※この作品はR-18です。

甘くて、こわい君だった   作:Marks_Lee

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maybe 15話

微かに射し込む朝の光が、カーテンの隙間から部屋を柔らかく照らしていた。

 窓の外で鳴く鳥の声が、まだ静かな街の気配を知らせている。

 

 その中で——彼の腕の中で目を覚ました。

 

 温かい。

 呼吸のリズムは穏やかで、湊はまだ眠っているようだった。

 

 首筋に触れる吐息がくすぐったくて、思わず目を伏せる。

 ……昨夜のことを、夢じゃなかったと確かめるように、指先で彼の胸に触れた。

 

 そこにいる。

 こんなにも近くに。

 

 そのまま体を少し動かすと、彼の下腹部に柔らかく脚が当たった。

 ん、と小さく息が漏れる。

 

 見てしまった。

 彼の——ぴんと張った熱を帯びたものが、布団の中で膨らんでいるのを。

 

 (……これが……)

 

 湊の顔をそっと見る。目を閉じたまま、静かに寝息を立てていた。

 起こしてはいけない、と思ったのに。けれど——目が離せなかった。

 

 昨夜、自分の中に何度も出入りしていたもの。

 その正体が、こうして朝の光の中で、あらわになっている。

 

 (これが、私の中に……いつも……)

 

 心臓が少し速くなる。

 でも不思議と、怖くはなかった。むしろ、確かめたくなった。

 

 そっと布団をめくる。

 寝巻きの隙間から、彼のものがこぼれるように姿を見せた。

 

 ぴくん、と小さく跳ねる。熱がこもっていて、まるで生き物みたいだった。

 

 (……すごい……)

 

 昨夜、触れたときよりもずっと大きくて、固い。

 目の前にあるのに、信じられないくらい現実感があった。

 

 ——触れてみたくなる。

 

 指先を伸ばし、恐る恐る包む。

 湊の眉がぴくりと動いたけれど、まだ目を開ける様子はない。

 

 (大丈夫……?)

 

 そっと、上下にさする。熱が、指の間に伝わる。

 それだけで、下腹がじんわり熱くなっていく。

 

 唇を近づけたのは、半ば無意識だった。

 

 舌を這わせると、びくっと彼の体が跳ねた。

 それでも湊は、目を覚まさない。少しだけ、苦しそうな吐息を漏らす。

 

 ゆっくりと咥える。口の中に、形が広がっていく。

 熱と重みと、塩気のある香りが鼻に抜けた。

 

 (……入ってた、のに。私の中に……こんな……)

 

 口内で優しく転がすたびに、湊の喉が微かに震える。

 

 静かな朝の空気に、ふたりの間だけの音が溶けていく。

 水音と、唇の離れるときのぬめった感触と。

 誰にも見せたことのない自分の姿を、彼だけに許しているという実感が、胸の奥で甘く疼いた。

 

唇の奥まで受け入れるたびに、舌先で彼の裏側をなぞるたびに、湊の呼吸が次第に乱れていくのが伝わった。

 

 ——でも、彼はまだ目を開けない。

 それが逆に、早川の内側をくすぐるような不思議な興奮を呼び起こす。

 

 (……もっとしてあげたら、どうなるんだろう)

 

 吐息を漏らす湊の顔を横目で見ながら、早川は喉の奥まで受け入れてみる。

 唇の端から小さく音が漏れて、熱くなった頬に髪が張りつく。

 ぴく、と大きく脈打った。

 

 「っ……あ……」

 

 かすれた声。

 その瞬間、舌に濃い味が広がった。

 

 びくん、と湊の腰が跳ね、喉の奥へと数度にわたり熱が押し出されてくる。

 逃げきれず、早川はそのまま飲み込んだ。

 

 重くて、粘り気のあるそれを飲み干しながら、彼の体の奥から溢れてきたものだと思うと、不思議と嫌悪感はなかった。むしろ——

 

 (……ちゃんと、受け取れた……?)

