※この作品はR-18です。

甘くて、こわい君だった   作:Marks_Lee

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true 3話

朝の薄明かりが、カーテン越しにかすかに部屋を照らす。

紬は鏡の前に立ち、制服のリボンをぎこちなく結び直していた。

指先は微かに震え、結び目を確認する度に、胸のざわつきが募る。

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

口の端から漏れたその言葉は、まるで自分にかけるおまじない。

けれど、その声の震えは隠せず、自分の心の弱さをさらけ出していた。

 

鏡に映る自分の顔は無表情を保つ。けれどその奥で、まるで荒波のように心が揺れている。

目の奥に、焦りと不安、そしてどこか諦めに似た寂しさが潜んでいた。

 

ため息が喉の奥からこぼれ落ち、胸がぎゅっと締めつけられる。

 

「ほんとに、大丈夫なのかな……」

 

思わず呟いたその言葉は、自分への問いかけでもあった。

 

◇◇◇

 

教室。友人たちの楽しげな笑い声が耳に届く中、紬はその輪に入りきれずにいた。

隣の席の真奈美が、明るい声で話しかける。

 

「ねえ、昨日のドラマ見た?めっちゃ泣いちゃってさ!」

 

紬は短く「うん、見た」とだけ答える。

その声はか細く、まるでどこか遠くから響くようで、真奈美の笑顔にさえ届かなかった。

 

「紬ちゃん、最近元気ないよね……大丈夫?」

 

問いかける真奈美の目は、優しさに溢れている。

けれど、そんな優しさにすら、自分をさらけ出せないもどかしさがあった。

 

「大丈夫」

 

口にするその言葉は、まるで自分に言い聞かせているようで、虚ろに響いた。

 

真奈美は何かを察したように少し顔を曇らせ、声を落とす。

 

「もし、話したいことがあったら、いつでも私がいるからね」

 

優しい言葉に胸が締め付けられ、紬はうつむく。

まだ自分の弱さを誰かに見せる勇気はなかった。

 

「ありがとう……でも、まだ話せそうにない」

 

その言葉の奥に隠された孤独は、誰にも届かないままだった。

 

昼休み、スマホの画面に湊からメッセージが届く。

 

「今日の調子はどう?」

 

指が震え、何度もその文字を眺める。

返事を書きたい気持ちと、素直になれない気持ちがせめぎ合う。

 

「……どう答えればいいの?」

 

心がざわつき、胸の奥が締め付けられるように痛む。

ようやく「まあまあ」と打つ指先は震えていた。

 

数分後の返信は、やさしく温かかった。

 

「そっか。無理しないでな」

 

その言葉に少しだけ救われる。

でも、もっと心の内を明かしたい自分と、それを怖れる自分が交錯して、紬は戸惑った。

 

◇◇◇

 

放課後。バイトの面接会場の前に立ち尽くす。

深く息を吸い込んだが、心臓は激しく波打ち、言葉が出てこない。

 

面接官の冷たい視線が痛く、紬は言葉に詰まる。

 

「……バイト経験は少しだけですが、一生懸命頑張ります」

 

震える声に、自分でも驚き、肩が小さく震えた。

 

「ありがとうございます。結果は後日連絡します」

 

冷たく告げられたその言葉が、胸に冷たい石を置いたようだった。

 

扉を閉めた瞬間、紬は膝がぐらつくのを感じた。

 

「うまく話せなかった……」

 

ぽっかりと空いた穴の底に、焦りと自己嫌悪が渦巻いた。

 

夜の街に出て、暗闇に紛れながら足を運ぶ。

何もかもが重く、歩みは鈍い。

 

ふと見つけたカフェの扉を押し開けると、窓際の席に腰を下ろした。

手にしたカップの温かさが、少しだけ冷えた心を溶かしていく。

 

「こういう、何も考えずにいられる時間が欲しかったんだ」

 

小さく呟いた言葉が空気に溶ける。

顔を上げると、そこに湊の姿があった。

 

「紬?」

 

目が合い、驚きとともに胸が締め付けられる。

けれど、その胸の奥には、ふっと安堵が広がった。

 

「湊さん……」

 

お互いにぎこちなく笑い合い、自然と温かな空気が生まれた。

 

席につくと、紬が静かに口を開いた。

 

「昨日は本当にありがとう。すごく助かった……」

 

湊は優しく頷く。

 

「無理しなくていい。ゆっくりでいいんだ。気持ちが落ち着くまで」

 

紬は視線を落としながら、少しだけ震える声で打ち明ける。

 

「不安で……時々、自分が嫌になる。そんな自分が情けなくて」

 

その告白に、湊は静かに手を差し出した。

 

「そんな時は、俺を頼っていいんだ。俺は紬の味方だから」

 

言葉の一つひとつが胸に染み渡り、紬は肩の力をゆっくりと解いた。

 

「ありがとう、湊さん……本当に」

 

二人の目がじっと合い、そこでようやく、小さな微笑みが交わされた。

 

帰り道。夜風が冷たく頬を撫でる中、並んで歩く二人。

 

紬は勇気を振り絞って尋ねた。

 

「湊さんは、どうしてそんなに優しいの?」

 

湊は少し照れながらも、真剣に答える。

 

「そりゃ、紬みたいな子を放っておけないからさ」

 

その言葉が胸の奥を温かく満たし、紬の心の壁が少しずつ崩れていくのを感じた。

 

改札前に着くと、紬は小さな声で言葉を紡ぐ。

 

「また、話せる?」

 

湊は迷いなく笑顔で応えた。

 

「もちろん。いつでも」

 

紬はその言葉に力強く頷いた。

 

揺れる心と重なる想いはまだ不確かだけれど。

二人の距離は、確実に近づいていった。

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