【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
「なに……ッ!?」
ユーヒニアは一切動いていない。
魔法を使った素振りもなかった。
だが、俺の振り下ろした大剣は奴の目前で何かに阻まれたかのようにピタリと止まり、刀身を砕いた。
飛び退き、間合いを取る。
これは、魔法防壁《マジック・シールド》の類か?
だが俺の一撃を食らってヒビすら入らない魔法防壁は今まで見たことがない。
「あれ、今なにかしたのかな?」
舐め腐った余裕の笑みを浮かべるユーヒニア。
周囲を確認する。
周りに強力な魔法師がいて、そいつが魔法防壁を展開している可能性を疑った。だがそういう奴はいなかった。
ということは、これはユーヒニアが仕掛けた魔法。
それも魔法を発動している感じはなかったから、おそらく事前に仕掛けた持続式防壁≪オート・シールド≫の魔法か。
「どんな裏技を使いやがった」
剣と魔法の才能に秀でているとは聞いていたが、まだ12歳ほどのガキがこんな芸当、普通に考えてありえねえ。
「裏技って、世界のシステムなんだから当然でしょ」
「なに?」
「レベル1の君の攻撃が、レベル100のボクに届くわけないでしょ」
レベル?
またわけわからないことを言い始めた。
そういえば死んじまったが、ノワールも俺の理解できないことを何度か言っていたな。
二人の共通点。
鐘の音か。
鐘の音を聞いておかしくなったのか?
「それじゃ、今度はボクからいくね」
ユーヒニアは右手を伸ばす。
「天啓≪アーク・ヴォルト≫」
「──ッ!?」
魔法陣が視認できたときには、雷が俺の右腹部を貫いていた。
腹を抑え片膝を突き、吐血しながら顔を上げる。
天啓≪アーク・ヴォルト≫、雷の初級魔法。
だが、俺が今まで見てきたものとは威力も速度も桁違いだった。
「あれ、スキル欄の一番上を使ってみただけなんだけど……。え、やめてよ、まだ死なないよね?」
ニヤニヤと人を小馬鹿にするような笑みを浮かべるガキ。
「じゃあ、次はこんなのどうかな」
ユーヒニアの背後に火、水、風、氷、土、光、闇の標準属性の魔法陣が次々と浮かび上がる。
綺麗な色だと見惚れたのも一瞬。
魔法を知る者であれば恐怖する光景だが、今の俺には苛立ちしかなかった。
「どんな裏技使いやがった、テメェ!」
普通に考えてありえない、あっていいわけがない。
こんなガキがこれほどの魔法を、まるで呼吸するかのように発動するなんて。
「裏技? ねえ、いつまでとぼけるつもり?」
そう問いかけられても答えなんて返せない。
このガキが聞いている言葉の意味がわからないし、何より貫かれた腹の痛みで思考が働かない。
「はあ……。まだゲームも始まったばっかなのに、これでゲームセットなのは残念だけど、なんか弱すぎて萎えちゃったから、もういいや。ここからはエンドコンテンツということで、サクッとヒロインたちを嫁にして、そのままサクサクッと魔王討伐でもしてこよっと」
その大人しそうな顔付きでするには似つかわしくないほどの下衆な笑顔。
避けないと。
そう頭で分かっていても横腹を貫いた痛みに、全身の痺れから体が動かなかった。
「さようなら」
万事休す。
だが、
「させっかよ……っ!」
突如として周囲に生まれた白い霧。
ユーヒニアの姿が霧に包まれて見えなくなると、真横から声が聞こえた。
「間一髪だったな、兄弟。ほら、さっさと逃げるぞ」
「兄弟? 誰だ、お前は……」
「説明は後だ。肩を貸してやっから」
見ず知らずの男に肩を借りて後退する。
霧の影響もあるが、痛みから意識が朦朧とする。
「へえ、既にお仲間とコンタクトを取り合ってて近くに待機させてたんだ。ってことは、やっぱりずっととぼけていたわけか。いいね、いいよ、ガラル!」
「何、を……」
一人で喋って一人で納得して、一人で感心している。
意味わからねえガキに何か言ってやろうと思ったが、口が思ったように動かない。
「今回は見逃がしてあげるよ。やっぱりゲームは簡単に終わったらつまらないもんね!」
余裕ぶったガキの声が聞こえる。
舐めやがってと振り返りぶん殴ってやりたがったが、先に俺の意識が途絶えた。
♦
「ん……」
目を覚ますと俺は横になっていた。
いつもの薄暗い牢屋からの景色とは違う、星々が輝く綺麗な夜空。
涼しい風が全身を撫でるこの感覚は、今までの人生でずっと感じなかったものだった。
「良かった、目が覚めたのね」
顔を横に向けると、女が隣に座っていた。
それもめちゃくちゃ美人な女。
「ここは?」
「ウェーズニッヒ王国の王都ビカリテからずっと南に行ったとこ。あなたを抱えてここまで逃げてきたの」
胸元まで伸ばした水色の長髪に、片目を隠した前髪。
