※この作品はR-18です。

FINAL FANTSY X ~脈導の聖女~   作:彼処舐ノ助嗅過

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6.明かされる計画とティーダの救出

夕暮れ。

ルカの宿舎の一室で、ユウナは窓の外をぼんやりと眺めていた。

ティーダの姿は見えないまま。

何度か弟子たちに尋ねても、「お祈りに出ています」「今は集中の時です」とはぐらかされるばかりだった。

 

その時、扉がノックされた。

「ユウナ様、よろしいでしょうか」

柔らかな声。

扉が開き、入ってきたのはルチルとエルマだった。

だが、彼女たちの様子は明らかに以前と違っていた。

表情は穏やかだが、目の奥にある静かな狂気――。

ユウナは、どこかぞっとする感覚を覚えた。

 

「……ルチルさん、エルマさん」

「私たちは、悟ったのです」

ルチルが静かに言った。

「脈導師様のお導きは真実。心も身体も、すべてが軽くなる。幸福に満たされる」

エルマも続ける。

「ユウナ様も、もうすぐ。その苦しみや迷いから解き放たれる時が来るのです」

ユウナは小さく息を呑んだ。

 

「……何を、するんですか?」

「大丈夫です」

ルチルが柔らかく微笑む。

「特別な儀式に参加していただきます。脈導師様と共に、地脈と霊脈の深奥に触れるのです。……それは、究極の救済。私たちが体験した幸福を、ユウナ様にも」

ユウナは、彼女たちの言葉に強い違和感を覚えながらも、言葉に詰まってしまう。

 

その時、もう一つの気配がした。

奥の扉が開き、ゆったりとジッジ――脈導師が現れた。

「お待たせしました。ユウナ様」

その声は、いつものように穏やかだった。

だが、ユウナはその笑みの奥に、目を逸らしたくなるような底知れぬ何かを感じた。

ジッジは、ゆっくりと彼女に近づく。

「ユウナ様。貴女はスピラを救った英雄。今こそ、スピラを真に救う母となる時です。私と共に、交脈の儀に臨んでいただきたい」

その言葉を聞き、ユウナの全身に冷たいものが走った。

 

交脈の儀――。

それがどんな意味を持つのか、彼女は言葉では説明できなかったが、直感的に理解していた。

(……これは、ただの修行じゃない)

それでもジッジは優しく続けた。

「怖がる必要はありません。貴女は英雄、私はその伴侶。スピラのため、共に歩みましょう」

ルチルとエルマが、そっとユウナの肩に手を添える。

その手は温かいはずなのに、冷たい檻のように感じた。

 

「さぁ、準備は整っております」

ジッジが手を差し出した。

ユウナは、微かに震えながら、その手を見つめる。

(ティーダ……どこにいるの……?)

 

 

ユウナの指先は微かに震えていた。

脈導師ジッジが差し出した手を、彼女は見つめたまま動けないでいた。

「……ごめんなさい。私は……その、できません」

ユウナは絞り出すように声を出した。

ジッジの表情は変わらない。むしろ、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。

「なぜでしょう、ユウナ様。貴女は世界を救った英雄。今また、スピラが新たな救いを求めています。私たちが結ばれることこそ、その道標となるのです」

柔らかい口調。だが、そこに拒絶を許さない強さがにじんでいた。

 

ユウナは困惑して、ルチルとエルマの方を振り返る。

「私たちも最初は、怖かったんです」

ルチルが静かに口を開く。

「でもね、ユウナ様。脈導師様と交わした誓いは、私たちに“本当の平和”を見せてくれた。スピラの苦しみを、私たちが背負うことで終わらせるんです」

「そうですよ、ユウナ様。あなたならわかるでしょう? スピラのために、自分を犠牲にすることの意味を」

エルマの声も優しく、けれど芯があった。

 

ユウナの心に、かつて旅の中で背負っていた“召喚士の覚悟”がよみがえる。

(……また、私が……)

「でも……」

ユウナはなおも口ごもる。

 

「スピラは、貴女の光を必要としている。脈導師様と結ばれれば、その光はもっと多くの人を救える」

ルチルの言葉は、まるで諭す母親のように温かい。

「英雄の責務ではない。これは、貴女の優しさそのものなのです」

エルマが続ける。

ユウナの脳裏に浮かぶのは、かつての旅路――。

罪のない人々がモンスターに怯え、シンの脅威に怯え続けたあの日々。

(……あんな想いを、誰にもさせたくない)

