セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
ノックが響く。入室の許可を出せば、ジルベルトを筆頭にして十人のメイドが入って来た。
歳は高くて三十代半ば程度から、一番下で二十歳くらいか。
……って言うか、何だコレは。ザルか? 杜撰か? どこの三流スパイだ?
俺と目を合わせた瞬間に視線が泳いだ奴が三人。これ確定だろ。ゲーム終わったんだが。おもんなっ!!
ジニアとの戦闘訓練で、ジニアの視線や意識の方向を読む技術を鍛え過ぎた俺のせいか?
仮にも筆頭戦闘面白メイドだ、手を抜いてようともそんじょそこらの一線級の戦士レベルの戦闘力はしてたからな。それで俺の水準そのものが引き上げられた……と言う事にしておこう。うん。
「仕事中に悪いな。俺はヴィクトル。ヘクトル家の三男坊だ」
腰掛けながら自己紹介。相手を立たせたままと言うのはちょっと貴族っぽいよな。
メイド達は存じておりますとばかりに深々と礼をするのみ。
間者っぽい三人もそこは変わらない……が、下がった筈の頭から視線を感じる。ほんっと分かりやすいな。ようやく現れた
「頭を上げてくれ。早速用件を伝えたい。実はな、連れて来た専属では無く、此方に勤めるメイドから数人を王都滞在中の俺の側付きに命じたく思い、ジルベルトに無理を言った」
俺の発言の意図を理解したメイド達が俄かにざわつく。
そのうちの三人は最早可愛く見える程に分かりやすく目つきを変えていた。
「さて、ジルベルト」
「なんで御座いましょうか」
「“三人”。貰っていいか?」
「……三人で宜しいのですか?」
「ああ。四人は多過ぎる。二人は少し大変かと思ってな。屋敷の維持管理に致命的な影響は無いか?」
「御座いません。承りました。どうぞ、私が選んだメイド達には御座いますが、お選び下さい」
言葉のやり取り以上に目でやり取りをする。
三人みっけた。
まじ?
まじまじ、確定。
じゃーはやく選んじゃってー。
そんな感じの目をしてた。……気がする。
と言う事でね、早速選んでいくんですけども。やっぱ自己紹介は大事よな。
俺はメイド達に名前と年齢と好物を言うように指示し、最後に性欲処理に応じるかどうかを一人一人に指名して問うてみた。
結果としては、七人目までは皆んな嘘が無い誠実な反応。性欲処理には全員応じるが、一線を越えるかどうかは半々と言った様子。
正直ちょっと嬉しい。今度頼もっかなぁ。
んで、残した三人は分かりやす過ぎて可愛い間者達。
「私はユーラと申します。歳は二十二歳、好物は辛いもの全般です。性欲処理に関しては、是非務めさせて頂きたいと思います」
ユーラは黒髪お下げの美人さん。瞳も黒いので勝手に親近感が湧く。
間者としての意識からか表情には陰があるが、女性としては魅力的。
バランス良くスタイルが良いのだ。出過ぎず、出なさ過ぎない良いバランスの肉付きだ。
ぱっと見の印象としては冷徹。
伏した目と、下腹部辺りで揃えられた両手。身じろぎもしない体幹と姿勢の良さ。そして澱みない喋り方。ザ・メイドと言わんばかりだ。
……だが、ジニアという前例があるせいであまり額面通りには見れそうに無い。イメージは保留。
しっかし、この世界では二十二でも割と行き遅れ。どう言う選択の結果、未婚のまま間者となってメイドになるのだろうか。
性交渉の回数や経験自体は豊富な可能性はあるか?