髪色よりも透明感のある青色に輝く瞳は力強く感じるが、目が合い、にこりと微笑むと優しそうな表情に変わる。
美人だ。
闘技場の客でも見かけないほどに。
だが、
「……痴女か」
「なっ!?」
右足だけ履いた網タイツに、V字に秘部と胸だけを隠した銀の革。
素肌の多くを晒した服装を好んでするんだ、痴女と呼んで間違いはない。
「まあ、大きすぎる胸を隠すこともなく見せつけるスタイル、俺は嫌いじゃないがな」
そんな当たり前の感想を言われた彼女は、なぜか顔を真っ赤にする。
「俺は嫌いじゃないがな……じゃないわよ! 初対面の相手を痴女呼びとか、ほんと最低!」
怒られた。
こういう格好の女は、こんな言葉なんて気にしないとも思ったのだが。
「いや、すまない。そういう目で見られるのが好きだからその格好をしているんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ! この格好は、その、設定的にそうなってるの!」
「設定?」
首を傾げると、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねて近づいてきたウサギ?が俺にパンチする。
ウサギにしては随分と丸っこい体に鋭利な一角。
そんな灰色の毛並みのウサギに似た何かの一撃。
まるで親を辱められて怒っているような。
まあ、体が小さいのでまったく痛くはない。
『パッモォ!』
「こら、パモ。この人は病み上がりなんだから叩いちゃダメでしょ」
「パモ? お前のペットか?」
「んー、ペットというか使い魔獣というか」
「魔獣? そのウサギがか?」
彼女の膝にちょこんと座るパモ。
魔獣というのは闘技場で見たサイクロプスぐらい巨大で狂暴だと聞いていたが、こんなに小さくて弱々しいものなのか?
「そう。あっ、自己紹介がまだだったわね。あたしは魔獣使いのペトラ・ガーネット。あなたの仲間よ」
「仲間……?」
「それと」
「おう、目が覚めたか」
初対面の相手に急に仲間と言われて困惑していると、男の声がした。その声は闘技場で俺を助けてくれた奴だった。
全体的に黒色の身軽な服装に口もとを布で覆う格好。
背丈は160とそこまで高くはなく、顔付きからもまだ十代後半といった感じに見える。
「怪我の具合はどうだ、兄弟」
「兄弟? ま、まあ、彼女……ペトラの看病のお陰でだいぶ痛みはないな」
「それは良かった。さっすが”元看護師”だな」
「在職中なんだから元は余計よ。こんなことになってなかったら今頃だって夜勤中だったんだから」
上半身を起こす。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は弐虎竹蔵≪ニトラ・タケゾウ≫。一応の所属は闇ギルドのシノビって扱いだな」
俺を看病していたのはペトラ・ガーネットで、使い魔獣のウサギの名前はパモ。
闘技場で俺を助けてくれたのが闇ギルド所属のシノビである弐虎竹蔵。
やっぱり、俺はどちらとも知らない。初対面だ。
助けられる理由も、看病して、一緒に逃げてくれる理由も思い当たらない。
「なぜ、俺を助けた」
二人の表情からは何かを隠していたり企んでいる様子はない。
それどころか奴隷剣闘士という世間的には野蛮で危険な俺を前にしても警戒心を抱いている感じすらない。
であれば、素直な疑問を二人に投げかけるべきだろう。
「どうしてって……」
「お前が俺たちのリーダーだからだぜ、兄弟」
「リーダー? すまない、何を言っているのかわからない」
二人は顔を見合わせる。
そしてペトラが口を開く。
「もしかして、この短期間で記憶を失ったとか?」
「記憶?」
「自分の元の名前──”日本”での名前は覚えてる?」
「ニホン? ニホンって、なんだ……?」
そう問いかけると、二人の表情が一瞬にして険しくなった。
「おいおい、冗談はよしてくれよ兄弟。いいか、状況を整理するぜ。俺たちは日本でおかしな鐘の音を聞いて、いきなりこのゲームの世界に転移させられた」
「ゲーム? だから何を言っているんだ」
「……マジか。これ、完全に記憶を失っちまってんのか」
「というより、そもそも彼は転移者じゃないって可能性は? だって、あの鐘の音からまだ5日しか経ってないのよ?」
「いや、さすがにそれは……。じゃあ、人違いって可能性はどうだ?」
「それはないんじゃない? あたしたちがゲーム通りのキャラクターになってるんだから、名前と見た目が同じ彼が、あたしたちの探してたガラル・アッフェンドで間違いないでしょ」
「なら、同一人物か……。ただ、元の記憶はないものと考えた方が良さそうか」
焦ってみせたり困ってみせたり。
そして、改めて。
彼らは俺が疑問に思っている”不思議な世界での物語”の話をしてくれた。