追記
【エネミーサーチ】→【エネミー・ソナー】に変更。勘違いしてました。イメージしてたのは此方。
小規模ダンジョンは一番レベル差が激しいダンジョンと言われている。成り立て探索者でも挑めるダンジョンもあれば、初級として最高峰のレベルや実力を持つ者しか攻略出来ないようなダンジョンとも繋がる。
あなたは日課を終えるとダンジョン探しの行動へと移る。人目に触れず、人通りが少ない箇所に発生するのが経験則から来るあなたのダンジョン探しのコツである。
数十分の捜索の後、あなたは小規模ダンジョンの入り口を発見した。しかし、
【シキオウジは辺りを見回している……】
「……全員で掛かって一体倒せるかどうかだホ。辞めておけ新兵」
実力で言うならレベル30付近の悪魔が闊歩しているダンジョン。間違いなく、小規模ダンジョンでは最高峰と言える場所だ。
今までは何だかんだ上手くやれるレベル帯であったが、あなたの今の実力、装備では荷が重すぎる。
「確か引き継ぎが必要だホ? さっさと済ませて次のダンジョンへと行くホ」
偵察を終えてダンジョン入り口付近へ戻る。ダンジョンを見つけたからといって、必ずしも発見者が攻略出来る保証はない。無理だな、または割に合わないダンジョンを発見したら、攻略以外に引き継ぎという選択肢が生まれる。
COMPを使い探索者専用のサイトへとアクセス。武具のネット販売。探索者同士の情報交換。中には探索者からの依頼等、初級探索者が一番集まるサイトが此処だ。国運営のサイトである為、他にもサイトはあるが手堅いのはこの場所だ。
場所。発見時間。ダンジョン内の出来る限りの情報。受け継ぎ者のネーム。ざっとこの項目をテンプレートに従い打ち込んでいき、専用のスレッドに送信。
出て来るモンスターがモンスターな為か、他の小規模ダンジョンへの返信より時間は空いた。
だが引き継ぎ希望者は一組現れたので後は此処で待機するのみ。
引き継ぎ相手が来るまでダンジョン入り口から離れるのは禁じられている。情報を知らずに、ダンジョンだと侵入してしまう探索者の被害を出さないよう、引き継ぎ確認が済むまで此処を去る事は許されない。
スマホを弄って待っているのも、見られたら感じが悪いかなと、COMP内の教官と会話を交わしつつ時間を潰した。
教官がいち早く足音を察知し黙り込む。それに反応してあなたは足音が聞こえて来た方向へと顔を向けた。
「こんにちはー! サマナーさんですか?」
(一人、ソロか?)
ネット上で本名を使うのは稀だ。あなたは適当にサマナーと名乗り、引き継ぎ相手とやり取りをした。しかしそれがまさか、昨日配信で見たばかりの2人とは思いはしなかったが。
「ネームはユリでーす! 確認お願いします!」
ネームも簡単な合言葉も間違ってはいない。幾ら小規模ダンジョンでも最高峰とは言え、ブラッド・リリーの2人が出るには過剰すぎる。昨日の晶さんの体調不良が関係しているのかと、あなたは意を決して質問してみる。
「そうそう。晶がキツそうだから今日は二人だけなの。晶無しだと中規模行くには危険だからさー」
「視聴者だったか。せっちゃんと呼ばれている桐生刹那だ。よろしく」
成程とあなたは納得した。あなたも仮にデモニホ教官が動けないとなれば、その日はダンジョンに行かないか、低レベルのダンジョンを探すだろう。チームとしての完成度が高いが故に、1人が抜けるとかなりの戦力ダウンに繋がる訳だ。
「準備が整ったら配信するから、視聴よろしくー!」
「ブラッド・リリーをよろしく頼む」
機材。装備を取り出して、テキパキと準備を進める。ファンサービスなのか天野凛からは握手を求められ、桐生刹那は深々とお辞儀をした。
『もう少し話を聞こう』
『邪魔になりそうだ。此処は退散しよう』←クリック。
「応援ありがとー!」
(良い肉体だったな……)
応援しています。お先に失礼しますと、礼と一視聴者として当たり障りの無いコメントを掛けてから、あなたは2人へ背を向けた。会った時からじーっと桐生刹那にあなたは見られていたが、一体何だったのだろうか。あなたはそう片隅で思いつつ、歩を進めたのだが……。
「──ブラッド・リリーだ!!」
「こっちこっち! 本当にいるぞ!」
「りんりんー! せっちゃんー!」
男女混合、少し男多めの集団がぞろぞろとあなたの帰り道から走ってきた。すわ何事かと思ったが、集団の反応を見て、ブラッド・リリーのファン達かと納得する。もう少し避けるのが遅れたら、確実に引かれていた。
「あー、機材あるからストップ! 其処でストップ!」
「一人一回、一言までだ。でないと後が詰まる」
天野凛は何とかぞろぞろと集まっていく集団をコントロールし、桐生刹那は1列に並ばせたファン達に、1人1人握手とコメントを返していく。
