セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
あれから幾つかの街を経由して挨拶回りをしながら一日後。
大きな外壁と、その内側にある堀、城壁、そして遠目でもはっきりと分かる大きく美しい堅牢な城。
うむ。即ち王都である!
馬車なら片道二週間は掛かる所を三日で済ませてしまった俺はやはり皆からヨイショされて鼻高々。
やはりこの移動時間の短縮、移動中の景色、何より馬車の振動で腰を痛めないことへの感動が俺をヨイショしたくて堪らなくなるのだろう。
「自慢の息子をもったものだ……」
「これからはヴィル君に運んで貰いたいわねぇ!」
「ええ、喜んで!」
父上に頭を乱暴に撫でられ、母上に乱れた髪を直しながら優しく撫でられる。
この世界でも成人したと言うのに、子は幾つになっても子で、親は親なのだろう。
…………世界は違えど、温かいものなんだな。
さて、感傷に浸るのはここまで。
王都外壁にある貴族専用の入場門——貴族門へと『サイキック』を進める。
すると貴族門前には十台程の家紋が施された豪奢な馬車が並んでいた。
この時期は成人のパーティーへと子どもを送るために多くの貴族がやってくる。今並んでいる馬車達の殆どが俺と同じ目的なのだろう。
しかし、俺達は馬車が無い。生身で馬車の列へと並ぶのは危険極まりなく、伯爵家の貴族が徒歩で並ぶ姿もまた間抜けでしか無い。
なのでこれまで同様門前へと『サイキック』を進めて上から御登場。
話は行っているらしく、別室へと通されて手荷物検査をされ、速やかに王都へ入場。
門番が使う扉から出ると、理路整然と整った街並みと、遠くから聞こえてくる賑やかな喧騒が王都の活気を否応無く伝えてくる。
しかし観光する暇など無く、目の前に停められていたヘクトル家の家紋を背負った馬車の元へと向かう。
「お待ちしておりました、ヴァン様。トリテア様。トリアーナ様。そして、ヴィクトル様。どうぞこちらへ」
その際俺達を誘導案内するのは王都にあるヘクトル家の屋敷に勤める家礼である御者。
しかしただの御者と侮るなかれ。礼儀作法を弁え、馬の調教も熟し、召使としても現場でやっていけるレベルの猛者だ。
しかもそんな御者が運転する二頭立ての馬車が二台。
前の馬車へと父上、母上、姉上、そして俺が乗り込み、後ろの馬車にはメイド五人が乗り込む。
自領を出る時にはバラバラに乗ったが、あれはただの身内ノリ。
場を弁えるなら、必要も無くメイドと同席など貴族としては控えるべきだろう。ここ王都はそう言う場所なのだ。
王の権威と国の素晴らしさを見せ付ける
それに準じて貴族にもそれらしい振る舞いを求められると言うだけの話だがな。
しかして馬車。今日まで感じなかった懐かしき振動。座面から伝わる尻を痛める振動は、美しく整った石畳の路面の上なら最小限。
比較的落ち着いた馬車内部にて、王都の屋敷に着くまでの時間……家族会議は始まった。
「さて……今日から暫く堅苦しくなるぞ。王都の屋敷に勤める者達の中には他家の息が掛かった者も居る」
熟練貴族である父上が重々しく口を開く。主に俺へと向けられるその言葉と視線は盗賊を討伐した時並に険しい。
「アナちゃんは良いとして〜……ヴィル君ね。王都の屋敷に来るのは初めてだったわねぇ。それで言ったらハルラちゃんとウィノちゃんもかしら」
共に貴族社会と言う荒波を乗り越えて来た母上もどこか心配そうに俺と後ろの馬車を見遣る。
ちなみに“アナちゃん”はトリアーナ姉上の事だ。
「ヴィル、隙を見せるなとは言わないわ。貴方は貴方が思うまま居なさい。おそらくそれが最も効率的で効果的よ」
「屋敷で暮らす上で“効率的で効果的”?」
控えめに言ってミスマッチなワード。控えめに言わないなら語学の勉強を始めた方が良いと思う。
しかしあの姉上が言うのだ。