 

 口を離すと、湊のものはわずかに痙攣しながら、萎れかけていた。

 

 静かに、唇をぬぐう。

 湊の顔を見ると、彼は薄く目を開けて、こちらをぼんやりと見つめていた。

 

 「あ……起こしちゃ……った?」

 

 小さく笑ってそう問いかけると、湊は少しだけ目を細めて、手を伸ばしてきた。

 

 その指が、頬をそっと撫でる。

 

 「……起きてよかった、かも」

 

 その言葉に、どう返せばいいかわからなくて、早川はただ微笑むだけだった。

 

 けれど心の奥では、また一つ、知らなかった彼を知ってしまったような、

 そんな秘密めいた嬉しさと、ほんの少しの不安が、静かに波紋を描いていた。

 

まだ完全に覚醒しきっていない表情のまま、湊は早川の頬に触れていた。

 

 「朝から……積極的だな、早川」

 

 からかうような調子ではなかった。

 むしろ、まだ眠気が残った声が、やけに静かで低く響いた。

 

 早川は、咄嗟にどう返せばいいかわからず、わずかに目をそらす。

 

 「……その、気づいたら……触ってた。ごめんなさい」

 

 「なんで謝るんだよ」

 

 そう言いながらも、湊は何でもないように微笑む。

 けれどその笑顔が、どこか“慣れている”ように見えてしまって、胸の奥がちくりと痛んだ。

 

 「……こういうの、よくあるの?」

 

 思わず漏れたその問いに、自分でも驚いた。

 けれど湊は特に動じる様子もなく、少しだけ目を細めた。

 

 「どうだろう。昔のことは……昔のことだしな」

 

 否定でも肯定でもない答え。

 それが返って、心の中で重たく沈んでいく。

 

 「——でも、今は早川だよ」

 

 湊はそう言って、さらりと早川の髪を撫でた。

 まるで当たり前のように、彼にとっては自然な仕草なのだろう。

 

 でも、それがまた——

 

 (……“私だけ”って、どうしたら思えるんだろう)

 

 そんな不安を打ち消すように、早川は湊の胸元にそっと顔を寄せた。

 触れていたくて、確かめたくて、それでも聞けないことが山ほどある。

 

 ——近いのに、まだ遠い。

 

 それが、今の二人の距離だった。

 

◇◇◇

 

湊が帰ったあと、部屋の中に静寂が戻った。

 使い終えたカップを流しに置き、シーツを整え、濡れた髪を軽くタオルで拭く。

 

 けれど、どれだけ動いても、体の芯の方に残った熱だけは、どうしても抜けきらなかった。

 

 「……なんか、変な感じ」

 

 呟いてみても、誰も返事はしない。

 昨夜から今朝にかけての出来事が、現実だったのかどうかもまだ曖昧で、どこか夢の続きを歩いているようだった。

 

 ベッドに目を向けると、くしゃくしゃになった枕と、まだ少し残る湊の匂い。

 昨夜、何度も肌を重ねたことを、無言で思い出させてくる。

 

 ふと、部屋の隅に目をやった瞬間、早川は動きを止めた。

 

 ——ぬいぐるみが、壁の方を向いていた。

 

 いつもなら、ベッドの横の棚にちょこんと座って、こちらを見ていたはずのそれが、

 まるで“見せたくないものから目を逸らすように”、壁の方を向いている。

 

 (……私が……向けた?)

 

 思い返す。

 ベッドに湊を招き入れたとき、服を脱いだとき、初めて自分から口で触れたとき——

 どこかの瞬間で、無意識に手を伸ばして、視線を遮ったのだ。

 

 「……バカみたい」

 

 思わず笑いながら、頬に触れる。

 火照りはもう引いているはずなのに、じんわりと熱が戻ってきた。

 

 見られたくなかったのは、行為そのものじゃない。

 きっと、誰かに見られたら崩れてしまいそうな、“幸せそうな自分”だったのかもしれない。

 

 (……ほんと、バカみたい)

 

 壁を向いたままのぬいぐるみにそっと近づき、

 もう一度こちらを向けてやると、早川は目を伏せた。

 

 何を見せて、何を隠すか。

 まだその境界線が、自分でもよくわからない。

 

ぬいぐるみを元に戻しても、気持ちは落ち着かなかった。

 

 胸の奥がざわざわしている。

 まるで、さっきまで彼がいた場所だけが、ぽっかり空洞になってしまったような感覚。

 

 (……なんか、変だな)

