※この作品はR-18です。

FINAL FANTSY X ~脈導の聖女~   作:彼処舐ノ助嗅過

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1.やって来た脈導師

シンを倒し、永遠のナギ節を迎えた世界。

ヴェグナガンの暴走から世界を救ったユウナは、大切な人、ティーダと再会を果たしてビサイド村で暮らし始めた。

ティーダとのすれ違いはありながらも、ユウナは旅を終えて穏やかな暮らしを送っていた。

 

世界も明るさを取り戻していた……が、突如各地のモンスターたちが凶暴化する、という現象が多発。

町にまで襲撃を掛けようとするモンスターたちに対して、各町は兵士の数を増やさざるをえなくなる。

次第に殺伐とし始めるスピラ。

各地で自警団などが力を持ち始めるなか、ユウナの元にも人々を勇気づけるために、自分たちの組織のリーダー、もしくは象徴となって欲しい、という者たちが訪れる。

しかし、彼女は今のささやかな日常を大切にしたかったのだ。

そんななか、脈導師なる男性が各地で様々な奇跡を起こし、人々の支持を集め始めるのだった。

 

「はぁ? 脈導師(みゃくどうし)?」

ワッカは、突如ビサイド村に現れた朗らかな老爺と彼の傍にいる数人の男女を訝し気に見る。

「さようでございます。私は名を失くしたもの。そして脈導により、スピラを救対と願う、"脈導師"という者にござります」

「脈導、ね……」

老爺の話を、ワッカと共にルールーが心当たりがある、と言った感じで呟く。

「ルー、何か知ってんのか? 俺ぁ、脈導なんて言葉、聞いたこともねぇぞ」

「ええ。私も噂で聞いた程度なのだけれど……。なんでも、その人が手をかざすと、たちまち病や怪我を治すことが出来るらしいの」

「はぁ? そんなの、魔法とかだろ?」

ルールーの説明に、ワッカは納得できない、と言った感じで首をひねる。

しかし彼女は首を横に振る。

「魔法でも治せない不治の病を治癒したり、完全に再生不可能な傷すらも治癒してしまうらしいわ。それに、凶暴化したモンスターたちを一瞬で穏やかにしてしまう事もあるらしいの。それはまさに奇跡に近い、と」

「はぁ……。じゃあ、その爺さんが本当にそんな力を持っているってんなら、世の中もっと平和になっても良いんじゃねぇか?」

ワッカは胡散臭そうに老爺を見る。

しかし老爺は微笑みを崩さず首を横に振る。

「いやはや。私1人にできることなど限界があります。だからこそ、私は脈導の教えを説いているのです」

老爺の話し方や立ち居振る舞いには品があり、どこか神々しさすら感じられる。

「なるほど。ではその教えとはどのようなものなのでしょうか?」

「この世界に2つの脈動あり。1つは地脈、もう1つは霊脈です。地脈は、大地の生命力の流れ。そして霊脈は、万物の根源たる力の流れ」

老爺はそこまで説明すると、両手を胸の前で組む。

「ふぅむ……。 ふんっ! うぅ~むぅ! はっ! はぁっ! くぅっ! くぁっ! あっ! ぬぉっ! ふっ! ぐぁっ! うわっ! くっ! うっ! あぁっ!! あっー!!!! ……ふぅ」

「あの……」

一連の動作を繰り返しながら力む老爺に、ルールーは声をかける。

彼は歯を食いしばり、肩で息をしている。

すると不思議なことが起きた。

数か月前の嵐で折れたビサイド村の何本かの木が、見る間に生気を取り戻し始めたのだ。

「うぉっ! 枯れ木が!」

ワッカは思わず指をさし叫ぶ。

「どうでしょう。これが脈導の力の一端です」

老爺は周りの者を見まわしながら言う。

「私はこの力により、スピラに蔓延る不治の病や怪我を治し、穏やかな心を取り戻すために活動しています。しかし私にできることなど限られている……。皆が脈動を扱うことができるようになれば、この世から争いが無くなると私は思っています」

