あなたは今、神崎に話があると言われてその後を着いていた。立ち話も何だと、飲み物代は奢るから喫茶店に行かないかと誘われ、あなたは迷わず肯定の意思を返した。
ではこの間。店に着くまでだが、神崎の事を少し語ろう。
彼女のフルネームは
神崎翠の家族構成は父、母、翠、妹と合わせて4人の家族だ。家族仲は良好。父と母は何方も働きに出ていたが、2人の娘をおざなりにする事は、決して無かった。
「翠姉! 髪結んで!」
「はいはい。何時かは自分で結ぶのよ、
「はーやーくー」
「……もう」
妹は今年で9歳になる。丁度自分がこのくらいの時に碧は産まれた。両親に優先的に構われる小さな妹を見て、少しムッとする時もあったが、純粋に翠を慕う妹と接するうちに、そんな想いよりも可愛い妹だと思う機会が増えて行った。
今では自分の大事な妹だと、胸を張って言える程に翠は妹を可愛いがっていた。
両親が仕事で帰りが遅いのも影響したのだろう。自然2人で居る時間は増えたし。妹の為にと料理を作る機会も増えた。
「オムライスお願いしまーす!」
「洗い物手伝うなら良いよ」
「うーん……はい! やります!」
「宜しい」
料理を作り、それを誰かに振る舞う。この後見出した進路の始まりは間違いなく此処だ。
何処までを目指すかは未定だったが、何れは自分が作った物を誰かに提供したいという想いは此処から始まった。
両親にその意向を話しても反対はされず、寧ろ応援された。学費の事は気にしなくていい。だから翠の行きたい所に行っていい。
神崎翠の人生はこのまま、普通に進んで行く筈だったのは確かだ。ダンジョンなんてものが無ければ、絶対に。
「え……」
その日は前触れも無く訪れる。休日、日曜日。友人達に誘われ、都内へと翠は遊びに行っていた。両親も休日だから2人共に家に居る。偶には自由に遊んで来いと妹の面倒は両親に任せ、朝から夕方まで翠達は遊び尽くした。
家が、無かった。朝出掛ける時に確かに存在していた、翠の家族が住んでいた今までの家が、どこにも無かった。
代わりに家があった場所には、住宅街には不釣り合いな、古代の遺跡のようなものが存在している。
後で分かった事だが、大規模ダンジョンは小規模とは違う現れ方をする。小規模が無作為に小さな。人が通れるくらいの空間を開くのに対し、大規模ダンジョンは先ず現れる場に開くのだ。大きく、広い切れ目を、地面に。
そうするとどうなる?答えは、其処にある全てをダンジョンに
つまり神崎翠の家族と家は、この大規模ダンジョン地下へと落ちた。しかも、恐らくは、最下層までだ。
「───」
時刻は夜の訪れを告げる。暗くなり辺りには人工の光しか見えなくなる。だが、その周りには野次馬。規制線を張る警察。カメラを持っているのはTV局の人間か。
神崎翠と同じく家族、友人が巻き込まれたのか近くで怒号や叫びにも似た泣き声が聞こえる。
泣かなかった。怒りもしなかった。ただ、呆然と翠は立ち尽くしていただけだった。
信じられなかったのだ。現実だとは思えなかったのだ。
だから、神崎翠がこの事件を呑み込むまで、かなりの時間が経った。
「………」
神崎翠はその後、母の妹へと預けられた。持ち込む物等、何も無く。その日出掛けた少しオシャレをした服と、お土産用に買っておいたお菓子があっただけだ。
ご飯も食べず、お風呂にも入らず。何もせずに時間だけを浪費する。それが事件が起きてからの翠の日常だ。
そんな生活をしては身体にも精神にも悪い。それは親戚の叔母も分かっていたが、どう声を掛けていいか。それが分からずに、おにぎり等、食べやすい物を差し入れるしか出来なかった。
「……翠ちゃん? あのね─」
ある日。叔母である葉子は何時もと違い、怖ず怖ずと翠に割り当てられた部屋へと入って来る。その後、口を開こうと何度か迷いを見せてから、ゆっくりと翠へと用件を切り出した。
「お父さん……お母さん……」
「……碧ちゃんのは見つからなかったって。でも、期待は出来ないって……言ってたわ」