実感、というのが今になって湧いてきた。あの2人は本物のブラッド・リリーのリーダーとメンバーで。昨日配信で見た2人なんだなという、今更な実感が。
(うーん此処は……)
「──せっちゃん、私二十人! せっちゃんは後二十人よろしく!」
「分かった!」
このままでは収集が付かなくなる。小規模ダンジョンでの企画は諦めた。そして直ぐに、代替えの案を頭の中で決めた天野凛は、刹那に向けて端的な言葉だけを叫ぶ。これだけも何となくは通じるのだから、配信歴とパーティ歴の長さと信頼が分かる。
「これからイベントを開催しまーす! 名付けて『ブラッド・リリーとダンジョンチャレンジ』でーす! 皆拍手ー!」
「やった! 生イベント!」
「何するのー?」
「その説明の前に、探索者だよって人は手を挙げてください!」
天野凛が大声で仕切り始めると、自然と天野凛を中心に輪が作られる。緊急企画として開催されたイベントに、自分は探索者だと思い切り手を挙げる人間が沢山出て来た。
天野凛はその人数を目測で確認すると、ルール説明へと移っていく。
「ルールは簡単。四人パーティでこれからあのダンジョンに挑んで貰います! モンスターを倒したら二点。フォルマを見つけたら一個二点。他のアイテムは一点で判定しまーす!」
「勿論一緒にだから、私りんりんとせっちゃんの何方かが一パーティに一人付いてきまーす!」
集まった探索者達は勿論実力はまちまち。探索者専業の人間も居れば、兼業や趣味で活動している探索者も居るだろう。其処でブラッド・リリーの何方かが付く事により、最低限の安全を確保する腹積もりか。
「でも全員だと終わらないから四十人の十パーティにします! ごめんねー!」
「君と君。後は奥の君、此方に来てくれ」
先程の20人はこれか。くじ引きは急遽だから用意出来ないと説明すれば、2人の基準で選んでも不自然ではない。
「──君! 君も来てくれないか!」
『え?』
と、暢気に状況を分析しながら様子を見ていると声を掛けられる。参加するつもりは無く、晴天の霹靂とはこの事か。
「俺、
「
「最後は自分か、
あなたと組む事になったのは茶髪の若い男。黒髪を三つ編みにした大人しそうな女性。少し髭が伸びている黒髪の男性の3人だ。
ファンなのは篠原、宮田であり、田中さんは人集りが出来ているから見に来ると巻き込まれたとの事。
「俺はリーダー無理っす。ゴリゴリの前衛なんで」
「私もあまり……自信は無いです」
「と、なると俺か。まあ構わないが」
年齢は田中さん、宮田さん、篠原さん、あなたの順になっていく。年功序列的にも、田中さんが指揮を任されるのは理に適っているだろう。出来るからと言って無理に波風を立てる必要も無い。それに、あなたに取っても指揮下で動くのは初めての経験。どうなるか興味がある。
「じゃあ作戦を立てるが、モンスターは無視してフォルマ優先だな。正面からは論外。奇襲を掛けても倒せないだろう、此処のモンスターは」
「そうなんすか?」
「ああ。伝えられた情報から考えて、うちでは無理だ」
「……いいとこ見せたかったのになぁ」
田中の言う通り悪魔との交戦は現実的な策ではない。逆に会うのを徹底して避けた方が良いだろう。あなたが【エネミー・ソナー】を所持している事から、探知役に抜擢。
銃、ナイフや警棒を武器にしている所から、回復役の護衛として後衛よりの配置になる。前衛は田中と篠原の2人。
「三番目と四番目のパーティが帰ってきたな。準備しておこう」
了解と田中さんの指示に従い、弾丸チェック、武器の刃毀れ確認。【エネミー・ソナー】の起動。全てを終えて準備完了しましたと伝える。
「同行は私、桐生刹那が請け負う。よろしく」
「あ、はい」
ダンジョン前、5番目のパーティには天野凛。6番目のパーティには桐生刹那が割り振られた。りんりん推しと宣言していた通り、分かりやすくも失礼な反応を篠原が取るが、それは気にせず田中さんが挨拶。続いてあなたと宮田さん。篠原が後を追った。
「あのモンスターが居なくなったら探索を行う」
ダンジョンに入ってからは戦闘の一つも起こらなかった。それは偏に田中さんの慎重さが発揮されたからだろう。丁寧に一つ一つのエリアを探索してから、次のエリアに移る。必ず【エネミー・ソナー】での敵確認も怠らない。
少し過剰過ぎるかと思いもしたが、他の人間の命を預かる手前、こんなものなのだとあなたは認識した。特に今回は格上ばかりのダンジョン。少なくとも間違いではない進み方だ。
「刹那さんの槍って予備とかあるんですか?」
「ある。武器に頼り過ぎないよう、偶に変える事もある」
・他の武器使ってるのも見たーい
・刀は前に使ったよね
・いっそ刀と槍の二刀流とか?
