目覚めたとき、窓の外はもう白んでいた。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、天井の角をぼんやりと照らしている。
湊は、しばらく天井を見つめたまま動かなかった。
隣に、紬がいる。
制服のまま眠るその身体の温もりが、シーツ越しにじかに伝わってくる。
現実のはずなのに、どこか遠くの世界をなぞっているような——
そんな、やわらかく歪んだ朝だった。
ゆっくりと起き上がり、洗面所に向かう。
鏡に映った自分の顔が、ほんの少しだけ違って見えた。
昨夜のことが、身体の中にまだ残っている。
熱が、肌の内側に宿ったままのような感覚。
首筋にかすかに浮かぶ赤い痕は、自分で見ても背筋がぞくりとした。
「……おはよう」
背後から声がする。
振り返ると、紬が起きていた。
襟元を少し手で隠すようにしながら、それでもこちらを見て、笑っていた。
「……おはよう」
その笑顔に何かを言い返す気力もなく、湊はただそう返す。
まるで、これが“続いて当然”のことのように、彼女は当たり前の顔をしてそこにいた。
朝食を取るでもなく、支度をするでもなく。
静かなまま時間は流れ、やがて、駅まで一緒に歩くことになった。
制服姿の少女と、スーツ姿の男。
ただ歩いているだけなのに、なにか決定的に“おかしい”。
でも、紬はまったく気にした様子もない。
湊の腕をそっと掴んで、笑う。
「また、夜に行っていい?」
その一言が、拒否の選択肢を、最初から用意していない。
湊は、何も言えなかった。
ただ、うなずいた。
◇◇◇
部屋の照明は落とされ、薄暗いリビングの中で、紬はそっと湊のシャツに指をかけた。
その指先が、躊躇いなくボタンを外していく。
「……湊くんの匂い、好き」
耳元でささやかれるその声に、喉の奥が熱くなる。
シャツを脱がされ、胸元を撫でられる。
体温がゆっくりと高くなるのを、指先で確かめられているようだった。
湊の手が、彼女の頬に触れる。
頬の感触は、ひどくやわらかく、あたたかい。
唇が重なり、深く、舌を差し出すと、すぐに絡まった。
ぬるりとした感触が喉の奥まで伝わって、喉が鳴った。
紬の指が、自分の胸元を這い降りていく。
ベルトに触れ、少し力を込めて外される。
その手付きに、呼吸が乱れていく。
「……ベッド、行こ」
囁くようにそう言って、紬は湊の手を引いた。
その細い指が、やけに熱を帯びて感じられる。
寝室に移動する途中で、彼女は自分のブラウスのボタンを外しながら歩いていた。
白い肌が、ひとつ、またひとつと露わになる。
スカートのホックを外し、ストンと足元に落とす。
まるで、脱皮するように制服を床に置いていくその姿は、どこか現実感を欠いていた。
だからこそ、ひどく淫靡で、美しかった。
ベッドの端に腰掛けた紬が、下着のまま、こちらを見上げる。
「……湊くん、触って」
震える声でそう言ったその顔は、頬が熱に染まっていた。
唇を軽く噛みながら、首を差し出してくる。
湊はその喉元に唇を押し当て、舌でなぞる。
柔らかな肌に、うっすらと汗が滲んでいる。
そこに唇を這わせ、噛んで、痕をつけると、小さく息が漏れた。
「っ……やだ……そこ、ずっと残っちゃう」
「消えなきゃ、いいのに」
冗談めかしてそう言うと、紬は目を伏せながら、少しだけ笑った。
その笑顔は、すこし壊れかけていた。
けれど、なぜかそれが、美しく見えた。
下着の上から、彼女の中心に触れる。
指をそっと押し当てると、すでに湿っていた。
「昨日より……もっと、濡れてる」
「……っ、言わないで……」
紬は、シーツを握りしめながら、脚をわずかに開いた。
その隙間に、湊の指が入り込む。
下着の布越しに、ゆっくりと撫であげると、全身がぴくんと震えた。
下着をずらして、指を差し入れる。
ぬるりと滑る感触に、内側から吸いつかれるような熱を感じる。
「ぁ……っ、だめ、そこ……動かさないで……っ」
そう言いながら、紬の腰が自ら動いていた。
拒みながらも求めるその姿が、湊の奥をかき乱していく。
指を二本に増やし、奥まで沈める。
紬の脚が、ビクンと跳ねた。
「あっ……! いまの、すご……っ、あっ、もう……っ」
シーツを掴んだまま、彼女の喉が甘く震え、背中がのけ反る。
乳房を包み込み、親指で先端を転がすと、また喘ぎが漏れた。
息を詰めながら、目を潤ませ、何かを我慢している顔。
その顔がたまらなくなって、湊はそっと上に覆い被さる。
そのまま、ゆっくりと腰を重ねる。
彼女の内側に、熱が沈んでいく。
粘膜が絡まり、熱と熱が交わる。
「んっ……っ……っ……! っ……すごい、……入ってる……」
頬に涙を浮かべながら、それでも脚を絡めてきた。
まるで、もう離さないとでも言うように。
ゆっくりと、深く。
浅く抜き、深く沈める。
そのたびに、彼女の声がベッドに吸い込まれていく。
何度も。
何度も。
音も、熱も、時間の感覚さえ溶けていくほどに。
抱いて、求めて、また沈む。
この夜は、もう夢ではない。
夢よりも現実で、現実よりも濃密な、
ただ堕ちていく快楽の沼だった。
◇◇◇
翌朝。
また、同じように目が覚める。
違うのは、自分の内側だった。
もう、「関係が始まった」なんて曖昧な段階ではなかった。
これはもう、戻れない関係だ。
職場での会話が、どこか遠く感じる。
同僚の視線が、ほんの少しずつ冷たくなっている気がする。
通勤電車の中でも、誰かが見ている気がする。
——きっとバレていない。
そう思いながらも、どこかで“気づいてほしい”とさえ思ってしまう。
そんな感情が湧いていること自体が、すでに異常だった。
帰宅すると、また、彼女がいた。
制服のまま。
笑って、玄関の前に立っていた。
「ただいま、って言ってもいい?」
その言葉に、湊は答えられなかった。
ただ、その夜も、彼女を中に入れた。
繰り返すたびに、理性がやわらかく溶けていく。
抱いて、貪って、肌に沈んで、抜け出せなくなる。
その心地よさに、抗うことがもうできない。
——落ちている。
優しく、深く、戻れないところへ。
これでいい?
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いいよ。もう十分だよ
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