俺の為に領内の全ての情報を精査して、討伐すべき魔物やその危険度をまとめ、街から街への最短ルートを導き出し、俺が与えた情報だけで魔法の拡大解釈の検証実験を終えて成果を報告してのけた、
俺の認識を改めるべきなのは言うまでも無い。……いや改めて姉上優秀だな。
「いや、トリアーナの言う通りだ。ヴィクトルよ、お前には今まで通りで居てほしい。そしてあわよくば————
「落とせ?」
「そうだ、落とせ。分かりやすく言うならば、手篭めにしてしまえ。許可する。……いや頼む。息苦しいあの屋敷に住みたい者が居ないが故に、私達一家は皆が自領へと引き篭もっているのだ」
「はっ、はぁ……」
「ヴィル君の魅力と好色さを活かす絶好のチャンスね〜」
「あれ、母上……なんで……」
「息子の事だもの、身長体重異性の好みと経験人数くらいは把握してるわぁ」
馬車の壁へと頭を預け、静かに雫を一つ零す。
エロ本が見つかったとか、オナニー現場を見られたとか、そう言う次元じゃ無い。
何か……そう、何かが欠け落ちたような気分だ。
父上には正直かまわない。精通の報告したし、ジニアと言う身内スパイが居たからもう諦めてた。でもマッマはあかんてぇ。姉上抱いた事も知ってんのかなぁ?
母上に目を向けながら、姉上の袖をくいっと引く。
するととてもにっこりと微笑みが返ってきた。
俺は拳を額へと何度も打ち付ける。
「ちょっとヴィル!? 何してるのやめなさい!!」
「止めないで!! 俺は今記憶を消したいんだ!!」
姉上に身体を掴まれ愚行を止めた瞬間だった。
母上の手がそっと俺の頬に添えられた。
「ヴィクトル。責任ある男になりなさい。幾らでも侍らせなさい。幾らでも孕ませなさい。ですが、逃げてはなりません。受け止め、受け入れ、自らを誇れる人になりなさい」
「はは、うえ……」
嗚呼。ハーレムの主とは斯く在るべし。
母上の言葉に心臓を掴まれ、魂を揺さぶられる。
責任を負う限り、何をしても良い。何故なら責任を負うからだ。
それを果たせる者にのみ許されるのが真のハーレム……!!
「それはそれとして恥ずかしくて死にたいです」
「あらあら〜。ごめんなさいね〜!」
俺は脱力して姉上に抱えられたまま、馬車で話を聞くのだった。
===
それから暫くの後、馬車が止まる。
既に俺はきちんと席に腰掛けている。貴族だからな。当然だ。
そして御者が素早く馬車の扉を開け、まず俺が降りる。
降りた俺の視界に入るのは、規模は少し小さいが、実家よりもずっと豪奢で美しい白磁の屋敷。
一瞬宮殿かと疑ったが、ヘクトル伯爵家の威光を示すにはこれくらい必要なのだろう。
見惚れるのも程々に、姉上に手を差しだしてエスコート。
弟ラブな姉上は何処へやら、ヘクトル家が長女トリアーナが優雅に俺の手を取って降り立った。
続く父上も母上も、さっきまでとは比べ物にならないくらいにきっちりとしている。
後ろの馬車から降りてきたメイド達を連れて、俺達は歩き出す。白磁の屋敷へと。
玄関扉はラヴィとティルが開け、俺達は堂々と扉を潜る。
石材の床。踏み込んだ足を柔らかく受け止めるビロードの絨毯。天井から吊るされた豪奢なシャンデリアが玄関ロビーを煌々と照らす。
そして主の帰還を待ち構えていた多くの家礼達。
「お帰りなさいませ、ヴァン・ヘクトル様。並びに、ご家族の皆様」
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
ロマンスグレー、と言うやつだ。
音頭を取った家礼の長。ザ・執事と言わんばかり出立ち。極めつけのモノクル。名前はきっとセバスチャンだ。
「ジルベルト、相方わらず丁寧な仕事だな。屋敷に汚れ一つ見当たらん。皆も出迎えご苦労」
「はっ。恐縮で御座います。長旅、と言って良いかは分かりませぬが、疲れは溜まっておいででしょう。湯浴みの用意が御座います。如何しますか?」