残念だが、安全第一の行動ばかり取るあなたのパーティは配信的には宜しくない。なので空いている時間に、質問やトークでお茶を濁していた。
「今日は朝何食べましたか!」
「鶏肉」
「あ、はい……」
・端的ぃ!
・もう少し詳しく答えてあげて
・かわいそ……
探知役。アイテム集め。戦闘は無いが経験した事の無い新たな立ち回り。経験してない事はとても新鮮に感じる。今日は少なくとも気分転換には良い日だったかも。
「唐突だが君は、朝何時に起きている?」
話題も少し尽きかけてきた頃。珍しく桐生刹那からあなたに向けて、質問が飛んでくる。本当に唐突だなとは思ったが、話題作りの一環かとそのまま素直に返答を返した。
・早っ
・農家のおじいちゃんかな?
・今時珍しい早起きボーイじゃん
「朝起きたら何をするんだ?」
めっちゃグイグイ来るなこの人。そうは思ったがこれまた素直に何をしているかを返答。別に隠す事でも無いし、公開しても構わないだろう。
・健康的〜
・朝起きるだけでも辛いから、おじちゃんには無理だよ
・ギリギリまでゆっくり寝てたいよなー
「内容は?」
「何か刹那さん凄く彼の事見てない?」
「何がそんなに気になるんすかね……」
もしかして訓練の内容が気になるのだろうか。そう言えば確かに、動画に上げるほどトレーニングは好きだったなとあなたは合点がいったようだ。
『軽くランニングで─km走って……その後は──』
・は?
・ちょ、ちょ、ちょっと待って! 桁がおかしいよ!
・何でそんなに走るんですか?
「え」
「いやいや……流石に嘘っすよね……?」
1人と黙々と辺りを監視している田中さん以外はあなたの発言に少し引いた様子を見せる。あなたも最初は無理だ出来ないと弱音を吐いたが、それをやるとダンジョン内で数倍きつい扱きが待ち受ける為、已む無くダンジョン外での訓練の方がマシだと諦めたのだ。
「うむ、うむ。成程成程」
・1人だけ凄い嬉しそうなんですけど
・同類を見つけた目ですね
・だからあんなに食い気味だったんだせっちゃん……
妙にグイグイ行くなはあなただけの感想では無かったようで。リスナーも何故?が分かると納得した後、呆れたようなコメントを書き込んでいく。
『──以上をダンジョン行く前に毎日こなしてます』
・自殺志願者かこいつ?
・普通は休むよね? ダンジョン前日って
・それが普通です……
当たり前だがダンジョンに行く前に怪我をする可能性は取り払っておくのが普通だ。仮に怪我が無くても、疲労から満足な動きや判断が取れなくなる可能性が高い。
最悪殺す一歩手前まで、蘇生手段があれば短時間死ぬ事も視野に入れただろう。デモニホ教官の慈悲無き鬼の教えに、あなたの感覚もかなり麻痺して来ている。
『後は寝る前に少しやって終わりですね』
・ちょっと待って
・Oh……トレーニングモンスター……
・ヒエエエ〜〜
あなたの訓練メニュー談義で異様な盛り上がりが生まれた。見所も無かっただろうし、少しは配信のネタになったかなと桐生刹那方へと目を向ける。……凄くニヤニヤしてる。目を合わせないでおこう。
其処からは最後の一戦までフォルマ、アイテム集めに奔走した。最後の最後で悪魔達の群れに遭遇し、過半数は桐生刹那が屠った。提案として、残った1体の悪魔を経験として戦っておくかと、尋ねられた時は全員迷いはしたが賛成多しで一戦交える事に。
【桐生刹那の攻撃!……ヒット!】
【妖獣 モスマンをたおした!】
「時間なので此処までだ」
・流石に無理だったか
・今のモンスター可愛くない?
