昔々。これは遥か昔の話。
『───』
「……要は教導役をやれと言いたいのかホ?」
デモニホが異界の中で助けた人間。再びその人間に会うと何やらペラペラと話し出す。悪魔と話せる、言葉を理解出来るのは少し驚いたが、それとこれとは話は別。
会話が出来るからと内容は聞いたが、どうやら前の戦闘で実力を買われたらしい。自分と仲間、それぞれ鍛えて欲しいと人間は頼み込んだ。
(面倒だホ)
そもそも助けたのは偶然。偶々倒した悪魔の近くに人間が居ただけだ。はっきり言って助けたつもりは毛頭ない。
だから感謝は要らない。礼も要らないと早々にその場を後にした。それがどうにも勘違いされたのか、人間は友好的にデモニホへと話し掛ける。
『──!?』
断るとだけ端的に告げると、デモニホはその場から素早く消えて行く。追い掛けようとしても、あっという間に走り去る速度は到底付いていけそうにない。この日はそれ以上の勧誘は諦めると、人間はその場を立ち去った。
『──!』
「またお前かホ」
2度目の邂逅。偶然なのか待ち伏せていたのかは知らない。ニコニコと笑顔を浮かべて話し掛けて来る。その顔を見ると一発食らわせたくなったが、それだと死ぬだろう。
無駄な殺しはしたくない。ポリシーという程ではないが、一々気に入らないからと殺していたら敵を作り過ぎる。殺しには理由を付けた方が後々面倒が無いのだ。
それ故にデモニホはどれだけ気に入らない相手でも私情で誰かを殺す事は無い。
『!?』
(相手するだけ馬鹿らしいホ)
内容はどうせ前のものと同じだ。話せるからと話に付き合ってやる必要は皆無。暫くはこの辺に来ない事を誓うと、デモニホは軽やかにその場から消えて行った。顔を合わせただけで逃げられた。人間は悔しそうな顔をすると、その場を後にする。
「何で居るんだホ……」
『──!』
前のポイントから離れた場所。悪魔も来ないような隠れ場所にも人間は出没した。自分が悪魔でなかったらストーカーとやらで逮捕出来そうだ。それくらいに気味が悪かった。
「……悪魔の助力?成る程だホ」
たかだか人間がどうやってこうも、行く先行く先で己を捕捉出来るのか。その疑問への答えは、同じ悪魔の助力があったからという答えで納得した。魔術的なアプローチで占いをすれば、此処に行けば会えると出て来る。
それがあるんじゃ先回りをされるのも仕方ないとデモニホは諦めた。
「詳しくは誰を教導するんだホ?」
別に要求に応える訳では無い。これから行う交渉に情報として色々と頭に入れたかっただけだ。しかし人間は、漸く前向きになってくれたと喜びを露わにして話す。
「お前とお前の仲間達かホ。それ以外はしなくても良いんだホ?」
この人間は悪魔と戦う力を求めている。悪魔の存在は普通受け入れづらいものだが。この人間が悪魔の力を借りてる様子から、コミュニティ内では平気なのか。現に人間だけでなく、その仲間も対象に含まれているのだから、目処は有りそうだ。
(まあ、どうでも良いかホ)
つい、受ける前提であれこれ考えてしまった。今話しを聞いているのは、この後の条件へと持っていく前の仕込みのようなもの。人間の頼みを聞く気がないのは変わりない。
「話は分かったホ。けど、途中で投げ出すような奴はお断りだ。今から言う訓練内容、それを1日でこなせたら考えてやるホ」
『─、──!?』
「無理ならそう言えホ。軟弱者を鍛えるつもりは毛頭ないホ」
話が終わると本題へと直ぐに入る。会話の主導権を握られ、なし崩し的に話を進められては困る。デモニホは手早く、無理難題として考えた訓練の内容を話した。
1日で終わらせる事は考慮せず、ハードな内容を入れまくったメニュー。聞いている内に人間は徐々に顔を青くしていき、最後には苦笑いのまま硬まった。
『』
(そりゃこうなるかホ)
試しにやってみると、硬い面持ちで言われたメニューを開始。10分の1も終えられず、人間はその場に崩れ落ちる。
初回にしては頑張った方だが、この調子なら充分に不可能そうだ。
(一応は運んでおくかホ)
倒れて動かない人間はこのままだと自力で帰れそうにない。異界でこの状態だと死は限りなく近くなる。間接的とは言え、こうなったのはデモニホにも関係がある。この後に放置して、それで死なれると面倒だ。
最低限異界の外まで持ち運ぶと、外へと放り投げる。これで死んでも人間界の仕業だ。義理は果たしたとデモニホは帰って行った。
それから暫く、デモニホの下には人間が現れなくなった。
途中で諦めたのか。それとも既に死んだのか。何方にせよ静かな時間が戻って来たのは良い。後もう少し時間も経てば、あの人間の事も忘れるだろうと思っていた。
