※この作品はR-18です。

セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた   作:上り坂は下り坂

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光のヘクトル家

 泡を落として湯に浸かる。

 温かな湯に全身を包まれて勝手に声が漏れてしまう。

 それはメイド達も変わらないのか、三人共に艶やかな吐息が出ていた。

 

 浴槽の縁にて四人で湯を味わってから少し。

 俺は少し前に出て、三人に向かい合う場所から声を掛ける。

 

「で? お前達、何か俺に取り入りたい理由があるのだろう? とりあえずそれを話してみろ。出来る事なら聞いてやる。出来ない事だったら聞かなかった事にしてやる」

 

 三人は顔を見合わせると、揃って頷き立ち上がる。

 そして湯から上がると、正座してそのまま深く頭を下げた。

 

「私達は所属元こそ違いますが、揃って間者に御座います。ジルベルト様の慧眼、そしてヴィクトル様の深く大きな器に感服致しました」

 

 三人を代表してか、ユーラが少し顔を上げて白状した。

 その間、レインとシャオは床に額を擦り付けるかのような低姿勢。

 

 ……なんとも息が詰まる。

 

「お前達、取り敢えず顔を上げろ。そして湯に浸かれ。湯冷めするだろうが」

 

 そんな返答は予想外だったのか、ユーラの顔に困惑が浮かぶ。

 レインは可笑しくなってしまったのか、暗さが少し消えて笑みを見せていた。

 シャオに至ってはもう感極まる寸前かの様な表情で、畳み掛ける様にウインクを飛ばすと胸元を両手でぎゅっと握り締めていた。

 

「早くこっちに来い。事情くらい風呂に入りながらでも聞ける」

 

 シャオに向けて手招きし、腕を開いて待つ。

 辿々しい歩みで、恐る恐るこちらに来たシャオを捕まえて抱き締める。

 

「私は……私は……ッ!!」

 

 腕の中で細かく震えたシャオは、やがてスッと震えを治めると、俺の首元へと腕をまわそうとした所で。

 

 ————殺気が滲んだ。

 

 右手には小さな針。湯浴み着にでも潜ませていたか。俺は『サイキック』を体表に展開する事でそもそもの針を届かせない事に成功した。

 

「殺しては意味が無いのでは無いか?」

「……情報を取れないなら、殺せと言われました。ヘクトル家に力をつけられる方が面倒だと」

「すべての罪はお前が被るのか?」

「……その予定でした」

 

 針を持つ手が弱々しくなる。シャオの顔には諦めの笑みが浮かんでいた。

 俺は、それが酷く悲しかった。

 

「ヴィクトル様の噂は、ヘクトル領に入れば嫌でも聞きます。信じ難いものばかりで、その確証を得るのも仕事の一つでした。でも……今納得しました。全て真実なのですね」

「では手土産には十分か?」

「…………ヴィクトル様。どうして怒らないのですか? どうして、そんなに優しい顔をするの? 殺されかけたのに……どうして?」

 

 本音を言うならびびった。

 シャオはもう堕ちていると思っていたから。恋でも、憧憬でも、尊敬でも、何かしらプラスの感情で俺に絆されていると思っていただけに、本気で死ぬかと思った。

 

 だが、この三人相手なら俺を殺し切る事は出来無いとも踏んでいた。湯の中は身体の動きを封じられるが、『サイキック』(魔法)の動きは特に阻害されない。この場所で一番強いのはおそらく俺なのだ。

 

「俺が強いから。その上でシャオには躊躇いがあった。そして何より——お前は俺のメイドだからだ」

「訳、分かんないよぉ……」

 

 シャオの手から落ちた針を『サイキック』にて回収。

 改めてその小さな身体を抱き締め、ゆっくりと座って膝に乗せる。

 

 戦意を失い、ただ身を預けるのみとなったシャオの背を摩ってやる。

 シャオがどうしてここまでするのか、それなのにどうして気が弱っているのか、俺に甘えてくれるのか、謎は尽きない。

 

 しかし、今はひたすらに俺に身を委ねてくれている。その事実だけで、俺はシャオを信じられる。それくらい今世の俺は強いから。

 

 

*****

 

 

 私の生まれは王国の南部の辺境にある、戦闘民族の作った集落だった。

 その身一つで、自分の何倍も大きな魔物を狩り、その武勇を誇る場所。

 そんな場所で、私は小柄に生まれた。

 

 だからシャオ。

 小さいと言う意味の『シャオ』と名付けられた。

 

