時刻は午前八時に迫ってる。
悪夢を見て一度4時辺りに目が覚めて、どうにも寝付けなくて時間が経ってしまった。
「おい拓也ー、布団から出て来いよー!」
レオの呼びかけで渋々布団から這い出る。
憂鬱な気分。
「どうしたんだよ、拓也。」
「いや・・・夢見が悪かったんです。」
「へぇ、どんな?」
「細かい所は覚えてないけど、何故かハァハァ喘ぎ続ける拓也の周りで、知り合い達がみんな死んでたんです。」
俺の説明に、3人共どこか嫌そうな、微妙な表情をした。
「まぁ....そんな日もあるよねー」
「だな、俺だってこの前、カニバリズムの変態野郎に、目の前でハルカさんが腹かっ捌かれて喰われた夢を見たよ。」
「ちょっとやめてよリョウー、聞いてないよそんな怖い夢見たなんてー。」
「何か……俺、凄く気味が悪いんです。拓也の日常が変わっちまったみたいな・・・。」「落ち着きなよ、そんな悪い夢はさ、一日過ごせば忘れちゃうもんだぜ」
レオが明るく俺の肩をポンと叩く。
そうか、確かに夢は所詮夢。
……でも、何故か敏感な拓也は不安が拭い切れない。
脳裏から消えないまま、重い体を起こして、朝の身支度を軽く済ませる。今日は魂救済の日。
朝食を取った後、軽く身支度を済まして、全員で教会へと足を運んだ。
俺とレオ2人は見学なんで、他の子たちから一歩後ろの位置で見ている。
噂によればアゲ♂マン少年聖歌隊の歌声ってのは、かなり良いらしく、教会に訪れる人達も結構多い。
純粋に歌を聞いて癒されたい人が来るのかな?それとも、聖歌隊の少年達目当ての人かな?
「今日は魂救済の日です。貴方達の歌で迷える魂を救ってあげましょう。」
「「「はい!」」」
ルッチーニ先生の挨拶が終わると、教会の奥にある壇上へと少年たちは並び、ルッチーニ先生は来た方々に歓迎の口上を述べ始める。
「皆さぁん、これより聖歌隊の少年達の神聖なる合唱をご披露します。神に愛された歌声による演奏で心を洗い流し、魂救済へと導いてくれるでしょう!」
俺達2人は端の方で立って見ているが、なんだか座っている人達の様子がおかしい。
「なんか……皆顔色が悪くないか?拓也。」
「うん、俺もそう思うぜ、皆目が虚ろだ……。」
どこか体が悪いのか、それとも何か嫌なことがあったのか。
そのどちらでも無かったら.....まさか……悪魔憑きとか……?国籍も年齢も性別もバラバラな人達だが、全員元気がないというのは共通してる。
ルッチーニ先生がピアノの横へ立つと、人々に一例。
「天使の歌声によって、貴方達の魂が救われんことを」
先生の演奏が始まり、歌がはじまる。子供たちのボーイソプラノは耳に入れた途端に全身に優しさが行き渡るようで、頭の中も綺麗にされるような感覚。
歌に集中すると世界が真っ白に染まるように浄化され、キメモノだの性欲だの物理精神問わず汚い物が消え去るような感覚に溺れる。
凄すぎる……ただただ凄すぎる。いつも険しい表情のレオも、今は目を瞑って聴き入っている。
こんな安らかな表情初めて見たぜ、ウッス!
「すげえな....こんなに心地よいって思えたのは久々だぜ....気持ちいいとも違う、今までに感じたことの無い快感だ……」
「ああ、快感で全身が痙攣するオレも初めてだ……」
「やっぱ、天使ってのはいるのかな?拓也……」
ボソッと呟く問に暫し考えて
「どうだろうな・・・でもいるとしたらきっとこんな感じじゃないか?」
実際の所は分からないが、そんな気がするんだ。こうやって癒しを振りまく存在に違いない。絵本で言われてた逸話も噓なんかじゃないと思えてくるパワー。
天使と一回でも良いからヤリてーなーとぼんやり考えてみる。
もちろんキメセクで。マラがとろけるほど快感が俺を包むだろう。
聴いている人々も皆笑顔を浮かべるようになっている。
それどころか涙まで流している人も。
その様子を見ながらレオと感想を言い合っていると、演奏は終わり全員が深々とお辞儀をする。
俺たちは拍手で讃えるが、不思議と俺たち以外の物は鳴り響かない。
どうしたんだろうか?