・ランキング上位に入るくらい可愛いよ
速い。硬い。強い。シンプルなレベル差で押し切られた部分が大きい戦いだった。状態異常に電撃魔法。中々嫌らしい戦法を取って来る悪魔。覚えておこう。
「ハァハァ……うっ、サンキュー……」
「歳を取ると激しい運動がキツイな……」
宮田さんは同じ女性の桐生さんが介抱している。持参してきたドリンクを田中さんと篠原に渡し、一旦休憩を挟んでから帰還となる。
「……さっきの話は本当みたいだね」
「ほんとほんと、何で息乱れてないんだよ……」
・汗も片や滝汗なのに微量だよね
・結構動いてなかった?君?
・体力おばけ
力は通じなかった。しかし今も、あなたには全力疾走出来るくらいの余力はある。例え勝てなくても、逃げる力があれば次に繋がる。毎日の積み上げは無意味ではない。
「お疲れ様だ。結果は最後のチームまで待って欲しい」
今出来る範囲で全力は尽くしたと思う。最後の悪魔を倒せば3点だったが、それは高望みか。点数採点役としても仕事がある桐生刹那と天野凛は、合流するとそれぞれのチームの得点をカウントしていた。
「優勝出来るっすかね」
「難しいかな。中には、モンスターを倒したチームも居たらしいからね」
「え、本当ですか?」
なるべく均等に戦力は分けただろうが、どうしても突出したチーム、人間は居る。悪魔を倒したからと行って必ずではないが、大きな得点差は確かに出来る。折角参加したのだから好成績は残したいが、結果はどうなる事か。
「四位かぁ」
「うわー!せめて、三位行きたかったっすよ!」
「結構悔しいですね……」
大々的に発表されるのは1位のチームのみ。後から何位だったかは聞けるが、結果は4位とまた微妙。高くもないが低くもない。
「ま、参加賞として写真撮れたし良いっすけど」
「優勝したらツーショットだったみたいです」
「それ聞くとやっぱり悔しいっす……」
撮られた写真は桐生刹那とチーム皆で撮影された集合写真。結果は思うようには行かなかった。だが一つの思い出としては悪いものではないとあなたは思う。
「じゃあ、今日はお疲れ様。また機会があれば宜しく頼むよ」
臨時リーダー田中さんの締めの言葉と共に、あなた達は散って行く。…今日ダンジョン潜ってないから、明日のローテーションはずらすか同時にかの2択になる。十中八九後者なんだろうな。2人相手は少しキツイ。
「何とか乗り切ったー」
「お疲れ。評価も悪くなかったな」
「それなら良かったよぉ……」
緊急で企画を作り上げその場の勢いで進み、1人5パーティの面倒を連続で見るのは流石に堪えた。ソファにゴロンと寝転がり、今日の配信に付いたコメントを確認している刹那を見た。
「そういえば面白い子居たんだって?」
「ああ、あれだけの鍛錬をしているならばあの体付きも納得だ」
「そこまで褒めるって、相当やってるねその子……」
自他共に認める鍛錬好きに、此処までの評価をされるのだから並のトレーニングメニューでないのは察せられる。目の前の刹那と同じくらいに鍛えているのだろうか。だとしたら少し引くかも。
「それにソロだろうに、立ち回りが良い」
「立ち回りってパーティの?」
「そうだ」
「へぇー、ソロなのに珍しいね」
ソロで探索をしていればソロなりの癖がつき。パーティで行動しているならばパーティ特有の癖がつく。初級探索者としてやって行くならば、何方でも構いはしないが、中級に上がるのならパーティの感覚は掴んで置いた方が断然良い。
「どっかの誰かは協調性皆無だったからな」
「う……!」
「範囲内に味方が居るのに、魔法を撃った事もあったな」
「ごめんなさい……今でも反省してます……」
探索者になった時から天野凛には多才な面が現れていた。魔法も使える。近接戦闘も出来る。探索者として優秀どころではない天野凛が一人でも問題無く活動出来ていたのは言うまでもない。
「──さっ! 次の企画案も考えでおこう、何個か!」
「そうだな」
ソファから勢いよく体を起こして、伸びをする。話は変えられたがこれ以上突っ突くつもりも無い。看病役のマリィにも意見を募り、今日もブラッド・リリーの日常は続く。
ブラッド・リリーは一旦終わりで次はダンジョン潜ったり臨時パーティ組んだりかな。
追記
宮田葵→宮田藍に変更。名前が他のキャラクターと被るので。