【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
「ガラルは優しいから、このことを話せば絶対に手を貸してくれるってわかってた。でもそれだと、無理矢理に手を貸させてるみたいで。せっかく自由になれたあなたの人生を縛るみたいで……言えなくて」
隠していたわけではなく俺の意志を尊重してということか。
確かに「お前が死ねば俺たちも死ぬ、だから手を貸してくれ!」なんて言われたら助けるだろう。
もちろんそれは出会い方の問題だ。
赤の他人に言われたら無視するが、俺はペトラたちに助けられた。
その借りを返さず「知らねえよ」と突っぱねるなんて、俺の性格ではまずありえない。
彼女なりの考えがあって話さなかったのだろう。
「そうか。まあ、ペトラたちの話はいつもながらすぐに理解するのは難しくて驚きはしたが、それで俺の考えは変わらない」
弐虎たちが従わないと言うのなら、俺はアイリスの申し出を断り抵抗する意志を示すだけだ。
「本気か? ユーヒニアとの戦闘でレベルの概念の理不尽さを嫌ってほど実感したはずだ。私のレベルもあいつと同じなんだぞ。それなのに挑むつもりか?」
「あいつと同じなら、きっと俺の攻撃はお前には効かないんだろうな」
「それなのに、抵抗するというのか……?」
大剣を構えると、アイリスは首を左右に振った。
「理解できないな。勝ち目のない戦いを自ら望んでするなんて。それも他人の命が乗っていると理解した状態でだ」
「お前に俺の考えを理解してもらう気はない」
「そうか。気は進まないが、そっちが覚悟を決めているなら、これ以上の対話での解決は無理なのだろう」
そう言うと、アイリスは鞘から剣を抜く。
大剣よりはコンパクトだが、それでも太さのある形状の剣。
見ただけでわかる。俺の得物とは比べ物にならないほどの上物で、刃こぼれなんか一切ない。
両手で剣を持った彼女。
その持ち方は独特で、正面に持ったままゆっくりと刃先を上げる。
「剣道?」
ペトラが漏らした言葉。
よくわからないが、明らかにその武器はそう構えるものではないことだけはわかる。
こんな構えすらよくわからない素人に負けるはずない……。
一瞬だが、ユーヒニアと相対したときに思ったことを感じてしまった。それが心と体の油断を生む。
「──アイリス・オーフェリリア、いざ参る!」
兜の隙間から小さい声が漏れると、一瞬にして俺との間合いを詰める。
「はあッ!」
「──ッ!?」
瞬間移動したかのような神速に一歩後退するが、その距離込みで彼女は剣を振り下ろす。
咄嗟に構えた大剣で防ぐが押し込まれる力は凄まじい。
闘技場で戦ったサイクロプスの何倍もの腕力が俺よりも小柄な体にはあった。
踏ん張る脚は膝が曲がっても何とか堪えていたが、老朽化した床はアイリスの力に堪えられなかった。
そのまま床が抜け、俺もアイリスも二階へと落下する。
「ふざけるな、こんなの」
愚痴を吐いても時は止まってくれない。
崩れた石材が生み出した埃を払いながら、再びアイリスが俺へと距離を詰める。
今度も防ぐことはできたが、彼女の斬撃が一回二回と連続して繰り出されると、俺の大剣が悲鳴を上げ──いとも簡単に崩れ散る。
「クソが」
飛び退き左手に生成した鞭で反撃。
だが、防御姿勢すらとらない彼女の脇腹は何か見えない空間に守られた。
そのまま落ちていた騎士が使っていた剣を拾って構えるが、アイリスの剣撃を防ぐので精一杯だった。
一撃もらうたびに腕が痺れる。
夢でも見ているんじゃないかと思ってしまうほどの劣勢に苛立ち、一矢報いるように蹴りをお見舞いするが。
「チッ!」
鞭と同様に蹴りも防がれる。
拾った剣の刀身は欠け、あの衝撃を受け止めるだけの耐久力はなかった。
「もうわかっただろ。これが、この世界の理不尽なシステムだ。自分よりずっと非力な私に力で押され、反撃しようとしても理不尽な横やりに守られる。今からでも遅くない、降伏しろ。そうしたら──」