「どうやら魂が救われたようです。皆さんお疲れ様でした」
ルッチーニ先生の声に少年たちは安堵の表情で壇上から降りていく。
だが大人達は椅子に座ったまま動かない。よく見れば全員目を閉じて眠っている。
安らかな顔だけど、なんだか心配になるぜ。救済ってのはあんな感じなのか?レオは何かを感じ取ったのか、表情が少し曇っている。
「レオ、どうかしたか?」
「……まさか」
席に座る男に駆け寄り、体を揺らす、が起きる様子はない。
まるで死んでいるかのように脱力しており、肌の色も血の気が引いたようになっている。
他の人にも同様な事をするが同じ。全員息をしてる様子がない。
「……おい拓也!こいつら全員死んでるぞ!」
「え!?そ、そんな馬鹿な!」
まさかとは思ったが、試しに近くにいた女の脈を取るが反応はない。
冷たい体温が俺の手を凍り付かせる。死因は?まさか歌……?でも歌で死ぬなんて聞いたことないし、そんなことあるはずが……
「レオ、拓也」
混乱する俺たちに、背後からハルカさんとセンパイが近づいてくる。
「終わったよ。さぁ、帰ろう」
「えっと……待って下さい。なんで帰るんです?この人たちどうするつもりなんですか?」
「それは俺たちが知ることじゃねぇ」
「何を言ってんだ!?死んでるだぞ!」
センパイが怒りで食って掛かるレオの肩に手を置く。
その仕草には憐れみとともに、まるで人間の死を何度も見てきたような重さが伝わってくる。
「落ち着け。お前の言う通り、この人たちは死んでいる。だが……」
センパイの視線は眠るように亡くなった人々に向けられる。
その表情は普段とは違う何か冷静さと諦めが混ざった複雑な感情が漂っているけどそこから言語化されることはなく、代わりに小さなため息をついた。
ハルカさんはそんな先輩を見て、ただ静かに頷く。
俺はこの異常な状況を飲み込めず、呆然と立ち尽くしたまま。
この2人の様子からして、こうして人が死ぬことは今回が初めてではなく何度も経験しているように見える。
なぜ皆死んだのか、死ぬと分かっていてどうして皆歌っているのか、ルッチーニ先生は何をしているのか。
次から次へと疑問が浮かぶがオレは何も言えず押し黙ってしまう。
レオも同様なのか、それとも別の感情で黙っているのかは分からないが何も喋らずただ俯く。
「・・・分かりました。帰りましょう……」
とりあえずここにいても何も解決しないので俺達は寄宿学校へ戻り、夕食を取って4号室へと戻る。
戻った途端、レオはベッドにある枕をセンパイとハルカさんめがけ投げる。
そして拳を握りしめてベッドを殴りつける。
「お前らは命をなんだと思ってんだ!魂を救済させる?ふざけんな!魂どころか命を奪っているじゃねぇか!!!」
「……そうだな。否定はできない」
「分かっているならなんで!!!」
「あの人たちにはそれが救いなのさ」
レオが眉間に皺を寄せて怒りに震える。センパイの冷静な声が余計に苛立たしいと言いたげだ。
「あの状況を見て救いだって?頭おかしいのかお前!」
「よく聞けレオ、あの人たちはな、病気だったり精神的に疲労していたりで生きる希望を失った人たちだ。皆わかってきてるんだよ。自分は長くない、だからせめて安らかに死にたい。と」
「・・・・・・」
「だから皆ここに来る。天使の歌声を聞きながら死にたいってね。僕たちも最初は嫌だってずっと思ってたんだよ。でもこれが本当に救いになってるんだ。だから……」
「納得いかねぇ」
2人の説明にもまだ納得がいかないのかレオは頭を搔きむしりドアへと向かう。
「命はもっと重くて尊い物だ!自分一人で勝手に始末をつけて良いもんか!残された人は悲しむし、ずっと苦しむんだぞ!そんな事も考えられねぇのかよ!くそ!」
捨て台詞を吐くと部屋を出て行ってしまった。
アイツは人一倍そういう話題には敏感なんだよな。
色々と昔の話を聞いた事がある。自分を庇って父親が暴漢に刺され死んでしまった時。
母親は泣きじゃくって死んだ父親を追いまだ5歳のレオを置いて自殺。
それから奴は屋根も壁もろくにない路地裏で野良犬共々野生じみた生活を送りながら何年も生きてきた。
そだから今回の件は許せなかったのだろう。
センパイは出て行ったレオの背中を見てため息をつく。
「……納得しようがしまいが、あいつがどうこう出来る問題じゃない」
「まぁまぁ。彼も混乱してるんだよ。それに彼の気持ちは分かる。納得するまで話していくしかないよ。」
「……」