彼の話し方には自信が満ち溢れている。

しかし、ワッカやルールーは半信半疑の様子だ。

「脈導……ねぇ」

 

その時だった。

「ワッカさん? 村へのお客さんですか?」

「ワッカ! 美味そうな魚がたくさん取れたぞ! 今日みんなで焼いて食おうぜ?」

やって来たのは2人の若い男女。

シンを倒して永遠のナギ節をもたらした救世の英雄、召喚士ユウナと、彼女のガードにして大切な人でもあるティーダが島の見回りと釣りから帰ってきた。

「おっ! ユウナにティーダ! 良いタイミングだ。今ビサイド村に着いた客を紹介……す……」

ワッカの言葉を待たずに、ユウナの元へと駆け寄る老爺。世界を救った本物のユウナに出会えて、かなり興奮しているようだ。

「おおっ! まさかユウナ様にお目に掛かれるとは! 貴女様のおかげで世界はシンの脅威から解放されました。まさに英雄と言えましょう!」

「え? あ、あの……」

老爺の圧にユウナは困惑気味だ。しかしティーダがすぐに割って入り、ユウナを庇うようにして立ちはだかる。

「ちょっ! いきなりなんなんだよ! ユウナが困ってるだろ!」

ティーダは老爺に食って掛かる。老爺はその言葉に落ち着きを取り戻し、慌てたように頭を下げる。

「これは、これは失礼致しました。ユウナ様に出会えた事に興奮してしまいまして……」

「えっ!? いや……別に……」

ティーダに守られながら、ユウナは戸惑いの表情を浮かべている。……が、彼女も脈導師という名には聞き覚えがあった。スピラ各地で奇跡を起こしているという。

ユウナはティーダに脈導師の噂について説明するも、彼もまたワッカたちのように半信半疑なようだ。しかし老爺は、ティーダのその反応も想定内だったようで、すぐに近くにいた女性に声を掛ける。

「もし。貴女の足は癒えぬ傷を負っていますね? 少し手をかざしても宜しいでしょうか?」

「え、ええ。でも、白魔法でも手術でも治らなくて……もうずっとこうなんです」

老爺は女性の前に跪くと、彼女の膝に手をかざす。

「ふぅむ……。 ふんっ! うぅ~むぅ! はっ! はぁっ! くぅっ! くぁっ! あっ! ぬぉっ! ふっ! ぐぁっ! うわっ! くっ!くはっ! うっ! ひっ! あぁっ!! あっー!!!! はぁはぁはんっ!!!!はぁっ! くぅっ!」

老爺は、脈導の動作をゆっくりと繰り返す。すると女性の膝にあった傷はだんだんと薄くなり、やがて跡形もなく消え去った。

「ご気分はいかがですかな?」

 

「えっ! あ……す、すごい……っ」

女性は自分の膝を何度も撫でながら驚きの表情で呟く。

その様子を見て、ワッカたちもようやくこの老爺が只者ではない事を理解し始めたようだ。しかしティーダだけは未だに懐疑的な様子だ。

「ま、まじかよ……」

「私の力は人の身体に流れる脈動を感じ取り、地脈や霊脈の力を操ることで、治癒や回復の効果を齎すことが出来るのです」

「なるほどな……。そりゃすごいけど、魔法とは何がどう違うんだ?」

ティーダは、老爺の力が魔法とどう違うのかを質問する。

「これは魔法ではありません。私は"脈道"という力を使います。そしてこの力は修行すれば誰にでも使えるものなのです」

老爺の言葉にワッカたちは再び驚くが、今度はユウナも懐疑的な様子を見せることは無かった。

老爺はユウナに歩み寄ると、彼女の目を見て言う。

「ユウナ様、貴女には特別な力がある。貴女が脈道を学べば、スピラに蔓延る病をたちどころに治すことができるでしょう。どうかその力で多くの者を救ってくださいませ」

「……私が、ですか?」

ユウナは突然の事に驚き戸惑っているが、老爺の真摯な態度から悪い人物ではないと判断したようだ。

 