「ふぅ、何か居るホ」
半ば忘れかけていた頃に思い出させる様に人間の姿を見付けた。今から行く場所。前みたいに占いでもしたのか。何にせよまた話はした方が良さそうだ。どうせ逃げても先回りする。
「何の用だホ?人間」
近付いて来ると分かったが、体のあちこちに傷が見える。
何の傷かは気になったが、それよりも用件を聞く方が先だ。人間はデモニホの方を向くと、課題をクリアしたので見せに来たと語る。
時間は経ったが悪魔の感覚からすればまだ早い方。
「じゃあ見せてくれホ」
『──!』
半信半疑のまま、近くで人間の姿を見る事にした。
確かに早いペースで前までの内容は終わらせた。これはもしかすると…、そんな事を見ながら思いつつデモニホは人間の訓練光景を見続けたのだ。
「本当にギリギリだホ……」
大の字に倒れて結果を聞く人間。開始から24時間経つギリギリの所でメニューを終わらせた。前の時とは格段に違う。
口では聞くだと悪態はつくが、此処まですれば文句は言いようがない。
(根性があるのは予想外だったホ)
特に秀でた所があるようには見えなかった。しかしぱっと見ただけでは本質までは分からない。今回は見えていなかった一端として、粘り強さを人間は見せてくれた。
「分かった、分かったホ。約束は約束。違えはしないホ」
『──!?』
「ああ、嘘はつかないホ」
悪魔として信条として先に約束を果たした相手に不義理はしない。訓練さえつけてやればそれで良い。再び動けない様子の人間を、今度は少し丁寧に運んでやる。
「鍛えるなら妥協はしないホ。死んでも直ぐに生き返らせるホ」
『─、──』
「お手柔らかになんて言葉、俺には一番似合わない言葉だホ。覚悟しろホ」
これは昔、遥か昔に出会った人間とデモニホの話。
「それではテストを開始します。採点は直ぐ横の人に渡して、渡されたら私情無しに採点をする事」
ファミリーレストラン。4人座れるテーブルを使い、この中では一番に学力の高い白石主導の下、過去問題集から簡単なテストを作成する。出来不出来はこの際気にはしてない。どれだけ各人が実力があるか、それを測る為のテストだ。
「フォ、フォルマのランク分け? 幾つだったけ……?」
【問7 探索者Aが魔法を使いモンスターに攻撃しました。しかしその攻撃は不運にも他の探索者Bにも当たります。この際に適切な行動を記述してください】
『分かんね……』
『先ずは確実に敵の息の根を止める』←クリック。
「……」
(神崎さんは既に終わりましたか。早いですね)
各々がそれぞれのペースでペンを走らせて行く。開始から一番に早く終わらせたのは神崎翠。続いて白石恵がペンを置き、あなたと柊真緒が時間ギリギリまでペンを走らせていた。
「終わりです! 次は採点に移ります。横、前にテスト用紙を移してください」
「はーい……」
(赤点確実かなぁ……)
あなたが神崎の用紙を受け取り、あなたのは白石へと渡す。白石のは真緒に渡り、真緒の用紙は神崎が請け負った。
今度はその場に赤ペンを走らせる音が鳴る。
(ま、真緒……貴方これ……)
(うわー、恵さん正解ばっかだ……凄いなぁ)
(うーん、リーダー君はもう少し勉強しないとですね)
3人が3人赤ペンを着けながらテスト用紙の持ち主へと感想を抱く。採点も早く終わった神崎はチラリと真緒の方へと視線を向ける。その目には焦りの様なものを感じた。
そんな視線には気付かず横に居る白石へと素直な尊敬を真緒は抱く。お医者さんだったとは聞いたから、頭が良いのかと思ってはいたが。軽く90点台を出すのだから驚いた。
対してあなたの点数を測る恵は少し渋い顔付き。リーダーとしては頼れるが、まだ知識面には抜けが多いようだ。
残念ながら合格点には及ばない。ダンジョンや訓練以外の日には、ちゃんと勉強をしてるのだろうかと白石恵は心配した。
さてそんなあなただが、今は小刻みに震えていた。渡された用紙へと答案を参考に採点を付ける。すると丸ばかり書いているのに途中で気付く。最後までバツはつかず、震える手で見た紙には自分で書いた100点の文字が。
白石恵ならばそれくらい取れるのかと納得しただろうが。神崎さんってそんなに頭良かったのかとシンプルに驚いた。
忘れがちだが、神崎翠は年上の大人である。これが人生経験の差なのかと、あなたは思い知った。
「合格点が神崎さんと私で、落第点がリーダーと真緒さんでした」
全員の採点作業が終わり、デザートとして甘い物を注文してから話題に入る。
「真緒、本当に初級試験合格した……?」
「し、しましたよ! 頑張りました!」
「今は勉強してる?」
「……して、ません」
