「おはようございます」
あなたが神崎翠と行動を共にする事を決めた翌日。あなたと神崎は昨日集まった集合場所で合流した。
青のジャージ上下を着用し、昨日とは違い神崎の方が早く待ち合わせ場所には着いていた。おはようと挨拶からあなたが声を掛けると、神崎は無表情の顔を変え軽く口元に笑みを作ってから挨拶を返した。
「改めて、これから宜しくお願いします」
挨拶を交わして、今日引き継ぎ希望が募集されていた場所へと向かう。引き継ぎではなくとも、後からダンジョン内に潜るには特に文句は言われない。あからさまに妨害行動をすれば罰される事もあるが、そんな愚者は偶にしか現れない。
向かおうと足の向きを変える直前、神崎は深々と頭をあなたに下げて、友好の証として礼を尽くした。あなたも改めて神崎に倣い、友好の一礼を返した。
「今回の目的はお互いの動きの確認。間違いないですか?」
ええ。とあなたはジャージを脱ぎ、防具を装備して来た状態へと早変わりする。昨日は一度席を外していたから、その時にこうして脱いだのだろうが。何故あなたと一緒の今回はそうしなかったのか。
「理由は二つ。仲間ならば、なるべく離れない方が良いと思いました。もう一つは、君が信用出来ると思ったから、の二つです」
隙を見せる行動はあまり取りたくはない。前回のように建築物が近くにある立地ならば構わないが。こうして野外の、茂みしか隠れる場所が無い所は確かに別の意見もあるか。
今まではソロ故に仕方が無かったと。
しかし信用、はて?戦闘力ならば少しは見せたが人柄はそんなに見せた覚えは無いが……。
「昨日、あなただけ殆ど見てなかったので」
あー……、成程。話は変わるが神崎翠の服は所謂コンバットドレスに近い。色は全身ダークグレー、暗闇に溶けやすいようにか。露出度は其処までだが、その分身体にフィットして居るからか、ボディラインはくっきりと分かる。
太ももには投擲ナイフ用のホルダーが着けられており、色々と目に毒な衣装なのは間違いない。神崎本人としても良い装備ならば他のにしたかったと不満はあるが、無いならば仕方ないとこの装備を選んだ。ちなみに耐性は物理に耐性があり、弱点は電撃属性だとか。
「経験上しょうがないというのは分かります。ですが……」
チラチラと見られるよりかは、そういう視線を送らない人は信用出来ると。
あなたにはもう、女体というのは訓練で見るものだという事が頭にこびり付いている。怪我があろうが、体調が悪かろうが仲魔と体を交わらせる訓練に休みはない。ダンジョンに行けば必ずやるし、今日はちょっと…と言う甘えは許されないのだ。
だから、前ほど女体を見る事に執着やドキドキは無くなった。神崎の装備を見た時も、動きやすそうだな、それはそれとして、視線を集めそうな装備だなとか情欲とは別の冷静な思考が巡った。枯れてる、という訳では無いが。こういう時は何と表現すれば良いのか。
「でも、全く見られないのも、何だか思う所はありますね」
自分達男子にどうしろと言うんですか……。
『あー分かる分かる。私も良くジロジロ見られたから気持ちは分かるわー』
『ジロジロ見るのは論外。かと言って見ないのも駄目。ほどほどに見て欲しいわよね』
仲魔であるルサールカが居ればこんな事を言っただろう。そしたらあなたはこう言うだろう。
『無茶言わないで下さい……』と。
「一体。先ずは私から仕掛ける」
前を歩くのは神崎。後ろはあなたと探知、索敵を神崎に任せ、集中している神崎の周りはあなたが注意する。
この先にモンスターの反応を確認したと合図が出る。簡単な合図だが、片手を上げればモンスター。両手を上げれば人間の反応がしたという合図だ。その後指で数字を使えば数が分かる。
幸い数は1体。慣らし運転には格好過ぎる数だ。アイコンタクトで軽く意思を合わせてから、神崎はモンスター目掛けて駆けて行った。
【──奇襲成功!神崎の牙折り!……ヒット! クリティカル! 攻撃力低下!】
【リャナンシーに中ダメージ!】
【あなたの急所撃ち!……ヒット! クリティカル!】
【リャナンシーをたおした!】
「あ、終わった」
煙と叫びを上げて消えて行った悪魔。神崎の片手剣での攻撃が当たり、蹌踉めいていた所にあなたの銃弾が炸裂する。交戦経験はある。銃撃は効くと記憶していたあなたは、躊躇い無くリャナンシーの頭を撃ち抜いた。属性弾装填よりも此方の方が良いと判断したが、結果を見るに正解だったか。
「後二撃はいると思ったけど、急所に入ったのかな」
呆気なさすぎる戦闘、いや戦闘にもならなかった今の1戦。これでは慣らし運転にもなりはしない。良い意味でお互いの実力はこの程度では無かったらしく。