「俺、ちょっと行ってきます」
俺は居ても立っても居られず、二人を残してレオを探しに部屋をでた。
流石にこの施設から出て行くような真似はしないと思うが・・・しばらく歩いて、俺は中庭に出る。
中央に噴水のある広い空間、夜でも月明かりやランプで照らされており周囲の景色はよく見える。
奥の方のベンチに2人分の人影。
レオじゃないけど、ひょっとしたら居場所が分かるかもしれないと思い声をかける。
「ウッス……あの……」
「あれぇー?君確かー……」
「新しく入ってきた拓也だよね。
どうしたの?こんな時間に」
談笑する2人は俺を目に止めると不思議そうな顔で俺と目を合わせる。
名札には『テツ』『リキ』と書かれている。
「あの……レオって奴知りません?俺と一緒に入ってきた奴なんですが」
「あぁ、あの子ねー!確かに見かけたよ。なんか……凄い怒ってる感じだったけど喧嘩でもしたのか?」
「そうそう。すれ違い様に肩がぶつかって睨まれちゃった」
2人は顔を見合わせると困ったように笑う。
理由をそのまま話すのはなんだか気が引ける。
レオの為にも黙っておいた方がいいだろう。
「喧嘩では……ないっす。何というか....まぁ、価値観の違いってやつです」
「へぇ?じゃあどうやって仲直りするんだい?喧嘩と違って根本的な部分でぶつかっちゃってるわけじゃん?どうにかできるもんなの?そこらへんって」
テツの質問にオレもどうすればいいのか分からず頭を掻きながら考え込む。
確かに彼の言う通りで仲直りは出来ても、この意見の相違は埋まるのか?答えは否。
埋まる事は無いだろう。何せレオは本来ここに来るような生き方をしていないように思える。でも一度入った以上、ここから逃げる事は無理だろう。オレは暫く考えるが答えが出ないので
「まぁ、オレがレオの事をよく知っているんで何とかなりますよ」
と答えることしか出来ない。本当は自信ないけど……。
「凄いなー。僕は自分の事すら分からないのに、他人の事まで分かるなんて」
「そうそう。僕たちはどこから来てどこへ向かうのか.....」
「何一つ知らないよな!なぁリキ、今俺が何を考えてるか当ててみ?」
「あははっ。分かりっこないよそんなの僕たちが長い付き合いだからってさー」
レオがどこに向かったのかなかなか教えてもらえない。
適当に聞き流していればその内教えても良いかみたいな空気になるかなと思ったが中々そうはいかない。
「そもそも、人間はどういう生き物だと思う?感情豊か?いやいや……動物の本能を抑制することに長けていて賢いとされているけど実は賢いわけじゃなくて……ただ社会というシステムの中で動くための便利な生き物としての側面を持っているに過ぎないんじゃないかな?そんな風に最近感じるよ」
「わかるわー。社会や秩序を守るための機構みたいなさー。でもその機構の一部に組み込まれることで人は幸せを感じられるのかもねー。ほら、蟻とか蜂ってさ女王のために働き続けてるじゃん?生きるために社会を形成し適応する物なんだよ人間っていうのは!」
「社会という蟻地獄……か。あ、これだと蟻地獄の意味が違くなるかな」
2人は哲学的だか何だか知らないけど難しい会話をしだす。
こんな会話聞いてたら頭が頭が痛くなっちゃうな。
突っ込むこともできないし、早くレオがどこに行ったか教えてほしいぜ!なんて思いながら後ろを振り向くとベンチと対面する花壇の中に大きな石碑を見つけた。
こんなものがあったのか……近くまで寄ってみると石碑の表面には何か文字が書いて......『安らかに眠れ』と書かれている下に人の名前らしきものがびっしりと並んでいた。
こんなに?一体何の名前だろうか?と首を傾げる。ここの生徒達の名前か?でもなんでこんなに沢山……
「彼らは天使になったんだよ」
「え……?あっ」
背後から近づいてきたテツが石碑の前にしゃがみ込み指で名前をなぞる。
「天使になった子はね、もうここにいなくなっちゃうんだ。どこに行くのかは分からない……生きているのかどうかも。」
「じゃあ....なんでこんな石碑なんか作るんだ?まるで死んだみたいじゃねぇか」
「……うん。少なくとも会えないのは事実だから」
リキも隣にしゃがみ込み名前をながめる。
2人の表情には哀愁が漂っているような気がして、俺はただ黙り込む。
やっぱ天使になるってのは、なんといえばいいかな、恐ろしいことが起っちゃうのかな。
なったら二度と現世に帰って来られない....のか?