「過去に結婚経験は? 恋愛経験はどうだろうか?」
「どちらの経験もありません。男性と関わる事自体少なかったので。ただ、技術や知識はしっかりと御座います」
「ふむふむ。ありがとう。じゃー次の人」
ラヴィからの電撃は今の所無し。間者もメイドも皆が正直者で俺は大変嬉しく思うよ。マジで。痛いの嫌だからね。
「はいっ。私はシャオと申します! 年齢は二十歳! 好物は紅茶! ヴィクトル様の性欲処理なら喜んで!」
「おおっ、活発だな。晴れやかな人は一緒に居て楽しいから好きだぞ」
「光栄です!」
シャオは綺麗な赤い髪と赤い瞳を持つ快活な女性。八重歯が鋭く、野生味のある笑顔が特徴的だ。
スタイルはスレンダー寄りだが、肌艶が良く肉感も良い。健康的な身体をした充分に魅力的なメイドと言える。
「好物は紅茶か。それならさっき俺が淹れた紅茶があってな、一口飲んで感想を聞かせてくれ」
折角なので俺の淹れた五十点紅茶を飲ませてみると——。
「……んっ。おっ、美味しい、です!」
「いった!?」
シャオが感想を言ったその時、俺の首元に電流走る。
……いや、ネタじゃ無い。比喩表現でも無い。閃いたとかでも無い。ラヴィの魔法だ。しかも反射的に声出ちゃったよ。
メイド達が訝しみ心配するのを手で制する。
シャオは無礼を働いたと思ったのか、慌ててカップを戻して頭を下げようとしていたが、その際に指がカップの取ってに引っ掛かって紅茶を溢してしまった。
そして結果として、溢れた紅茶は机に広がって垂れ落ち、俺のズボンを濡らした。
この状況には間者とか関係なくジルベルトが片眉を吊り上げたが、それも手で制する。
なんか手で制するの楽しくなってきた。
「気にするな。洗えば済む話。シャオも突然の俺との交流に緊張しただけ。そうだろう?」
「でっでも……! それでも、誠に申し訳御座いません!」
「ああ、その言葉で充分だ」
シャオが恐る恐ると言った風に顔を上げた際に、フォローと気安さを込めてウインクしておく。
だがシャオはそのままの姿勢で固まってしまい、俺へのガン見が止まらない。
その間、机の上は他のメイド達が掃除してくれており、俺のズボンも布で絶賛ぽんぽん中だ。
ちなみに俺のズボンをぽんぽんしているのはユーラ。不審な動きは現状無いので今はスルー。
しかし、シャオは尚も固まったまま。……コレで足りないなら、もう一押ししておくか?
「言葉だけでは気が済まないなら、王都にいる間、俺が快適に過ごせる様に精一杯ご奉仕でもしてくれ。頼むぞ?」
「あっ……えっ……ふぁいっ」
……あれ。こいつの視線の感じがなんか変わったな。こいつハズレか? 間者じゃ無かった?
……もう一個、質問を飛ばして様子みるか。
「ちなみに、正直に言うなら俺の紅茶は何点だった?」
「えっあの……正直に、ですか?」
此方を伺ってくるシャオに軽い調子で頷きを返す。
するとシャオの様子が変わった。据わった瞳で溢した紅茶を見つめ出し、開いた口から立板に水を掛けるが如く言葉が流れ出す。
「十点です。まずこの茶葉はミルクティー用のもので、ストレートには適しておりません。仮にストレートにするとしても、煮出す時間は全く異なってきますし、蒸らす時間も正確に計りたいところ。備え付けの物なので多少の劣化は許容出来ますが、やはり少し酸化も始まっています。いえ、それで言うなら冷めている時点で紅茶としては————…………」
…………やゔぁい。この子ガチ勢だ。好物とかの次元じゃ無い。一口飲んだだけでここまで語れるのはその道のプロだよ……。こいつ本当に間者なのか怪しくなってきたんだが??
って言うか! 十点って言った時に電流来いよ! 悲しいよ俺!