「剣を構えた時点でその話は終わっただろ」
「だけど」
「お前らは知らない世界の話かもしれないが、殺すか殺されるかしないと終わらないんだ。戦場ってのはな、そういう場所なんだよ」
アイリスはいつでも俺を殺すことができた。
大剣で防いでも理不尽な力で防御ごと俺を真っ二つにすることも、大剣が壊れた瞬間に追い打ちすることも。
殺すタイミングはいくつもあった。
だがしなかったのは、今になっても迷いがあるからなのだろう。
人を殺して、大勢の命を自分の手で終わらせることへの罪悪感。
「やっぱり、お前は俺には勝てない」
「なに?」
「お前はユーヒニアとは違う」
ユーヒニアは人を殺すことに一切の躊躇いがなかったが、アイリスには人を殺すことへの躊躇いしかない。
まるで最初に泣きながら人を殺したときの、まだクソガキだった頃の俺のようだ。
「だったら!」
アイリスは再び勢いよく俺へと駆けだし、構えた剣を振り下ろす。
だが、その刀身は俺の目前でピタリと止まる。
「なぜ、防がない……」
「武器を失っているのにどうやって防げって? この鞭で、お前のその異次元な力を堪えろってか? 無理に決まってんだろ」
「じゃあ、諦めて降伏──」
「だから、しねえって言ってんだろ!」
兜の中から聞こえる尋常じゃないほどの荒々しい息遣いに、微かにわかる両手の震え。
彼女相手に武器はいらない。
俺は腕を掴み、そのまま押し倒すと、ニヤリと笑いかける。
「腕を掴むって行為は防げねえんだな」
どういう原理かわからないが、自身への脅威となる場合のみあれが発動するということなのだろうか。
「蹴るのは直接的に危害を加えるから駄目なんだな。じゃあ、首を絞めるのはどうだ? それと、俺の手から石を投げるのは防がれるだろうが、俺の手からじゃなく自然に落下したものならどうだ?」
「な、なにを……」
「簡単なことだ。俺は勝つ為なら、生きる為ならどんな汚い手だって使う。今までずっとそうやって生きてきたんだ。お前が俺を傷つけることも、殺すことも躊躇するなら……こんなの、必死に生きようとするガキの奴隷剣闘士を殺すより簡単だ」
アイリスとしては、俺に全ての攻撃を防がせ、自分との力量差を自覚させて降伏してほしかったのだろう。
きっと弐虎たちにもそうやって降伏を迫ったはずだ。
だけど俺は死んでも応じない、なにせ勝機が見えたのだから。
そういう考えということがわかった以上、自分の命を囮にしていればアイリスは俺に対して何もできない。
彼女の優しさに付け入るような非道な手段だが、俺がこの理不尽に抗って勝つ唯一の方法だ。
「俺を止めるには、その右手に持っている剣で俺を殺すしかないぞ」
今も震えた右手で持った剣に視線を送るが、アイリスはその手を動かそうとしない。
「……どうして」
「あ?」
「どうして、こんな……どうしてみんな、簡単に人を殺せるんだ。ここがゲームの世界だからって、相手がNPCだからって、そんな簡単に……。言葉が通じる同じ人間なんだぞ。なのにどうして!」
「誰のことを言っているのかわからねえが、誰かを殺してでも、守りたいもの得たいものがないんなら……お前は戦場に立つべきじゃない」
こいつもペトラたちのように無理矢理にこの世界に連れて来られた人間だから、この言葉は正しいかはわからない。
ただ俺は死にたくないから人を殺してきた。
死ななくてもいいなら、俺だって人を殺すことなんてしたくない。
俺は押し倒したアイリスの兜を乱暴に外す。
ピンク色の長髪は汗で艶を生み、水色の綺麗な瞳は涙で揺れていた。
「その右手に持った剣で俺を殺すか、このまま兵を連れて立ち去るか選べ。俺はお前を殺すことができないとしても、お前に死ぬことと同じぐらいの苦しみを与えることはできる。──お前と違って、俺はそれをすることに一切の躊躇いはない」