セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
次に訪れた街は今まで訪れて来たどの街よりも大きな街だった。
姉上の地図にはここでも間引きをしろと書いてあるが、本当に必要なのか分からん。
一先ず街の前に降りて、貴族の証を見せる事で優先的に街に入る事が出来たが……
「十分に人も多く活気があるな」
「ここ、休憩ポイントでは無いんですか?」
「でも外は少し濃い魔物の臭いがしました。情報収集した方が良い。です」
「そうだな、そうするか」
こういう大きな街にはな、あるんだよ。あれが。異世界ファンタジー定番のあの組織が。
「行こう、冒険者ギルドに!」
俺は鼻息荒く歩いて行く。魔力測定器を粉砕し、実力を測る為の試験で試験官を倒し、最初から高位のランクで冒険者ランクを始める事を想像して、一際大きな建物を目指して歩く。
その建物には盾の上に剣と杖が交差した看板が掛かっており、字が読めなくとも冒険者ギルドだと分かる親切設計だった。
そして扉は開け放たれており、そこを屈強な男や谷間がボインボインのお姉さんが入っては出て行く。鼻息が荒くなっても仕方ないわな。うむ。
「すまなかった……だから背中をつねるのやめてくれ……」
「他所の人に現を抜かせない様に今晩はいっぱいしましょーね……?」
「ハルラと交代で搾ってあげる。日数に余裕もあるしだいじょぶだよ」
脅しなのかご褒美なのか分からないが、どちらにせよ俺に損は無いので喜んで頷いておく。二人は不服そうに指を離してくれた。
そしたら、ようやっと入りましょうか! 冒険者ギルド!
扉を潜ると、広がるのは想像以上に綺麗な一階の光景。二階までの天井をぶち抜いているのか吹き抜けになっており、室内にも関わらず天井が高いので閉塞感も窮屈感も無く、寧ろ開放感がある。
そして冒険者用にだろう依頼が張られているボードと受付、お約束の併設されている酒場、酒場からは二階に続く階段があり、そちらにも食事用のテーブルや椅子がある様だ。
中に居る冒険者の程度は下の下からぱっと見で上の下くらいは居るな。上の下で逃げ足の速いあの三人の騎士と同じくらいの強さだ。
これだけ建物がでかいと、集まってくる人も多く、層も厚いんだろう。
さてさて、情報収集と言えば酒場だが……個人的には依頼ボードも見たい。受付の綺麗なお姉さんともお話ししてみたーい。
と思っている所に、わざわざ俺達目掛けて歩いてくる輩が二人。
「おうおう、ガキが来る場所じゃあねぇぞ? 綺麗な女を二人も連れてよぉ〜。襲われたら危ねぇだろう? なあ?」
ん? 綺麗な女?
「ケヒャヒャ! そうだゼェ? こーんな別嬪さんを二人もだなんてヨォ、わるぅ〜い大人にいやらし〜いことされちまうゼェ!? ケヒャヒャヒャ! そう……オレ達みたいな——『はっはっはっはっは!!』——は?」
はっはっは! 別嬪さん!
「はっはっはっは!!!! お前達!!」
「なっなんだぁ!? やんのかオラァ!?」
「おいおい容赦はしねえぞお!?」
「人相も見た目も悪いが、見る目はあるな!! 俺の自慢の仲間にして、俺の掛け替えの無いパートナー達を一目で綺麗で別嬪と見破るか! 気に入った!! ちょっと飲もう!!」
なんでぇなんでぇ! 気分が良いな! 惚れた女を褒められるとこんなにも嬉しいのか!