「……次からは二体を探すよ。これじゃあちょっと」
1体では正面から戦ってもオーバーキルになりそうだ。あなたと神崎が考案したスタイルを実戦で試すべく、1段階上の悪魔2体から今度は戦闘に入る事にした。
【アイトワラスAのカゲロウシュート!……回避!】
【アイトワラスBのマハラギ!……回避! 回避!】
「大丈夫!」
『問題ない!』←クリック。
『オムレツあげなきゃ……』
あなたと神崎のコンビは先ず、神崎が悪魔の目を引き、攻擊が集中する様に立ち回る。攻擊手段は出が早く、ダメージを負わされた方へと悪魔が優先的に攻擊するのは自然だった。それを持ち前の経験と身体能力で躱す。攻擊→回避を常に繰り返すのが神崎の役割だ。
【あなたの急所撃ち!……ヒット! クリティカル! 弱点により二倍のダメージ!】
【アイトワラスAをたおした!】
氷結の属性が込められた弾丸を装填し、あなたは片方の悪魔を狙い撃ち殺す。あなたの役割はトドメ役。理論上全属性に弱点を付ける属性弾で、正確に弱点を突き、殺す。
【あなたの急所撃ち!……ヒット! クリティカル!】
【神崎の霞切り!……ヒット!】
【アイトワラスBをたおした!】
残り1体になれば後は消化試合。前衛で動く神崎を援護しながら、あなたは銃撃で。神崎は片手剣でそれぞれ最後のダメージを与えた。
「まだまだ余裕はあります」
2対2の戦闘だったが、常に此方側が有利の展開だった。これならば3体の悪魔、上手くやれれば4体も非現実的ではない。1人頼れる仲間が居るだけでこうも変わるとは、仲魔との戦闘とはまた、違う感覚だ。
「分かった、次は3体。うん、私も試してみたい」
(やりやすい。役割に徹するだけでモンスターが倒せる……)
あなたからの提案を受け、神崎は再び探知の仕事へと戻った。
外さない。先ず1番に驚いたのはその点だ。モンスターを狙い、当てる。言葉にすれば簡単だがこの基本をこなせる人間等そうはいない。
仲間には1回も当てず、掠りもしない。気兼ね無く銃撃手に背中を預けられるのがこんなにも気が楽だとは。
それに何よりも指示が早い。
『良いか新兵。正解か間違いかはどうでもいいホ。とにかく早く決断し、指示を出せホ。迷う事が一番の恥だホ』
あなたが始めに指揮で教わったのはその言葉だった。正解、間違い。それはその時の選択だけでは測れないもの。
一時的に正解ばかりを選んだとしても、結果が間違いに繋がる事もざらだ。
だからこそ、戦場では誰よりも早く決断をしろ。例え一つ目の指示が誤りだと後に分かっても、2つ、3つ目の迅速な判断と指示で場を支配するのだ。
ハーピーへと指示を送る時、迷ってからノロノロと指示を出したあなたに、デモニホ教官は鉄拳と共にその言葉を送った。
迷えば蹴りか鉄拳が腹か顔面に飛んでくる。ボコられてボコられて、あなたは少しづつ迷う事よりも早く、指示を出す事を学んだ。
(彼にリーダーを任せて正解だった。私じゃ無理だ)
人間に指示を出すのは初めてだと彼は言ったが、とんでもない。少なくとも私は、この少しの戦闘期間でもあなたに指示を任せた事を後悔していないよ。
不思議だけど、あなたの指示通りに動くと何時もより強く動けるんだ。だからこれからも指示は頼んだよ、リーダー。
【──コマンダースキルが人間にも使用出来るようになりました!】
「──これで、ラスト!」
【アプサラスDをたおした!】
「ふう……君の方も片付いた?」
『終わりました』
最終的な最高戦闘数はモンスター4体。神崎が陽動として動くのは変わらないが、流石にかなり疲れた様子。逃げ回り合間に攻擊する。常に動き続けるのだから体力の減りは早い。更には今回は4体もだ。尚更だろう。
「うん、体力的に休憩は賛成……。四体は出来るだけやらない方が良いかな……」
汗で髪が頬に張り付いている。休憩を挟んだら、次は戦闘は避けてフォルマ、アイテム探索へとシフトしよう。大体の立ち回りは分かった。後はこの戦法を基準にして慣れていくだけだ。
「ありがと……んくっ、ぷはぁ……!」
近くの雑草の上にシートを敷き、冷えたドリンクと軽食を取り出す。敵が近くに来れば、直ぐに神崎が反応する。こういう時でも、神崎の能力は頼りになる。だからあなたも少し、気を抜けるのだ。
「うん、手作りなんだ。昔は料理とか勉強してたから、その経験で。節約にもなるしね」
神崎が取り出した弁当箱には、彩り豊かな食べ物が綺麗に並んでいた。綺麗過ぎない具材の切られ方が人間味を感じさせ、もしかしてとあなたから問い掛ける。
少し間を空けてから、神崎は調理の経験を語る。バイトでも調理を担当した事も多かったようだ。
