【R18】主人公に蹂躙されるためだけに用意されたエロゲの悪役である俺が逆転できるルートがあるらしい。 作:柊咲
──ペトラ、弐虎、それにユーヒニアとノワールはこの世界の人間ではないらしい。
元々は日本という別の世界に生きていた人々で、あの鐘の音を聞いたとき、この世界の住人の”中”に入り込んだ。
そもそも、彼らの認識では、この世界はゲームの中の世界なのだとか。
絵本とも盤上遊戯とも違う遊び。
なんのことだかさっぱりだが、そういう世界らしい。
そのゲームの物語では、ユーヒニア・アラン・ウェーズニッヒという主人公がいて、ユーヒニアは五人いるお姫様と出会い、苦難を共にしながら魔物の王である魔王を倒すそうだ。
「──で、そのゲームには王子様からお姫様を奪おうとする悪い奴がいるわけなんだが、それが兄弟だ!」
弐虎は楽し気に笑いながら俺を指差す。
いろんなことがあって頭の中がぐちゃぐちゃなこっちの気も知らずに。
「別に、俺はそのお姫様とやらと面識がないから奪おうとは思わないんだが」
「兄弟に面識がなくても、ゲームではそういう流れなの。いい女好きだろ?」
「まあ」
男なら誰だっていい女には弱い。
と、不意にペトラのことを見てしまった。
今の俺にとっていい女といえば彼女だからだ。
彼女は赤面して全身を隠す。
「あたしはお姫様じゃないからね!」
「あ、ああ、すまない」
「まあ、兄弟がその気ならペトラを食べちまうのもいいと思うぜ!」
「ちょっと、弐虎!」
「はははっ、まあそこら辺はお二人に任せるとして話を戻すが、ユーヒニアに攻撃したとき、変なバリアーみたいなのに防がれてただろ?」
「バリアー? ああ、魔法防壁《マジック・シールド》のことか。あんな強力な魔法防壁《マジック・シールド》は今まで見たことがない。相当な魔力を込めているんだろうが、それと同時併用で攻撃魔法も使っていた。常人では考えられない芸当だな」
「魔法防壁《マジック・シールド》? ……ってのは実際にこの世界の魔法であるんだろうが、おそらくあれは魔法とかじゃなく、システムの影響だと思う」
システム。
そういえば、ユーヒニアもそんなこと言っていたな。
「そのシステムってのはなんだ?」
「システムってのはあれだ、んー、なんて説明したもんか。この世界とは違うゲームの知識だから、そのまんま説明しても兄弟にとってはちんぷんかんぷんだと思うぜ?」
「それでも構わない、教えてくれ」
ユーヒニアのあの異常な力は普通じゃなかった。
おそらくもう一度あいつと戦ったとしても、あの魔法防壁《マジック・シールド》を破ることはできない。
それどころか、相対したときには既に攻撃魔法で殺されている可能性まである。
俺には理解できないことだとしても、要因があるのなら参考までに聞いておきたい。
「わかった。システムってのは──」
それから弐虎は俺にもわかりやすく説明してくれた……が、本当にちんぷんかんぷんだった。
言葉はわかるんだが、そんなことありえるのかという感じだ。
「要するに、俺がその五人いるお姫様を主人公よりも先に堕とせば、ユーヒニアたち【主人公陣営】のレベルが下がって、俺たち【悪役陣営】のレベルが上がると」
「そういうこと。あのシールドは、兄弟とユーヒニアのレベル差が大きいから発生したんだと思うぜ」
「じゃあ弐虎の考えだと、レベルが均衡、もしくはこっちが上回ったら破れるということか?」
「俺というかゲームの知識だとな。まあ、魔法なんてのは俺たちの世界にはなかったから、正直なところレベル差っていうシステム以外の理由だったらお手上げだがな」
「なるほど」
「で、ゲームだったら、その陣営のレベルが反転すれば物語が主人公ルートから裏主人公ルートに確定するんだ」
「ルート?」
「あー、簡単に言ったら、今のこの世界はユーヒニアたちが主人公の物語だけど、兄弟が主人公の物語に書き換わるってわけだ」
そういえばあのガキ、自分が主人公だとかほざいていたな。
ということは、あいつも弐虎たちと同じくゲームとやらの知識があるってことか。
「ねえ、大丈夫?」
そこで、心配そうな表情のペトラに聞かれた。
「ん、ああ、問題ない」
「こんなこと急に言われても意味不明でしょ? だから、あんまり難しく考えないでいいからね」
ペトラが苦笑いを浮かべながら言う。
頭を抱えたくなるほど理解不能な妄言だが、二人が嘘を付いているとは思えない。
「わかった。理解は、まだ難しいが……二人の話してくれたことはわかった。納得は、すまない……」
「ううん、大丈夫。正直、あたしたちもすぐには理解できなかったから」
「俺たちの世界の知識がない兄弟に、今すぐここはゲームでルートがあってーとかを理解しろって方が無理だわな。ただユーヒニアのあの異常な力は、普通に戦っても倒せないのはわかったと思う」