「なぁ、お前らは……天使になりたいと思ってるのか?」
「うーん。僕はまだ考えてる最中かな。正直わからないや。なりたいかもしれないし、なりたくないかもしれない。テツは?」
「僕は〜……んふふ、内緒☆」
「え〜なにそれ〜!ずるいぞ」
「そりゃ、僕は皆みたいに崇高な理由でここにいないからさ」
2人はお互い見合って笑っている。
俺みたいに深刻に捉えているわけでもなく、かといってレオのように嫌悪しているわけでもない。
彼らの笑顔はまるで俺に対しての挑発のように思える。
深く考えてもしょうがないと。
確かにその通りなのかもしれないけど……せめてどんな様子なのか、聞けないかな。
「そういやお前らがここにいる間に天使になった奴っているのか?」
「うん。いるよー」
「え?誰だよ」
「タケルって子。ほら、石碑の一番下に名前があるでしょ」
テツは人差し指で名前の羅列の最後の一つを指す。
「タケルか……天使になった時って、どんな感じだった?突然消えたりしたのか?」
「さぁね。夜寝てる間になったから分からないよ」
「はははっ。ごめんね?僕たちはタケルと別の部屋だからさー。
タケルと同室だったのは....イザヤと、ハルカ?だったっけ」
「あとガブリエルもじゃない?」
まさかあのハルカさんが天使になった人と同室だったとは。
もしかしたら色々と聞けるかも!いや待て、イザヤとハルカさんも元々同室だったのか、なのに仲が良いとは言えないような状態なのは……どういう事だ?謎は深まるばかりだぜ。
「さて....そろそろ部屋に戻るかい?リキ」
「うん。テストも近いし復習しないとなー」
2人は立ち上がると欠伸しながら校舎の方へと歩いていく。
「あ、そうだ。レオの居場所だけどね。彼なら教会の方に行ったよ。」
「え?ありがとナス!」
「うん。バイバイ」
手を振る2人に別れを告げてビルダー拓也は教会へと向かう。
それにしてもタケルって奴は天使になってどんな風になっちまったんだろう。
ビルダー拓也も受け入れることが出来るのだろうか……不安ばかりが募るけど仕方ないよな。
誰だって自分が消滅するかもしれないなんて聞いたら怖くなるだろうし。
校舎とは別の建物である教会。
夜であることもあり、荘厳な雰囲気に、ほんの少しの不気味さを感じながら重厚な木製のドアを開ける。
「レオー?」
静かな礼拝堂にビルダー性処理玩具になっていく拓也の声が反響する。
中には大きな天使の像があり、手のひらで胸元にある宝石を包み込むようにしている。
天使の像の足元には2人の少年がおり、俺の方をじっと見つめていた。
レオではない。
一人は雄膣の穴から精液垂らした俺より少し背が高く優しげな表情の子。
もう一人は雄膣の穴から精液垂らした俺より背が低いが威圧感のある雰囲気を纏っている。
「誰を探してるの?ここには僕達しかいないよ」
「あぁ、拓也って言うんだけど。レオって奴がどこに行ったか知らないか?探してるんだけど」
「ふぅん……特に誰もみてないなー」
「そうか……」
マジかよぉ!?ついに手がかりすらなくなっちまった。
どうすれば良いのか分からず頭を抱える俺。
そんな敏感な拓也に背の高い方が話しかけてくる。
「大丈夫、きっとまた会えるよ。この天使の像はねー?魂がね、宿っているんだよ。
だからその魂たちが、困っている人を助けてくれるんだよ!」
「え?あぁ……うん……」
「わわわ、あの、アキト。その辺にしなよ……!変な宗教家みたいな事言わないでさ」
「変じゃないよー?ほんとの話なんだよー!」
アキトと呼ばれた子はムッとした顔で否定する。
何だか掴みどころがない奴だな……独特な感性を持ってるというか、浮世離れした感じがある。