 ある日、うちの集落の話を聞いたらしい貴族の使いがやってきて言った。

 『その腕を買ってやる。仕事を熟せば良い女と良い食い物をくれてやる』と。

 

 生きて行くには不要なもの。しかし豊かさを求めた当時の大人はその手を掴んだ。

 そこから始まったのは、いわゆる汚れ仕事。殺しや、依頼されての盗賊、時には護衛をし、時には拷問をしていた。

 

 しかし、私は無能だった。

 

 訓練しても、強くなれない。力が無い。だからか殺しだって碌にやれない。魔物も狩れない。人を痛めつけるのも苦手だった。

 それでも、メイドになって忍び込めば対象を毒殺くらいは出来るかもと思った。その考え方自体は良かったらしく、貴族家のメイドとして仕事を教わる事を許された。

 

 メイド業は思った以上の激務で、戦闘訓練の方がマシかもしれないと思うくらい厳しいものだった。けれど、やってやれない事では無かったので、頑張れた。特に紅茶はよく褒められて、それだけは自分でも誇りに思っていたくらい。

 しかし本題は殺し。暗殺。その為に必要なステップとして、男に媚びる術を学び始めたその矢先だった。

 

 王国西方の大貴族。守護獣を擁する山を管理すると言われているヘクトル伯爵家。その子どもにメイド好きが居ると言う話が入ってきた。

 同時に奇妙な噂も流れていた。

 その子どもはえらく強いだとか、好色だとか、遊び歩いているだとか。

 

 私達が仕えていた貴族はコレに目をつけた。

 

 私を送り込んで、手を出させて縁を繋ぐ。

 手を出されずとも近くで仕事が出来れば情報は舞い込む。それを横流しする。

 しかし状況や人柄、その子どもの素質や実力によっては出世の邪魔になりかねないので、私を使っての暗殺によって排除する事も可能。

 

 貴族にとって、私は最高の駒になっていた。

 

 

 そうして送り込まれた先は王都にある美しい屋敷。ヘクトル家の屋敷。

 無事メイドとして入り込む事は出来たけれど、この場所は私にとってとても刺激的な場所だった。

 

 見るもの全てが輝いて見えた。同僚のメイド達は皆、心が美しかった。困っていれば手伝ってくれて、こっそりお菓子を皆んなで分け合ったり、それを上司は見逃してくれていたり。

 

 酷い生い立ちや生活に困っている所を拾われたからだろうか、助け合いの精神がこの人柄を作っているのかもしれない。

 

 それでも、それは屋敷の主であるヘクトル家の人間が居ないからだと思った。恐ろしい貴族達が居ないから笑っていられるのだと。

 だが、予想は裏切られた。関係無かったどころか、元凶はその貴族の当主本人だった。

 

 真っ当な業務。適度な休憩。しっかりとした食事と報酬。適切な緊張と緩和。メリハリのある環境こそが良い仕事を生むと言う考えの元で、私達を働かせてくれていた。

 そして、ただそれだけの環境が、こんなにも働き手を心安らかにしてくれる。

 

 いつしか私は、自分の目的すら忘れ掛けていた。この理想的な環境と暮らしに、人の温かな心に、勝手に絆されていた。

 

 

 でも、運命の日はやってくる。

 

 私がこの屋敷で働き始めてから二年後。標的のヴィクトルが現れる。

 

 姿を見た瞬間に分かった。強いと。勝てないと。正攻法ではどうやっても届き得ないと。

 その身に満ちる豊富な魔力と鍛えられた身体付き。戦闘民族としての勘が警鐘を鳴らしていた。半端では駄目だと。徹底的に自分を隠す必要があると。

 

 しかし、何故だろう。どうしてだろう。どこで間違えたのだろう。

 私は選ばれた。メイドとしてでは無い。間者の可能性がある者として執事長に集められてしまった。

 

 何故そう思ったか? 簡単な事。同業者が並んでいたから。

 間者って言うのは間者からすると存外分かりやすい。馴染む為の訓練をしているからじゃない。予想以上の環境に人より深く驚くから。

 こちらに居たいと、ここが本当の職場であって欲しかったと、深く感じてしまうから。

 

 そして、さらに選ばれた。何故か選ばれた。どうしてなのか分からない。

 ただ、ヴィクトルの……ヴィクトル様の優しさと、ウインクだけが脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 ミスをしたら怒られる当たり前。

 貴族様に紅茶を掛けたら鞭打ちされても当たり前。

 

 その筈なのに。

 

