FINAL FANTSY X ~脈導の聖女~ 作:彼処舐ノ助嗅過
どこかの地下空間。
閉ざされた空気と、ほのかに漂う香の匂い。
ティーダは、石の椅子に座らされていた。
目の前には淡く光る霊脈ランプと、ローブ姿の弟子たち――
彼らは武器を持たず、静かに語りかけてくる。
「ティーダ様。どうか、落ち着いて話を聞いてください」
「我々は敵ではありません。あなたの“混乱”を癒すためにここにいます」
「今のユウナ様は、自由意志で“新たな道”を歩み出したのです。……それを、貴方が否定していいのですか?」
弟子の言葉は、攻撃的ではない。
むしろ穏やかで、まるでカウンセリングのようだった。
「……ユウナが、“自由意志”でって……? そんなの、お前らの言いなりじゃないのか?」
「思い出してください。シンを倒した後も、彼女は何度も“自分にはまだ使命がある”と言っていましたよね?」
「今、彼女が脈導を学び、人々に希望を与えている姿を……否定できますか?」
ティーダの目が少し泳ぐ。
彼自身、どこかで“英雄であるユウナ”を引き止めたがっていた心があったのかもしれない。
(……違う。俺は、ただ……一緒にいたかっただけなのに)
弟子たちは、あくまで優しく、論理的に、ユウナの“今”を肯定していく。
それは、静かに心を揺さぶる“説得”だった。
その頃。ユウナは、宿のベランダに佇んでいた。
冷えた夜風に当たりながら、ふと視線を横に向ける。
(ティーダ、まだ帰ってない……)
彼女はティーダの部屋の扉をノックしたが、返事はない。
食堂にもいない。外にも姿はない。
「まさか……また、無茶してるんじゃ……」
言葉には出さなかったが、胸の奥に不安が広がる。
ジッジが宿の弟子に「聖域の警備強化」を命じていたことを、思い出す。
(……あの場所に、行ったのかも……)
ユウナは胸の奥に重い感覚を抱えながら、そっと夜の空を見上げた。
ユウナは部屋の中を何度も行ったり来たりしていた。
ティーダの不在が、彼女の心をざわつかせていた。
(何かあったのかも……。彼は無鉄砲なところがあるから)
一度決めると行動が早い。
ユウナはサンダルを履き、静かにドアノブに手をかけた――その時。
「ユウナ様。どちらへ?」
宿の廊下に、控えていた弟子の一人が立っていた。
ローブに身を包み、落ち着いた表情で彼女を見ている。
「……彼を探しに行きます。……何か、良くない予感がして」
ユウナは隠すつもりもなく答えた。
弟子は小さく首を振った。
「ティーダ様は、ただ今、少々混乱しておられるだけです。おそらく、一時的な感情の昂ぶりかと。少し、冷静になられる時間が必要なのです」
「でも……!」
ユウナが言いかけると、もう一人、別の弟子が現れた。
今度は若い女性。彼女もまた、落ち着いた口調で続ける。
「どうか、今は信じて待っていただけませんか。ユウナ様が動かれれば、かえって事態を大きくしてしまう可能性も……」
「事態を……?」
弟子たちは言葉を選びながら、しかしはっきりと伝えた。
「今は、スピラ中が、ユウナ様の穏やかな振る舞いを見守っています。もしユウナ様が急に動けば、不安に思う者たちが動揺しかねません」
「それに……」
もう一人の弟子が言葉を添える。
「ティーダ様も、ユウナ様の信頼を得たい一心で行動しているのかもしれません。今、焦って向かえば、かえって彼のプライドを傷つけることになるかもしれません」
ユウナは、ぐっと言葉に詰まった。
(……そんな。……でも……)
弟子たちは、あくまでも穏やかだった。
無理に止めるのではなく、“ユウナ自身の決断”を促しているようにも見えた。
ユウナは迷っていた。
心の中で、ティーダの顔が何度も浮かんでは消えた。
(……信じたい。でも、今すぐ会いたい。でも……)