ユウナは唇を噛み締めた。

 

「脈導師様の元でなら、苦しむ人を救えるのです」

「そして貴女自身も、幸福になれる。スピラにとっても、貴女にとっても、それが一番の道だと、私たちは信じています」

ルチルとエルマの言葉は、ユウナの胸に静かに沈んでいった。

(違う。私にはティーダがいて……。でも……)

スピラの民の苦しむ顔と、ティーダの無邪気な笑顔が、心の中でせめぎ合う。

「貴女なら、きっとできる。スピラの未来を変えることが」

ルチルがそっとユウナの手に触れた。

 

その手の温もりに、ユウナは迷いを覚えた。

(もしこれが……もしこれが、スピラのためになるなら……)

ジッジは、静かに手を差し出したまま待っていた。

ユウナの瞳が、微かに揺れた。

 

 

ジッジの穏やかな声が、ユウナの耳に心地よく響いていた。

「ユウナ様。スピラの民は、貴女が女神として君臨し、我が子――神の子を抱くその日を待ち望んでおります。脈導の力を継ぎ、スピラに新たな光をもたらす存在。それこそが、貴女と私の結びつきが生む奇跡なのです」

「神の……子……」

ユウナは息を呑んだ。

思いも寄らぬ言葉。

けれどその響きには、どこか抗い難い説得力があった。

 

(私が、神の子を……? でも、それで……本当に……?)

苦しむスピラ。

救いを求める人々。

そして、優しく微笑むジッジ。

ユウナの心は、大きく揺れていた。

(シンを倒した時みたいに、また……私が、スピラのために犠牲になれば……)

 

 

だがその時――!

宿の外に、激しい物音が響いた。

「何事だ!?」

ジッジが振り向くと、部屋の外で弟子たちが押し合い、騒ぎが起きていた。

「来たぞ! ティーダを助けに!」

怒号と共に飛び込んできたのは――

「ワッカ! ルールー!」

「リュック! キマリ!」

かつて苦楽を共にした仲間たちだった。

 

ワッカはブリッツボールを巧みに操り、弟子たちを次々に倒していく。

ルールーは雷の魔法で周囲を威圧し、リュックは素早い動きで弟子たちを翻弄。

キマリは槍を構え、ティーダを守るように立ちはだかった。

 

「ユウナは!? ユウナはどこだッ!?」

ティーダが叫ぶが、弟子たちの数があまりに多い。

「ティーダ、今は撤退するわよ!」

ルールーの冷静な声が飛ぶ。

「ちっ……!」

ティーダは悔しげに奥の部屋を見つめるが、ワッカたちに押されるようにして脱出する。

弟子たちの応援が次々に駆けつけ、数で押し切られる形となった。

「くっそぉ……!」

ティーダは歯を食いしばったまま、宿から遠ざかる。

 

 

町外れの廃屋に身を潜めた一行。

ティーダは荒い息を吐きながら、拳を握りしめていた。

「……アイツら、ユウナを“神の子”を産む女神にしようとしてる。ジッジってヤツの子供を、だ」

ルールーとワッカ、リュックとキマリも真剣な顔で聞いている。

「ユウナも……少し、揺れてる。スピラのためだって、また自分を犠牲にしようとしてる」

ティーダの声には、怒りと焦り、そして深い悲しみが滲んでいた。

「ユウナ……」

リュックが、小さく呟いた。

 

「くそっ……。そんなの絶対にさせねぇ。絶対に、だ!」

ティーダは拳をテーブルに叩きつけた。

 

「もう、あの子には犠牲になってほしくない」

ルールーが静かに言った。

ワッカも深く頷く。

「だな。あいつはもう十分やったんだ。今度は、俺たちが――」

ティーダは、こみ上げるものを飲み込むように息を吸い込んだ。

「――今度は、絶対にユウナを救う」

強く、強く誓うように。

 

 

ティーダたちは、北へ北へと逃げていた。

街道は静かだった。

だがそれは、嵐の前の静けさに他ならなかった。

「……静かすぎるな」

ワッカが周囲を見回して呟く。

ルールーも険しい表情で頷いた。

「この静けさ……嫌な予感がする」

リュックは後ろを振り返りながら、不安そうに言う。

「ねえ、なんか、ずっと誰かにつけられてる感じ、しない?」

 

