午後の柔らかな陽光が、窓のブラインドの隙間から細く差し込んでいる。
会議室の中は静まり返り、広げられた資料の上でほんのわずかに紙が揺れているだけだった。
扉が静かに開き、早川が入ってきた。
彼女は深呼吸を一つして、気を引き締めながら扉をしっかり閉める。
「遅れてすみません」
そう告げる彼女に、湊は淡く微笑んだ。
「気にしなくていいよ。資料はここにあるから、ゆっくり見てて」
湊は声を落とし、ゆったりとした動作で資料の束を広げる。
しかしその視線は早川から時折逸れることなく、心の奥底で揺れ動いているのを隠せなかった。
最初は淡々と仕事の話をしていたが、次第に言葉は途切れがちになり、緊張感が室内を満たしていく。
突然、湊の手がそっと早川の肩に触れた。
驚いた彼女の身体は一瞬震えたが、触れられるままに身を委ねる。
「大丈夫か?」
囁く声に、早川は小さく頷いた。
その距離が少しずつ縮まり、互いの視線が絡み合う。
「ここで……触れてもいいか?」
「……はい」
彼の指がゆっくりとスカートの裾を掴み、慎重に引き上げていく。
肌が露わになる瞬間、二人の呼吸が重なり合う。
指先が敏感な部分に触れるたび、かすかな水音が響いた。
早川は目を閉じ、吐息を漏らしながら震える身体を抑えた。
しばらくの間、熱がゆっくりと高まっていく。
その時だった。
遠くから、廊下を歩く足音がゆっくりと近づいてきた。
「やばい、誰か来る……」
慌てて湊が指を引っ込め、スカートを整える。
二人とも息を潜め、何事もなかったかのように資料に目を落とす。
ドアが静かに開き、部屋に入ってきたのは課長だった。
「すみません、ちょっとこの書類を確認したくて」
課長はにこやかに微笑み、資料を受け取る。
「会議は順調ですか?」
湊は落ち着いた口調で答える。
「はい、おかげさまで」
早川も静かに頷いた。
課長は資料に目を通しながら、少し間を置いてから軽く言った。
「何かあったら、いつでも言ってくださいね」
そう告げてから、扉を閉めて出ていく。
二人が互いの顔を見合わせると、無言のうちに笑みが交わされた。
緊張の糸が少しだけ緩み、しかしその胸の奥には言葉にできない想いが渦巻いていた。
◇◇◇
会議室を出てからの足取りは、どこか重く、そして心が熱く揺れていた。
湊はデスクに戻ったものの、目の前の書類はすぐにぼやけてしまい、集中できない。
ふと早川の方を見ると、彼女も同じように資料を手に取りながら視線を泳がせていた。
「……今日は、もう終わりにしようか」
湊の声はいつになく静かで、けれど確かな決意を感じさせた。
早川は一瞬驚いたように見えたが、やがて頷いた。
「はい……そうですね」
二人は言葉少なに、パソコンの電源を落とし、書類をまとめて席を立った。
外の明るさが夕暮れへと染まり始めている。
湊と早川は別々の出口から会社を後にした。
それぞれの胸の内はざわついていたが、まだ言葉にはできない思いが溢れていた。
待ち合わせ場所のカフェ。
そこに先に着いた湊は、窓際の席で静かにコーヒーを飲みながら、早川の到着を待つ。
やがて早川が入ってきて、二人はお互いに照れたように微笑んだ。
「来てくれてありがとう」
「こちらこそ……」
言葉は少なかったが、空気は温かく、確かな距離の縮まりを感じた。
カフェを出て、手を重ねながらホテルの入口へ向かう。
その建物の前で、一瞬立ち止まる二人。
湊がそっと早川の手を握り締めた。
「行こうか」
「うん……」
重い扉がゆっくりと開かれ、二人は中へと足を踏み入れた。