられない。

いや、むしろ──このまま、ずっと見ていてほしい。

 

「……湊くん、……みて、て……」

 

か細い声でそう囁いたとき、自分の声の甘さに自分でも驚いた。

羞恥と快感が混ざり合って、喉の奥で震える。

 

湊はただ、目を細めたまま微動だにしなかった。

その静けさが、美遥のすべてを受け入れてくれているようで──

指の動きが、自然と速くなる。

 

ぬるぬると音がしはじめた。

小刻みに震える脚、乱れる呼吸、かすれた吐息。

胸の先も服の下で硬くなっていて、背筋を弓なりに反らせる。

 

「や、やだ……、……もう、やばい、の……っ」

 

目の前にいるのに。

湊が、見てるのに。

なのに、止まらない。

 

ぐっ、と奥を押しながら、もう片方の指で敏感なところをなぞると──

身体が大きく跳ねた。

 

「……っ……ぁ……!」

 

頭の奥が白く染まる。

すべての筋肉が一瞬にして緊張し、そして溶けていった。

溢れたものが、下着を、シーツを、湿らせる。

 

全身が、痙攣のように小刻みに震える中、湊の声がぽつりと落ちた。

 

◇◇◇

 

クライマックスのあと、美遥はベッドにうつ伏せになったまま、シーツを握りしめていた。

肩がまだ小刻みに震えている。

その背に、ふっと湊の声が落ちる。

 

「……今度からは、ペットシーツ用意しとくよ」

 

くすっと笑うような声でもなく、嫌味でもなく、ただの事実のように。

でもその言葉の意味が、静かに染みこんでくる。

 

美遥は顔をうずめたまま、赤くなった耳を見せながら呟く。

 

「……バカ」

 

返事はなかった。

そのかわり、ベッド脇に何かが置かれる気配。

 

「これ、あげる。……プレゼント」

 

顔を上げると、小さな紙箱があった。

指先で開くと、光沢のある細いチョーカー。

金属ではない、やわらかいレザー製。

けれど、中央にはひとつだけ、小さなリングがついていた。

 

言葉にできない何かが、美遥の中をゆっくり満たしていく。

 

「……こういうの、冗談で渡す人、いる?」

 

「冗談で、こんなサイズ合わせないよ」

 

湊は目を伏せたまま、淡々と言う。

それがどれだけの意味を持つか、美遥は知っている。

 

箱を胸に抱いたまま、彼女は黙ってうなずいた。

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