「食べる?」
『神崎さんのだし大丈夫』
『じゃあお言葉に甘えて』←クリック。
筑前煮を一部頂き、口の中へと運ぶ。誰かの手作りなんて久し振りだ。家を出てから、母の作ったご飯は一度も食べていないから。何だか懐かしい気持ちになる。
「……美味しい? ……ありがとう、嬉しいな」
喜び、素直な感謝の気持ちを伝えるあなたに、神崎も少し、懐かしむ様にあなたを通して何かを見ていた。笑みではあったが、何処か寂しさを感じさせる笑みだ。
「もし、良かったらだけど味見役を頼んでも良いかな?自分だけだと偏っちゃうから、評価が」
『OKです!』←クリック。
『オムレツが食べたいです』
「宜しくね、味見役さん」
手作り弁当までとは行かないが、これからあなた用に一品追加で作った物を持って来てくれるそうだ。あなたとしても手作りの味は何だか懐かしい気持ちになれる。取引成立というやつだ。
「多分、あっちにフォルマがあると思う」
さて。神崎翠の探知能力はメインはモンスターの感知だが。フォルマの感覚?というものを感じ取れるらしく、【フォルマサーチ】要らずの性能だ。
「いや、COMPアプリがあれば似たような事が出来るから。せめて、最初に配られなかったらね……」
とは言え、少しアプリよりも探知範囲が広いだけである。強みというよりかは、便利くらいの扱い。アプリ8個が限度になった時に、迷わず【フォルマサーチ】を捨てられるのは利点かもしれないが。やはりメインはモンスター探知になるのか。
「……どうする?」
両手を挙げた。となると人間、数は4だから探索者だろう。情報が拡散されているなら居るだろうし。もしかしたら最初に引き継ぎしたパーティかもしれない。
まあ何方にしろ、会うよりも会わない方が利点がある。
「了解。それじゃあ少し戻って右の道に行こうか」
こうして午後は悪魔とは一度も交戦せずに、探索メインでこの日の攻略を終えた。ボス悪魔は無理に倒す必要もない。ある程度神崎さんに消耗があるのなら尚更。
「事前の取り決め通り、半分は私で君に半分。割り切れなかったら順番制だったよね?」
あなたと神崎がダンジョンから撤退し、今回獲得した戦利品の分配へと話が移った。事前にCOMP間でのやり取りで、ある程度のルールは決めておいた。
採用したのは順番制。あなた→神崎と順番を決めて、割り切れない数が出たら、その時の順番の人が貰い受けるという内容。レアとノーマルのフォルマは分けて順番を回す事に。
「いきなり奇数。じゃあ順番通りに」
数を数えていくと、初回から割り切れない数に到達した。仮とは言えさっさと決めておいたのは正解か。
「そうだ。君って自分でメニュー組んでるんだっけ?」
『……はい!』←クリック。
『近代武装雪だるまが組みました!』
「良かったら一度、私用にも考えてみてくれない?参考にしたいんだ」
神崎からは自身の肉体も自己プロデュースして鍛えている認識だろうが。若干の居た堪れなさをあなたは感じていた。
断る事は出来るだろうが、どう断るかは思い付かなかった。COMPから見て貰って教官に助けを仰ぐしかない。
「良かった。楽しみにしてる」
そんなつもりは全く無いだろうが、神崎からプレッシャーを掛けられた気がしたあなた。最悪他人のは苦手と逃げ切るしか無さそうだ。
「今日はこれで解散……なんだけど、あのさ」
『?』
フォルマも受け取り、頼みも聞いて。神崎が緑のジャージ姿へと戻る。後は予定も無し、このままお互い家まで帰路につくだけだが、神崎は少し顔をあなたから逸らしながら言った。
「わざと見なくて良いから……それだけ。じゃあ!」
……全く見ないのも失礼に当たるのかと。敢えて視線を送っていたが、頬をほんのりと染めて、恥ずかしがりながら言われた辺り、見過ぎだったか…。
(私から言った手前、あんまり責められないし……いや、でもなぁ……)
下心皆無であそこまで凝視された経験は無い。少しもじもじとしながら、神崎は電車の椅子に座り、悶々とした時間を過ごすのだった。
年下の男子に指示されると気持ち良くなっちゃう年上のお姉
さん。こう書くと何か卑猥。不思議だね。仲魔とのシーン挟もうかと思ったけど、長くなるかもだしまた次にしよって事で純粋なコミュ回でした。
入れ忘れた設定
投擲ナイフをサブ武器にしてるのは銃と違って回収出来るから。なので戦闘が終わると回収作業が入ります。ナイフ投げは準備期間のうちから練習してましたという過去設定。何時入れられるか分からないので、もう書いておきました。
翠さんはアルカナだと何になるのか。調べたら意味が多いからフィーリングだけど隠者とかかな?勿論逆位置だけど。