「……わかりました」
ユウナは、静かに視線を伏せた。
弟子たちは深く頭を下げた。
石造りの地下室。
幽かな光が揺れ、空気は重く、冷たい。
ティーダは椅子に縛り付けられていた。
目の前には、ゆったりと歩を進めるジッジ――脈導師の姿。
「……ティーダ殿。お話は尽きぬものですねぇ」
ジッジは両手を後ろに組み、ティーダの正面に立った。
その顔には、あのいつもの柔らかな笑みが浮かんでいた。
「俺は……ユウナを……こんな茶番に巻き込むつもりはねぇ!」
ティーダは渾身の力で声を張り上げた。
ジッジは、ゆっくりと微笑みを深くする。
「……やはり、まだ迷いがあるようですね」
そのまま、軽く手を振る。
するとすぐに弟子たちが数人現れ、ティーダの周囲を固めた。
「ならば、ここからは少しお休みいただきましょう。……脈導の真実を受け入れるまでは」
ジッジは、柔らかく、しかしはっきりと告げた。
「幽閉しなさい」
弟子たちがティーダを乱暴に立たせ、別の暗い通路へと連れていこうとする――。
(チクショウ……! こんな……っ)
ティーダは歯を食いしばる。
その時だった。
扉の向こうから、ジッジに呼ばれたのか、ルチルとエルマが姿を現した。
かつて青年同盟で共に戦った彼女たちも、今はジッジに心酔している。
だが、ティーダの視線を凍りつかせたのは――
彼女たちの格好だった。
かつての騎士鎧を脱ぎ、動きやすい薄手の衣装に着替えていた。
軽装だが、無防備さを感じさせるような服装。
「ルチル、エルマ……。その格好、なんだよ……?」
ティーダが掠れた声で尋ねた。
ジッジはゆっくりと、いつも通り穏やかに告げた。
「脈導のさらなる高みへ至るためには、古き儀式が必要なのです。……さぁ、私の私室へ。特別な“修行”を始めましょう」
ルチルとエルマは無言でうなずく。
その表情は無感情にも見え、またどこか酔ったようにも見えた。
ティーダは息を呑んだ。
彼女たちが連れられていく背中を見ながら、背筋を冷たいものが這い上がる。
(まさか……まさかユウナも……?)
脈導の修行。
その名の下で、どれだけのことが、どれだけの“取り返しのつかないこと”が、行われようとしているのか――
ティーダは震えた。
怒りと、恐怖と、無力感で。
そして彼の脳裏を過ったのは、心から信じている少女の顔だった。
(……ユウナ……)
彼女もまた、こうして“選ばれた存在”として――。
ティーダは、縛られた腕に力を込めた。
縄が食い込み、痛みが走る。
(絶対に……絶対に助ける……)
その決意だけが、彼を立たせていた。
だが、その夜。
ティーダの耳に、2人の女の嬌声が聞こえてきた。
すぐ近くのジッジの私室からだった。
その声が誰と誰のものなのか、彼にはすぐにわかった。
――ルチルと、エルマの声だ。
「はぁ……っ! あ、あ、あっ!」
(やめろ……!)
ティーダは耳を塞ごうとしたが、それはかなわなかった。
「んぁっ! あ、あぁんっ」
(やめてくれ……っ!!)
彼はただ、その部屋から聞こえてくる声に打ちひしがれるしかなかった。
そして同時に、自分の無力さを痛感した。
(俺は……何もできないのか?)
「脈導師様ぁ、もっと……もっとください……っ!」
「だらしないですなぁ。ほれっ、ここがいいのでしょう?」
「んああっ、そこ、そこですぅ!」
エルマの嬌声に、ジッジの熱い息が混じる。
「こんなにいやらしい身体をして……もっと乱れていいのですよ? 私が許しましょう」
「は……はいっ……! ああぁんっ!」
(やめろ!)
ティーダは叫びたかった。だが、声は出ない。
「あ、あ、あ……っ! も、もうダメぇ……」
「ふふ、そろそろですかな?」
「はいぃ、きちゃいますぅ……!」
(やめてくれ!!)