ダンジョンが発生してから数週間。国が派遣した専門の軍隊はダンジョン内部の調査を終えて帰還した。犠牲者は少し出たが、それでも殆どが無事に帰って来たのは日頃の訓練の賜物か。
閑話休題。神崎翠の父と母は
「──うっ……! うぷっ……!?」
フォルマによる技術革新。持たされた恩恵により、無理に損傷が激しい遺体の確認をしなくとも、近親者の遺伝子データがあれば身元の確認は可能だ。しかし翠は認めたくないという想いに動かされて、余計な記憶を脳に残してしまったのだ。
赤の他人でも堪える代物。それが家族のものであれば、その精神的負荷は計り知れない。矢張り止めるべきだった。葉子は翠の介抱をしながら、過去の選択を悔いた。
「……お返しします。これは貴女に所有権がありますので」
全部ではないが持ち帰った遺族達への遺品を渡す譲渡の場。父浩一が付けていた時計。母が付けていたネックレス。妹から誕生日に貰った手作りの花柄の櫛ケース。
その日。神崎翠は自分の家族が居なくなった事を漸く自覚した。渡された遺品の中にあった家族皆で撮った写真。それに縋りながら涙を流した。
『翠姉! 翠姉の髪ってキラキラしてるよね! 私もそうなりたいな』
『これあげる! 櫛は買ったのだけどケースは葵が作ったよ! えらいでしょ!』
『翠姉……翠姉……助けて……お姉ちゃん…』
「──碧!?」
「はあ、はあ……また…夢…?」
両親と妹との別れを自覚してから、毎夜の如く翠は悪夢に魘されていた。家族で過ごした幸せな記憶から、急に両親の死体と、妹が泣いている光景がフラッシュバックする。
父、母、翠を呼びながら蹲り、何時も碧は夢の最後に出て来る。自分だけが生き延びた罪悪感、悲しみ。それが作り上げた映像だと言うのは分かる。
けれどその光景を見る度に、翠の中ではある考えが顔を出すのだ。
数える程だが、ダンジョンから生還した元一般人は居る。
稀に稀なケース。死体が見つかっていないとは言え、それはモンスターに食われたのかもしれないし。例え落下直後から生き残っても、まだ9歳の子供が生きるにはダンジョン内部は余りにも過酷過ぎる。
「それでも……! それでも生きてるかもしれない……!」
小さい小さい有り得ない可能性。しかし人間は0でなければ其処に希望を見出す時もあるのだ。家族を全員失ったばかりの高校生に、正常な判断を下せというのも酷だろう。
こうして、神崎翠はある道を進む事を決意したのだ。
「何言ってるの!? そんな危ない事しちゃ駄目よ翠ちゃん!」
「妻の言う通り。私も賛成は出来ない」
部屋から出て来て普通に生活を始めた時は、翠も少しづつ前に進む気になったのかと安堵していたが。暫しの時が流れて彼女の口から切り出された言葉を聞き、直ぐに叔母夫婦は猛反対をした。
「探索者って、命の危機があるのよ!? 翠ちゃん、分かってるの?」
「……承知の上です」
「君はお義姉さん達の忘れ形見だ。私達も今では娘のように思ってる。……どうか考え直してくれないか?」
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
どれだけ夫婦が言葉を掛けようと、翠は一歩も引かない。
これも何方かと言うと、説得ではなく意思表示に近いのだろう。それ程に神崎翠の意思は硬かった。
「……今までお世話になりました」
結局。翠は意思を伝えてから次の日には叔母夫婦の家から、逃げるように姿を消した。
叔母夫婦も止めて連れ戻した所で、同じ事は繰り返すだろうと、結果黙認する事しか出来なくなった。
両親の遺したお金と保険金。其れ等を掻き集めてライセンス資格の頭金としたが、暫くは探索者にはならなかった。
元はただの一般人。知識も経験も何もかもが足りない。金銭は多少ある。良いスタートダッシュを切る為にも、翠は敢えて鍛錬と勉学の時間を設けた。
それから約1年後。翠は20歳になる年に、初級探索者として産声を上げた。準備期間のうちに出会った仲間とダンジョンに潜り、それ以外の時間は勉強か鍛錬に充てた。
幸いなのかは分からないが、探知系の異能にも目覚め、探索者としての才もある。鍛えた基礎のお陰もあり、翠の実力はメキメキと上がっていったのだ。だが、