 

 下腹がじんわりと熱い。

 熱だけが、彼の名残のように身体に残っていた。

 

 昨夜、初めて奥まで満たされて、

 今朝、口の中でそれを飲み干して——

 

 それなのに、まだ足りない。

 心が、じゃない。身体の方が、まだ欲しがっていた。

 

 ベッドに腰を下ろす。

 湯船に浸かっても取れなかった感触が、今も身体の芯にくすぶっている。

 

 (……ちょっとだけ)

 

 指先が、そっと下着の上から自分の脚の間へと滑る。

 軽く触れただけで、身体がびくんと反応した。

 

 「……ん」

 

 自分で触れると、湊の手との違いがいやというほどわかる。

 力加減、温度、タイミング——どれも違う。

 

 それでも、どうにかしたくて、ゆっくりと指を動かす。

 

 (……ここ、彼が触れて……そのあと、入って……)

 

 思い出すだけで、また熱がこみ上げてくる。

 下着の布がすぐに湿り気を帯びてきて、胸の奥が締めつけられるような気持ちになった。

 

 だけど——

 

 (違う……)

 

 身体は反応しているのに、何かが足りない。

 自分の手では埋められないものがあるのだと、痛いほど感じた。

 

 ベッドの下、先日届いたばかりの小さな箱を引き出す。

 ネットで見かけて、なんとなく注文してみたもの。

 

 (……使ってみるだけ)

 

 ためらいながら取り出し、静かにスイッチを入れる。

 小さな振動が指先に伝わってきて、それを下着の隙間から当ててみる。

 

 びくっ、と腰が跳ねる。

 けれど——違う。やっぱり、違う。

 

 身体は反応する。でも、心が追いつかない。

 機械の無機質な振動が、かえって孤独を際立たせていく。

 

 「……やっぱり、ダメかも……」

 

 ため息を吐きながら、スイッチを切る。

 音が消えた瞬間、部屋の静けさが耳に戻ってくる。

 

 指先がまだ濡れていて、タオルで拭きながら、そっと目を閉じた。

 

 (もう、あんなふうにしてもらえないのかな……)

 

 湊の手も、声も、温もりも。

 今ここには何ひとつ、残っていない。

 

 だけど——

 身体だけが、彼を思い出していた。

 

◇◇◇

 

部屋はもう暗く、窓の外には街灯の光が静かに揺れていた。

 手元のスマホだけが、顔を淡く照らしている。

 

 何度も開いては閉じたチャットアプリ。

 湊とのやりとりは、最後に「着いたよ」というメッセージで止まっていた。

 

 それ以降、彼からの連絡はない。

 特に不自然ではない——そう思うようにしても、胸の奥がきゅっと縮こまる。

 

 (……私から送るの、変じゃないかな)

 

 “今日ありがとう”だけでも、普通の一言だ。

 でも、何かを期待してしまっている自分がいるのがわかる。

 

 “もっと話したい”とか、“また会いたい”とか。

 そんな気持ちが、送信ボタンを押す手を止めてしまう。

 

 (ちょっと、だけ……)

 

 画面に指を滑らせる。

 気づけば、メッセージ欄に文字を打ち込んでいた。

 

 ——今日はありがとう。

 ちゃんと言えなかったけど、嬉しかった。

 ……また、会えたらいいな。

 送ってから数秒後、すぐに後悔のような気持ちが押し寄せてくる。

 指が勝手に動いた。そんな言い訳すらしたくなるくらいに、胸がざわつく。

 

 通知が鳴る気配はない。

 既読もつかない。返事もない。

 

 (バカみたい……)

 

 枕元にスマホを伏せるように置いて、目を閉じた。

 

 きっと、何も期待しない方が楽なのに。

 わかっているのに、繋がっていたくなる。

 

 ——身体だけじゃない。

 本当に欲しいのは、もっと奥のほう。

 

 “見てほしい”と願ってしまったことが、今になって怖くなる。

 

スマホを伏せたまま、まどろむように目を閉じたそのとき。

 静かな部屋に、短く電子音が鳴った。

 

 早川はそっと目を開ける。

 

 (……返事、来た……?)

 

 画面を確認するのが、少しだけ怖かった。

 

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