二人の肩を掴んで適当な席に腰掛ける。
「一先ず好きな物頼めよ。今回は俺が奢るぜ? 何せ気分が良いからな! 俺はヴィクトル、ピンクの髪がハルラで猫耳の方がウィノだ! ああお姉さん! 注文良いか?」
「……えっと、は、はーい!」
「何飲む? ワインか? エールか? それともちょっと値は張るがラガー行くか!?」
「うぉぅ……じゃあラガーで」
「けひっ……おっオレもラガーで……」
注文を取りに来たお姉さんにラガーを三つとオレンジジュースを二つと適当につまみを頼んだ。
「ちょっとおいおい、聞かせろよオイ! どこ見て良い女だと思った!?」
「顔……だな、まあ」
「オレは髪の艶かねぇ……けひ」
「良い着眼点だ。髪は毎日俺が『クリーン』を掛けているからな。顔はもう生まれ持ったもんだが、性格も顔に出てくる。うちのは二人とも顔も良けりゃ性格も良い。自慢の女だ! お前らに良い女は居ないのか!? その人を見る目で見抜いたやつぁ居ねえのか!?」
「いやっその、いねぇよ…………」
「オレらに構ってくれる女なんざ居ねえよ……クソが」
そこで何やらドン引き顔のお姉さんが注文の品を届けてくれた。お礼にチップを少し多めに恵むと、俺を抱きしめておっぱいでぱふぱふしてくれた。最高かこの店。
「取り敢えず飲むか、っとその前に『アイス』」
これは氷を打ち出す魔法。の、改悪版。氷を生み出すだけの魔法にアレンジした。
「ほれ、これで飲め! キンキンに冷えたラガーはスッキリすんぜ」
輩二人は俺の顔と氷が入って冷え始めたラガーを見比べて、ガバッとラガーを掴み取り喉を鳴らして飲み干した。
「はっはー! 良い飲みっぷりだ! お姉さんラガー二つ追加!!」
「あの、ヴィルくーん?」
「二人は好きに動いて良いぞ? 俺はこの理解ある男達としばらく話し込む!」
「あっじゃあ、うん。情報集めてくるね?」
「ウィノもハルラについてく」
そうして二人が去った後、俺は二人から話を聞き出す。
なんで自分がモテないのか、自分が何をして来たのか。ストレスをぶちまける様に涙と後悔、そして怒りと共に語られる話はなんとも下らないもので……だからこそ男臭いものだった。
「なあ、ゴッツイの。ケヒャ。お前達の特技はなんだよ。聞かせてみろ」
「俺はこのデケェ身体しか取り柄がねえよ!!」
「オレぁ、手先が器用だぜ? 何度財布を擦ってやったか……」
「犯罪は良くねえがなぁ? 良い特技だと思うぜ。でけえ身体は誰かを守るのにピッタリだ。ゴッツイのがでけえ盾構えて魔物から守ってくれるだけで、どんなに安心するか」
「…………おぉ……」
「ケヒャはその手先の器用さだな。魔物や犯罪者は時々武器持ってやがる。それを奪えたらどんなに安全に倒せるか。しかもケヒャの方は一芸としても披露できるぜ? 例えば……」
取り出した銀貨を指で弾き、右手で取った振りをしながら左手で掴む。それをコインを取る瞬間に右肘をぴくっと動かすだけで……
「どっちにコインがあると思う?」
「「右」」
「残念左手だ。つーかお前ら逆に目良いな。やっぱ見る目あんぜ」
「「はぁっ!? 嘘だろ、絶対右手で掴んだのに!」」
「これは技術だ。やり方さえ分かればケヒャなら幾らでもやれる。良い女を掴まえる一芸にもならあ」
「「…………」」
何やら沈黙してしまった二人は考え込んでいる様子。
俺はそれを見ながらラガーを煽り、語りかける。
「良いか、世の中にはすげえ奴ってのはごまんといる。だがな、何にも秀でて無い奴は居ないんだよ。最高クラスの才能は無いかもしれない、どこまで行っても二流かもしれない。でもよ、それがお前らの良いところなのには変わり無いんだよ。魅力なんだよ。……ならさ、磨け。磨いて磨いて、お前を誇れるお前に成りやがれ。……俺もさ、俺に出来ること探して今に至るんだよ。だから、その道のしんどさは知ってるが、だからこそ応援すんぜ」