居た堪れなさ過ぎて、未だ続くシャオの紅茶話を止める為に——パンッ、と柏手一つ。
ついでに『クリーン』の魔法も放って諸々の汚れを分解除去しておく。
「うむ! シャオ、取り敢えず今度紅茶を淹れてくれ。他の者達も、手を煩わせたな。一先ず充分だ」
突如綺麗になった汚れ物達に驚きを隠せないメイド達。
俺の足の間で目を見開いて驚いているユーラは少し素が出ているのか、切れ長な瞳を見開いて俺の顔とズボンの汚れがあった場所を往復していた。
可愛らしいその姿に、髪を崩さぬ様にと優しく頭をぽんぽんと撫でておく。
「この魔法はちょっとしたサービスだ。仕事を奪ってしまったのは申し訳無いが」
「滅相も御座いません。浄化の魔法と言っても、その練度は術者によってピンからキリまで。今し方のヴィクトル様の浄化は一級品。見事な物を見せて頂きました」
ジルベルトによる浄化魔法解説。間者が漏らせる情報が一つ増えたな。
だが丁度良い。もし浄化魔法の情報が広がったら、それはこの場に居るメイドの誰かが間者である事の証明になる。
それが分かれば、俺が間者を見つけられずとも、近いうちにジルベルトが見つける筈だ。たった十人の使用人の動向を探る程度、造作も無い立場にあるのだから。
さて、メイド達も元の立ち位置に戻ったところで、最後のメイドの自己紹介だ。
「それじゃあ最後に君。どうぞ」
「はい……。レインと申します……。歳は二十五。好物は……その……水、です。性欲処理に関しては、私でよければ好きなだけお使い下さい……」
レインは自信の無さというか、ネガティブな空気感がどっかの双子メイドの片割れを想起させるな。
淡い紫の髪とラベンダー色の瞳。
スタイルは豊満だが、少し弛みを感じる。ぽっちゃり未満のむっちり感がエロい。
年齢が二十五という事だが、この世界ではがっつり行き遅れ。だが肌艶は良い感じ。俺の価値観で言うなら二十歳で通じる若々しさを持っている。
性格面の暗さが年齢を増して感じさせるが。
にしても、最後のなんとも甘美な響きに思考が持っていかれ掛けたが、こいつ面白いな。
「レイン、水の味の違いが分かるのか?」
「っ、はい……! 高地の綺麗な雪解け水や、山岳の湧き水、魔道具から出される水、川の水など、どれもこれも味が異なるのです……!」
俺も前世ではペットボトルの水を商品毎に当てる程度は出来たが、この世界に水を売る者などほぼ居ない。
「それはレインが自ら赴いて味わったのか? それとも取り寄せたのだろうか?」
「む、昔……冒険者をやっておりました……。頭角を出した頃に護衛をした方に気に入られ、従者からメイドになり、その後は転々と……」
電流は走らない、と。
「そうかそうか、中々苦労してきたようだな」
「いえ……」
「ところで話を戻すのだが、個人の魔法によって作られる水の味は分かるか?」
「それは……! どう、なのでしょうか……! 試した事が御座いません……」
本当に水が好きらしい。レインの瞳が輝き出して、重心が前のめりに傾いた。
彼女の無垢な反応に笑みを浮かべれば、レインも自覚したのか少し頬を染めて姿勢を直していた。
ふむふむ。中々個性の強い推定間者達。絆す事自体は出来そうだが、最終的に処分されるのはなんとも勿体無い。
……もう暫く泳がせて、一人一人に別の情報を掴ませ、成人のパーティにてその情報をチラつかせてくる相手を見て
「……よし決めた。ユーラ、シャオ、レイン。俺の世話を頼む」
「はい」
「は、はい!」
「畏まりました……」
……三人の視線が一瞬揺らぐ。
最初は睨め付けるとは違うが、見逃さない様にと全身を具に食い入る様に見ると言った感じだった。
今は三人ともが何処か躊躇いを感じさせる。だがその奥にある鋭さは変わらない。そんな印象。
俺の所感としては間者で間違いない。と思う。多分。
王都に滞在するのは長くて一週間。長く関わる事は無いだろうが、その間にもう少し探りを入れてみるとしよう。
「ジルベルト、わざわざ悪かったな」
「これも仕事のうちに御座います」