でもなんか悪いやつじゃなさそうだし……まぁいいか。
それにしてもレオはどこに行ったんだろうか、俺はもう一度石像に祈りを捧げてから教会を後にするのだった。
以外にもその後あっさりレオと出会うことができた。
場所は寄宿舎の食堂。
レオは誰もいないこの部屋でボケーっと席に座ってた。
その姿は少し疲れてるように見えるんで、隣に座ってちょっと話でもしてみようか。
「よぉレオ……探したぜ?どこ行ってたんだよ」
「……別に。何でもねぇよ」
「何でもない割には顔色悪いじゃねぇか。
ずっと考えてたんだろ?今日の事」
「……まぁな。お前は……何とも思わないのか?あんな簡単に命が奪われるなんて」
「んー……そうだな……俺には……」
天使とか魂ってのは正直まだまだ分からないことが多いし実感もない。
ただあの人たちにとってあれが救いだというのなら、それで良いのではないかって感じ。
勿論死は恐ろしいし悲しい。
しかし俺にはそれ以前にある苦痛の方が恐ろしいんじゃないかと思う。
どうせ死んでしまうのならばせめて苦しまずに俺たち少年の歌声でイった方が楽でいいじゃないか。それが彼らの望みなんだからさ。周りが悲しもうが、結局は本人の問題。
死ぬ時は誰でも独りぼっち。だからいつ死ぬかなんて自分じゃ本来決められないから、決めたいんだ。
「……俺には魂救済の日が悪いことだとは思えない。それが希望なら別にいいじゃないかって。例え死ぬことでも」
「……」
「お前が言う通り、死が全ての人にとって悲しいことであるのは分かるけどさ……。
でもきっと……」
「拓也はああいう事が平気なんだな」
「え?」
平気?俺が?そんな事ない。
あくまでも苦痛を避けるために死を選んだ人を救うために行っていることであるから肯定しているのであって、誰かが目の前で死んだらマンコを種マンにされた俺はきっと泣いてしまう。泣いてしまうはずなのに。
「別に平気ってわけじゃねぇよ。たださっき言ったみたいに、苦痛の中でいつ死ぬかわからない恐怖と戦うぐらいなら魂救済の日で死んでいった方がいいんじゃないかって……」
「それ本気で言ってんのか?死ぬのが良い?そんなわけないだろ!」
「お前……ちょっと落ち着けって」
「苦痛の無い場所に行けるから?ふざけんなよ!死ぬのがそんなに良いならお前も俺もとっくに死んでる!死にたくないから毎日生きる努力をするんだよ!!周りを悲しませないためにも、命を大切にすることが大事なんだ。
だから……だから!俺は許せないんだよ!」
どこか必死に聞こえる。何か焦っているような。
あいつにとって「死」はやっぱただただ恐ろしくて悲しいことだろう。レオの過去を考えたら理解できた。
「おい、目を開けろよ、バカ野郎」
何年か前、雨上がりの朝。
いつもみたいにレオを訪ねて近所の路地裏に。
そこで見たのは二匹の犬の死骸とそれを揺さぶるレオの姿。
レオにとってこの犬のつがいは野良犬と人間なんて関係なく家族のように仲が良かった。
親を失った彼にとって唯一の心の支えとも言える存在で、俺と出会う前からずっと一緒にいたらしい。
でも別れはこんな風にある日突然だ。
前日の天気はかなり大荒れで雷やら風やらすごかったがそんな天気はたまーにあるんで別に気にせずレオもいつも通りお客さんの家に泊まってやり過ごしていた。
で帰ってきたらさっきの光景に遭遇。原因はわからない。だけども死んでいる。何度も呼びかけても返事はなくて……その日は一日中泣きっぱなし。
こうして近しい存在が何度も死によって離れ離れになる経験積んだレオは、死に関して誰よりも敏感になっている。
でも俺にはやっぱり魂救済の日についてレオのように反対はできない。
