※この作品はR-18です。

甘くて、こわい君だった   作:Marks_Lee

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第7話

蒸し暑い初夏の夜、駅前の雑踏は薄暗い街灯の下で静かにざわめいていた。

湊は足早に人混みを縫うように歩いていたが、その顔は硬く、内側には激しい動揺が渦巻いていた。あの日、後輩と過ごした夜の記憶が鮮明に蘇り、胸に刺さった棘のように抜けなかった。

 

ふと背後から静かな気配がして振り返ると、そこには紬が立っていた。

小さな紙袋を両手で包み込むように持ち、いつものように整った装いだが、その瞳にはいつもとは違う凛とした強い意志が宿っていた。

 

「湊さん」

 

紬の声は低く静かで、それでいて消え入ることのない力強さを帯びていた。

 

湊はその声に動揺し、言葉を詰まらせた。紬はかすかな笑みを浮かべつつも、ゆっくりと話し始める。

 

「先日の夜、あなたがあの方と一緒にいるのを見ました」

 

その言葉は胸を鋭く刺し、湊の心臓は跳ね上がった。

紬は間を置かずに続けた。

 

「あなたの家に行きました。でも、あなたはいなかった。声をかけられなかったのは、今ここで話しかけたら嫌われると思ったからです」

 

声は静かだが、かすかな震えが含まれていた。

その震えが紬の内に潜む激情を滲ませていた。

 

「でも、あの夜、私はあなたを連れて帰りたいと思いました」

 

その言葉には迷いはなかった。

紬は湊の手を静かに取ると、迷わず歩き出す。

湊は抗うこともなくその手のぬくもりを受け入れ、ただ後を追った。

 

◇◇◇

 

ホテルのフロントで紬は落ち着いた手つきで手続きをしていた。

湊はその横顔を見つめながら、内側に渦巻く昂りを押し殺していた。

 

エレベーターの狭い空間で、二人の間には静かな熱が満ちていた。

紬がぽつりと呟く。

 

「心臓がこんなに騒ぐのは久しぶり」

 

その声が耳元に触れ、湊の身体は小さく震えた。

 

部屋のドアが閉まると、紬はゆっくりと湊の瞳を見つめた。

その目は静かだが深い情熱を湛え、揺らぎのない意志が感じられた。

 

「本当に、あの方とは何もなかったのですか?」

 

湊は息を呑み、軽く頷いた。

紬は微かな笑みを浮かべながらも、すぐに表情を引き締める。

 

「でも、あなたが迷ったのは確かです」

 

そう言うと紬はそっと湊の背後に回り、細い指で彼のネクタイをほどき始めた。

その動きはゆっくりで丁寧で、布の冷たさと指先の温度が混じり合い、湊の肌を刺激した。

 

「迷いの痕跡は、私には見逃せません」

 

紬の息が首筋をかすめる。

その吐息は熱く、甘く、湊の肌に染み込んでいった。

 

彼女の指先がゆっくり首筋を撫で下ろし、軽く爪を立てる。

細い爪の先が皮膚にかすかな痛みを刻む。

 

その瞬間、湊の身体に電流が走った。

爪痕は深く、鮮やかに首筋の肌を染め上げていく。

 

「これで、あなたは誰にも渡せなくなる」

 

紬の声は低く、嫉妬と所有欲が入り混じった響きを持っていた。

湊は呼吸を乱し、言葉にならない快感に包まれる。

 

紬は首筋の痕を撫でながら、熱い吐息を吹きかける。

その湿り気が、傷口のように繊細な皮膚に絡みつき、痺れる感覚が全身に広がった。

 

「私の痕です。誰にも消せません」

 

湊は目を閉じ、感覚の波に呑み込まれた。

紬の指が顎から耳へと滑り、唇が首筋を這い上がる。

 

その動きは甘く、しかしどこか強く決意を感じさせた。

耳元で囁く声は甘美で、湊の理性を破壊する。

 

「もう、他の誰にも渡しません」

 

紬の指がシャツのボタンを一つずつ外していく。

湊の肌に触れる指先は、温かさと冷たさを交互に感じさせ、彼の全身を研ぎ澄ませていく。

 

「あなたは私のもの」

 

その言葉は甘く、しかし鉄のように固い意志を宿していた。

痕と共に湊の身体と心に深く刻まれる。

 

夜が深まるにつれ、二人の体温は交じり合い、境界は溶けていった。

湊は紬のぬくもりに包まれ、紬は彼の震える吐息を感じていた。

 

世界は二人だけのものになり、他のすべては遠のいた。

 

◇◇◇

 

朝日が薄く差し込む部屋の中で、湊は紬の髪を撫でていた。

小さな声で呟く。

 

「誰かに見られたら……」

 

紬は胸に顔を寄せ、熱い吐息を漏らす。

 

「もし、あの人にも見られていたら……私があなたを奪ったこと、わかってほしかった」

 

その言葉は静かだが、強い決意に満ちていた。

湊はもう、元の関係には戻れないことを深く悟っていた。

これでいい?

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