「さようなら。これからも頑張って」
目的の不一致。これが、見えてくる時期にも早く到達した。神崎翠が始めに組んだパーティは、半年の期間を置いて離脱。理由は初級以上を目指す気が無かった事に尽きる。
稼ぎが安定し、危険を犯さなくても生活は可能。上級になると息巻いていた鼻っ柱も、既に折れているとなれば自然こうなる。
仲間としての情はあったが、それよりも優先する事が翠にはある。次のメンバーが見つかるまでの義理は果たして。
翠はこれから、パーティ間を転々とするサイクルへと変わって行った。
「あー、ごめん。其処までは目指してないわ」
「中級……うーん、まだ其処までは考えてないかな?」
だがそのサイクルも絶不調。実力がある事からパーティには転がり込めるのだが、その先が続かない。
上を目指すつもりはない者。単純に其処まで考えてない者。理由はそれぞれだが、初級で良いという考えは変わらない。
次第にパーティを組む時間よりも、探す時間の方が増えていくばかり。
(上がるまでの過程も考えると……)
お目当ての仲間を見つけたとしても其処から中級、上級と駆け上がるまでの時間も計算に入れなければいけない。
強くなる。仲間と上に上がる。何方も両立するには若ければ若い方が良い。妹の命も何時まで持つか分からないのだから、尚更早い方が良い。
焦りと苛立ち。神崎翠は2つの感情に苛まれながら、探索者として1年を過ごした。
(今日は少し遠出をしたけど、良い人が見つかるかな……)
神崎翠がテリトリーとしているエリアは大体周り尽くした。顔見知りばかりが居る場所で捜索を続けても、意味は無い。
時間は掛かるが行けなくは無い距離。其処から一つを絞って今日は1つ目の臨時パーティだ。
せめて中級を目指している探索者が居れば良いが…。
(……早く着き過ぎた。まだ来てないよね?)
遅れるよりはと早めに出たのが災いしたか。準備は昨日に全部済ませてある。今更何をして時間を潰すか。
(誰か居る。募集してた人かな)
集合場所には既に先客が。少し息が荒いのは気になるが、変質者ならば多少の心得はある。話し掛けてから様子を見る事にした。
(何やってるのこの子……?)
沢木という苗字ではなく別の名前。聞いた苗字を記憶しておき、時間潰しがてら話題を振る。かなり早く来た自分よりも更に早く来ていた青年。
何の気なしに聞いた質問だったが、帰って来たのは予想もしない返答。
走って来た。しかも荷物である装備を持ってだ。ダンジョンに潜る前は十全な体調にしておくのが鉄則。息が荒れるまで走り込む等有り得ない。偶に居る変に張り切った子かと思いもしたが、どうやら違うよう。
(其処までやって大丈夫なんだ)
人間の限界。翠も自身を極限まで鍛える質だが、男女差はあるにしても、倍以上のメニューをこなせるものなのかと素直に驚愕する。自身の行動に悦に浸っている訳でも無く、日課だからという態度で、淡々と説明する様は説得力があった。
(体を鍛えるのが好きって感じでも無いのに、変わった子)
自分でやり始めましたと少しの間があってから彼は言う。偶に不満そうな、達観したような表情を見せるのは何だろうか。自分で決めてやった事なのに。
何で其処まで自分を痛めつけるのか。湧いた次の疑問を翠は問い掛けた。
『この訓練が上に上がるのに必要だからです』
「──」
予想もしてなかった言葉を返される。気負うでも無く、恥ずかしがるのでも無く。まるで当然だと言う風に、彼は上という言葉を口にした。
心臓がドクンと跳ねた。もしかしたら…そんな考えが翠の中で駆け巡る。
「上……あなたは中級に上がる気があるんですか?」
ゴクリと唾を呑み込む。期待している。自分でも驚くくらいに翠は、目の前の彼から半ば確信している言葉を聞きたかった。
『はい。取り敢えず中級を目指してます』
その言葉を聞いた時、神崎翠は彼を勧誘する事を決めた。例えまだ実力が無くとも、この精神が1番求めているものだ。
(驚いた。此処までやるの、彼?)
