セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
屋敷を出た二頭引き六人掛けの馬車が二台。その周囲に護衛として馬車の前後左右を囲む騎乗した騎士が十名。
護衛の都合上、前の馬車に両親と戦闘メイド合わせて四人が乗っており、後ろの馬車に俺と姉上とお互いの専属のメイド合わせて五名が乗っている。
姉上の専属メイドは戦闘メイドでもあるグリナ。ジニア曰く筆頭にもなれるだけのポテンシャルは持っているらしい逸材だ。深緑色の落ち着いた髪をシニヨンにしており、髪と同色の素敵な瞳。困り眉が癖付いているのかいつ見ても眉の形は八の字。姉上に振り回されているのだろうか。少しだけジンジャーを彷彿とさせるな。
何にせよとても綺麗な事には変わりない。がしかし、姉上の専属にまで手を出してなるものか。左右からの視線も鋭い事だし自重自重。
とまあ、そんな面子の中、姉上に間引き中の話を語って聞かせている俺なのだが、姉上は実に聞き上手でね。俺の話す事全てに新鮮なリアクションを返してくれて、更には楽しそうに笑ってくれる。話すのが楽しいと感じるのは久しぶりだ。
気付けば窓の外の景色が街並みから木々に変わっており、程無くして馬車が止まる。
護衛の騎士が馬車の扉をノックし、降りてと言うので降りる。
前の馬車でも両親とメイドが降りてきている。
どうやら俺のサイキック運輸はここから始まるらしい。
「
『うおぉ〜!!!!』
騎士や御者の皆が嬉しそうに声を上げる。
人心掌握、と言う程では無いが、飴とはこう言う形でも与えられるのだな。騎士は暇さえあれば鍛錬、巡回、間引き、護衛の日々。
そんな中、上司の目の届かない場所で遊ぶ事を上司がお許しを出したんだ、それはさぞ気分が上がることだろう。俺も見習わねばならないな。
「ヴィクトル、早速だが頼むぞ」
「はい。承りました」
見事な飴。鞭を振る必要がない程度には信頼しているが故の行動。
俺もまた父上からの信頼を勝ち取るべく、サイキックの透明な足場へと皆を上がらせていく。
「おぉ、サイキックは視認が難しいと言う特性上、こうなるのか……年甲斐も無く楽しくなってしまうな」
「まあ、貴方ったら。ふふふ。でも私は少し怖いわぁ」
母上のその言葉にそっと腕を差し出した父上。母上もまた無言で、しかし嬉しそうにその腕を取って俺のサイキックの上に上がっていく。夫婦仲が円満で何よりだ。
次いで姉上が上がり、俺が上がる。
その後に両親付きの戦闘メイドであるラヴィとティルがサイキックへと足を掛ける。
この二人はジニアが期待していると言う次期筆頭戦闘メイド達。サイキックに上がる際も重心が微塵もぶれず足音も立てない。澄まし顔で両親の近くへと侍って待機。何とも頼もしいな。
次にグリナとハルラ、ウィノ。
うちのメイドは戦闘メイドでは無いので重心フラフラで問題無いが、グリナ……あわわとしているな。不安を抱かせるのは俺の信用の無さの現れだろう。
グリナへと手を差し伸べる。
「グリナ、大丈夫だから掴め。この程度の人数ならば何ともない」
「あっそうでは無く……透明なのが改めて不思議で……でも、ありがとうございます」
グリナは戸惑いながらも俺の手を取ると何故か少し頬を染め、サイキックの足場へと上がった。その際に掴んだ手の平は様々な場所が固くなっており、積んできた鍛錬の量が窺い知れると言うもの。実に頼り甲斐がある。まあ、戦闘メイドに頼る自体にならないことが重要なのだがな。
「では、全員乗りましたので……。そろそろ空へと上がるとしましょう!」
サイキックにて四方と上方にも蓋をして三メートル四方の箱を形成。後に徐々に高度を上げて行く。
その際には慣れていないハルラとウィノ以外の全員、下で見ている騎士達までもが「おおっ」と声を漏らしていた。少し気分が良くなるな。
今回は高度にして十メートルほどにまで上がった所で道なりに前進を開始する。
同時にサイキックの形を変えて背もたれ付きの座席を設ける。分かりやすい様にサイキックの腕で各座席に布を被せる。
のだが……両親はそんなことは気にもならないのか先頭にてサイキックの壁に張り付きながら高所からの眺めを二人仲良く堪能している。
姉上とメイド達に目配せと頷きで座る様に促し、徐々に移動速度を上げていく。
「父上、今は道なりに動かしていますが、高度はもっとあげられますし、森なども上空を突っ切る事が可能です。次の街の方角さえ分かれば直線で進めますよ?」
「はっはっは!! なるほどそうか! お前の速さの一番の理由は道を無視出来る事! 実に見事だ! あの双子を雇って置きながらその可能性に目をやれぬとは……私もまだまだだな!」