 それを笑って許して、庇って助けて、笑いかけてくれる。

 私は、ヴィクトル様に取り入りに来たのに。情報を流しに来たのに。殺しに来たのに。間者なのに、勘付いてる筈なのに、それでも笑ってくれる。

 

 胸が高鳴った。

 

 高鳴った胸が、止まらなかった。

 

 あの笑顔を、あのお顔を、もっと見ていたかった。

 あの優しさにもっと触れたかった。

 でも、間者であると言う事実が、胸に刺さって抜けない杭が、痛くてたまらなかった。

 

 精一杯奉仕して、誤魔化した。精一杯高鳴った胸を表に出して取り繕った。でも、駄目だった。仕事をミスすれば、切り捨てられて殺されるのは私だから。怖かった。殺したく無いのに、死にたく無くて、頭の中はぐちゃぐちゃなまま動いた。

 

 でも、通じなかった。不思議な壁に阻まれて、ヴィクトル様の肌一つ傷付ける事は出来なくて。でも、それで良かったとも思えて。もう、この腕に抱いて貰えるなら、なんでも良いやって。

 

 全てを諦めた私から、杭は消えていた。

 あるのはヘクトル家に来てからの優しくて眩しい日々と、ヴィクトル様に貰った熱と温もり。こんな最後なら、きっと私は満足していける。

 

 私は、想いのままに抱き付く。

 

 これを最後の思い出にするために……。

 

 

*****

 

 

 俺の首元にて嗚咽を漏らすシャオは赤子のように抱きついてくる。

 可愛いからこのまま抱きしめておいてやろう。

 

 さておき、レインへと目を向ける。

 

「私は、強行手段は取るなと言われてここに居ます……。既成事実を作れるなら作れ、と。なので——」

「——いや、そこはどうでも良い。早く来い。ユーラもだ」

 

 ようやく正座を止めた二人は、その身を再度湯に浸す。

 

「よしよし。さてと、取り敢えず言えるのは全員もう後が無いと言う事だ。バレた以上、ここには居づらいだろう。しかし退職しても処分と言う名の口封じをされるだけ。貴族は弱みを握られるのが嫌いだからな」

 

 それに関しては三人とも分かっているのか、少し身が強張った。特にシャオが顕著だった。殺害未遂なのだから仕方無い。

 だから顔を持ち上げて、優しくキスをする。すると目を見開いて驚き、別の意味で身を強張らせていた。

 

「シャオ、死ぬ心配はするな。俺はお前を殺さないし殺させない。理由を知りたいか?」

「ヴィクトル様の、メイドだから……?」

「おっ、飲み込みが早いな。その通りだ。そしてお前を気に入ったからだ。……あとな? まだお前の紅茶を飲んでいない」

 

 そう言って微笑んでやれば、シャオは泣きそうな顔で、いや、もう涙を流しながら縋るように抱きついてくる。

 甘えん坊の年上と言うのも中々良いものだ。

 

「レイン、ユーラ、お前達もだ。レインに髪を洗われるのは中々良かった。優しい労わるような手付きは病みつきになる。ユーラは手が綺麗だな。その手で身体を撫でられるのは最高だったぞ? また一緒に風呂に入ろう。その為にも、お前達も俺が守ってやる」

 

 俺が大真面目で言っているのは伝わったらしい。二人揃って困ったように微笑む。そこには俺に対する距離感、義務感は無く、少しだけ二人の素の姿が垣間見えた。

 

「とんだ御仁の間者になったものです」

「格好良い……とすら思えてきましたね……んふふ」

 

 裸の付き合いとは斯くも効果的である。

 真に裸になるべきは、その心なのやもしれないが。

 

 

 この後、話は一旦中断。ただお湯を楽しむ事に切り替える。

 風呂から上がった後は、俺の部屋にて少しお話。

 

 

 一先ず関係性はそのまま据え置くことにし、しっかり側付きとしての仕事を果たす様に頼んでおく。

 送り込んで来た相手の情報は契約魔法『コントラクト』によって言えないみたいなので、俺が渡す情報をしっかり流せと言っておいた。

 その二つの仕事をこなしてさえいればそれで良い。

 

 メイドとて人。間者とて人。自分の命はそりゃあ惜しい。

 なによりも送り込まれた先で絆される程度の関係性や忠誠心だ。あちらさんも使い捨て。なら俺が貰っても構わないだろう。

 

 なので、以上をもちまして間者探しゲームは呆気なく終了。

 

 次は間者取りゲームの開始だ。標的は貴族。その子息子女。パーティで会うのが楽しみだな。

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