そう、奴らは――

民だった。

普通の村人、旅人、漁師、商人――

誰もが、脈導師を讃える者たちだった。

 

「いたぞ! 異端者たちだ!」

叫び声と共に、草むらから現れる男たち。

額には脈導の紋章を刻んだバンダナ。

腰には自作の武器。

彼らは信じているのだ。ユウナを神にするために、異端者を捕らえなければならないと。

 

「うわっ、マジかよ……」

ティーダは剣を抜き、身構えた。

「止めろッ! あんたたち、どうしちまったんだよ!」

ワッカが叫ぶ。

だが彼らは耳を貸さない。

「脈導師様の教えに背く者は排除せねばならん!」

「女神ユウナ様を救うためだ!」

その目は、狂信の色に染まっていた。

 

「……全土に広がったってことね……」

ルールーが静かに言う。

かつては自由だったスピラ。

今は違った。

民衆は信仰を武器に変え、仲間だったはずのティーダたちに牙を剥く。

 

 

その頃、遠く離れた静かな館の一室。

ジッジは部屋の高台から、スピラ全土を映す多数のスフィア映像を眺めていた。

「……ふむ、よきかな、よきかな」

ジッジは小さく笑った。

各地の街、村、路地裏――

映し出される光景は、どれも信者たちが自発的に集まり、異端者を狩る準備を進める姿だった。

「私が命じたわけでもない。彼らが自ら動いたのだ。……これぞ“民意”というものよ」

 

満足げに笑みを深めるジッジ。

ゆっくりと、玉座のような椅子に腰を下ろし、手に持ったワイングラスを傾ける。

「民意は、導くものではない。……編み、縫い、私の望む形に育て上げるもの。ふふふ……スピラよ、よくぞ育った」

彼の眼差しはすでに、スピラという大地すべてを手中に収めた王のようなものだった。

「さあ、ユウナ様。そろそろお覚悟を」

脈導師は、グラスを置き、満面の笑みで呟いた。

 

 

荘厳な聖堂の一室。

白い布をまとい、淡い光に包まれたユウナが跪いていた。

その前に立つのは――ジッジ。

「ユウナ様。スピラは、あなたを必要としています」

ジッジは柔らかな口調で語りかけた。

ユウナは俯き、ぎゅっと両手を握る。

(本当に、これしかないのかな……)

「シンを倒したあなた。ヴェグナガンを鎮めたあなた。それでも、この世界は救いを求めています」

ジッジの声は、まるで子守唄のように心に入り込んでくる。

優しく、しかし、逃れられない鎖のように。

 

 

「……本当に、私にできるんでしょうか。スピラを救うことが」

ユウナは、かすれた声で問う。

ジッジは微笑んだ。

「できますとも。ユウナ様と、私の間に生まれる神の子こそ、真にこのスピラを救う光」

ユウナは目を閉じた。

胸に手を当て、震える心を押さえ込もうとする。

 

(ティーダ……ごめんね)

「……わかりました」

ユウナは静かに、しかしはっきりと頷いた。

 

ジッジは満足げに目を細め、そっと手を差し伸べた。

「ありがとうございます、ユウナ様。これで、スピラは救われます」

手を取って目に涙を浮かべて続けるジッジ。

「……なんという……尊い、決断でしょう。その身を捧げ、絶望に光をもたらすあなたの覚悟は──まさに“神の器”そのもの……ユウナ様……あなたは、世界の“希望”です。交わりの儀は、三日後の満月の夜。神と人の祝福が、きっと……」

 

 

儀式の日取りが決まった。

世界中に向けて、神の子を宿す女神誕生の報が流れた。

 

ユウナが部屋を去った後……。

「く、くく……ッ、くっくっくっく……!」

頭を抱えながら、腰を折って嗤うジッジ。

「ついに……ついにこの私が……あの、ユウナ様と……! 神のように崇められ、天から人々を導き、そしてこの手で“神の種”を蒔く……世界は私の子によって浄化される! 私が神を産ませるのだ……!」

これ以上ない程に顔を紅潮させ、背筋を震わせながら気味の悪い息を漏らすジッジ。

「ユウナ様……グフッ、グヘヘヘヘ……ククク、クハハハ……!」

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