そう言ってご機嫌に笑って見せる父上は席に着く俺達を見ると、当たり前の様に空いている席に掛けて俺へと顔を向けずに「北東へと進路を切り替えろ」と言った。隣で母上が心底可笑しそうに笑っていたのでおそらくそう言う事なのだろう。
俺は短く相槌を打って進路を変え、真下の風景を緑一色へと変えて行くのだった。
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さて、ここで一つ大事な話。基本ヘクトル家の皆は善人だ。助けるべき者は助けるし、救いを必要としている者への施しを惜しむことも無い。
では、そんな我が家が盗賊と思しき者達を見つけた場合どうなるだろうか。答えは一つ。疑わしきは罰す。被害を出す前に討伐。先ずは捕縛し、後に尋問。出身や故郷、目的を解明する。
ここで面倒なのが盗賊になった過程だ。虐待だの、食糧不足だの、騎士達の救助が間に合わずに滅ぼされた村の生き残りだの、どうしようも無い理由がある。
だが盗賊に堕ちた以上、手心は加えられない。良くて犯罪奴隷と言った所か。
まあ何が言いたいかと言うとだ。生かしたとして運ぶのも面倒。殺すとなると殺人は未経験の俺には結構きついと言うことで。
「全ての盗賊の捕縛、見事な手際だった。それに……ヴィクトルよ、良い機会だ。経験しておけ」
今回たまたま空中から開けた地面と洞窟、洞窟の穴の前に見張の様に立つ粗野な出立の男二人を見つけ頭上から急襲。
その音に反応して奥から出てくる者達をサイキックの腕にて軒並み一撃で沈めて見せた後、俺を筆頭にグリナとウィノが洞窟内を調査。捕らえられていた女性や盗品を発見。奥まった場所で踏ん反り返っている長を『アトラスの腕』で手加減しながら殴り付け壁とサイドイッチでノックアウト。
盗賊である事が確定した後、帰って来た俺の前で父上が抜剣して見張りをしていた者の首を軽やかに落とした。
その肉の断面は見事なもので、斬られた者もあまり痛みは感じなかったのでは無いかと思う。その研ぎ澄まされた技量と躊躇いの無さが最後に盗賊達に掛けてやれる温情なのかもしれない。
生々しい首の肉と骨の断面。血管から噴き出す大量の血。
ああ、こうして見れば存外魔物と変わらない。生きていた者が死んだ。肉を切り、骨を断てば、須く出血し命を落とす。良くも悪くも一つの命でしか無いのだろう。
俺はその日、初めて人の首を刎ねた。
ジニアとの訓練で身に付けた会心の一振りにて、皮膚と肉と骨と肉と皮膚を断ち切る。
やはり魔物のそれと大差は無い。だと言うのに……何とも気が滅入る思いになる。
「誇れヴィクトル。お前は被害者を助け、未来の被害を未然に防いだ。ヘクトル領の治安を守ったのだ。……貴族とは、領地、そして領民を守る者を指す。魔物を駆除し、悪人を捌く。お前は今ここで、初めて貴族になったのだ」
父上の言葉がどこか遠くに聞こえる。貴族とか、そんな事どうでも良かった。人を殺めた事実が想像以上に心を蝕んだ。
切り落とした首と切り離された胴体を見つめてしまう。すると、唐突に胸ぐらを掴まれて視界一杯に父上の勇ましい顔が広がる。
父上の表情は俺を責めるものでは無く、俺を褒めるものでも無い。
ただ、俺を真っ直ぐに見るのみ。
「数多の血に汚れ、汚れたその手を誇れ。お前のその手の上に、多くの民の安寧があるのだ。人を殺した事を誇るのでは無い、民を守れた事実を誇れ。顔を上げろ。涙も鼻水も涎も吐瀉物でも何でも吐き出して構わない。だが必ず前を、上を見ろ。歩みを止めるな。お前の行いは正しい。私が認めよう。良いな」
「………………はい。……はいっ」
俺の声は震えていたかもしれない。しかしヴァン父上は俺の胸ぐらを今度は優しく離し、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で、陣頭指揮を取りに動く。
一人残された俺の元にハルラとウィノが駆け寄ってくるが、俺は二人を手で制す。
血のついた剣を地面に振って血を払った後クリーンを掛け、剣を鞘へと納める。そして自らにもまたクリーンを掛け、二人に向き直る。
「今は一人で立ちたいんだ」
「っ……畏まりました」
「ヴィクトルさまの仰せのままに……」
一定距離を空けて控える二人の間を抜け、父上の隣に立つべく歩き出す。少し膝が震えているが、直に止まるだろう。
俺はその後も何人かの盗賊の首を刎ねた。アジトになりそうな場所は今回は壊さず残す事にし、地図にマークを残す。父上は盗賊ほいほい的な扱いをしたい様だ。
その後は家族とメイド達プラス、アジトに残る品や捕まっていた女性を乗せて最初の目的地である宿場町へとサイキックを動かして行くのだった。