「ああ」
「そしてユーヒニアだけじゃなく、今の主人公陣営は全員があれぐらいの力を持っているんだ」
ペトラと弐虎が悪役陣営ということは、ユーヒニアとは別に主人公陣営の人間──それも二人みたいに別の世界から来た者がいるのだろう。
そして死んでしまったがノワールという人物もいたということは、その人数は一人や二人という話の範疇ではないはずだ。
「あの鐘の音から今日で五日。既にユーヒニア以外の主人公陣営も各々で動いててな。……残念だが、悪役陣営の半数は既に殺された」
悔しそうに言葉を漏らす弐虎。
ペトラも俯いたまま話す。
「レベル差があるから一方的な蹂躙だったみたい。それに被害はこの世界にいるNPC……じゃなくて、この世界の人たちにも及んでるそうよ」
「主人公でもないのに王国を乗っ取って王様気取りの奴とか、他にも略奪強奪……世界中でめちゃくちゃに暴れまくってるみたいだ」
「どっちが主人公でどっちが悪役かわかならいわね」
ペトラがため息混じりに言う。
そこで各々が考えるような間が生まれた。
「さて」
弐虎が立ち上がり、大きく伸びをする。
「俺はそろそろ出発するかな」
「出発?」
「悪役陣営が潜伏している隠れ家にな。俺が兄弟を捜している間、他の仲間には主人公陣営の動向とかこの世界についての情報収集を頼んでたんだ」
荷物なんかも持たず、口元を覆った頭巾を鼻上まであげる。
そして俺と目が合うと、弐虎は苦笑いを浮かべながら頭をかく。
「まあなんだ、いきなり別の世界だとか陣営だとかレベルだとか、兄弟からしてみれば意味不明で頭がこんがらがってると思うけど……もし気が向いたらでいいから、手を貸してくれると助かるわ」
弐虎は強制するわけでもなく返答を求めるお願いでもなく、独り言のように笑いながら言った。
「このままだと俺たち、ちっとマズいからさ。もし少しでも手伝っていいと思ってくれたら俺たちの隠れ家に来てくれ。待ってるぜ、兄弟」
俺の返事も待たず、弐虎は俊敏な動きで木へと飛び乗り、そのまま木から木へと駆けていく。
残されたペトラに視線を向ける。
「ペトラはあいつと一緒に行かなくてもよかったのか?」
「弐虎はレベルが低くても移動速度だけは高いみたいだから。あたしが一緒だと、向こうに到着するの遅れちゃうから」
「そうか」
「うん」
そこで沈黙が生まれた。
焚き火を眺め、各々が何かを考える。
今日一日で色々なことがあった。
闘技場で魔物と戦って、倒せたと思ったら王子が乱入して滅茶苦茶にされて。
その王子に殺されるかと思ったら助けられ、しかもそいつらは別の世界から来たと言う。
主人公、悪役。
ゲームの世界に、陣営だとかレベルだとか。
意味わからないことだらけだ。
だが、
「明日、その隠れ家ってとこに案内してくれ」
「え、もしかして手伝ってくれるの? こんな怪しい話するあたしたちに」
「弐虎とペトラは命の恩人だからな。助けてもらったのに、なんも返さないわけにはいかないだろ」
「でも……」
ペトラたちがおかしなこと言ってんなとは思うが、俺はずっと外の世界を目にしたことがなかった。
ガキの頃に顔も覚えていない親に金で売られて、奴隷になって、戦う素質を見出されて奴隷剣闘士になった。
それからはずっと奴隷剣闘士として毎日のように他の奴隷剣闘士と殺し合いをさせられてきた。
そんな俺が今は牢の外の世界にいる。
だから外に出た今この瞬間も、俺からしてみればここが普通とは違う世界みたいなもんだ。
何より。
「あのガキに腹を貫かれたまま逃げるなんて俺の性格上無理な話だ。あのガキをぶん殴って、大人を怒らせたらどうなるかわからせてやらねえと。だからお前が遠慮しても、俺はお前たちに付き合わせてもらうぞ」
そう笑いかけると、ぽかーんとした表情を浮かべていたペトラだったが、すぐに大笑いした。
「あははっ! 凄いね、ガラルは。あんな手も足も出ずに負けたのに再戦を望むなんて」
「手も足も出ずは余計だ。あの魔法防壁《マジック・シールド》がなければ俺が勝っていた」
「ええ、そうね。あたしも、ガラルなら次は絶対に勝てる気がする」
その表情が綺麗で、つい見惚れてしまった。
「あっ、そ、その、うん……じゃあ、明日出発するんだから今日は早く寝ないと!」
勢いよく顔を背けたペトラ。
俺の寝る位置と、そこからずっと遠くのペトラが寝る位置を指差し、彼女は横になる。
「あたしが寝てる間に変なことしたら、許さないから! お、おやすみ!」
「ああ、おやすみ」
おやすみと誰かに言われたのなんて初めてかもしれない。
『パッモ!』
横になったペトラを魔獣のパモが仁王立ちして守ろうとするが、三秒後には気絶するようにパモは眠っていた。