【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
あくまでも非情を装い伝える。
覚悟を持たない相手を一方的に殺すことに躊躇しないほど、俺はまだ壊れていない。
だけどそれを悟られれば、このやり取りはずっと平行線のままになる。
一秒、二秒、三秒。
どちらも動かないまま時が止まり、再び動きだすと、
「わかった、私の負けだ」
アイリスは目蓋を閉じてそう言った。
「このまま兵を連れて退け。誰も殺してはいないが負傷はさせた。治療は早ければ早い方がいいはずだ」
「殺すことに一切の躊躇いを持たないと言っていたのに、誰も殺していないんだな」
「……殺す必要がなかっただけだ。練度の低い騎士相手なら、殺すよりもみねうちの方が速い」
アイリスから離れると、彼女は剣を鞘に納める。
「私はお前らの敵だ。ここで見逃したこと、後で後悔することになるぞ」
アイリスの言ったように全員を捕縛した方がいいのかもしれない。だけどここで全員を捕縛したとしても、捕虜として俺たちが安心して匿える場所も、問題を起こさせないように見張る人員もいない。
何もかも無い状況なら、後に厄介になるとしてもこのまま大人しく帰ってもらった方が今はいい。
「そうかもな。そうなったら、その時はその時だ。戦う覚悟を持てたなら、その時は本気で相手してやる」
「……」
「ただ、理想としては戦場ではない別の場所で再会したいな」
地面に転がった兜を拾い、アイリスに私ながら言う。
「お前のような綺麗な女は、そんな堅苦しい鎧姿よりもドレス姿の方が似合うはずだ」
「なっ!?」
何か言おうと口を開いたが、すぐに閉じ、また開くと「敵にそんなこと言われても、嬉しくともなんともないぞ!」と言われた。
そして兜で顔を隠すと、ふんっと鼻息を荒くしながら背を向ける。
「……それではな」
去り際のアイリスの表情は、ずっと抱えていた苦しみが抜け落ちたような柔らかい雰囲気があった。
「いい女だったな」
その後ろ姿を眺めながらぼやく。
「……誰が、いい女だったの?」
音もなく俺の背後に忍び寄っていたペトラの低い声に慌てて振り返る。
「いつからそこに!? 俺が人の接近に気付かないなんて」
「ふふん、いつからでしょう。それより、誰がいい女だったの?」
「いや、これはあれだぞ、敵にも良心的な奴もいるんだなって、それでいい女だなって言ったんだ」
「ふーん、なんか苦しい言い訳に聞こえるけど?」
「そんなことは……」
「まあ、兜を脱いだら美人さんだったもんねー。ああいう鎧を着て普段は堅物そうにしてるけど、脱いだときはすっごく可愛いみたいな、そういうギャップに男の人って弱いもんねー」
「まあな。い、いや、俺はだな」
『パモ、パモ!』
俺の脚を叩く蹴るしていたパモ。
ペトラは言うことを聞かない子供を見る親みたいな、どこか諦めたような表情を浮かべていた。
「ふふっ、冗談。他の兵も引き下げていったって。あたしたちもみんなのとこ戻ろう」
「ああ」
三階に戻ると弐虎たちは部屋の復旧作業をしていた。
「俺も手伝うか?」
「ん、いや、兄弟は疲れただろ、座って休んでくれや」
人数でいえば先程までいた騎士団の兵に比べたら半数にも満たないほどで30名ほど。
ペトラが言うには、現段階で揃えられる仲間はこれで全員らしい。
「いやー、マジで助かったわ! 兄弟が来てくれなかったら終わってたかもしれん。ほんと、ありがとな、兄弟!」
「アイリスは最初から、ここにいる奴らを殺す気なんてなかったから問題はなかっただろ」
「それは兄弟があの女と話してわかったことだ。兄弟が来る前なんかずっと『降伏しろ』と『無駄な抵抗はするな』しか言わなかったんだぜ。しかも顔を隠して。おっかねえのなんのって」
椅子すらも壊れて座るところがないので、適当な瓦礫に腰を下ろす。
弐虎とペトラも適当なところに腰掛ける。
「いきなりで申し訳ないが、さっきアイリスが言っていた話だが、俺が死んだらみんな死ぬってやつは本当なのか?」