あの後。ほぼ2ヶ月前に探索者になり、ソロとして普段は活動しているとは軽く聞いたが。2ヶ月の探索者?ソロ探索者?何方にも疑問符が付くくらいに、彼の実力は違った。
片手剣に銃。何方も異常に鍛えられている。もしかして探索者になる前から、何らかの訓練を受けていたのだろうか。
でなければ2ヶ月で到れる到達地点とは思えなかった。
(心配なのは誰かから勧誘を受けているか。または既に仲間候補が居るか、か)
嬉しい誤算ではあったが、逆にそれ故に懸念点も出て来る。かつて仲間として勧誘を行った相手には、既に先約が居た。そう、仮に上に上がる意思を持つ探索者が居たとしても、そういう人間は行動を早くしているもの。大体は出遅れるパターンが多いのだ。
(……考えても仕方ない。今はソロで活動しているみたいだし、その言葉に賭けるしかない)
今日の攻略は、中途半端だが他の探索者達により早目に終わった。今回ばかりは助かる。出来るだけ早く彼とは話をしておきたい。沢木と橘が駅へと向かった後、考えごとをしているのか。中々動かない彼の元へと翠は向かう。
「この後、時間ってありますか……?」
「単刀直入に言います。私とパーティを組みませんか?」
とどいた紅茶を飲み、一息つくと神崎からあなたへ直球の勧誘が飛んできた。もしかして今日ずっと見られていたのは、これが関係しているのだろうか。
「続けて言います。私は中級を先ず目指しています。……何れは上級にも。あなたもそうだと思ったからこうして勧誘しています」
確かに。あなたは中級に上がる為に今行動している。そして中級に上がれば、今度は上級に上がる為の行動を取るだろう。
「駄目、あなたが良いの。出来れば此処でYESかNOかを答えて欲しい」
自分で良いのかという質問には直ぐに返答された。いつの間にか随分と高評価を得られたみたいだ。
考える。神崎さんの能力は片手剣での戦闘。サブはナイフに寄る投擲。何より特徴的なのは探知系の能力か。組むとしたら探知役として動いて貰い、戦闘では前衛で動き回るイメージか。
『神崎翠を仲間にする』←クリック。
『神崎翠の勧誘を断る』
「──本当!? い、いえ! 他に仲間とかって居るの? 今更だけど」
『神崎さんが初めてですね』
「そ、そうなの!? ……よ、良かったぁ……勧誘直ぐにして」
そうなのの後は小さくボソボソと呟いたから聞こえなかったが。相当神崎が喜んで安堵していたのは伝わる。
神崎程の実力者ならば引く手数多だろうに、上を目指す人間はそんなにも少ないのか。
「……私もあなたが始めての仲間。これから宜しく!」
手を掴まれ、両手でぶんぶんと勢いよく振られて握られながら。あなたは始めての人間の仲間を迎え入れたのだ
【探索者 神崎翠が仲間になった!】
【神崎翠をパーティ画面から選択出来るようになりました】
翠さんはファンタジー風に言うならシーフ。身の熟しが軽くて素早さが早いです。
神崎翠
使用スキル
疾風斬 物理 敵全体に中ダメージ。
牙折り 物理 敵単体に小ダメージ。攻撃力低下。
霞切り 物理 敵単体に中ダメージ。めまい状態付与。
投擲ナイフ【扇】 銃撃 敵全体に小ダメージ。
投擲ナイフ【死角投げ】銃撃 敵単体に中ダメージ。クリティカル出やすい。
投擲ナイフ【毒】銃撃 敵単体に小ダメージ。高確率で毒状態。
応急手当 回復 味方単体のダメージを小回復。一つ状態異常解除。
素早さの心得 自動 戦闘開始時命中・回避率が上がる。3ターン。
状態異常耐性(弱)自動 毒、混乱、睡眠、の耐性が1段階上がる。
食いしばり 自動 HPが0になるダメージ時、一度だけHPが1残る。
ダンジョンスキル
エストマ 敵との遭遇率を下げる。
トラフーリ 戦闘から離脱する。
サバイバル知識 アイテムを合成し、簡易的なアイテムを作成する。
※ダンジョンスキルはフィールド上で効果があるスキル。
大体スキルイメージはこんな感じ。シーフらしく状態異常や弱体効果のある攻撃が得意。ソロでも潜る時はあったので回復とかはその時に覚えました。
神崎碧
当時小学3年生。髪は肩甲骨辺りまでの長さ。髪は黒色。可愛らしい女の子。
余談
髪を長くして居るのは妹や家族に褒められた記憶を忘れない為に敢えて切っていません。戦闘時は縛っているので一応邪魔にはならない模様。碧ちゃんもそんな姉の髪を目指して髪を伸ばしていたとか。
という訳で一人目の仲間である神崎翠ちゃん回でした。主人公よりは年上なので、偶にお姉さんとして振る舞います。大分精神的に追い詰められていたので、主人公と仲間になってからは少し落ち着きます。