先程からそわそわしていた神崎が、点数を見て愕然としている真緒へ話し掛ける。かなり酷い点数だったのか、神崎さんの詰め寄り方が少し怖い。チラリと白石も用紙を覗き込むと、あららと……口にした後苦い笑みを浮かべる。
「し、師匠は見ないでください!」
あなたも気になりはしたが、恥ずかしい所を見せたくないのか慌てて用紙を胸に抱いた。まあ他人の事をとやかく言えないのはあなたもだ。半分は点数を取れたが、これでは到底合格ラインには届かない。
「リーダーはちゃんと勉強してる?」
『……うっす』
『………』←クリック。
「何で目を逸らすの?」
「やっぱりしてませんか……」
「──師匠!!」
言い訳をするとだ。仲間とダンジョンに潜る時以外は、訓練にダンジョンアタック。仲魔達とのコミュニケーションがあるから時間を作りづらいのだ。
簡単に言うと、余り勉強はしてませんでしたと言うしか無い。
「先生、私は真緒を見るからリーダーをお願い出来ますか?」
「そうですね、真緒さんには神崎さんの方が良いかと……」
合格点組があなたと真緒を何方が担当するかを話し合っている。真緒は似た者同士が居たと嬉しそうにあなたに話し掛けて来る。
「師匠! 一緒に勉強しましょう!」
「真緒はこっち」
「ぐえっ!」
相談の結果。真緒にはダンジョン活動が無い時に、神崎が徹底的に付いて勉強を教える事になった。あなたと一緒が良いと呟く真緒に、最低限同じラインじゃないと邪魔になると神崎はばっさりと切り捨てる。
「毎日宿題を出しますので、寝る前までには画像を送ってください」
勉強不足なのでと、学力の底上げに宿題を出される事になる。白石も問題を探すので勉強の代わりになると言われると、断る事は出来ない。学校に通わなくても宿題からは逃げられないのか。
「真緒は宿題に合わせてマンツーマンでとことんやるから」
「うぅ……また勉強漬けの日々が……」
「真緒のご両親にも手伝って貰うから」
「──えっ!?」
娘が勉強に苦しむ姿は見ていて楽しい。呪術師として才能がある故に、真緒の母親は性格が捻じ曲がっている。神崎から連絡が行くと、逃さない様にするよと楽しげに返答を返した。
母にも退路を絶たれ、絶望している娘を見てニヤニヤと葉月はほくそ笑んでいた。
「お母さーん……」
「早速この後行くから」
「──!?」
今回集まった目的は学力のすり合わせ。これからの方針も決まれば解散しても問題は無い。真緒は神崎に引き摺られながらファミレスを後にした。夜まで勉強会かもしれないな。あの様子では。
「その判断も間違ってはいません。ですが試験では、人命救助を優先した解答が好まれます。なのでこう書くと良いですよ」
残ったあなたと白石は、先ず間違えていた解答への説明を行う。正しい答えも重要だが、採点者に好まれる解答も意識したほうが良い。その発想は確かに無かった。採点する者も同じ人間、好まれやすい解答の方が良いのか。
「あ、家に着いたみたいです」
スマホが鳴ると2人の元へと写真が送られる。これから勉強しますと書かれたメッセージの後に、葉月と神崎の間に挟まれた真緒の姿が映る画像。捕まった宇宙人の様に死んだ目をしており、何時もの明るさは何処へやら。
「プッ」
その顔が面白かったのか、白石は吹き出してしまう。
少し子供らしい一面に興味深そうにあなたが見ると、その視線に気付いたのか咳払いを1つしてから佇まいを直す。
「そ、それじゃあさっきの続きから……」
何だか貴重な一面を見た気がした。可愛いと言ってしまうと流石に失礼だろうか。恥ずかしさから時に目を逸らす白石を見て、あなたはそう言いたい衝動を抑えた。
神崎さんは暇があると試験の勉強はしてたので高得点。白石さんはあまり勉強はしてないが地頭の良さから高得点に。主人公は探索者になり、訓練漬けの日々が続いてからは結構サボってしまったので落第点。真緒ちゃんは頭が悪いと言う程では無いですが、今までは呪い関連に集中、被害に遭っていたので初級に受かってからは全く勉強してませんでした。そのせいで点数は壊滅的に、これは行けないと神崎さんは出動しました。
真緒のお母さんは主人公以外の仲間も知りたかったので、家に来るのは気にせずOKを。神崎さんの礼儀正しいが何処か影を感じる所が気に入った様子。何らかの負の側面を持っている人に葉月さんは好感を持ちやすいです。結局葉月さんからの誘いもあり柊家に神崎は1泊したとか。寝る直前にまで勉強を教えられて真緒はグロッキー状態に。けれどお姉ちゃんが居たらこんな感じかなと悪い気はしなかった模様。2人で一緒に部屋で寝ましたとさ。真緒のお父さんは仕事で居ませんでした。だから泊まれたとも言える。