「そうだな、折角の美しい屋敷を砂埃で汚すのも悪い。先ずは湯を頂こう」
「畏まりました」
父上とセバ……ジルベルトの会話……なんともまあシゴデキ。
色々と用意はしているが提案をするのみ。しかし一度指示が入ればテキパキと指示を出し始める。
先程まで頭を下げていたメイドやコック、御者の皆も迷いなく行動を取り出す。
一人一人がとても練度の高い素晴らしい人材達だ。
……だが、この中に他家の息の掛かった者もいるんだよなぁ。なので不用意な発言も出来ず、更には伯爵家に相応しい振る舞いを求められる、と。
自国の貴族同士なのだから牽制程度の意味合いなのだろうが、なんとも馬鹿馬鹿しい事だ。
そんな思考が顔に出ていたのか、俺達を浴場に案内する道中、せばs……ジルベルトが俺に声を掛けてきた。
「お初にお目に掛かりますな、ヴィクトル様。私は執事長を務めております、ジルベルトと申します」
「ああ、ジルベルト。この屋敷にいる間、世話になるよ」
「はい、それはもちろんで御座います。が、どうも気分が優れぬご様子。我々に、何か不手際が御座いましたでしょうか?」
キリリと怜悧な鋭い瞳がイケオジから向けられる。
そして同時に家族から、別の意味で心配そうな顔が向けられた。ボロ出すなよって。でもなぁ、普段通りで良いって言ってたし。
「不手際なんて全く無い。一人一人が自主的に行動に出る様は見事と言う他無かった」
「恐れ入ります」
「だがなぁ、遊びが無いと言うか。余裕が無いと言うか。初対面というのもあるだろうが、メイド達から飛んでくる視線や、張り付めた空気感に慣れないだけだ。王都の屋敷では今のが普通なのだろうしな。だから俺が慣れる。気にしないでくれ」
「………………」
せばすち……ジルベルトが黙りこくった。
俯き、わなわなと震えたたかと思えば……見開かれた瞳で俺を見てくる。
「大変優れた感覚をお持ちの様ですね。流石で御座います。……端的に言いましょう。現在メイドの中に他所の貴族が差し向けた者が数名入り込んでおります。目的はヘクトル家、引いてはヴィクトル様の身辺調査でしょう」
ジルベルトは間者が入っている事は分かっているそうだが、その目的や人数、誰が間者なのかは分かっていないそうだ。
と言うのも、我が家で雇う家礼達の多くは孤児院出身だったり、他所の家からお払い箱にされた様な者達だ。
大抵の場合はどん底手前で拾い上げられた事に対する恩義で忠節を持ってくれるが、その事情を知っていれば間者を潜ませる事は難しく無い。
そしてどうやらここ数年、致命的なものでは無いが、幾つかの情報が何故か広まっている事があったと言う。
内容はどれも俺の事。
ヴィートリヒ兄上は婚約済み、ヴァート兄上は既にメイドと結婚。貴重なヘクトル家の血と縁を狙う者達からすれば、俺が最後の頼みの綱。狙い目と言う訳だな。
「確実に広まっている噂としては二つ。ヴィクトル様が女好き、メイド好きであると言うものです」
拳を額に打ち付ける。出来るだけ力強く。しっかりと記憶を飛ばせる様に。強く、強くだッ!
「ヴィル!? やめなさいってば!?」
「止めないでくれ姉上!! なんで俺の下世話な話ばっかり筒抜けなんだよッ!! 理不尽だ!! 記憶飛ばす!!」
嗜められた上に身体強化魔法を施した姉上に抱っこされながら無様に運ばれる俺を他所に、ジルベルトは話を続ける。
「よって、どれも女、それもメイドとしてこの屋敷に仕えていると思われます。命の心配は無いでしょうが、どうかヴィクトル様におかれましてはお気を付け下さい」
「はぁ〜……はい。分かったよ……。話は聞いていたな、ハルラ、ウィノ。お前達は暫く俺の側を離れていろ。炙り出す」
「「畏まりました……」」
不満気な二人の頭を『サイキック』の腕で撫でる。
それを受けて二人ともが仕方無さそうに笑って、おとなしく撫でられるのだった。