【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
「──アイリス! アイリス、どこですかー?」
玉座の間からでも聞こえるほど大きな女性の声。
目の前の少年を殺すことしか考えていなかった頭の中に彼女の笑顔が浮かぶと、アイリスの抜いた剣は動きを止めた。
「ほら、君のお姫様が呼んでるよ? 早く行ってあげないと。目が見えないんだから、もしかしたら歩いてる間に転んで怪我しちゃうかもよ」
「……ッ!」
ユーヒニアから離れると、抜いた剣を鞘に戻し、廊下へと出る。
月夜の明かりに照らされたどこまでも続く真っ直ぐな廊下。
そのずっと遠くに、壁を伝いながらこちらへと歩いて来る女性がいた。
「エルヴィア様!」
アイリスは慌てて駆け寄ると、彼女の手を取った。
「こんな夜中にお供も付けず一人で出歩くのは危険です」
「だってアイリス、帰ってきてるというのにいつになってもわたくしに会いに来てくれないんですもの」
「それは……。さあ、部屋へ戻りましょう。廊下は冷えますから」
「はーい」
振り返ると、そこにユーヒニアの姿はなかった。
手を添え、二人はゆっくりと歩き出す。
歩くたびに揺れる銀色の長髪。
雪のような白肌と、それと対照的な目元を覆う黒のレース。
背丈はアイリスよりも少し低く、年齢はアイリスが19才でエルヴィアが22才と、エルヴィアの方が年上だ。
社交場に行けばドレスを着たエルヴィアを誰もが見惚れて、男としては抗っても視線が吸い寄せられる魅惑的な身体付きをしている。
だが見た目に反して、親しい相手にだけみせる言動や振る舞いはかなり子供っぽい。
「無事に帰ってきてくれて良かった。実はあなたが出て行ってから、アイリスの無事を神様にずーっとお祈りしていたんですよ」
「そうだったのですか。では、祈りが届いたのでしょう」
「うそ、本当はあなたが出発してからずーっとお昼寝していたの」
「なっ!」
「ふふふん!」
アイリスの間抜けな声を聞き、エルヴィアは満足気に鼻を鳴らす。
「なんでそんなよくわからない嘘を。というよりまさか、お昼寝したから眠れないとか?」
「よくわかりましたね、実は全然眠れそうにないんです。だから眠たくなるまでアイリスとお話しようかなと思って」
「それはつまり、私にアイリス様が眠るまで話に付き合えと?」
「わたくしより先に寝てしまうのはなしですよ?」
「ふふっ、わかりましたよ」
「あっ、せっかくだったら美味しいもの食べながら……」
「駄目です。夜中の間食は太りますし、お肌にも悪いんですから」
「はーい」
お姫様と従者の会話は、もっと堅苦しい感じだと思っていたのだが、二人の会話は姉妹の会話のようだった。
それは昨日今日で変わったわけではなく、アイリスがアイリス・オーフェリリアとなったその日からそうだった。
ということは、二人はずっとこういう仲良し姉妹のような関係だったのだろう。
「そういえば、ユーヒニアはもう出発しましたか?」
ベッドに腰掛けたアイリスに聞かれた。
「……知っていたのですか?」
「ええ、もちろん。だってわたくし、あの子のお姉ちゃんですから。といっても、悪魔に憑かれる前のあの子のですけど」
エルヴィアはユーヒニアとアイリスが今までの二人ではないということを知っている。
アイリスが転移初日に混乱して漏らしてしまったのだ。
誰もがおかしくなったと思うような話だが、エルヴィアはアイリスの話をすんなり信じてくれた。
「おそらく、もうここを発ったかと」
「そう、別れの挨拶もなしなんて寂しいですね。プレイヤーというのはアイリス以外みんなそうなのですか?」
「いえ、そうではないです。……心優しい者もいます」
頭に浮かんだのは敵であるガラル・アッフェンドだった。
真っ先に敵の顔を思い浮かべるのは変だと思いつつも、ユーヒニア以外のプレイヤーだと彼らしか知らない。
「あら、いま誰のことを思い浮かべたのですか?」
「えっ、い、いや、別に」
「その反応、まさか男性?」
「違いますから!」
「もう、そうやって慌てて否定するのは肯定を表してますよ。誰ですか、わたくしの知ってるお方?」
目が見えないないからか、耳から聞こえる情報の変化に敏感なのだろう。
「敵のはずの男です……」
「まあ、敵である男性のことを真っ先に思い出すなんて。禁じられた愛……それでも愛し合う二人。気付けば立場を忘れ──」
「忘れないでください!」
恋バナに花を咲かせる乙女のようなエルヴィアに、若干だが押され気味になりつつも返す。
──そもそも、エルヴィアはプレイヤーではない。
わかりやすい言葉に言い換えるなら、エルヴィアは正真正銘のNPCだ。
だから向こうの世界の言葉も名称も伝わらない。それでも彼女はアイリスの話すことを不審がることもなく、むしろもっと聞かせてと毎夜アイリスを寝室に誘って頼んでくる。
「アイリスも、ユーヒニアと共にここを出ても良かったんですよ?」
少し悲しそうに、アイリスの手を握ってエルヴィアは言う。
そんな彼女の手を握り返すと、アイリスは見えない彼女に微笑みかける。
「何を言っているんですか。エルヴィア様も一緒ならまだしも、あなたを置いてどこかへ行くなんてありえません」
「でも」
「護衛騎士としての役目だけでなく、あなたのお目付け役としてもです。私がいなくなったら、誰が一人で寝れないあなたを寝かしつけるのですか?」
「むぅ! ちゃんと一人で眠れます!」
「そういうのは一人で寝られるようになってから言ってくださいね」
頬を膨らませるアイリスの頭を撫でる。
それに口には出さないが、自分がアイリスになる前のアイリス・オーフェリリアだったら、きっと彼女を置いていくなんてしないはずだ。
その意志を継ぐ……。
というのは畏まりすぎかもしれないが。それでも、人が変わってしまったユーヒニアと同じように自分もエルヴィアの知る人物から変わってしまうのは、あまりにも彼女が可哀想だ。
「そういう優しいとこ、アイリスはアイリスのままですね」
「そう言ってもらえて良かったです」
「どうして、そんなに優しいのですか?」
「どうしてか……。そうですね、エルヴィア様が私と似ているからかもしれません」
「似てる?」
「実は向こうの世界での私は、子供の時からずっと足が悪かったんです。移動も車椅子で……えっと、一人では歩けない状態だったんです」
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