「とりあえず立ち話もなんだし、みんな村の広場に行こうぜ? よかったら、脈導師さんも一緒に夕飯どうだ?」

ワッカは腹が減ったと言うようにお腹を擦りながら、老爺に向かって気さくに誘う。

「おお!それはありがたい。実は旅の途中で食料を失くしてしまいましてな……」

ワッカは微笑みながら頷き、ルールーは溜め息をつき、ティーダはやれやれと肩をすくめる。

こうしてユウナたち一行は村の中の広場へと向かうことになった。

そして……この時はまだ誰も予想していなかった。この老爺との出会いが、スピラの未来を大きく変えてしまうことになるとは……。

「うおっ! うまそう!」

「これはまた美味そうだ」

ワッカやルールーたちはテーブルに並ぶ料理に目を輝かせる。しかし、1人だけ不満そうな人物がいた。それはもちろんティーダだ。彼は明らかに納得がいかないといった表情で老爺を見ている。

「まぁ……いいじゃねぇかティーダ。遠路はるばるこんな島まで来てくれたんだ。文句言わずに歓迎してやらなきゃバチが当たるぜ?」

「それはわかってるけどさぁ……」

「ほっほ。申し訳ない。ありがとうございます、ワッカ殿」

老爺は丁寧にお辞儀をする。

「先程皆様が仰られていた通り、私の名は脈導師。本名はジッジと申しますが、皆からは脈導師と呼ばれておりますじゃ」

老爺の名はジッジと言うらしい。

 

彼は礼儀正しく再度ぺこりと頭を下げると、自分を取り囲むように座るユウナやティーダたちに視線を向ける。

「この島は静かでよいところですな。それに皆様の温かい心遣い、感謝致しますぞ」

「いやぁ、これくらい普通だよ!な!」

ワッカは照れ臭そうにポリポリと頬をかく。ルールーも首を縦に振るが、ティーダは依然不機嫌な様子だ。するとジッジは彼の方を見て微笑みながら口を開く。

「貴方がティーダ殿ですな? 先ほどお会いした時から思っておりましたよ」

「え?」

ジッジの言葉に戸惑うティーダ。そんな彼に構わず、彼は続ける。

「私は確かに貴方にとっては得体の知れない人物かもしれません。ですが、私はこのスピラを救いたいと心の底から思っております」

「ん……? ああ……そうっスね……」

ジッジの言葉にティーダは少しだけ冷静さを取り戻すと、頬をポリポリと掻きながら頷く。

「ありがとう御座います。ユウナ様も、突然押し掛ける形になってしまい申し訳なく思っております」

「い、いえ! 何かお困りの事があったんでしょう? そんな時はお互い様ですから!」

ジッジの丁寧かつ礼節正しい態度に好感を持ったユウナも、笑顔で答える。

 

一通り食事が終わったところで、脈導師は本題を切り出した。

召喚士であり、世界を救った英雄でもあるユウナに、ぜひとも自分と一緒にスピラを回ってもらって現在のスピラをもう一度見ていただきたいこと。

そして、その上でぜひとも脈道を学び、脈導師の後継者として世界を明るく照らして欲しいこと。

「ユウナ様、どうかお願い致します」

ジッジはそう言うと、深々とお辞儀をする。

「え……と、その……」

ユウナはティーダの方に視線を向ける。今の彼女は、シンとの戦い、その後のヴェグナガンとの戦いを終え、ようやく愛するティーダと平和な生活を手に入れ始めたところだった。

それでもスピラ各地でモンスターが凶暴化し、人々が困っているのも事実であり、それを黙って見過ごせないのもまた事実だ。

「ユウナ……俺も一緒に行くよ。それなら一緒にいられるだろ? 脈導師さんもそれで文句ないだろ?」

ティーダはそう言うと、ジッジの方を見る。彼は首を縦に振る。

「もちろんですとも。その方がユウナ様も心強いでしょうからね」

ティーダに頷きながら、ジッジはユウナに話しかける。彼女は一瞬だけビックリしたような表情を浮かべるもすぐに笑顔になり、今度はしっかりと頷くのだった……。

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