「残念ながら事実らしい。つっても、兄弟からしたらそんな確証どこにもないだろって思うよな」
ため息混じりに笑うと、弐虎は「メニュー」と声に出す。
「……見えるか?」
「見える? 何がだ?」
目の前を指差しているようにも見えるが、そこには何もなかった。
♦
ここはゲームの世界。
誰でもやったことがあるような王道のRPG。
ただ一つ違うのは、普通のゲームではなく、エロシーンありのゲームということ。
心優しい少年のユーヒニアが、魔王討伐の為に旅に出て、その道中でヒロインとなるお姫様と出会い、恋をして、お互いを激しく求め合う。
そして、最後は魔王を倒してハッピーエンド……。
だが、物語には見せかけだろうと困難がなくては面白くない。
ヒロインを寝取ろうとする悪役の存在も、その困難の一つだ。
ガラル・アッフェンドという悪役。
そんな男の魔の手がヒロインに伸び、窮地の場面で主人公が颯爽と駆けつけ助ける。
ガラルは魔王ではなくサブキャラなので別に強くなくていい。
主人公とヒロインがめんどくさい過程を省いて速やかに恋愛、そしてエロシーンに発展させる為の起爆剤。
そして自分の女を自分の手で守ったという優越感をプレイヤーに与えるだけの存在。
それがガラル・アッフェンドと悪役たちがこのゲームにいる理由。
「──人生は無理ゲーだとかずっと言ってきたが、今の状況の方がよっぽど無理ゲーだよな」
弐虎が笑うと、他の者たちも釣られて笑う。
ガラルは魔法で受けた背中の傷を治療する為、今は近くにある湖へ行っている。
なのでここには転移者であるプレイヤーしかいない。
「でもまあ、兄弟が俺たちと同じプレイヤーじゃないってのは唯一の救いか?」
「だな。もし俺たちと同じだったら早々に退場してたかもしんねえ。ってか、俺だったら攻撃が効かない相手に真正面から戦うとか無理だわ!」
「俺も俺も」
一難去ったことでここにいる者たちの表情は少しだけ明るい。
苦しい現実を見ないよう空元気でいるともいえるが、暗くなるよりはいくぶんかいい。
「ペトラも、サンキューな。兄弟をここまで連れて来てくれて」
「別に。みんなに頼まれたからそうしたとかじゃないから」
「まっ、それでもよ。……ってか、いい感じになったんだろ、お前ら」
「……さ、さあ」
「俺はエロゲの猛者だからな。ありとあらゆるジャンルをプレイしてきたから、お前の牝になった雰囲気ですぐわかったぜ。お前はここに来るまでに兄弟と何度もセッ──」
「口にしたら殺す! あと、次に女性のことを牝って呼んだら殺す!」
ペトラに睨まれ、弐虎は口に手を当て顔を振る。
「はあ……。で、とりあえず”プレイヤー”としての情報共有がしたいってことでいいんでしょ。ガラルがいなくなったら急に全員を集めるってことはさ」
「そうだが、別に兄弟を省きたかったとかってわけじゃないぞ。ただ、その……ゲームというのを知ってるのと知らないのと、あと俺たちの世界を知ってるのと知らないのでどう説明したらいいか困るときがあるからさ。兄弟にはほら、後で上手い感じにお前から説明してくれよ、な?」
「まあいいけど」
「じゃあ、これまでわかってることについての情報共有だ」
弐虎が真面目な表情になると、それぞれも真剣に現状を確認するように笑顔を封じた。
「まず第一に兄弟──ガラル・アッフェンドは俺たちプレイヤーとは違うこっちの世界の住人、いわば現地人だ。俺たちに見えるこの……メニュー画面が見えなかった。出すこともできなかった」
各々がメニューと口にすると、それぞれの目前にゲームなどでよく見るメニュー画面が表示された。
・ガラル・アッフェンドの死亡、もしくはユーヒニアが五人のヒロインと結ばれた場合、ユーヒニア・アラン・ウェーズニッヒが主人公のルートに突入する。
・ユーヒニア・アラン・ウェーズニッヒが死亡、もしくはガラルが五人のヒロインと結ばれた場合、ガラル・アッフェンドが主人公のルートに突入する。
どちらかのルートに突入した時点で、もう片方のルートにいるプレイヤーは抹消される。
メニュー画面の一番最初に表示されたのは、この文言だった。