「ヴィクトル……いや、アニキ……くっ、うぅぅ……うおおぉぉぉん!!!!」
「ケヒャっ、ケヒャっ、ケヒャっ……けひゃぁぁぁぁ!!」
「面白い泣き方だな、はっはっは!! 泣け泣け! 後悔して恥かいて泣き喚け!! その恥がお前達をより立派にしてくれらぁ!」
こいつら程荒れてた訳じゃ無いが、俺の人生も恥の多い人生だった。
いいや、……ああしておけば良かったと今なら言えるんだ。あれらが恥だったと今なら気付ける。勿体なかったと言えるんだ。
それに気付けたから後悔できる。涙を流せる。
過去を乗り越えるっつーのは、泣いてから始まるんだよな。俺はそれを赤子の頃にやっといた。意味も無く悔いて泣いた。だから前を向けている。
「お姉さん! ラガーもう三つ!」
「はーいっ」
「おいお前らぁ! うちの女の良いところ言ってみろ!」
「顔と性格と髪ぃぃ!!」
「全部でさぁ!! 最高の女だぁ!!」
「はっはっは!! そうだろう! 前を向いてりゃ良い女は必ず寄って来る! お前らも前向いて掴まえてみやがれ!」
「「うっす!」」
酔いが回って来た俺は気付けばどこかの宿屋に寝かされており、ピッタリ張り付く様にハルラとウィノが添い寝していた。
記憶が朧げだが、悪い気分じゃない。この二人の体温を抱き締めて、もう少しだけ眠る事にした。
*****
俺はゴーダ。
オレはケヒア。
俺達はベルトの街のごろつき冒険者だ。
弱っちい新人狙って金をカツアゲしたり、独り身の女に手を出そうとして出し切れねえ小悪党で通っていた。
今日も今日とて可愛い新人を怯えさせて遊んでやろうと思ったら、気付けば俺たちは身の上を語っていた。
確か経緯は……連れを褒めたから。気分が良いっつって飲んだ事ねえくらい美味い冷えたラガーを飲ませてもらって、見る目があるって褒めてもらえてよぉ。
嬉しかったよナァ。あんな気持ち良く真正面から人に褒められたのはいつぶりだァ? 俺達は嘘なんざ何も言ってねえ。
良い女が居て、キョロキョロする新人が居て、いびってやろうと近付いて、そしたら励まされちまった。
良い女の掴まえ方と、魅力を伸ばせと言われ続けた。
俺の女の良い所を言えと言わされ続けた。
なのに、悪い気はしなかったんだよなぁ。
「最後の方は向こうが酔っぱらっちまって、肩組みながらラガー飲んでサァ。楽しかったナァ……」
「あんなふうに気持ち良く酒を飲んだのは初めてだぜ……」
「ナァ。明日、髪切りに行かねえカァ? アニキみたいな感じにサ」
「ヘッ……悪かねえな。ちぃと真面目に稼いでよ、詫び、返せるか分かんねえけど……今からでも、前……向いても、い゛い゛よ゛な゛ぁ゛……」
「あたぼうだろうガァ……向かなきゃアニキにぶっこっろされんゼェ……けひゃっ……」
白い目を向けられて、恨み辛みをぶつけられて、それでも前向いて……磨き続けるしかねえよな、アニキ。
いつかアニキみてえにヨォ、自分の女見つけてヨォ、自慢してぇゼェ……胸張って奢って、笑わせてやりテェ。
*****
これは余談だが、ここから数年後。ベルトの街の奇術師と守護者と呼ばれる冒険者が生まれる。
二人はごろつきだったことを隠さず、その上で二つ名を得る程の冒険者となったのだ。白い目で見られる事は未だある。だが、それ以上に受け入れられる存在なのだ。
ちなみに、この二人には面白い話がある。
二人の妻を褒め称えると、酒を奢ってくれるのだ。嫁を褒められて喜ぶ二人を見て、その嫁もまた喜び、お腹の子どもも腹を蹴る。
そして二人揃って満面の笑顔で乾杯する。いつかの謎のアニキに向けて。