【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
「ああ」
短く答え、女騎士へ視線を向ける。
立ち姿に風格はなく、まるで村娘が父親の装具を遊びで身に付けているようだった。
ただ、纏っている雰囲気は異様だ。
自分よりも何倍も大きな相手に見下ろされているかのような、そんな恐ろしい感覚。
あのクソガキに感じたものと似ている。
ということは、こいつもプレイヤーとやらなのだろう。それも主人公陣営という、よくわからん神様から圧倒的な恩恵を得ている者たちの一人。
「お前は?」
「私は仲里……いや、ウェーズニッヒ王国、王族直属護衛騎士のアイリス・オーフェリリアだ」
「王族直属の護衛騎士? 騎士団の隊長じゃないのか?」
王族直属の護衛騎士は名前だけ聞くと堅苦しい所属のように感じるが、職務は国王や王妃、それに王子や王女の身の世話をする執事やメイドのような存在だ。
騎士とメイドを兼用している職務と表現するのが正しい。
まさか、そんな護衛騎士が100名ほどの騎士を連れて悪者の巣窟を狙ってくるとは。てっきり騎士団の隊長クラスだと思っていた。
「他の者は別にやることがあるから、代わりに敵の根城を制圧してこいと」
「ユーヒニアからか?」
「……そうだ」
「なるほど、ユーヒニア直属の護衛騎士だから、あいつから騎士を預かって攻めてきたわけか」
プレイヤーという別枠だからこその特別処置。
それなら、ただの護衛騎士が兵を連れて進軍してもおかしくはない。
「いや、私が仕えているのはあのガキではない」
「なに?」
「私が仕えているのはウェーズニッヒ王国の王女エルヴィア・ニース・ウェーズニッヒ様だ。あのガキではない」
そういえば、ユーヒニアの他に女の実子もいると牢屋にいたとき顔見知りの奴隷剣闘士から聞いたことがある。
銀髪の美人で、雪のように綺麗な白肌が印象的だと。
別に髪色も肌の色もそこまで珍しくないから俺はそいつに聞いた、なんでそんなに印象的なんだと。
そうしたらそいつは答えた。
いつも目元を黒のレースで隠しているから余計に白いのが印象に残るんだと。
「王女に仕えている護衛騎士が、なぜ王子の命令に従っているんだ?」
「それを答える義理はない」
「敵に内情を打ち明ける愚行はしないか。で、その命令を受けたくせに、どうしてまだ剣を鞘から抜いてないんだ?」
殺るならとっとと殺ればいい。
それの方が時間の無駄にならない。
「その前に、私はお前たちと交渉がしたいと思っている」
「交渉?」
「大前提として、お互いのレベル差については理解しているだろ。それがある以上、お前らに勝ち目が無いことは戦う前からはっきりしている。このまま戦えば、お前たちは何もできないまま殺される。違うか?」
「まあ、そうかもな」
「そうならない為に、このまま大人しく従ってもらいたい」
「従う? 捕虜にでもなれって言うのか?」
「……そうだ。決して悪いようにはしない、それは保証する。期限はいつまでとは言えないが、全員が元の世界に戻れる方法が見つかるまでは大人しくしてもらいたい」
「元の世界か。だが、俺は──」
「──兄弟」
俺はお前らの世界の住人ではない。
そう言おうとしたとこを、弐虎に止められた。
そして何を言うわけでもなく、首を左右に振る。
そうだな、向こうは俺もプレイヤーの一人だと思っているのなら、その誤りを正してやる必要はない。
ユーヒニアと戦ったときに話の食い違いから隙を作ったように、この情報がどこでどんな意味を成すかわからないのだから。
「それはユーヒニアの考えなのか? それともお前や王女様の考えなのか?」
「……それは答えられない。だが、従ってほしい。無駄な死を生まない為にも」
「そうか」
俺は弐虎たちに視線を向ける。
「お前らはどうしたいんだ?」
勝ち目がない戦いなら、捕虜だろうとなんだろうと回避した方がいいかもしれない。何より元の世界に帰ることを、きっと他の奴らだって望んでいる。もし俺が同じ立場で、よくわからない世界に飛ばされたならそう願う。
だから弐虎たちに委ねた。
「へっ、お断りだね!」
弐虎はあっさりと差し出された手を払いのけた。
「こいつらにはたくさんの仲間たちが殺されたんだ。そんな奴の誘いなんて乗る気はねえ。ってか、あのガキのことだ、どうせ乗ったところで不意打ちで殺されるに決まってる」
「そうだそうだ!」
他の奴らも弐虎の考えを支持する。
「と、言っているが?」
「お前が来る前から、ここの連中はずっとこんな感じだ」
俺たちが来るまでここで交渉が続けられていたわけか。どうりでこの女騎士アイリスは剣も抜いていないわけだ。
「だからお前から彼らを説得してほしい」
そう頼まれた。
「なぜ、俺なんだ?」
「正直に話すと、私はまだ大勢の人間を殺すことに躊躇いがある。だが、お前一人であれば覚悟は決められる」
「そうか。だったらさっさとするんだな」
すぐに返答をすると、アイリスは俺ではなく弐虎に問いかける。
「お前たち、わかっているのか? 私がこの場でこいつを殺せば全てが終わるんだぞ?」
「……」
「おい、俺を殺せば全てが終わるってどういう意味だ」
「どういう意味も、言葉通りの意味だ。お互いの陣営は”主人公”を失った瞬間にそのルートに”属しているプレイヤー”は全て死ぬ。メニューのルールにそう書いてあっただろ」
短い言葉の中に俺の知らないことや知らない単語がいくつか含まれていた。
俺は咄嗟にペトラを見ると、彼女はばつの悪そうに顔を背けた。