「レタ、シーラ、セルマ、リモナ、パティ、ミリィ、スーシー。お前達の事はしっかりと憶えた。これからもこの屋敷をよろしく頼むよ」
「「「「はい!」」」」
「「「畏まりました!」」」
うむうむ。良いね。出迎えられた時の固い感じじゃ無く、各々の声に熱がある感じ。耳に心地良い。
やっぱメイド達との交流はもっておきたい。下心とかでは無く、彼女達の仕事に対する熱量が変わるんだ。
褒められたら嬉しいのは当然。それが成功体験となってより仕事に励んでくれればまた当然褒める。
そんな単純な循環が人を変えて行く。俺がそれを出来る立場にあるなら、当然そうするまでの事よな。
「ではお前達は下がってくれ。ユーラ、シャオ、レインには早速頼み事がある。俺はまだ湯浴みをしていなくてな、その準備をよろしく。ここで待っているから支度が出来たら呼びに来てくれ」
三人もまた一礼の後に部屋を去って行く。
彼女達の気配が遠のいた所で……。
「ラヴィ……思った以上に痛かったんだが!?」
「ひーん! ごめんなさーい!」
文句を言えば、即座に現れて土下座する青兎。
何度も頭を上げ下げする彼女の顎の下に手を差し込んで動きを止める。
ラヴィとしても思った以上に俺の反応が大きかったのだろう、ポロポロと涙を流す彼女の目元を拭ってやり、デコピン一発で許す。
「あたぁっ」
「嘘の判定も役に立ったかと言われたらあんまり役立ってないが、でも居てくれるだけで心強かった。……だから、ありがとうな。ラヴィ」
言葉を贈り、運命の人である俺からキスをする。
ラヴィのぷるんと柔らかい唇と、そこに引かれた紅からは甘い香りと味がした。
「んちゅっ……んぇっ? ……ひょぇ?」
「これが一万点の味か。中々美味しいじゃないか」
突然の事態に理解が追いつかないらしいラヴィの唇を再度奪い、ゆっくりと舌で唇をなぞる。
「あっ……♡ んむっ、ちゅう……」
ようやく認識した現実を受け止めたラヴィが俺の舌に食いついてくる。
唇で舌を挟まれ、口内でラヴィの舌が絡みついてくる感触。
彼女の後頭部に右手を添えて、左手はラヴィの右手と繋いでもっと全身を密着させる。
すると、それが幸せなのか目が蕩けだし、ラヴィの空いている左手が俺の服を控えめに摘んだ。
その遠慮がちな様がまたいじらしく、もっと舌を大胆に絡めていく。
「ぇろ、あむっ……ちゅぅ〜♡ はぁ……はぁ……また、ご褒美……ですか?」
「こんなのがご褒美で良いのか?」
「ぁ……♡ えぇ〜、えっ? ほんとに? えぇ〜! うぅ……旦那様って呼んだ方が良い、ですかね?」
ご褒美からどこまで発想がぶっ飛んだのかは知らないが、赤らめた頬と心底幸せそうな表情を見せられたら何も言えん。
運命の人こと俺、応えます。
「……まあ、将来的にお前がソレを望んでくれるなら、それも良いな」
俺の言葉に兎耳がピンと立ち、腰の根本にちょこんと生えている兎尻尾が細かく左右に振れており、喜んでいるのが手に取るように伝わってくる。
「まっ、実家に帰るまで待っててくれ。こっちではあんまり弱点を作りたく無い。お前が標的にならない様に、暫くはメイドらしく居てくれ」
「……そうですね。現状を鑑みれば当然です。…………寂しいですけど、我慢します、ね」
眉根を寄せて、耳をへにゃらせ、尻尾が止まる。
分かりやすさもある意味武器だな。
ラヴィを強く、キツく、抱きしめる。
「その鍛えた隠密能力でこっそりなら……まあ大丈夫だろ」
そう告げてから身体を離す。
ユーラ達が戻ってくる前にラヴィを捌けさせる必要があるので、いつまでもいちゃついてはいられない。
ただ、最後にちょっと口寂しくて、ラヴィの唇をつまみ食いしたのは許して欲しいものだ。
「んんっ……♡ にへへ。ラヴィ、待ってますね!」
両頬を抑えながら口元を緩めて笑う姿はどうしようも無く可愛くて。
満足そうにしながらも、俺以上の身のこなしと技術でスッと姿を消した。
「うちのメイド、可愛過ぎだろ」
誰の気配も無くなった部屋で、一人ソファに腰掛けて十点の紅茶を飲む。
「……五十点、無かったかぁ」