ただその人が求める救いを与えるのが救済だというのは間違ってないと考えたから。
それが死ぬ事であってもね。
「……悪い。熱くなりすぎた」
「いや、俺の方こそなんかごめん。あのさ……」
「その事に納得はできない。でもお前がこうして来てくれたってことは俺の事を考えてくれているってことだよな。それはとっても嬉しい。ありがとう」
「……」
レオの表情は少し柔らかくなっていて、その顔を見たビルダー性処理玩具になっていく拓也は少しホッとする。
あー良かった。このまま出ていくって言い出すんじゃないかと内心ヒヤヒヤだ。
「じゃあ、戻ろうぜ。明日からまた歌の練習だ。頑張らないと」
「さぼりたくなっちまうな。なんせ俺たちの歌声は人を殺すんだからさ。まぁでもここはようやく手に入れた安全な場所だ。拓也も一緒だし、やれるだけやらないとな」
2人は食堂を後にして、4号室へと戻る。
「おう、やっと戻ってきたか。どうだ?わかってくれたか?」
部屋に戻るとセンパイとハルカさんが既に寝巻き姿になってベッドに入っていた。
少しだけ間を置いてふてくされながらも
「まだ完全に納得はできねぇ。だけどお前らは別に悪意を持ってやってるわけじゃないってのはわかったよ」
そうかと言ってセンパイは大きく伸びをしながら、「まぁ今日のところは良い。寝るぞお前ら」
「……ウッス。おやすみなさい」
俺達はそれぞれベッドに入り、ハルカさんが部屋の電気を消し、いつものように子守唄を歌い始める。
その音色はとても心地良くすぐにでも意識が落ちるな。
今日あった様々な事の疲れもあってすぐに深く深く落ちていく。
だんだんとおぼろげながら見えてきたのはレオが二匹の犬に縋り付いて泣いているあの日。
いつ見ても心苦しい光景に俺は慌てて駆け寄り抱きしめようとするが、様子がおかしい。
何か肉を切っているかのような音。
「何を……何をしているんだよ」
手足が思うように動かない。
すがって泣いているように見えたレオの姿は殺気溢れる狂気を醸し出して手に持ったナイフで犬の足を切り刻んでいく。
「やめろ!!!やめてくれ!!!レオ!!!!」
声を張り上げるけど全然届かない。
あんなに仲が良かった犬たちの四肢がもぎ取られていく。
たまらず俺はその場から走り去って逃げ、裏路地から飛び出す。
「はぁ……はぁ……」
顔を上げ、目の前には見慣れた街の光景が広がっているかと思えば、全くもって違う世界。終焉を感じるかのような枯れ果てた大地とその上で殺し合う人々。戦争を想起させる絶望の光景の中俺は一人立ち尽くしていた。
なんだこれは、一体どうなっているんだ?俺は何故ここにいる?そんな疑問を浮かべていると突然背後に人の気配を感じる。
振り返ればそこにいたのは一人の若い男。
その顔は血だらけで腕には血塗られたナイフ。
俺も殺すか殺されるか、それしか選択肢はない。
どうすれば良いのだろうか?混乱した頭の中で必死に考えを巡らせているうちに男がなにか口ずさんでいることに気づく。
それはどこかで聞いたような、冒涜的なメロディ。
「……この歌は……」
聴いたことがある。
一体どこで.....思索を巡らせているうちに夢が終わった。
現実へ戻る。そこには変わらずベッドに横たわっている俺。
周りの皆は変わらず眠っている。
「夢……だったのか」
額からは冷や汗が噴き出していた。
あまりの生々しさとリアルすぎる夢に体が拒絶反応を起こしたみたい。
昨日もこんな感じの夢をみたような……一体どうしちまったんだ?
何か大事なものを見逃している気がする。
あの夢はもしかしたら何か重要なメッセージが込められているのではないかと思えるぐらい、頭にこびりついて離れない。だけども考えたくないよ。怖いんだからさ。