そして彼は悟った。
もう、“何もできない”。
自分は無力だ……と。
「ふぅ……エルマは脈動の奔流で、気を失ったか……。まだまだ修行が足りんのぅ。……さて、ルチル。次はあなたの番ですよ。前回の“続き”をいたしましょう」
「はい……ジッジ様……」
(ああ、ダメだ……)
ティーダは絶望と後悔の中にいた。
(こんな……こんなことが許されるのか……?)
“何か”が、彼の心で叫び始める。
それは、怒りか? それとも悲しみか? いや――
彼はただ、叫んだ。
「やめろぉおおおお!!!」
しかし、ルチルの快楽に喘ぐ声がそれを呑みこんでいく。
「ああぁ……っ! ジッジさまぁ、わたし、もう……」
「ふふ、ルチルは可愛らしいのう。さて……どこに出してほしいですかな?」
「お、おしりにぃ……っ!」
(やめろぉおお!!!)
ティーダは絶叫した――が、その叫びもまた、2人の嬌声にかき消される。
「ルチルチルチルチルチルチルチルチル~~ッ♪」
「ジッジさまぁ、ジッジさまぁあああ~~っ」
「むほほほほ~~っ!! 出るぞ! 受け取れ、脈動の奔流をぉおお!!」
「あ、あぁぁあああぁ――っ! イクッ! イキますぅううっ!」
(やめろ!!)
ティーダは声にならない声で叫んだ。
その後も、ジッジと2人の弟子による"特別な修行"は朝まで続けられるのだった。
ティーダが幽閉されてから、どれほどの時間が経ったのだろうか。
地下の冷たい空気の中、耳を澄ませていた彼の耳に、かすかな足音が近づいてきた。
ギィ……と扉が軋む音。
光が差し込み、逆光の中に二つの影が立っていた。
ルチルとエルマ――だった。
だが、ティーダはすぐに違和感を覚えた。
彼女たちの目。
まるで深い霧に包まれたように、焦点が合っていない。
それでいて、異様なほど穏やかに、柔らかく微笑んでいる。
「ティーダ様。お加減はいかがですか?」
ルチルが、かつての快活な面影を微塵も感じさせない、抑揚のない声で問いかける。
エルマもまた、無表情でティーダを見つめていた。
その目は何かに深く染まっているようで、かつての彼女の明るさ、活発さは一切なかった。
(なんだよ……これ……)
ティーダは知らず知らずのうちに、後ずさる。
彼女たちの衣装もまた変わっていた。
儀式前に着ていた薄い修行着はそのままだが、襟元や袖に見たことのない刺繍が施されている。
それは、どこか不気味な“脈動”を思わせる意匠だった。
「……なぁ、ルチル、エルマ……お前ら、どうしたんだよ。目、覚ませよ!」
ティーダは必死に呼びかける。
だが、ルチルはゆっくりと首を傾げ、微笑んだ。
「私たちは目覚めたのです。脈導師様のお導きにより、スピラの真理を知りました。……それが、救い」
エルマも続く。
「もう迷いません。これからは、すべて脈導師様の御心のままに」
二人は顔を見合わせ、うっとりとした微笑みを浮かべる。
それは狂信の微笑みだった。
(違う。違うだろ、ルチルもエルマも……そんなヤツらじゃなかったはずだろ……!)
ティーダは、縛られた手をぐっと握り締めた。
だが、弟子たちはそんな彼を冷たく見下ろすばかりだった。
「今、ユウナ様もまた、脈導師様にお導きされようとしています。彼女は、スピラを救う母となるのです」
ルチルが静かに言った。
「……っ!」
ティーダの心に、鋭い痛みが走った。
ルチルとエルマは、もう以前の彼女たちではない。
完全に、脈導師ジッジに支配されてしまっていた。
静かに、しかし絶望的な気配が、ティーダを取り巻いていく。
(俺が……助けなきゃ。絶対に……絶対に、ユウナをこんな風にさせるわけにはいかねぇ……!)
ティーダの瞳に、消えかけていた闘志が静かに燃え始める。